第四話 来援の戦乙女達
2016/10/4 若干修正。
アルカディア国、西の国境に近い城塞都市レグルス。
そこを経由し外交のため王都を目指そうとしていたミッドランド国の使節団だったが―――。
突如、異常な数のハーピーの軍団に襲われ、街の守備隊は負傷者続出で防戦一方に追い込まれていた。
そこに希望の星、なんと隊長クラスは全員女性という騎士団が援軍に駆けつけたと言うではありませんか。
俺はひと目、その美人の団長に会うべく、鼻息を荒くして、ここの守備隊の隊長さんと共に東門へ向かっている。
決して、決して、トリスタンとアルカディアの和解を画策して緻密な計算の中で動いているわけでは無いのだ。
麗しき戦乙女を見たい、ただそれだけなのだ。
…アレ?
今、ちょっと本音と建て前が逆になった気もするが、うん、気にすまい。
さあ、美人の団長はどこよ!?
「総員ッ! 抜剣ッ! 我らが王国を荒らす化け物共を、一匹残らず駆逐せよ!」
「了解ッ!」
東門に俺と守備隊長が辿り着いたとき、アプリコット騎士団がその威風を見せつけるべく、まさに動き始めていた。
白き鎧に身を包んだ艶やかな戦乙女達が、一斉にロングソードを抜いて敵に斬りかかっていく様は壮観である。
「グエッ!」
「ギャアァ!」
「ピギー!」
一撃で仕留められたハーピー達が耳障りな断末魔の叫びを残し、次々と落ちていく。
強い。
装備からして上等だが、機敏に動きつつも無駄の無い華麗な剣捌き、そして互いに死角を補い援護する連携の取り方など、相当に訓練された精鋭部隊のようだ。それもかなりの数。
「弓兵は東門から街の外に向けて攻撃しなさい! 街内部の敵には矢を使うことは禁止します、いいわね?」
「ははっ!」
同士討ちや流れ弾を避けるために、的確な指示が飛んでいる。
「アステリーズ様!」
守備隊長が声を掛けて走り寄る。アステリーズと呼ばれた彼女がここの団長で間違いないようだ。ウェーブがかかった長めの金髪に青い瞳。クレアに髪型が少し似ているが、こちらは剣と鎧に身を包んでいるせいか、シャープな印象を受ける。歳は意外にもかなり若い。俺と同じくらいか、少し上だろう。
「ここの守備隊の方ですね。状況を」
「はっ! ハーピーは多数、門だけで無く中も襲われております。何とか持ちこたえておりますが、どこも厳しい状況です」
「そう。怪我人は?」
「詰め所に運んで、すでに重傷者はこの薬師に治療させました」
ちらっと美人団長がこちらを見たので、ここは自己紹介だ。
「守備隊に雇われております、薬師のユーイチと申します。以後、お見知りおきを」
金を後で渡してやると言われただけだが、うん、俺は今日からアルカディアの守備隊専属だよ!
「ふん、黒色のローブなど、怪しげな奴を雇っているな」
団長の脇にいた青髪の女騎士が、胡散臭げに俺を見て鼻を鳴らす。チッ、赤にしておけば良かったかな?
「いえ、これは雇っている訳では―――」
守備隊長が否定しようとしたので、すかさず遮って言う。
「申し上げます! このハーピーの数では勝利したとしても街の被害は甚大、ここは速やかに飛行部隊の援軍を要請して頂きたく!」
「飛行部隊? そうね…でも、この近くにはいないわ」
「いえ、アッセリオか、その辺りに、飛竜部隊がいると伺っておりますが」
あそこに飛竜の爪があったからには、飛竜がいてもおかしくない。
「む」
団長の眉がほんのわずかだが、ピクッと動いた。
「バカを言うな! アッセリオと言えばトリスタンの街ではないか!」
青髪の女騎士が怒鳴る。この子も若いが、頭は固そうだなあ。
「まあまあ。ですが、この非常時です。人類の最大の敵たる魔物相手なら力を借りられるのではありませんか?」
敵の敵は味方、昨日の敵は今日の友ってね。
「いいえ、却下よ。トリスタンに借りを作るわけには行かないわ」
「別によろしいでしょう。借りを返す時期は別に指定されておりません。つまり、我々がその気になれば十年先、二十年先でも可能であろう……と言うこと!」
俺は人の悪い笑みを浮かべる。一度言ってみたかったのよね、この台詞。
「貴様!」
「外道ね。貴族の名誉として、いいえ、人として借りたモノは返すのが当たり前です」
冷ややかな目を向けられてしまった。ちょっと話の持って行き方を間違えたね、うん。
「お見それしましたっ! さすがは噂に違わぬ、アプリコット騎士団の長を務められる御方! 不遜にも意地悪く試したようで誠に申し訳ございません。しかし、名誉を重んじられると仰せならば、この街の人々を救い、次の戦に大勝を収めてこそ!」
「貴様、何が言いたい」
青髪の女騎士が剣の柄に手を付けて、ずいと前に出たが、アステリーズ団長が右手をかざしてそれを制した。
「つまり、トリスタンの飛行部隊の戦力を摩耗させるために、こちらが頭を下げてでも援軍を要請しろと?」
「は」
肯定。「斬れ!」といきなり言われそうな場面ではあるが、この団長、割と冷静な感じで計算は出来るタイプだろう。青髪の騎士はダメだが。
「……いいでしょう。ルフィー、直ちにその者を連れてトリスタンへ向かいなさい」
よし。
「なっ! アリシア様、正気ですか! このような怪しげな者の言葉に乗るとは」
青髪の女騎士、ルフィーという名のようだが、その彼女が抗議する感じで問い質した。その問いに団長が答える。
「私は正気です。見なさい、空を。ハーピーの数は多い上に、空中にいる間は我らでも攻撃は難しい。アレを殲滅させるためには、強力な飛行部隊が必要でしょう。これは団長としての命令です。ルフィー=バッシュ、直ちにトリスタンに赴き、援軍の要請をなさい」
「くっ、しかし、私にはそのような任務は難しいかと。トリスタンを説得する自信がありません。アリシア様やメリルの方が…」
「私は総大将としてこの場を離れるわけには行きません。大丈夫、その黒ローブの男を連れて行けば、彼が舌先三寸でまとめてくるでしょう。成功しなくても構いません。いいわね?」
「はっ! 承知しました。では、行くぞ」
青髪のルフィーが命令を承諾し、俺に付いてこいとぞんざいにあごで示す。
頷いて彼女に付いて行く。
「お待ちを、バッシュ様!」
んもう、守備隊長、そこは止めないで。せっかく話が良い方向へ行きかけたのに…。アリシア様の方が格上でしょ。下っ端は黙ってなさいよ。
「なんだ? 様は止してくれ。私は貴殿と同じ騎士階級だぞ」
「そうか。とにかく、トリスタンまで行くのならば、馬よりグリフォンを使った方が早かろう。ここの偵察用のグリフォンを使ってくれ」
守備隊長は反対して止めるつもりでは無かったようだ。彼は上を向いて口笛を吹いたが、すぐにグリフォンに乗った騎士が空から降りてきた。
む、グリフォン、ちょっと想像より大きい。頭からしっぽまで全長四メートルはあるか? あと目が怖い…。
お、俺は美味しくないよ!
こっち見んな!
「隊長、お呼びですか」
「ああ、アプリコット騎士団にグリフォンを貸す。お前は降りろ」
「分かりました。では、どうぞ」
「むむ、私はグリフォンなど、乗ったことは無いのだが…」
ルフィーが戸惑う。
「なぁに、手綱を引けば、後は馬と同じですよ。コイツは賢いから…むむっ、どうした!?」
大人しくお座りして待っていたグリフォンが急にぐわっと動いて俺にくちばしを近づけてくるし。
「ひい!」
「お、おい、よさないか。それは味方だぞ!」
「いーやぁ~! あーれぇ~! お助けぇ~!」
くちばしでつつかれ回し、ここで俺は一巻の終わりかと思ったが。
「むっ、なんだ、猫の実か。落ち着け、大丈夫だ。コイツはそれに目が無くてな。はっはっ、この食いしん坊め」
俺のローブから落ちた猫の実をゴックンして、一声、満足そうにクエッと鳴く奴。
「ちゃ、ちゃんと躾けといて下さいよ! 死ぬかと思ったんだからぁ!」
「すまんすまん、じゃ、ほら、お前も乗った乗った」
俺は抵抗したのだが、騎士達が担ぎ上げて乗せてしまった。
「ふむ、これで手綱を引けば飛ぶのか? おお、飛んだ」
ルフィーが手綱を引く前にグリフォンはゆっくりと羽ばたき、ふむ、この感じ、何か魔力が働いてるな。ま、物理法則を考えたら、この大きさで人間二人を運ぶのは無理だろうし。
「よし、行き先は西だ」
ルフィーは全く怖くないのか、すぐに慣れたようでグリフォンを上手く操っている。
が。
「ひいい、お、落ちたら、死ぬぅ!」
俺は必死にルフィーにしがみつく。高えよ。怖えよ。
「ほう、見てみろ。人があんなに小さいぞ。遠くまで見えるし、スピードも速いし、コイツはなかなか良いな!」
ルフィーはグリフォンが気に入ったようです。でも俺は無理。
「降ろしてぇー! うわーん!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「おい、トリスタンの国境を越えたぞ。だが、グリフォンがいれば、簡単に攻め込めるな…む!」
ルフィーが何か見つけたようだが、俺は目を閉じているので何も分からない。
「ど、どうしました?」
「自分で見ろ。アレは飛竜だな。二匹、飛んできた」
トリスタンも飛行部隊を持っているのだから、当然、対空攻撃や迎撃、スクランブルの体制も整っているだろう。
おっと、早く敵で無いことを言わないと。撃墜されては敵わん。
スピーカーの呪文を無詠唱で使う。
「あー、テス、テス。こちら、レグルスの街の冒険者ユーイチです。攻撃の意思はありません」
「嘘をつくな、その鎧、アルカディアの騎士であろう!」
ありゃ、すぐバレちゃうのね。この偵察隊、優秀だわぁ。
「フン、嘘などついていない! 私はアプリコット騎士団、ルフィー=バッシュである。いざ尋常に―――」
ルフィーが剣を抜こうとするので、大音量を出す。
「だーっ! アホか! 我々はアプリコット騎士団団長アリシア=フォン=アステリーズ様より、援軍要請をそちらに出すよう命令されて来ております。戦闘をしに来たわけではありません!」
「援軍要請だと? まさか、我々にか」
「その通りッ! 現在、レグルスの街が、大量のハーピーに襲われています。従って―――」
「はんっ、そんなもの、我らが助ける義理は無い! お前達のご自慢の騎士団で戦えば良いだろう」
やはり険悪な間柄、「事情はあい分かった!」とか「チッ! 勘違いすんなよ? お前を倒すのはこのオレだ」とか少年漫画的なアツい友情は生まれないようだな。
だが、ここまでは予想通りッ!
「私はミッドランド使節団の上級騎士でもあります! 我が主にして大使、ティーナ=フォン=ロフォール子爵の名において、今こそ、オラヴェリア卿とブンバルト大司祭と交わした盟約の発動の時!」
身分証である紋章を懐から出して高らかに掲げて言う。
あの条約はまだ大筋合意の段階でミッドランド国王の署名がしてないから効力を持たない。その上、アルカディア国内で条約を使うのもトリスタンにしてみれば話が違うと思うだろうが、ここでトリスタン国が拒否すれば、約束違反だと非難声明を出すことも出来る。
ま、非難だけだから、アイネちゃんは拒否するかもしれないのだが。
ただし、トリスタンの飛竜部隊の隊長は、救援のスピードを考えて、上の判断を待たずに先に出てくるかもしれない。
ちょっとでも援軍として戦ってくれれば、それで既成事実。
そこが狙いだ。
そこそこ有能で権限の大きい隊長さんだといいな。
ま、飛竜部隊は強力なはずだ。機動力も求められるだろうから、確実に有能な奴を隊長にするはず。
イザベルさん…はただの警備隊長かな。だが、伯爵だったし、もしも彼女が飛竜部隊の隊長なら、協力してくれるかも。あの人は冒険者気質で、気っ風も良かったからな。
「んん? 何を言っている。どうしてミッドランドの使節団が、アルカディアにいるのだ」
「たわけッ! 下郎! 貴様らごとき下っ端が口を挟める案件と思ったか。外交条約である! 知らぬなら速やかに上官に報告して判断を仰げッ!」
ここは唇プルプルで思い切り偉そうに言っておこう。上の人じゃ無いと話、通じないだろうしなぁ。
「なんだと! 貴様…!」
「チッ、くそ。どうする?」
二人のトリスタン兵は怒りつつも判断に迷った様子。ここはもう一押ししておく。
「私はセリーヌ卿やドンヴェルド卿とも知り合いだ。貸しもある。嘘だと思うなら、錬金術師ユーイチの名を出してその二人に聞いてみろ」
アッセリオの街の水路で毒騒ぎがあった時に解決に協力してやったしな。
「む」
「今の話、本当なのか?」
ルフィーも信じていないようで小声で嫌そうに聞いてくる。
「当たり前でしょ。ルフィー=バッシュ殿、話がこじれぬよう、堂々として頂きたい。貴殿の態度がアルカディアの外交に影響を及ぼしますぞ?」
「むむむ」
フフ、騎士階級で直情的なルフィーちゃんは、外交交渉は苦手だろうからな。出がけにも、この任務を嫌がって団長に代わってもらおうとしてたし。
これで彼女から剣を抜いて仕掛けることは出来なくなった。万が一、向こうの二人がおかしな真似に出ても、ルフィーは大人しく引いてくれるだろう。
「ふう、分かった。して、返答はいかに!」
ルフィーが言う。
「ちい、待て。上に確認する。だが、嘘だと分かったら、タダではおかんぞ!」
「む。それは私もだ!」
「では、ルフィーさん、我々はモンスターとの戦いに戻りましょう。用件は済みました」
俺達がここでホバリングしてたら、偵察隊の二人も報告に戻れない。敵性の可能性がある連中を放置して戻ったら、隊長に殴られること間違い無しだもんね。
片方がこの場に残ると言う手も有るが、二人ひと組、ツーマンセルが基本だろう。
「む、そうか、そうだな」
ルフィーもすぐに頷く。
「では、お二人さん、速やかなる対応を大使の名においてお願いしますよ! ミッドランドとトリスタンの友好のために! あと、襲われてるのは城塞都市レグルスです、忘れないで下さいねー」
「馬鹿にするな。それくらいの伝令はできるぞ! 行くぞ!」
グリフォンがきびすを返して立ち去るのを確認して、ワイバーン二匹も戻っていく。
自分、クラス竜騎士はスゲェ格好良いと思ってましたが、ホント、お空のドッグファイトとかあり得ないので、一生、竜騎士にはクラスチェンジしなくていいです。
「ちょっと、ルフィーさん、なるべく揺らさないで! そんなに飛ばさなくても大丈夫ですから! ひい! 落ちる落ちる落ちるぅ!」




