第六話 魔法適性
2016/10/22 若干修正。
盗賊団のお宝にこんなに使える本があろうとは。
捕まって正解だった。
「ええと、次の章は、50ページか。50、50…、ここだな。
なになに、魔法に適性が無ければ、魔法は使えません」
ま、そりゃそうだろう。
そうで無いゲームもあるが、戦士は一般的に魔法が使えない。
適材適所、いや、勝ち組と負け組、いや、選ばれし者と雑魚、いやいや、魔法使いにあらずんば人に非ず、とも言って良い。だってこんな異世界で、魔法があるなら、使える方が断然有利でしょ?
でも、たいていのRPGって、戦士と魔法使いは強さが互角だったり、戦士系の勇者の方が強かったりするんだよな。まあ、勇者は魔法が使えるから、魔法使いの分類でも良いんだけど。
この世界はどっちなのだろう?
あの戦場の炎の魔法の威力を見る限り、戦士より魔法使いの方が上の気がする。
よし!
勝ったかも知れない。
キタコレ!
大勝利!
「やべーよ、どうしようクロ、大魔導師で無双して天下取っちゃうかもよ、俺、フヒッ」
「ニッ、ニー?」
クロが怪訝な顔をするが、所詮は猫、魔法など、高度すぎて理解できるはずも無いか。
続きを読むことにする。
魔法の適性があるかどうかを確かめるためには、いくつか方法がある。
一番簡単で、かつ、確実なのが、魔法使いに体に触れてもらい、魔力を通して確認してもらうことである。
「ふむ、でも、ここに魔法使いはいないんだよな…」
「ニー…」
あの盗賊達の中には、魔法が使える人間もひょっとしたらいるのかもしれないが、半端者の集まりだとリッジが言っていたし、実際に、魔法が使えているならこんなところで盗賊なんてやっていないだろう。
この方法は採れない。
次。
他の方法としては、身近にある魔道器を用い、魔力干渉を試みる。
「ほほう、これか!」
木箱の上に置いてある魔法のランタン、これが魔道器で間違いない。ミョーに明るいしな!
「ええと? 精神を集中し、マナを操って、ぶつける感じか。よし!」
目を閉じて、手をランタンの方へ伸ばし、集中…えい!
………。
何も起きなかった。
「あれ? おかしいな。力が弱すぎたかな」
もう一度だ。
見逃しているかも知れないので、今度は目を開けたままでやってみる。
「それっ!」
…ランタンの光は微動だにしなかった。
いや、俺に魔力が無いとか、素質が無いとかじゃなくて、このランタンには魔力干渉が起こりにくいのではないか?
その可能性はある。いや、きっとそうだ。
魔術書をもう少し読む。
―――使うのは魔法のランタンなどが良い。魔力干渉をいつでも行えるし、事故の心配も無いからだ。
「む、むむ、いや、これは実は普通の白い炎のランタンかもしれないしね!」
変な汗が出てきた。
ここでもし、俺が魔法は使えないとなると、ただの奴隷だ。
そ、そもそも、なんで俺は、魔法が使えると信じて疑わなかったんだろう?
「ニー」
「ん? クロ?」
クロが木箱の上に乗り、ランタンに向かって右の前足を向ける。
目を閉じるクロ。
俺の真似をするようだが…。
「なっ! なにぃー!」
ランタンの光が確かに瞬いた。
「ニー! ニー!」
喜ぶクロ。
馬鹿な…猫が使えると言うのに、俺はダメなのか?
そんな。
めまいがして俺は椅子にストンと座り込んだ。
「は、はは…まあ、俺に才能なんて無いしな」
今までモテた例しがないし。
「ニー」
「や、クロさん、いえ、クロ様、お気遣いは無用です」
「ニ、ニー?」
何もやる気が起きない。
ここだとクロ様がニーニーとうるさいので、寝床のある方へ行き、ベッドに寝込む。
あー。
何で世の中はこうも不公平なのか。
魔法なんて誰にでも使えれば良いのに。
魔法、使いたかった…。
炎の魔法とか、氷の魔法とか。
ゲームではさんざん、使ってきたんだが。
風の魔法が操れるなら、女の子のスカートをめくりたい放題。
いや、そんな小学生みたいな使い方はよそう。
透明化してお風呂場にスネークして、いやいや…
「一人も通らないとは、とんだ無駄足だったぜ」
盗賊達が戻って来た。
「どうした、ユーイチ、具合でも悪いのか」
「いえ、そうじゃないんですが…ほっといて下さい」
「うん?」
「お宝の部屋の魔術の書が開かれていた。大方、魔法が使えなかったから、へこんでるんだろう」
「ああ」
「はは、あんなもん、俺らに使える訳がねえってのに」
「なあ?」
「気にすんなよ、ユーイチ」
「そうそう。魔法が使えなくたって、生きていけるぜ」
そりゃ、生きては行けるだろうさ。だが、盗賊風情になってせせこましく行きたくは無い。
「ユーイチ」
クランがこっちに来て、ぽんぽんと優しく肩を叩く。
「ほっといてって言ってるでしょう」
「まあ聞け。魔法なんか使えなくても、彼女はできる」
「銀髪の王女様と結婚できますか?」
「えっ? そりゃあ…ちょっと無理だろう」
「ふう」
「ただいまニャ」
「おう、リム。その様子だと今日もそっちは大漁だったみたいだな」
「もちろんニャー。あたしに魚を捕らせたら、右に出る者はいないニャ、エッヘン!」
「そうだなあ」
「そっちはどうだったニャ」
「全然だ」
「一人も通りゃしねえ」
「あー、それは残念だったニャ。ま、明日があるニャ」
「そうだな」
「で、ユーイチはなんでもう寝てるニャ」
「ふて寝だよ。魔法の書を読んで、使えなかったみたいだ」
「ああ。ユーイチ! あたしも使えないニャ。仲間、仲間!」
「うるさいな。ほっといてくれよ」
「んもう、そう落ち込むこと無いニャ。ほれ、飯を食うニャ。魚、取ってきたニャ」
「いらない。食欲無いし」
「いいから食べるニャー!」
リムが俺を抱きかかえて無理矢理引っ張る。
「うわっ、ちょっ! は、離して」
背中に柔らかい物が当たってるんですががが。
「離さないニャ!」
いやホント離して、当たってるし、女の子の慎みは無いのかー!
「よーし、リム、そのまま引っ張ってけ」
「ラジャ!」
くそ、結構力がある。体格はそう変わらないのに、俺よりはずっと強い。
それより、女の子に抱きつかれてると、ああん…。
「なんだこいつ、赤くなって照れてるぞ」
「あっはっはっ、リム相手にか」
「ムッ、それはどう言う意味ニャ!」
「どうってなあ」
「ああ。はは」
「ムー、失礼ニャー! じゃ、さっさとお魚、焼くニャ」
ようやくリムが俺を解放してくれた。
ふう。
「おう」
ワイワイガヤガヤと。
俺なんて放っておけば良いのに。
だいたい、奴隷商人に売るんでしょ。
ああ、そのためには、食って生きてなきゃ売れないか。
「ニー」
「ああ、クロ。心配要らないぞ。ちょっと落ち込んだだけだ」
落ち込んでいたのに、魚の焼ける匂いで、腹が減ってしまった。
翌日、また俺とリッジは留守番だ。
特に働けとも言われないので、未練がましく魔術の書をクロと一緒に読むことにする。
「魔力の鍛え方かあ。ちょっとやってみるかな」
「ニー!」
魔術の鍛え方は、まず体をリラックスさせ、目を閉じて、へその下辺りに魔力が籠もるようにイメージする。
そして、大きく深呼吸。
「吸ってー、吐いてー」
「ニー、ニー」
しばらくそれを続けたら、今度は背中からマナが登る流れをイメージし、頭の上を通って円を描くように循環するイメージに変える。
集中、集中。
よし、光のイメージが、ぐるぐると。
ああ、不自然な光が入るアニメが見たいなあ。
もう一月も見てないや。
帰りたい…。
「ニー」
「そうだな。ちょっとスッキリした感じだな」
さて、他にすることも無いし、もう一度、鍛錬するか。
熟練度 制が効いて、ひょっとしたら魔法が使えるようになるかも知れないし。
夕方、ちょっと試してみようと、ランタンに魔力を飛ばすイメージをやってみたが、ダメだった。
クロの方は、昨日より光の瞬きが大きくなった。
「凄いな、クロ」
「ニー」
「コツとか教えてくれ」
「ニー? ニー、ニー、ニッ! ニー、ニー」
「いや、すまん、さっぱり分からん」
一生懸命、手振りも交えて何か言ってくれているのだが、猫語はわからん。
「ニー…」
「とにかく、反復練習が大事だ。この本にも書いてあったし」
「ニ!」
この子猫、ヤル気だ。
くそ、なんだか、クロがまぶしいぜ。
翌日、パンと魚だけになるとキツイので、リッジを誘って外の森で木の実集め。
「お前、よくそんなに木の実を見つけられるなあ」
リッジが感心してくれる。
「ふふ」
そうだ。魔法が使えなくたって、こっちにはスキルシステムがある。
薬草も集め、充分な数になったので、洞窟に戻り、魔法の鍛錬をやることにする。
と言うか、他にやることが無い。
魔術の書は、昨日のうちにもう全て読み終わってしまっている。
「星々のかけらとなりて、我の道を照らせ、ライト!」
鍛錬だけだと飽きるので、呪文も唱えてみる。
入門書によると、最も便利で使用頻度の高い初級魔術。
それが明かりの呪文だ。
この世界は電気が無いようだし、木を燃やしたり油や蝋燭を使う明かりよりも安全で便利なのは間違いない。
「ニーニーニーニー、ニーニーニー、ニッ!」
「うおっ!」
クロが呪文を唱えると、足先がほのかに青白い光に包まれ、洞窟の床がなんとなく光った感じ。
確認のため、魔道具である魔法のランプのスイッチをつついて、全体の明かりを消してみる。
「ちょっと光ってるな。まだ弱いけど。でも凄いな、お前」
「ニー」
魔法を使える猫なんて、そうはいないと思うんだが。
この世界の猫って、何匹かに一匹はこういうのがいるんだろうか?
しかも、魔術の書が読めると来た。俺の言ってることもだいたい理解しているようだし。
ただ、文字は書けないようだし、この猫の手ではペンも持てないか。
その柔らかい手を掴む。
「師匠と呼ばせて下さい」
「ニッ? ニー、ニー…」
謙遜しているようだが、俺より魔法がちゃんと使えているし。
それに、気づいたことがある。
猫の鳴き声でも魔法が使えるという事は、呪文の言葉を口に出す事はあまり重要では無さそうだ。
ひょっとすると、詠唱も必要ないのかも知れない。
大事なのは言葉の意味をイメージすることと、魔力の流れをどうにかして感覚として掴むことだろう。
魔力を操るには、その魔力を感じないと、お話にならない。
「クロ、ちょっと、俺に向けてライトの呪文、唱えてくれるか」
「ニー」
すぐに了承してくれ、俺に向けてニーニーと鳴き始めるクロ。目を閉じて集中して魔力の流れを探る。
「ニッ!」
む。
なんだろう、ふわっと、顔にそよ風に似た感覚があった。
「もう一回、できるか?」
「ニー」
もう一度同じように目を閉じて、神経を研ぎ澄まし、クロに意識を集中する。
「ニーニーニーニー、ニーニーニー、ニッ!」
わかったかもしんない。
いったん、お腹に魔力を集中させてから、そこから腕、指先、そして対象だ。
いったん魔法のランプを切り、暗くして呪文を唱えてみる。
「星々のかけらとなりて、我の道を照らせ、ライト!」
魔力の流れをしっかり感じつつ、指先から一気に放つのでは無く、ゆっくり押し出す感じ。
言葉そのものではなく、言葉から形成されるイメージと韻を大切にする。
すると、韻と魔力とイメージがぴたりと重なった。
「ニー!」
「ひ、光った。うおおおおー!」
クロを抱き上げて感激する。
俺はライトの呪文を習得し、同時に、自分に魔法適性があることを証明した。




