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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十二章 大国の思惑

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第九話 暗躍の黒ローブ

2016/10/1 若干修正。

 アルカディア女王との夕食。

 俺は交渉の場で女王の不興を買ってしまい、欠席なのだけれど。

 代わりにリムをご指名されてしまったので、リムの首が飛ばないか、本気で心配だ。

 まぁ、口を酸っぱくしてお前は喋るなと念押ししておいたし、リサやティーナも同席するから、大丈夫だと思いたい。


「チッ、腹痛と言うことにして病欠させれば良かったなぁ」


 宿でリムの帰りを待つ間、どうにも落ち着かない。


 階下で声と物音がしたので、ハッとしてドアを開けて階段のところまで行く。


「ニャー、ホントに旨かったニャ!」


 笑顔の赤毛のネコミミ、うん、リムに間違いない。


「リム! 無事だったか」


「ニャ? アハハ、心配しなくても、レベッカとはツーカーの仲になったニャ、良い奴ニャ」


「ええ?」


 ツーカーって。

 気さくであまり細かいことは気にしないタイプ、と言う共通点はあるかも知れないが、それにしたって、そこまで仲良くなれるものだろうか?


「食べっぷりが気に入ったらしいわよ? それに、アンタが一番推薦したくない奴ってことで、初めから歓迎ムードだったから」


 リサが言うが、それ、俺に対する当てつけだなぁ。


「ふふ、そんな顔しなくても、良い雰囲気だったわよ、ユーイチ」


 ティーナが笑って俺の肩をぽんと叩いて、脇を通り過ぎる。ま、根に持たれていないのならその方が良い。


「外交の話はしていないよな?」


 念のために確認しておく。ティーナ一人でも交渉は出来る。空気を読める子だからそんな無粋な真似もしないとは思うが。


「ええ、そう言うのは一切無しで、親睦を深めようと言う感じじゃないかしら。後は、この街を守ったお礼だそうだから」


「むしろ、外交の話を嫌っていたのはあちらのようだったぞ?」


 夕食に同席していたレーネが言うが、まあ、そうかもしれないな。きっちり観察していたりと、抜け目ない奴だ。


「じゃ、これで用事は終わりよね?」


 夕食には参加していないエリカが出てきて聞く。


「ええ、欲を言えばもう少し交渉したいところだけど、ユーイチもあれ以上は無理みたいだし」


「使えない男ねえ」


「ぐっ、いや、リサ、そう言うならお前が」


「何言ってるの、リサの冗談よ。このパーティーで王族相手にあそこまで話を持って行けるの、ユーイチだけだもの」


 ティーナが言うが、皆も特に物言いは付けなかった。ふむ。


「じゃ、出発は明日の朝食の後でええんやね?」


 ミネアが時間を確認する。


「ええ、出立するときには女王陛下に挨拶していくつもりだから、少し時間が掛かるかも」


「ああ、うん。それは別にええけど」


「ゲフッ、ニャー、食い過ぎたニャ。腹が苦しいニャ」


「リム、女の子は人前でそんなにゲップを出しちゃダメよ?」


「アタシは猫族だからそんな事は気にしなくていいニャー。ニャッハッハッ」


「む。ダメです」


「エー」


「ほれ、リム、ハイパーミントだ。これでも食っとけ。胃薬になる」


「ニャ、ありがとニャ、ユーイチ」


「私にもくれ」


「ああ」


 レーネにも渡してやり、自分の部屋に戻って寝る。



 翌朝、朝食を終えた俺達は、出発の準備をしていたのだが。

 カンカンカンカンという例の鐘の音。


 うえ、まさか。


 皆で互いの視線を交わす。真剣な顔だ。


「来たぞッ! ハーピーだ!」


「くそっ! やっぱりか! あーもう、なんであと一時間、遅くにしてくれないかなぁ」


「ユーイチ、それ、問題発言だと思うけど」


「ええ?」


 ティーナも細かいね。


「とにかく、私が外の様子を見てくるわ。アンタ達は装備、きちんとしてから出てきなさい。行くわよ、ミネア」


「うん、分かった!」


 斥候のリサとミネアが先行し、すぐにティーナやリム、エリカも装備を調え、後を追う。


「ええと、ミオ、クロ、このポーションと薬草、お前達が持っててくれるか」


「ん」

「分かりました」


 大勢の敵だ。また分散して戦うことになるだろうし、先にアイテムを渡しておく。


「こんなものかな」


 リュックを背負い、ドアでじっと待っていたレーネと共に宿の外に出る。


「ユーイチ」


「なんだ?」


「今回はトリスタンに助力は頼むのか?」


「いいや、必要無い」


「ふむ? それは策があると言うことなのだな?」


「ああ。上手く行くかどうかは分からないけど、上手く行かなくても俺達は離脱だ」


 そうすれば、ここの軍隊は街の防衛にかかり切りになり、被害もそれなりに出るから、トリスタン侵攻を遅らせることが出来る。それがミッドランドの戦略だ。


「む。ティーナがそれで納得すれば良いがな」


「スリープの呪文で眠らせてでも動くから、最悪、君が剣を取り上げて拘束してくれ」


「アレも実力があるからな。怪我をさせずにと言うのは難しいぞ?」


「じゃあ、怪我をさせても良い」


「分かった」


 レーネも大人だから、あれこれ細かい非難をしてこないので助かる。



 宿を出て、空を見上げたが、ううむ、またわんさかと。


「多いな…」


「ああ言う歯ごたえの無い連中はあまり面白くないのだが、そうも言っていられぬか。私はまた西門へ行くぞ」


「ああ、分かった。気を付けて」


「フッ、誰に物を言っている。マリアンヌ、クロをしっかり守れよ」


 レーネが振り向いて(うまや)からクロを乗せて出てきた白い大鳥(クーボ)に向かって言う。


「クエッ!」


 任せて! と言うように返事をするが、ま、モンスターからご主人様を守るくらいの知能はコイツもあるからな。


 俺はハーピーが最も多そうな南西へ向かって走る。


「ええい! なんだあの数は!」


 護衛の兵士と共に城壁へ移動しているレベッカが(いきどお)りの声を上げる。まあ、ちょっと普通の数じゃあないよね。

 しかし、彼女も最前線で戦うつもりなのかな。ま、剣を抜いた速さからして結構なレベルだろうし、死んだりはしないだろう。


 チラッとレベッカが俺を視界に捉えたようなので、立ち止まって慇懃に一礼しておく。


「チッ!」


 余計不快にさせてしまったようです…。まあいいや。


「ふう、ひい、はあ」


 街の四方を取り囲んでいる城壁の上まで階段で上がってきたが、ちょっと息が上がってしまった。ちと休憩。


 その間にも、すでにハーピー達は地上に降りてきて、迎え撃つ兵士や騎士と乱戦になっていた。


「ギアァ!」

「キシャー!」

「ええい! 化け物共め!」

「くそっ、素早い」


 俺くらいのレベルになると、かなりトロいモンスターなんだが、まあ、全体から見るとそこそこ素早い敵かな。


「弓だ! 弓を持って来い!」


 少し離れた城壁に登っていたレベッカが、部下に命令している。連中(ハーピー)は飛んでいるから、待ち伏せが嫌いな人には、やっぱり弓とかだろうね。


 さて、呼吸も落ち着いた。


 俺に襲いかかってきたハーピーをひらりひらひらと躱しつつ、大呪文のポーズ。


 いや、そんな呪文、開発してる訳じゃないんだけどね。


 だが、これは試してみる価値があるだろう。


 騒音(ノイズ)の呪文。


「邪な笛の音に苛まれよ! ノイズ!」


 一部、魔法文字(ルーン)を変更し、前に耳にした音に近づける。


 ピーッと不快な高音が大音量で辺りに響き渡ると、ハーピー達が一斉に反応した。


 さて、ここからは試行錯誤だ。


 微妙に音程や音量を変えて、ハーピーを操る。


「なんだ?」

「ハーピーが!」


 それまで兵士達を襲っていたハーピーが攻撃を止め、反転して西へと移動し始める。


「行けるな。ミオ! 準備は良いかッ!?」


 西門の外、下で薪を前にして待機しているミオに最終確認する。


『ん、いつでも、師匠』


 む、この距離なら、念話でも良かったか。まあいい。


 再びノイズの呪文を詠唱し、ハーピー共を操って、ミオの前に積み上げられた薪の上へと集中させる。


「四大精霊がサラマンダーの御名の下に、我がマナの供物をもって炎の柱となれ、ファイアピラー!」


 ミオが呪文を唱えると、巨大な炎の柱が吹き上がった。


「なにっ!?」


 え? その呪文、俺はまだ教えてもらってないよ?


 炎壁(ファイアウォール)の上位版かと思って興奮しながらそちらを観察したが。


「む。コレは単に薪の威力か?」


 蒸留酒と油とファイアスターターの木を組み合わせているので、それだけでもよく燃える。どうやらその威力だったらしい。

 相変わらず炎は燃えてはいるが、先ほどより少し弱まってきたし、魔力の波動は普通だ。


『ん、気分で。タダのファイアウォールだから』


 偽の言葉を唱え、わざわざ無詠唱で魔法を使うとは。威力、落ちるのに。


『お前な。ま、カッコイイから許す』


 親指を突き出してグッジョブの合図。


『ん』


 ミオも同じジェスチャを返してきた。


「ど、どうなっている! 何だアレは!」


 事情を知らないレベッカが、次々と炎の柱に突っ込むハーピーを見て驚愕している。

 まあ、ちょっとビビるよね。

 次から次へと、自分から炎に突っ込んで、ドロップに変わっていくんだから。

 近くに腹心のミースの姿が見えないが、彼女はどうやら非戦闘員、文官らしい。

 

 代わりに、アプリコット騎士団団長のアリシアがレベッカの側に寄って耳打ちした。


「なに、アイツが?」


 視線がこちらに来る。ここは決めポーズをやりたいところだが、また不興を被ってもアレだからね。気づいていないフリをして、ノイズの呪文に集中する。


 俺は昨日のうちに、アリシアの許可をもらい、街の外に薪を組み上げている。もちろん、そんな面倒臭くて大変な作業は冒険者の依頼(クエスト)でやってもらった。ラッド達がえっちらおっちら薪を集めて、酒樽を運んでたが、フフフ、俺様は何せリッチだからな。ここまでの冒険で630万ゴールド近く貯め込んでいる。

 たまには散財しとかないとね。


「む?」


 ハーピーの動きがまた変わった。俺の近くで炎に突っ込んでいる群れには変化が無いが、北側からこちらにやってきていたハーピーは再び街に降りて攻撃を始めている。


 それに、音。


 俺とは別の笛の音が北側から聞こえてきた。


『リサ、ミネア、北側にターゲットがいるはずだ。探してくれ』


『了解や』


 ミネアは念話の範囲内にいたので連絡が取れたが、リサからは返事が無い。ま、彼女のことだ、自分で判断して上手く動いてくれるはず。

 俺はノイズの呪文を最大音量で操り、とにかくハーピーの制御を優先する。

 スピーカーの呪文も使いたいところだが、笛の音を出す為にノイズの呪文は中断できない。ミオもその場にいるのだが、彼女は余計な呪文は無しの作戦だ。


「まだか…?」


 なおもハーピーの群れを炎の墓場に誘導しているが、こちらに来ないハーピーも多い。


 唐突に、向こうの笛の音が消えた。


「よしっ!」


 これで、全てのハーピーがここに集まってくるはず。


『ミオ、そっちのMPは持ちそうか?』


 せっかくハーピーを誘導して集めても、ファイアウォールが持たなければ意味が無い。


『平気。持続型だから、まだまだ余裕』


 それなら、勝ったな。

 上手く行かない場合は、ティーナを説得して、何なら縛り上げてでもこの街から脱出する予定だったが、その危険きわまりない作戦には手を出さないで済みそうだ。


「しかし、何匹いるんだよ?」


 延々と笛の音(ノイズ)で操っているが、さすがに俺も疲れてきた。MPは残り50を切ってしまった。この呪文は持続型で消費が少ないから、魔力切れは想定していなかった。だが、誘導のためには有る程度のリアルタイム調整が必要で思ったよりも消費が激しい。むしろ、ミオのファイアウォールがどこまで持つか、そちらを心配して、薪を大量に用意したりしていた。これで、誘導が出来なくなってしまうと、これも意味が無い。

 ぬう…。


「ユーイチさん」


 クーボに乗ったクロがやってきた。


「おお、クロ、ちょうど良いところに。俺のMPが足りないんだ。代わってくれるか」


「はい。ステータス表示を見たら、そんな感じでしたので」


 賢い子で助かる。

 クロに呪文を教え、まあ、簡単な魔法文字(ルーン)だから、クロの実力なら余裕だ。

 音程を調節して、すぐに耳障りな笛の音になった。 


「じゃ、俺はエリカを探してくる」


「はい」


 まだ魔力が足りない可能性もあるので、クロのMPが尽きたら、交代させよう。


「あ、ユーイチ、こっちや。リサが犯人を捕まえて拘束してる」


「そうか。じゃあ、ミネア、悪いがエリカを探し出して、ファイアウォールの場所で待機させておいてくれるか。ノイズを使ってるクロのMPが持たないかもしれない」


「分かった」


 ミネアが指し示した方へ行くと、騎士団が黒ローブの男を連行していくのが見えた。


「ユーイチ、この笛を使って」


 リサが二十センチ程度の曲がった角のような黒い笛を渡してくる。


「ええ? 俺が使うの? 呪われたりしないかな?」


 あと、男が口を付けたのは嫌。


「それは分析(アナライズ)してみればいいでしょ」


「ああ、そうか」


 すぐに分析(アナライズ)を使う。



【名称】 支配の笛

【種別】 笛

【材質】 デーモンロードの角

【耐久】 422 / 442

【重量】 1 

【総合評価】 AA

【解説】 特定の魔物を操ることが出来る笛。

     作成時に魔物の種類に合わせて音程の調整が必要。

     この音を聞いた魔物は自分の意思に関係なく、

     たちどころに傀儡と化す。

     習熟しないと単純な命令しか使えない。

     魔物の魔法抵抗が高い場合は失敗する。



 なるほどね。

 これで、異常なハーピーの行動が説明できる。

 これだけの数がどこにいたのか、ちょっとまだ気になるところではあるが。


 とにかく俺は持っていた蒸留酒で笛の口を消毒し、それを使ってハーピー共を操り、全滅させた。

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