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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十二章 大国の思惑

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第二話 空からの襲来

2016/11/27 若干修正。

 アルカディアの西、国境に近い城塞都市レグルスに俺達が到着したのは、二日後のことだ。

 見つかったらどうしようかと、多少、不安だったが、国境を越えてしまえば誰も俺達に注意を払ったりしておらず、自由に歩けた。

 レグルスの宿に泊まり、リサとミネアが酒場で情報を集めてきたが、アルカディア軍は徴兵を行っているものの、まだ進軍の段階では無かったようだ。


 関所の封鎖は単に嫌がらせ、あるいは外交を有利に進めるためのものらしい。


「とにかく、王城に行って、女王と話をするしか無いわね」


 ティーナがそう言うが、戦の準備で忙しくしてるだろうし、門前払いじゃないかなあ。

 仮に会ってくれたとしても、こちらにはアルカディアに戦を思いとどまらせるだけの取引材料が無い。

 『戦争はいけません、みんなで平和に仲良く暮らしましょう』と言って、それで気が変わる程度の考えで戦が始まるわけが無いのだ。

 そこに至るまでの両国の利害関係、国民感情、貴族や商人達の皮算用など、事は複雑怪奇である。


 どうやら裕福なトリスタンに対して、若くして王位を継いだアルカディア女王が国内固めの一環として戦を仕掛けるということらしい。交易路の独占に対する不満や、肥沃な土地の狭さによる慢性的な食糧不足なども背景に有るようだが、正直、俺はトリスタンの側に同情するね。

 戦ってもおそらくはトリスタンが勝利するだろう。

 トリスタンの建築技術や街の大きさを見れば国力の違いも一目瞭然だ。

 人口は、徴兵可能な兵士の数の上限に比例する。

 国土が大きく資源も豊かならば、戦略物資も豊富だろう。


 戦力差をアルカディアに理解させたところで、おそらく戦は止められまい。

 歴史上、大国に対して小国が勝つ例もあるからだ。

 もちろん、その例は少ない。

 だが、たとえその確率が事前に数字で厳密に明示されていたとしても、わずかな勝利の可能性に目がくらむ指導者は珍しくも無いだろう。

 指導者も人間なのだ。


 そもそも、トリスタン国の勝利条件とアルカディア国の勝利条件も異なる。

 アルカディアの最大の目的が女王の地位の足固めであるならば、最悪、トリスタンに歯が立たなくとも、士気を高め善戦しているとアルカディア臣民に印象づけることが出来れば、それでアルカディアの勝利は確定する。

 トリスタンにしてみれば、アルカディア軍の撃退は当然のことながら、どれだけこの無駄な戦で被害を少なく出来るかが勝利条件になるだろうから、割とハードルが高い。ただ単にアルカディア軍を撃退しただけではダメなのだ。トリスタン領内に侵入され略奪されるだけでも、トリスタンにとっては面白くないことだろう。侵攻されたトリスタンの地方領主が、王軍の派遣の遅さに不満を持つだけでもマイナスだ。

 局地戦でいくら華々しい戦術的勝利を収めようとも、大局での勝利条件を満たさない限りは戦略目標が達成できたとは言えない。

 戦術では戦略を上回ることはできないのだ。


「ミネア、街の人の感情みたいなものはどうだった?」


 俺は国民感情について聞いてみる。


「ああ、それが、トリスタン側が川の水を使いすぎて、干ばつの被害が出てる言う話や。相当、頭にきてる感じやな…」


「そうか。ううん、根が深そうだな」


 隣国同士で本当に仲が良ければ、まとまって一つの国になってしまうから、たいていは仲が悪い。

 仲が良さそうに見えても、表向きだけ主権を持ち、大国に従属させられている衛星国家などもあるから国家間の友好など幻想と思っておいた方が良いだろう。

 川の水量に関しても、単なる天候が原因のものを、アルカディア政府が世論操作としてトリスタンを悪玉に挙げているという可能性だって大いにあり得る。


 謁見の前にティーナに話の持って行き方について話し合っておく必要があるだろうな。

 大丈夫だとは思うが、アルカディアと軍事同盟を組んではいけない。

 大国トリスタンを敵に回すのはミッドランドにとって悪手でしかないのだから。


「近く、大きな騎士団がこの街にやってくるそうよ」


 リサが言う。


「それって国王軍では無いのよね?」


 ティーナが確認するが、女王が自ら出張ってくるなら、女王陛下がお見えになるという話になっているだろう。


「いいえ、国王では無いそうよ」


「そ。なら、明日の朝、出発しましょう。急がないと」


「ええ」


 翌朝、王都を目指して出発する俺達。

 正直、まだ眠い。

 アタシぃ~、朝は低血圧なの。朝の血圧を測ったことは無いけどぉー。


「む、何かしら、アレ」


 リサが立ち止まり、後ろの空を見上げている。


「鳥かな。凄い数やけど、ううん、なんや様子がおかしいな」


 ミネアが言い、俺も振り向いて空を見てみたが、かなりの数の鳥が飛んでいる。

 そう言えば、こっちの世界で鳥の大群ってあんまり見た事無かったな。

 百や二百では無いだろう。気持ち悪いくらいたくさん飛んでいる。


「んん? アレって何となく人間の形してない?」


 ティーナが言うが、俺には翼は確認できるのものの、形まではよく分からん。目が良いな。


「人間だと? あっ! アレは! ハーピーだぞ!」


 レーネが言ったところで、カンカンカンカンと、聞き覚えの有る鐘の音が鳴り響いた。国は違えど、モンスターの襲来を報せる方式は同じらしい。


「えー。マジか。あの数とやんの? あ、おい! お前ら、なんで逃げるという選択肢がそこに無いんだ! 俺達は勇者様ご一行じゃないんだぞ!」


 俺が言うが、ティーナはともかく、ミオやクロまで街に戻っていくし。


 くっ、こういうときは孤立していると逆に危なそうだ。


「み、みんな、待ってぇー!」


 仕方なく俺は情けない声を出しながらみんなを追いかけた。




「モンスターだ! ハーピーが襲って来たぞ!」


「何だと!」


「くそ、スゲえ数だ。どうなってんだ、ありゃあ」


 街の人々も外に出て空を見上げている。先ほどよりハーピーの群れが大きくなって、もうはっきりとその姿が見て取れる。

 くそっ、この世界のハーピーは、確かに胸はあるし、女形だが、どう見ても獣だ。顔はしわくちゃで醜い。胸も毛で覆われていて、ああもういいや。全然楽しくないハーピーだ。


「女子供は家の中に入って戸口を閉めておけ! 男は全員、武器を持て!」


 号令が飛び、街の人々は動揺しつつも戦闘準備を整える。


「ぜーはー、ぜーはー、お前ら、どこまで行くんだよ、おい!」


 息が切れた。先を行くみんなに向かって言う。


「正面の城壁よ! あそこが一番戦いやすいわ!」


 リサが言うが、最前線かよ。しかも高い城壁だから、空からの攻撃で真っ先に狙われるはずだ。


「うえ、もう戦ってるし」


 すでにティーナやレーネの前衛組は城壁の上にいて、ハーピーに剣を斬りつけていた。

 ああもう!


 ステータス呪文は旅の出発と同時にもう唱えているので、後は二重バリアの呪文と、命中率UPのコンセントレーターを順に、その辺にいる戦士達全員に掛ける。

 クロが二重マジックバリアを唱えたが、ハーピーって魔法使うのかね。まあいいや。

 ミオはフラッシュの呪文。


「お、いいぞ」


 フラッシュが効いて、攻撃しようと急降下してきたハーピー共が、そのまま城壁にきりもみしながら激突する。


 フッ、こいつら、そんなに強くは無いと見た。


 念のため、分析(アナライズ)っと。



 ハーピー Lv 18 HP 124/ 124


【弱点】 風

【耐性】 特になし

【状態】 通常

【解説】 醜い老婆の顔を持つ鳥。

     性格は極めて貪欲で、

     人間に対してアクティブ。

     上半身は人に似ているが知性は全く無い。

     風の呪文で倒すのが良い。



 HPも少なめだし、知性が無いなら余裕だろ。


「風が弱点! HPは百ちょいだ!」


 ウインドウは全員が参照できるようにしているが、戦闘中にいちいち読む暇は無いだろうし、要点だけ叫んでおく。くちばしが無いので、足の爪で攻撃してくるのは明らかだ。


「「 分かった! 」」 


「雨よ凍れ、嵐よ上がれ、雷神の鉄槌をもって天の裁きを示さん! 落ちよ! サンダーボルト!」


 俺が風が弱点だと言ってやったのに、エリカが雷の呪文。まあ、彼女の雷、そればっかり唱えてるから雷属性の熟練度がかなり上がったようで、威力がうちのパーティーではピカイチだからな。

 派手に空から閃光と轟音が鳴り響き、一度にたくさんのハーピーが巻き込まれて墜落していく。


「神竜の羽ばたき、嵐のごとき。全てを飛ばし、見えぬ刃よ、切り刻め! トルネード!」


 俺は風の上級呪文をきっちり唱えた。

 元々、範囲攻撃しか指定できない呪文だが、なるべく広範囲に指定した。

 竜巻に次々とハーピーが巻き上げられ、散っていく。


 ううん、威力はバッチリだが、オーバーキルっぽいな。魔力(MP)消費と、この膨大なハーピーの数を考えると、ここはウインドカッターで行くべきか?


 俺はすぐに呪文を切り替え、中級のウインドカッターを無詠唱で飛ばす。急所に当たれば一撃で仕留められるが、単体攻撃でこれも効率が悪い。無詠唱だからシューティングゲームのように連打も出来るが、照準のロックオンは自分でやらないといけない。


 さらにもう一つの中級の風呪文、ウインドボールを試す。殺傷力が低いが、範囲は割と大きく出来るので、これでハーピーのバランスを崩してやり、ハーピー同士をぶつけたり、城壁に飛ばしてやる。

 うん、行けそうだ。城壁近くなら充分、やれる。


 ミオとクロも俺のやり方を見て、真似始めた。


「せいっ! やっ!」


 ティーナは素早く動いて次々とハーピーを仕留めている。レイピアは攻撃力が低めで、ゴーレムやミイラ男では苦戦気味だったが、この鳥相手なら相性が良いようだ。敵の攻撃する間も与えない感じで余裕だな。


「ニャ! それニャ! ムゥ」


 一方、リムは、手斧で一撃で仕留めているのだが、どうしてもリーチが足りず、大振りで効率が悪そう。

 回避は、持ち前の反射神経でハーピーの爪を軽々と躱しているので、こちらも心配要らないな。


「あらあら、あらあら、うふふっ」


 クレアは翻弄されるフリをしつつ、ハーピーの攻撃を最小限の動きで躱し、錫杖で殴ったり突き刺して攻撃。普段、前衛はやらずに後ろに控えている彼女だが、ふむ、こんな戦い方も出来たのか。 


「よっと、ほいっと」


 ミネアは身軽な動きでハーピーの爪を躱しつつ、ショートソードで攻撃。一撃では倒せないが、素早い連続攻撃で難なく倒している。時折、左手でナイフを使い、急所を攻撃したのか毒攻撃なのか、ハーピーが一撃で落ちていく。


「ハッ、この私を狙おうなんて百年早い!」


 リサはボウガンは使わず、ダガーで近づいてきたハーピーの首や心臓を狙って攻撃。こちらも一撃とはいかないが、連続で当てているので倒すのは早い。ボウガンを使っていないのは矢の節約のためか。

 リサと目が合ったが、互いに問題無いのを確認して頷く。


「そらそら、どうした! その程度か!」


 レーネは豪快に大剣を振り回して、一度に数匹を狩っていく。全部、一撃。あまりの攻撃力に恐怖を感じたか、ハーピーが距離を取る。


「来ないのなら、こっちから行くぞ。虚空斬!」


 出た。レーネの遠距離攻撃。白いオーラか真空刃が飛んでいき、その方向にいたハーピーを次々と貫通し、切り捨てていく。本人にも虚空斬をどうやって出しているのか確認したのだが、難しいコトは分からんと言われてしまっている。俺の予想では多分、オーラの方。真空刃やソニックブームって、音速を超えないとダメだろうし。いや、超えてるのか? 俺にも分からん。


「くそっ、うわっ!」


 城壁の上にいた兵士が、二羽のハーピーに囲まれて狼狽えてしまった。俺が後ろの一羽をウインドカッターで仕留めてやる。


「落ち着いて! その程度じゃ死なない」


 ハーピーは攻撃的だが、足の爪でしか攻撃してこないので、鎧を着ている兵士は、目や首をやられない限りは大丈夫だろう。


「ああ、だが、この数じゃあ」


 確かに俺達よりレベルが低い者は、敵がこれだけいると怯んで当然だろう。だが、戦闘中に余計な事を考えていると、それだけで命取りだ。


「これを」


 もう一羽も呪文で倒し、薬草を予備の分も含めてひと束、兵士に渡してやる。

 いちいち、怪我をする度に駆け寄っていくの面倒だしね。


「おお、薬草か、助かる」


「おわっ! くっ、ひい!」


 むう、あっちもか。

 俺達のパーティーはほぼ無傷で余裕だが、ここの街の兵士はレベルが低いせいか、苦戦気味だ。数で囲まれると一方的にやられ始めてしまう。


「腕に自信の無い者は、背中を仲間に預けて戦え! こちらには薬師と司祭がいる! 怪我をしても問題無いぞ」


 レーネが大きな声で戦い方を指示し、回復役(ヒーラー)がいることを教えて、士気を保った。押され気味だった兵士達が落ち着きを取り戻し、安定した戦い方になった。

 ふむ、なるほど、やっぱり将の器だなぁ。こんなところで冒険者してていいのかね?


「でも、くっ、切りが無いわね。せいっ!」


 ティーナが言うが、確かに切っても切っても、次が来る。


 ハッ! 


 カルマは大丈夫か?

 

 慌てて冒険者カードを確認したが、うん、大丈夫だ、増えてない。

 もっとレベルが低い雑魚を倒さないと、増えないのかな。

 それとも、こちらから狩ったりしない限りはノーカウントなのだろうか。よく分からんが、今は大丈夫そうだ。


「はーい、薬草どうぞ~、欲しい方は声を掛けて下さいねー。ひと束、10ゴールドの良心価格でご提供~、有れば安心のユーイチ印の薬草だよー」


 魔力温存のため、俺は攻撃の手を休めて、薬草を売り歩くことにした。


「む、まあ、10ゴールドなら安いか」


 こんな時に薬草を売り歩くのかという抗議の声が上がりかけたが、そこは適正価格だから問題無い。

 しかも通常の薬草に比べHP回復量で2割増しの高品質だし。

 高値を付ければ、もちろんそれでも売れるだろうが、こう言う非常時に安く売ってお得感を出せば、強く印象に残り、それだけブランドの信用や価値が跳ね上がる。

 気に入ってひいきにしてくれる常連客(リピーター)がいれば安定した商売になるのだ。

 口コミで評判が広がれば、客も増える。逆に、価格不相応の粗悪品を売っていれば客と評判を失っていく。

 ゆえに、顧客満足度は最も重要だ。


 リサもこっちを見て渋い顔をするが、何も言わない。

 MP管理の大切さを彼女も理解しているからだ。戦力的にむしろ余裕の今は、俺はサボらせ…オホン、休ませてもらう。


「あっ、あかん、街の方が襲われてる!」


「ええっ?」


 ミネアが言うのでそちらを見たが、むう、すでに街の中にたくさんのハーピーが入り込んでいて、これはヤバい。鎧も着ていない一般の民は、レベルも低いだろうし。


「レーネ、ここは任せるわ!」


 ティーナがそう言い残し、すぐに城壁の階段を降りていく。


「ああ、任せておけ!」


「ミネア、魔術士の護衛は頼んだわよ」


 リサもそう言ったが、彼女はこの城壁の上に残るようだ。斥候は一人いた方がいいだろうな。


「分かってる」


「クレア、城壁(こっち)は頼んだ」


 回復役(ヒーラー)も一人残った方が良いだろうから、俺がクレアに頼んでおく。


「ええ、お任せ下さい」


「リムとエリカもこっちに残ってくれ。後は街へ行くぞ」


 俺が指示する。魔術士も一人いた方が良いので、市街戦では使い物にならないエリカを城壁(こっち)に残す。リムはどちらでも良いのだが、こちらにも戦力がいるだろうから、戦士チームも分散させておく。


 俺、ティーナ、ミネア、クロ、ミオ、ちょうど半分の五人で街に向かった。


「ひゃっ!」


 くっ、マリアンヌ、城壁から一気に飛び降りるとか、はええな。俺も大鳥(クーボ)が欲しくなった。乗ってる方のクロは必死にしがみついて、ちょっと振り回されてる感じだが。

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