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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十二章 大国の思惑

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第一話 国境、アルカディアの関所にて

2016/11/27 若干修正。

 使徒についての情報を得た俺達。

 だが、肝心の使徒とは何なのかについては分からずじまいだった。


 いくつかの厄介そうなモンスターの弱点や対処法を教えてもらったに過ぎない。


 ま、それについてはティーナが王宮に詳細な報告をするだろうから、彼女に任せておけば良い。

 あのグリーンオークが使徒であるという確証も無いのだ。


 使徒の話を終え、次にティーナは軍事同盟の話を持ちかけたので俺は少し焦ったが、アイネが素っ気なく断った。

 いくら全権大使で王宮の意を汲んでいると言っても、攻守同盟は慎重を要する。

 トリスタンがこちらを守ってくれる分には良いが、味方の敵は自分の敵、トリスタンが攻め込まれた場合は、こちらも兵を出さねばならなくなるからだ。

 トリスタン国はアルカディア国と不仲と言うし、アルカディアも不穏な動きを見せていることから、下手をするとミッドランドは遠方のアルカディアとも戦争する羽目になってしまう。

 この世界での遠征は移動だけでも時間が掛かり、対トレイダーと対アルカディアの二正面作戦など、ミッドランド国には負担が大きすぎるだろう。

 西のスレイダーンとは講和条約を結んだが、どう転ぶかも分からない上に、左右から挟み撃ちとなればもう最悪だ。

 

 代わりにアイネは、トレイダーの商人から得た情報として、麦と鉄と馬、それから羽の値段が上がっていると重要な事を教えてくれた。


 兵糧と、鉄の武具、軍馬、それに矢の材料を大量に調達し揃えているのだ。

 トレイダー帝国も急ピッチで軍備を整えている様子。


 近く他国に戦争をふっかけるのは間違いないだろうと、これはアイネの予測。

 大国トリスタンとしては、トレイダー帝国に対する備えは怠らないものの、トレイダーが攻め込む先はトリスタンでは無いと見切っている様子だ。トレイダー帝国の西隣にはミッドランドという中規模の国が有り、そちらに攻め込んで来る可能性が高いわけだから、ミッドランドと攻守同盟を結ぶはずが無い。


 結局、トリスタンとミッドランドの友好宣言は書面で交わしたものの、国王との謁見は断られた。


 俺がラトゥール座で宙を飛んで怖い思いをしたというのに、あれは何だったのかと思いたくなる。


「それでは有意義な交渉となりました。両国の友好と繁栄を願って」


「ええ、両国の友好と繁栄を願って。国王陛下にもよろしくお伝え願います」


 再び、握手を交わすアイネとティーナ。


 俺もすかさず近寄り、彼女に手を差し出すが。


 目を伏せて避けるアイネ。


 くそっ、嫌われているだと!? バ、バカな…。


「じゃ、失礼するわよ、ユーイチ」


 呆然としている俺の手をティーナが引っ張って行く。


 丁重に王城の外まで兵士に送り出され、俺達は宿に戻った。


「ウニャー、退屈だったニャー! よーやくつまんない長話が終わったニャ」


 リムが両手を挙げて背伸びをする。


「ふふ、ご苦労様。静かにしててくれて助かったわ、リム」


 ティーナが労った。


「うん。まあ、途中、ウトウトして寝てただけニャ」


「そんな事だろうとは思ったけど」



「くっ、失敗した。やり過ぎたかもしれん」


 俺は拳を握りしめて後悔。

 よかれと思った強引な交渉で嫌われたかも。


「ええ? 同盟の話の時に黙り込んじゃうし、もっとユーイチには交渉に割り込んで欲しかったんだけど」


 ティーナが言うが、俺が割り込んでも結果は動かないよ。素人に買いかぶりすぎだ。

 リサがそれを見て言う。


「話の流れからすると、悪くない交渉だったと思ったし、ミッドランドはあまり取れてなかった気がしたけど、アレでも取り過ぎなわけ?」


 交渉は友好的に終わったし、俺の中では充分に合格点だ。そっちはね。


「いや。だが、アイネちゃんが…」


「ああ、そう言えば、最後、握手してくれへんかったな、ユーイチには。ティーナに遠慮したんちゃう?」


 ミネアが言うが、ひょっとして俺とティーナが恋人と勘違いしちゃったか?

 タダの上司と部下なのに…。


「むっ。これはいかん。すぐに王城に戻って……ティーナ、ちょっとその肩に食い込ませてる手を放して欲しいんだが…痛いよ」


「ユーイチ、明日はアルカディアに向かわないと行けないし、まぁ…うん、準備もきちんと済ませて、あくまでも個人的にオラヴェリアに会いに行くと言うのなら、それでもいいけど。でも肩の骨は諦めてね」


 いや、それ脅迫のレベルだろ!


「分かったよ。何が気に入らないのか知らないが、行かないから」


「よろしい」


「家臣が見境無く美人にうつつを抜かしてたら、主人としては釘を刺して当然でしょうに。他国の人間だし、変な気は起こさない方が良いわよ、ユーイチ」


 リサがそう言ってくるが、うーん、別にアイネちゃんはハニートラップなんて仕掛けてこないと思うんだが。


「いいではないか、それくらい。ユーイチも遊びたい盛りだろうしな」


 レーネがニヤッと笑ってそんな事を言うが、むう、ティーナとクロとエリカが眉をひそめたし、違うの、そう言う不潔な関係じゃ無いの! まずはお友達から……。

 

「私で良ければいつでもお相手しますよ、ユーイチさん、うふっ」


「ふおっ!?」


 マ、マジで?


「ちょっと、クレア。そうやってユーイチをからかっておかしくさせるの、止めてくれないかしら」


 ティーナが面白く無さそう。


「ん、警戒警報発令。あとはクレアとティーナだけでやって。私は余り物のユーイチで良い」


「ええ?」


 ミオが少し変な事を言うからそれで気が削がれたか、ティーナも肩をすくめて明日の支度をすると言った。

 皆、ティーナの部屋を出て各自の部屋に戻る。




 翌朝、俺は朝食の後で一度ラウルの家に寄り、彼が仕上げた絵を見た。


「短期間で結構上達したなあ、ラウル」


 きちんと毎日練習を欠かさずやった成果だろう。この世界に無いスク水やセーラー服がアニメ調でしっかり立体的に描けている。


「はい、そう言ってもらえると嬉しいです。僕も今までと何か、違う世界が見えて来たというか…」


 お、18禁に目覚めちゃう?


「そうか、君には期待しているよ、ラウル」


「はい、家賃のお礼は必ず」


 がっちりと、男と男の握手。

 

 俺は禁断の極秘プロジェクトを彼に託し、王都トリスティアーナに別れを告げる。


 さらば芸術の都よ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 俺達は次の目的地、アルカディアへと出発した。

 すでに一度、ミミに溶鉱炉を作ってやるために訪れた国なので、もう道は把握している。楽勝だ。


 と思ったのだが…。


「ん? アレは何かしら。関所が混み合ってるみたいだけど…」


 ティーナが言う通り、関所の前には人だかりが出来ていた。結構な人数だ。


「ちょっと、見てくる」


 リサがそう言ってそちらに走って向かう。


「ええ、お願いね、リサ」


「さて、これは面倒かも知れないぞ…」


 いつもなら面白いなどと言いそうなレーネがそんな事を言う。

 関税でも値上げされたかね。しかし、それくらいなら、金持ちパーティーの俺達の障害にはならないが。


「何かあったんですか?」


 人だかりの最後尾に近づいたところで、ティーナが前の行商らしき男に声を掛ける。


「ああ、何でも、アルカディアが関所を封鎖したそうですよ。今朝のことです」


「ええ? むう」


 『アルカディアがトリスタンに戦を仕掛けようとしている』という情報をミッドランドの接部(外務省)から得ていた俺達にはそれほど驚く話でも無いのだが、何ともタイミングの悪い……。あと一日出発が早ければ、通れていただろう。


「弱りました。これから私はアルカディアの王都で大口の取引の予定だったのですが、どうしたものやら……」


 商人が力無く首を振るが、入れないのなら取引もおじゃん(・・・・)だろう。


「そうですか。私たちも、王都に向かう予定なんですけど……」


 さて、どうしたもんかね。ティーナなら、地位を明かして便宜を図ってもらう手も使えそうだが。


「ティーナ、北か南に迂回したらどうやろ?」


 ミネアが言う。おそらく、封鎖はトリスタン方面のみだろうから、迂回すれば通れるだろう。


「ダメよ。それじゃ、時間が掛かりすぎるし、アルカディアが軍を動かした後じゃ、間に合わないもの」


 そう、俺達のここでの外交目的は、アルカディア国にトリスタン侵攻を思いとどまらせること。それによって、トリスタン国のフリーハンドを確保し、トレイダー帝国への牽制としたいわけだが。


 割と…いや、かなり厳しいだろうな。


 トリスタンでも、国王との謁見は断られてしまったし、他国の軍事行動を変更させるとなると、同盟を結ぶ事よりも難易度は高いと思われる。国を挙げての戦ならば、その準備は数年単位、あるいは十年単位だろうしな。

 軍事作戦が一度動き出したら、さらに止めるのは難しくなるだろう。 


「ああ、そやったね。じゃあ…」


「仕方ないわね。私が関所の兵士に掛け合ってくるわ」


 ティーナも関所に向かったが、時間が経っても、なかなか戻って来ない。


「遅いな。貴族で正式な使節なら、簡単に通してもらえそうなもんやけど」


 ミネアが言う。


「ちょっと、俺も見てくる」


 心配になったので、俺も関所に向かう。



「俺の家はアルカディアなんだぞ! どうして自分の家に入れないんだ!」


「私はアルカディアの騎士団に注文を受けて来ているのですが。騎士団の方に問い合わせるくらいして下さいよ」


 関所の前で通せんぼを食らった人達が口々に抗議している。

 そりゃ、予告も無しでいきなりなら、混乱して当然だ。


 経済封鎖が目的か、それとも、すでに進軍の段階なのか……。


「すみません、ちょっと通して下さいね」


 スリップの呪文を俺のローブに掛けて、するすると人だかりの間を縫って入り込んでいく。


 いた、ティーナだ。


「だから、その上の人間を呼んできなさいと言っているのよ!」


「なんと言われようとも、何人(なんぴと)たりとも通すなと命令を受けております」


 ふう、押し問答をやってるだけのようだ。


「ティーナ」


「ああ、ユーイチ。聞いてよ。上に取り次ぐように言っても、聞く耳もたずで」


「そりゃあ、封鎖だからな。いちいち陳情を取り合ってたら穴が空く」


「む。私は別にトリスタンの密偵でも何でも無いんだけど」


「そうだが、彼らにはそんなことは確かめようが無いぞ」


「ええ? この白竜の紋章が目に入らぬか!」


 わあ。

 ちょっと期待してしまったが、兵士達は一斉に土下座したりはしなかった。


「貴族の方でもお通しできない決まりとなっております。お引き取りを」


 にべもない。


「むぅ、かくなる上は――」


「いったん戻ろう」


 ティーナが何かする前に俺は言う。


「ええ?」


「そこで君が剣を抜いて無双したら、外交どころじゃ無くなるぞ?」


「む、別に無双なんかするつもり無いわよ」


 どうだかね。

 二人でみんなのところに戻る。リサも戻っていた。



「そ。じゃ、こっそり関所抜けするしかなさそうね」


 リサが何でも無いことのように言うが。


「ええ? ちょっと、それはどうかと思うけど…」


 ティーナは、歴とした犯罪行為に対して、気が咎める様子。


「他に手は無さそうだし、時間が惜しい。リサの案で行こう」


 俺は言う。


「だな」


 レーネも即座に賛成。


「む。いつもはなんだかんだと理屈を付けて嫌がるくせに、変な風の吹き回しね、ユーイチ」


「後でおとがめを受けない勝算もあるからな。リサ、危険は低いんだな?」


 リサに確認。


「そうね、昼間は監視の目もあるでしょうけど、夜なら余裕でしょう? 私達なら」


 暗視(ナイトビジョン)の呪文に沈黙(サイレンス)隠蔽(カモフラージュ)もあるから、ま、余裕だな。


「分かったわ。じゃ、日が沈んで暗くなってから決行しましょう」


 ティーナもそれで納得した様子。


 関所の近くで野宿するフリをして、暗くなってから行動を開始した。


 ふふ、暗視(ナイトビジョン)があれば、暗闇でも怖くなーい。


 足音は沈黙(サイレンス)で消して、地図(マッパー)もあるから、迷う心配も無い。

 沈黙サイレンスの呪文が声以外にも、音の発生も防げると知ったのはつい最近だ。ミオが他にも使えると教えてくれた。


 完璧!


「フハハハ―――おっと、ご、ごめんごめん、ゲフン」


 俺は慌てて笑いかけた口を左手で塞ぐ。まずった。つい、楽勝過ぎて調子に乗ってしまった。


『ふう。ティーナ、後でコイツ、吊してきても良いかしら?』


 リサが念話(パーティーチャット)で言う。


『うん、いいんじゃないかな』


 ま、待ってくれ。どこに吊すつもりなんだよ。止めて!


『ふふ。今のところは気づかれてないみたいや。良かったな、ユーイチ』


 ミネアが言うのでほっとする。これで警備兵に見つかってたら、間抜けすぎる。


『ああ、すまんかった』

 

『だが、それほど警戒している様子でも無いな。封鎖はタダの嫌がらせと言ったところか』


 レーネが言うが、家に帰れなくなった人とか、良い迷惑だな。

 アルカディア側にとってもかなりの経済的な打撃が有ると思うが、いや、この世界の経済レベルだと、貿易依存度は低いか。輸送も限られるし。


『どっちにしても、先が思いやられるわね』


 ティーナもこの交渉が難しい事は予想している様子。一応、アルカディアの女王と面識があるので、それで大使に抜擢された面もある。あの女王様は、気さくな感じだったし。

 腹心の家臣の子は手強そうだったけど。

 名前は……くそ、忘れた。次から重要人物はメモリーの呪文で覚えておかないとな。


 星一つ無い暗闇の中、俺達は任務のため先を急いだ。

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