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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十二章 大国の思惑

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第十三話 魔剣の所在

2016/10/4 誤字修正。

「ぜーはー、ぜーはー、マジ死ぬかと思った」


 ローブを半分食いちぎられ、よく生きてあそこから逃げられたもんだと自分でも感心する。まだ心臓がドキドキしてるし。


「バカッ! ホントに死んじゃったかと、うう…」


 本当に泣いているティーナには心配を掛けてしまった。あの状況でも突っ込んでくるんだから、もっと自分の身の安全も考えて欲しい。


「ま、お前が簡単にくたばるとは、思っていなかったがな」


 レーネがここでも余裕の表情。さすがです。


「ん、絵的にグッド。ナチュラルにホラー、美味しいスプラッターテイスト」


 ミオは、俺が本当に死んでたら、悲しんでくれるのかね?


「無事で良かったです…」


 クレアも心配してくれたようで、いつもの笑みが無い。


「私はユーイチさんなら、きっとやってくれると信じてましたから」


 逆に泣いてそうなクロは変な確信を持ってるというか。俺も死ぬときは死んじゃうのよ?


「ヒヤヒヤさせるんじゃないわよ、ったく」


 不機嫌なリサは、まあ、あの窮地はサブリーダーとして責任を感じてもらわないとな。

 退却が遅すぎだ。敵わないと思ったらその時点で退却してもらわんと。


「猫の実がもったいないニャ」


 リムよ……まあいい。猫の実は俺がいれば、いつでも取ってこれるんだぞ?

 

「ま、無事やったからええやん。な、ティーナ」


 ミネアがティーナの背中を優しくさすってなだめる。


「うう」


「そうよ。こっちだって死にかけたんだから」


 エリカも厳しい状況だったようだが、今はクレアが治療を済ませたのでピンピンしている。


「それにしても、土壁(アースウォール)はああいう風にも使えるのね」


 リサが言ったが、そう、俺は押さえつけられた体の下側の土をアースウォールで抜き、間一髪、ケルベロスの牙を(まぬが)れている。

 ローブと猫の実を少し食われてしまったが、そんなもの命が助かれば安い物だ。後はそのまま地中をアースウォールで穴を掘って進み、脇道から抜け出てきたのだが。


「それより、今後の対策だ」


 俺は言う。色々、反省会もしないといけないが、それは後で良い。


「ええ。ティーナ、そろそろシャキッとしなさい。ユーイチも、パーティーもみんな無事だったんだから」


「む、分かった」


「ブンバルト大司祭から教わった使徒の対処法、ケルベロスが甘い食い物に目が無いってのは、さっきも確認が取れた。あれで食わせておけば、少しは時間が稼げるが…」


 俺が要点の一つを述べる。実際、ケルベロスは猫の実を必死で食べていて、その場から逃げる俺達には見向きもしなかった。もう一つの方法は、竪琴を弾いて、嘘か本当か、音楽を聴いても眠るそうだ。


「だが、それは時間稼ぎにしかならないぞ。退治するには、それだけじゃダメだ」


 レーネが言うが、その通り。


「毒を混ぜてみたらどやろ?」


 ミネアが言う。


「いいわね。ま、それで倒せるなら苦労しないけど」


 リサが賛成はしたが、成功するとは思っていない様子。まあ、間違いなくボス級だし、毒の耐性くらいは持ってるだろうな。


「ダメージの方はどうでしたか? やはり、封印しか無いでしょうか?」


 クレアがそちらを気にした。伝承では使徒の何匹かは封印という形になっているが、ケルベロスは動きが速い。どうやって捕まえたものか。


「物理ダメージも入らないわけじゃ無いぞ。だが、強い。まともに正面からやり合っても、勝てんだろうな」


 レーネが言う。


「ええ。アレは、まともには戦えないわ。動きが速いし、力も有るし、ブレスも厄介だもの」


 ティーナも同意するが、搦め手と言うと何があるかねぇ?


「ん、落とし穴も今回は無理っぽい」


 ミオが言う。確かに、アイツなら身軽に穴も飛び越えてきそうだし、誘導して落とすのも難しい。


「電撃に耐性があるし、デスも効きそうに無いし、もう! どうすれば良いのよ!」


 エリカが苛立つが、何か、弱点、弱い属性がある気はするんだけどなぁ。


「クロ、炎は試したか?」


 クロに俺が確認する。


「はい。氷の後に。ですが、炎は完全に無効化して、それどころか元気になるような…」


「吸収かぁ…」


 思わず天を仰ぐ。一番厄介な耐性のタイプだ。後、反射ね。


「それ、HPが炎で回復すると言うことなの?」


 ティーナが確認する。


「そうだ。今後、ケルベロスに対しては、炎の使用は禁止だ。クロ、他の属性はどうだ?」


 彼女なら試しているはずだ。


「四大元素は地風火水、全て試しましたが、弱点は特にありません。氷かと思ってたんですが…」


「そうだな。炎を吸収したなら、相反の関係から、普通は氷が弱点だが…む、アイツ、魔法防御はどう感じた?」


「高かったです」


 だろうな。俺のアイスアローも効いてなかったし。


「聖属性で攻撃してみましょうか?」


 クレアが言うが、アンデッドでも無いからな。


「ああ。それは次、試してもらうが、あまり期待はしない方が良いな」


「はい」


「で、どうすれば良いニャ?」


 リムが焦れてきたか、真顔で問う。

 俺は猫の実を上手く使ってどうにかしたいと漠然と思うのだが、良いアイディアが出ない。


「手練れを集めて、交代で攻撃、離脱を繰り返す。後は城攻めの兵器を用いれば…」


 レーネがそう言ったが、城攻兵器は動きの速い相手にはほとんど当たらないだろう。

 罠を仕掛ける必要があるが、猫の実を置いておいたら、そこに来てくれるかな?


「じゃ、私がここの守備兵に伝えて、城攻めの兵器を用意してもらうわね。ミネア、アンタは冒険者ギルドで手練れを集めて」


 リサが言う。


「分かった」


 ミネアも頷いてすぐに走って行く。


 いったん、それでミーティングを終え、リサとミネアの帰りを待つ。ミネアが先に帰ってきた。


「ダメや。今、この王都にレベル30より上の冒険者はおらへんみたいや」


「むう。ザックさーん!」


 呼んでみる。


「俺をそういう風に使うのは止してくれ。アレは俺も倒せそうに無いぜ?」


 うお、来たわー。

 デーモンも余裕で倒す、犬耳族の凄腕冒険者。

 え? ひょっとして、今までも呼べば来てくれてたの? うわ、もったいないわー。


「あなた、まだお父様に雇われてたの?」


 ティーナが呆れ気味に聞く。


「さて、どうだかな。依頼人の情報は漏らさないのがプロってもんだろ?」


「その答え方で充分だけど。でも、力を貸して」


「ま、なら、金貨一枚で雇われてやろう。だが、アレとまともに斬り合おうとするなよ? 頭が三つ有るから、一本の剣じゃ、防ぎ切れん」


「ええ…それは、分かってるけど、でも、スピードで上回れば…」


「ダメだ。奴は速い。少なくとも、レベル60のスピードタイプで無いとダメだろう。それに、スピードタイプでは、力が弱くなる。どっちみち、ダメだ」


「ううん…何か方法は?」


「さて、俺なら、大人しくロフォールへ帰るんだが、そいつは、アンタ達は気に入らないんだろう?」


「当然よ!」


 ティーナが憤慨したように言い切ったが、俺としては、ザックさんの考えに一票なんだよね…。


「ユーイチ、何か、凄い兵器、出す」


 ミオが唐突に言うが。


「いや、急に出せと言われてもな…鉄砲や大砲は火薬がいるし、レーザーとかはどうやっても無理っぽいしなぁ」


「火薬なら、有ると思うで?」


 ミネアが言う。


「そうか。じゃあ、石製の大砲でも作るかな。ストーンウォールで」


「決まりね」


 ティーナは俺が凄い兵器を開発してくれると期待したようだが、俺は兵器作りの技術者でも専門家でも無いからな。

 ただ、ゴーレムは作ってみようと思う。


「兵器か…。伝説級の剣なら、どうだろうな?」


 レーネが自分のあごに手をやって、そんな事を言う。


「そりゃ、有るなら、使った方が良いぜ?」


 ザックがすぐに同意するが、まあ、有ればね。


「一つ、心当たりはあるが、ここからだと遠いな」


 レーネがまだ煤けた白い髪の毛を乱暴に掻きながら言う。


「どこ?」


 ティーナが問う。


「ハイランドの王宮に、アイスファルシオンが一振りあるぞ。アレなら奴を氷漬けにできるかもしれん」


「うーん、でも遠すぎるわ。ここからだと、どれだけ掛かるか」


「ま、行って帰ってだと、足の速い馬でも二十日はかかるか」


 レーネが言ったが、二十日後では、この王都が完全に焼け野原になってしまっているかも。


「何もそんな遠くまで行く必要はねえだろ? このアルカディアにも、一本くらいはあるんじゃねえのか」


 ザックが言うが、どうなのかね。


「ええ、じゃ、陛下に聞いてみましょう」


 行動派のティーナは、本気で借りに行くつもりらしい。そんな凄い魔剣、すぐ貸し出したりはしないと思うんだが。まあ、何も俺達が使わなくても、アリシアちゃんあたりが装備すれば行けるか?


「じゃ、俺も行くぞ。待ってくれティーナ」


 彼女を追う。


「ええ」


「じゃ、うちは、毒の材料、集めてくるな」


 ミネアは毒の担当。 


「ん、私はゴーレム量産」


 ミオはゴーレムを作るようだ。足止めくらいには、なるかな? 


「私は神殿に何かないか、聞いてみますね」


 クレアは神殿へ。


「では、私は怪我人の手当を手伝ってきます」


 クロは兵の詰め所かな。ま、後方なら安全だろうし、マリアンヌの足なら、ケルベロスから逃げられると思う。


 むすっとして黙り込んでいるエリカや、退屈そうにしているリムも、まあ、休憩しててもらうか。


 俺とティーナはレベッカの姿を求めて街を走った。

 彼女は東門でケルベロスをまだ探しているかと思い、ティーナとそちらに行こうとすると、向こうからちょうど、レベッカとアリシア、それにルフィーがやってきた。


「ケルベロスは見つかったか!」


「ええっと、はい、一度交戦しました」


 ティーナが迷ったがごまかさずに答える。


「ちっ、やっぱり、こっちか。ゴルデルめ…」


「陛下、アレはレベル52の冒険者でも倒せないそうです。何か、伝説の魔剣か、城攻めの兵器はありませんか?」


「なるほど、武器か。城攻めの兵器はダメだぞ。アレではろくに狙いも付けられんし、街を破壊するわけには行かん」


 リサが戻って来ていないが、まあ、交渉してるんだろうな。難航、いや、多分借りられないはずだ。まあ、他国の民間人に城攻め兵器をホイホイ渡す兵がいたら、俺が上官なら斬るね。


「では、剣は」


「一本、城の地下にあるが…」


 レベッカが言う。ほう、あるのか。


「それを貸して下さい!」


 ティーナが勢い込んで頼む。


「待て待て、アレは使えないぞ。いや、使えるなら使ってもらって構わんが」


 んん?


「どういうことですか?」


「ま、行ってみれば分かる。誰か案内してやれ」


「では、ルフィー、あなたが」


 騎士団長のアリシアが頷いてルフィーに命じたが、青髪のルフィーが不満そうに問い返す。


「私が、ですか?」


「ええ。仮にも王城の宝物庫の一部、下級の者には任せられないですからね」


「なら…、ちぃ、こういうときに限ってメリルは何を」


 ルフィーが見回すが、同格らしきピンク髪の騎士の姿は見えない。


「では、任じましたよ」


「頼んだぞ、ルフィー」


「ははっ!」


 レベッカが言うと緊張したように返事をするルフィーは、王命には忠実らしい。


「では、一つよろしく頼むよ、ルフィー君」


 俺も権力を笠に着て、ダンディーな紳士の声で言ってみる。


「貴様!」


 わぁ、軽い冗談なのに、そこまで怒らなくても。


「ちょっと、ユーイチ。失礼しました」


「あ、いや、ロフォール卿、私は上級騎士、その扱いで結構です」


「だそうだぜ?」


「お前はダメだ。ユーイチ、私と同じ上級騎士だろうが」


「へいへい」


「あまり調子に乗るなよ?」


「そちらも、我らはミッドランドの使節団であることをお忘れ無く」


「ぐぐ」


「もう、なんで仲良くしないかな。非常時でしょ」


 軽口が言い合えればそれなりに仲が良いと思うが、ま、怒らせてもアレだからこの辺で止めておこう。

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