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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十二章 大国の思惑

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第五話 数の恐怖

2016/11/27 若干修正。

 乗り物酔いでグロッキーになった。

 今度、酔い止めの薬草も探しておこう。ひとまずミントを口にして俺は一息つく。


 あろう事か、あのルフィーの馬鹿はレグルスの街に戻って来るなり、ハーピーに空中戦を仕掛けようとしたからな。


 「他国のVIPを乗せたまま戦闘って、何考えてるの!」


 と、きっちり叱っておきました。


「ユーイチ!」


 俺がグリフォンに乗って戻って来たのが見えたのか、ティーナがやってきた。怪我は無さそうだ。無事で何より。

 だが、俺はちょっと返事をする元気は今無いよ。


「良かった、無事で。魔力切れなの?」


 俺が青い顔でぐったりしているのを見て、ティーナが聞いてくる。


「いや、似たようなものだが、こっちの状況は?」


「良くないわ。いつまで経ってもハーピーが減らないし、怪我人が出て疲労も溜まってきてる」


「騎士団が来ただろう」


「ええ、彼らがいなかったら、この街はとっくに落とされていたかも」


 規模の大きな騎士団だと思ったが、形勢逆転までは行かなかったようだ。ハーピー軍団、思ったより手強いわ。


「それで、なんであの騎士団の子と一緒にグリフォンに乗ってたの?」


 ティーナが聞く。


「ああ、トリスタンに援軍要請に行っていた」


「えっ! ああ、凄い事をするわね。アルカディアって、トリスタンを目の敵にしてるのに?」


「まあ、そこは説得して要請は出して来た。向こうが応じるかどうかは分からんが、君の名前を借りたよ。例の条約を盾に使った」


「ええ? でもあれは使徒限定じゃ…」


「まあ、使徒で無いと分かれば使えないが、俺はその時は使徒かも知れないと思ったわけだ。そういう訳でよろしく」


「ううん、その使い方、ちょっと気に入らないけど……まあ、分かったわ。この街の人々、見殺しにするよりはマシだと思うから」


「ああ。借りはちゃんと返せば良いさ。それに、こっちはあのコロシアムでトリスタンの人々を救ってるからね」


「ええ、そうね。せいっ!」


 話をしている間にもハーピーが襲いかかってくるので、ティーナがレイピアを振るって対応する。


「悪いが、俺は少し休ませてもらう」


「うん、そこの建物が冒険者の休憩所になってるわ。怪我人も何人かいるから、よろしく」


「分かった」


 ドアの前の戦士に片手を挙げて挨拶すると、それだけで向こうも理解したようで、中に報せてドアを開けてくれた。

 ハーピーが近寄ってくる前にその中に入る。


 その建物の中には、結構な人数が休んでいた。皆、黙り込んで、疲労の色が濃い。


「薬草があります。欲しい人」


 すぐに何人かが手を挙げる。懐から出して配った。幸い、重傷者はいないようだ。


 床にそのまま座り込んで、俺も休む。


「なあ、この街はもうダメだ。早いところ、ずらかろう」


 冒険者の一人が、仲間らしき男に小声で言う。


「だが、どうやってこの群れを突破する? 道にいるところを囲まれたら、それこそ終わりだぞ」


「ああ…」


「アプリコット騎士団も来ています。もうじき、トリスタンから飛竜部隊も来るかもしれません」


 戦うやる気を無くしてもらっては困るので、教えておく。ただ、本当に来るかどうかは分からない。


「はっ! トリスタンだと? アルカディアに連中が来るわけ無いだろうが」


「モンスター相手ですからね、条約もあるんです」


「んん? 何者だ、てめえ」


「ミッドランドの使節団の一人です。ここの王都に外交に向かう途中だったので」


「ふうん? 貴族様、じゃあ無いんだな?」


「私は子爵様の配下です。上級騎士ですよ」


 今まであまり使いどころが無かったが、紋章を見せる。


「本物か?」


「さあな。ミッドランドの紋章は俺も知らねえ」


 がっくし。


「嘘では無いでしょう。それを使って詐欺をやれば、死罪ですよ」


 別の冒険者が言った。


「まあな。それで、(あるじ)の子爵様はどうした?」


「今、外で戦ってます。白マントのミスリルレイピア使いがそうなので」


「ああ、あの女か」


「はっ! 無い無い、子爵様が自分でモンスターと戦うだと? とんだ出任せだぜ」


 ま、普通はそうだよねー。


「うちのお館様は冒険好きのやんちゃ姫なんですよ」


「ふうん。ま、どうだかな」

「それなら、下としては大変そうですね」


 全員が信じたわけでは無いようだが、同情してくれる冒険者もちらほら。


「それよりも、だ。何だってこんなにたくさん、出てきてるんだ?」


「そりゃお前、分かれば誰も苦労しねえっての」


「ふざけるな。真面目に聞いてるんだぜ、こっちはよ」


 だが、冒険者の誰一人として、答えられない。


「こんなことなら、弓矢の一つも持っておくんだったぜ。空に上がられると、手の出しようがねえ」


「ああ。だが、待ってれば勝手に襲ってくるぞ」


「そうだがよ」


 待ち伏せするにしても、主導権を取れないとストレスが溜まるし、多数を相手にすると厳しくなるだろう。



「開けてくれ」


 外の門番から声が掛かり、近くの者がドアを開けると、鉄鎧を着込んだ騎士風の男が入ってきた。彼はじろりと中を見回してから言った。


「聞け。護衛の依頼(クエスト)を出す。報酬は一人、銀貨一枚だ。我こそはと思う者は名乗りを上げよ」


 むむ。この街のお偉いさんが逃げ出す算段をし始めたか。まあ、守備隊長やアプリコット騎士団がいてくれれば、他の非戦闘員はどうでもいいんだが。でもちょっと嫌らしいよね。こんな時に自分だけ逃げだそうって奴はさ。

 まあ、俺もヤバくなれば逃げるんだけどね!


「けっ、たった一枚か。出直して来やがれ」


 冒険者達も割に合わないと思ったか、名乗り出る者がいない。


「うぬぅ、がめついごろつき共が。なら、銀貨二枚を出そう」


「話になんねえな。金貨だ。金貨三枚以上でないと引き受けねえぞ」


「何だと! 話にならん。もういい、お前達には頼まん。開けろ」


 騎士が出て行く。


「お前、三枚はふっかけすぎだろうが。一枚で様子見してから、そこから吊り上げろっての」


「いやいや、どのみち、あのケチは金貨は払わねえよ。だいたい、この中で馬車を動かしてみろ。ハーピー共が一斉に群がってくるぞ?」


「それだ!」


 ぴーんと俺はひらめいちゃったね。60W型白熱電球レベルだ。


「んん?」


「開けて下さい」


「分かった」


 外に出て、高級宿屋を探す。

 馬車があるとすれば、そこだ。無ければ、他を当たらないと行けないが。


 大きな建物を見つけ、行ってみると目当ての宿屋だった。警備担当か、急場で傭兵を雇ったか、戦士が数人、そこでハーピーと戦っている。


「ここの宿屋の主人と話がしたい!」


「生憎、護衛は俺らで間に合ってるぞ、坊主」


「いや、馬車を売って欲しいんですよ」


「ああ? よせよせ、さっきも貴族が一人、無理に馬車を出してったが、あそこを見ろ、もうやられたぞ」


 ハーピーがわらわらと群がっている()があったが、うん、上手く行きそうだね。


「いいじゃないですか。金ならいくらでも出します。ほら、金貨はありますよ」


「むむ、正気か?」


「まあいい、自分の命だ、てめえの好きにさせてやれ。おい、主人! 馬車を売って欲しいと言う客が来てるぞ」


「いや、アレは私の持ち物じゃなくて、客の物だから、売れないぞ」


 奥から話を聞いていたようで、宿屋の主人の声が返ってきた。


「客には事情を話して、後で買い換えてもらって下さい。ハーピーを倒す秘策なんですよ。協力をお願いします」


「ええ? じゃ、一台、金貨一枚だが金はあるのかい?」


「もちろん。何台、あるんですか? こっちは即金で百枚払えますよ」


「五台だ。それで全部だよ」


「じゃ、金貨五枚ですね」


 奥に入り、宿屋の主人に金貨を渡す。

 

「ついでに、ご主人、油と藁も買いたいんですが」


「なるほど、燃やすつもりか…よし、うちも建物がやられたら大損だ。焼け石に水だとは思うが、協力させてもらうよ。おい、誰か、油の壺を運んでくれ」


 宿の奴隷達や護衛の戦士にも手伝ってもらい、馬車にありったけの油と蒸留酒、それに藁を積み込む。


「そっちの馬は良い馬だから、あっちの駄馬と替えろ」


「ああ、馬は使わないので、全部、外してやっておいて下さい」


「んん? だが、それじゃ、どうやって動かすんだ」


「自分、こう見えても錬金術師(アルケミスト)ですから」


 ファサッとローブを翻し、邪気眼のポーズを決める。


「あ、ああ、そうかい」


 納屋の土くれの上に魔法陣を描き、ゴーレムを五体、作成。小瓶にクロの血ももらってストックしているのでまだまだ量産できるぜー。

 魔石はその辺のハーピーのドロップで充分。


出でよ(サモン)、ゴーレム!」


「GHAAA!」


「うおっ!」


 ふふ、ビクッとした周りの戦士達の反応が楽しいです。

 あと、俺が作るゴーレムはみんな咆えます。ミオもそれが気に入ったか、彼女のゴーレムも咆えるタイプに変えている。呼ぶときにちょっと念じるだけで、咆えるゴーレムになるそうだ。


「じゃ、カモフラージュとサイレンスの呪文を掛けてと」


 いきなり、宿屋の前でこの罠を発動させたら、火事が起きて大迷惑なので、最初は隠蔽工作をしておく。あ、今気づいたけど、俺がいればここから馬車で逃げるのも行けるかもね。

 一人一万ゴールドでお小遣い、稼ごうかなあ。

 ま、それは後で良い。


「よし、襲ってこないな」


 ゴーレムを動かして馬車を宿屋から発進させたが、ハーピー共は群がってこない。


「では、皆さん、お気を付けて」


「そっちもな、坊主!」


 坊主という歳じゃないんだが、まあいいや。薬草の束もプレゼントしたし、強そうな戦士がいたから、ここの宿屋は持つだろう。

 馬車に乗り込み、道を行く。


 西門にやってきた。


「ユーイチ、無事のようだな」


 レーネが城壁の上から顔を見せて言う。こちらも無事のようで何より。ま、ステータスウインドウを見れば、全員のHPは把握できるんだけどね。


「ああ。開門してもらえるか? この馬車を出したい」


「いいぞ。おい! 門を開けろ!」


 これが外からのゴブリン軍襲撃とかなら、決して許されない事だろうが、ハーピーは平気で城壁を飛び越えてくるし、閉じていてもあまり意味が無い。


 誰かが扉の吊り上げ用ハンドルを回してくれたようで、門の扉がずり上がっていく。


「よし! 通って良いぞ!」


「どうも!」


 見知らぬ声にお礼を言って、ゴーレム馬車を進める。


「この辺かな」


 あまり街から離れても意味が無いので、門から出て少しのところで、道から外れ、荒れ地の広い場所に移動。


「ふふ、そして、スメル!」


 臭気の呪文を使い、ここは血肉の匂いにしておく。

 そして、馬車の隠蔽(カモフラージュ)を解除。


「うおっ!」


 俺の体にはまだカモフラージュを掛けてあるのだが、近くに寄ってきたハーピーが見つけてしまったようで、うひい、群がって来ちゃった。

 慌ててスリップを使い、自前の回避力で避けまくる。


「何やってるのよ、バカ!」


 電撃が飛んできて、ぐえ、エリカ、俺も命中しちゃってるんですけど?

 まあいい、今のは助けてくれたようだし、ハーピーを振り切って門の中に逃げ込んだ。後ろで、ドシン! と門の扉が落とされた。


「ユーイチ、マジックポーションを買って来て。もうMP切れなんだけど?」


 城壁の階段を上がっていくと、上でエリカが腕組みして待ち構えていたが、押してどかせる。後ろに戦っているリムとクレアの姿も見えた。二人とも無事のようだ。リサは姿が見えないが、別のところにいるかな。彼女のステータスはHP満タンだ。


「自分で買え。この状況で売れ残ってるとは思えないが。お前は休んでて良いぞ」


「む。サボってたわね?」


「ふっ、違うな。必殺技ゲージを溜めてたんだ」


「何を訳の分からないことを……ところで、あの馬車、何か仕掛けてあるんでしょう?」


「ああ。油と蒸留酒を詰んでるが、ありゃただのおまけだ」


「ええ?」


「ま、見てろエリカ。天才の俺が、少ないMPで大量に敵を倒す新呪文を見せてやるから」


「くっ! あなた、また新しい呪文を見つけたの?!」


 エリカが悔しそうにツインテールを揺らして顔を引き攣らせるが、まあ、本当の新しい呪文では無いよ。

 

「よし、良い感じで群がってるな。と言うか、群がりすぎだろ……」


 すでに馬車の形が見えず、ハーピーが団子のようにまとわりついて、見た目がもう気持ち悪い。

 数百匹はいるだろうな。それが五台で、五百匹は一度に片付けられる計算だ。


「イッツ、ショータイムッ!」


 バババッと、無駄に全身でポーズを決めてから、ファイアウォールの呪文を発動させる。


 む? 発動……ぐぐ……。


 うん、ちょっと目標が遠かったから、キツかった。

 届かなかったら、また門を開けてもらって近づかなきゃいけなかったから、凄い間抜けだったぜ、ヒュー、危ない。


 だが、五つの馬車は次々と発火し、まとわりついているハーピーごと、燃える燃える。よく燃える。


「さらにッ!」


 カモフラージュとサイレンスを掛けて、燃えている馬車を隠蔽。


 すると、どうなるか。

 さすがに揺らめく炎や動く煙までは隠せないので、完全では無いのだが、血肉の匂いに誘われるのか、群集心理というヤツなのか、ハーピーは我も我もと燃えさかる馬車に向かって突っ込んでいく。


「なっ!」


 エリカが驚きの声を上げた。

 これほど上手く行くとは俺も思っていなかったが、

飛んで(エターナル)火に入る(・フェイタル)夏の虫呪文(・ファイア)、とでも言っておこうか。

 ダメージが一定を超えて死んだハーピーは、死体とはならずに魔石や羽のドロップに変化するので、いくらでも詰め込みが可能だ。


「どうだ、エリカ、俺の新呪文は」


「フンッ! ただのファイアウォールじゃない。馬鹿らしい。くう…」


 フフフ、その割には悔しそうだね、エリカ君。


「ニャー、ニャんだアレ、自分から突っ込んで行くニャ」


 リムもちょっと呆気にとられた様子。


「やるわね、ユーイチ」


「ああ、リサ」


 いつも辛口の彼女が素直に褒めてくれるのは珍しい気がする。さっきまでは姿が見えなかったが、どこか偵察に向かっていたか。


「これ、他のメンバーでも出来るわよね? クロとミオにも、別の門でやってもらうわ」


「ああ、そうだな。馬車には油と蒸留酒を―――」


「そんなの、見れば分かるわ」


 説明も不要のようだ。


「わ、私も、ぬう……」


「おやおやぁ? MP残り3ポイントのエリカくぅん、無理はしない方がいいんじゃないか? 残念だねえ、中級呪文のファイアウォールは4ポイント()必要だからね。まぁ君は良く闘ってくれたよ、うん。後は僕らに任せておいてくれたまえ、ハーハッハッハッハッハッ!」


「うるさい!」


「ぐえっ!」


 くそ、調子に乗ってゲスい顔で高笑いしてやってたら、グーパンチとか。普通なら余裕で躱しきれるのに油断した。

 エリカは走って行ったが、ちょっとミスったな。


「くっ、リム、悪いが、エリカの護衛を頼む」


「分かったニャ!」


 MP切れの魔術士なんて、タダの弱い子だからな。エリカもそれなりに回避を鍛えてるが、俺ほどじゃないし。

 ミオには多分、ミネアが護衛に付いてるだろう。クロは素早いマリアンヌに騎乗しているから、回避力は心配要らない。

 ステータスのHPは全員、ほぼ満タンの状態だ。MPがかなり寂しいが。


 俺はもう一度、燃えさかる馬車を振り向いて見た。

 ハーピーの群れは凄い勢いでまだ炎に突っ込んでいるが、いくら持続型のファイアウォールとは言え、時間切れがいずれ来る。


「こりゃ、戦略的撤退も進言しなきゃ、だよなあ。むう」


 どうやってリーダーのティーナを説得するか、それが問題だ。

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