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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十一章 画家なんだな

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第十五話 アクシデント

2016/11/26 若干修正。

 午後開始のトリスティアーナ武闘大会の決勝戦を観戦して帰ろうと、食事を闘技場の中で取っている俺達。


 ふと、リングの向こう側で魔法陣を描いている女魔術士を見つけたのだが。


「ユーイチ、どこ見てるの」


 ティーナが半ば怒った声で言う。


「いや、あの魔術士、なんで魔法陣を作ってるんだろうって」


「決勝の準備でしょ。リングも強化しないとダメだろうし。と言うか、ユーイチって本当に美人の女の子には目敏いわよね」


 ティーナが変な八つ当たりをしてくるが。


「何を言ってるんだ。俺は別に美人をサーチしてるわけじゃ無いぞ」


 見つけたときに見とれたりはよくするけどね。


「む」


「ん、その割にエンカウント率がハンパない」


 いやいやいや、チッ、ミオもそこで変な煽りは止めて欲しいな。

 ティーナが睨んできたので、雲行きがおかしくなる前に断っておく。


「言っておくが、あの魔術士はアウトコースだ。俺は紫の口紅をした大人の女性は好みじゃ無いし、むしろ苦手だっての」


「なら、なんでさっきからじっと見つめてるのよ」


 ああもう。


「分かった、見なきゃいいんだろ」


 肩をすくめて目を逸らす。


「決勝はランスロットとグリーズ、どっちが勝つかな?」


 ミネアが別の話題を出してくれた。


「ランスロットだろうな。グリーズの方はだいたい強さが掴めたが、ランスロットは底が知れん」


 レーネが言う。


「そうね。私との闘いでも、完全に力を抜いてたし。むう」


 ティーナが屈辱だったらしく、また顔をしかめる。


「それより、ティーナ、この後はどうするんだ?」


 この話題もよろしくないので、また話を変える。


「そうね…どうしようか」


 ひとまず、王妃に頼んでおいた謁見の件がどうなったか確認し、それでダメなら、もうアルカディアへ向かおうという話になった。


「そろそろやね」


 タイムの呪文で俺たちには正確な時間が半透明のウインドウを通して見える。あと五分を切った。観客席も人が戻ってきて、ざわめいている。

 リングの向こうを見たが、もうあの黒い女魔術士はいなかった。


「それでは、第127回、トリスティアーナ武闘大会、間もなく、間もなく、強者たちの頂点に立つ決戦の火蓋が切られようとしております。果たして優勝の栄冠を手にするのは昨年の覇者、青き彗星、ランスロットか! それとも新人、疾風のグリーズが新たな伝説を作るのか!」


 実況放送が聞こえてきて、観客もボルテージが上がる。


「トリスタン国王陛下、そして王妃殿下も特別席からご覧になっておられます」


 観客席を見回してみると、正面奥の上の方に、護衛の兵士に囲まれた国王と王妃の姿が見えた。うーん、さっきの休憩の間に話しかけに行っておけば…いや、つまみ出されるのがオチか。


「さあ、まずは挑戦者、疾風のグリーズの入場です!」


 正面右の通用路からグリーズが歩いて入ってきた。歓声が巻き起こる。


「続いて、昨年のチャンピオン、んん?」


 実況が止まり、何事かとそちらを見るが、リングの端から黒い煙が上がっている。

 なんだ、ありゃ?


「えー、これはどうしたことでしょう。リングに何らかのアクシデントが発生した模様です。現在、係員が確認に、ああっ!」


 係員が何かに弾かれたように宙を舞い、観客席の壁に凄いスピードで頭から激突する。


「なにっ!?」

「きゃあ!」


 近くにいた観客が悲鳴を上げて逃げ惑うが、くっ、あれはもう生きてはいまい。


 何が起こっているのかよく分からないが、ヤバいことだけは分かる。


「ティーナ、さっさと逃げるぞ!」


 言う。


「待って。あれは! モンスターよ!」


 黒い煙の中から、緑色の太ったオークのようなモンスターが出てきた。


 デカい。


 体長は三メートル、いや、もっとあるか。

 近くで対峙し身構えているグリーズの何倍も大きい。


 鋲の付いた黒い鎧を着込んでいるが、なんだか強そう。


 それに、どう言ったら良いのか、今までのモンスターとは雰囲気が全然違う。


 目が三つあるし。


 この違和感はなんだ?


 まるでドラ○エをやってたらウィ○ードリィの敵が出てきました、みたいな。

 いや、アニメを見ていたら実写の中の人が出てきた、みたいな…。


「てめえ! 上等じゃねえか、俺の晴れ舞台に割り込んで来やがって、相手してやるぜ!」


 グリーズが突進して斬りかかる。


 いけない!


 と思ったが、緑オークのパンチがグリーズを上から叩き潰す。


 いや、地面に粉塵が巻き起こったが、すでにそこにグリーズはいなかった。


「こっちだ! のろま(・・・)!」


 レーネの時にも見せた瞬間移動にしか見えない動きで背後から斬りつけるグリーズ。

 太刀筋も俺には見えなかったが、四回ほど斬りつけたようで、緑色の体に大きな裂け目が四つ、ぱっくりと開いた。

 ありゃ、致命傷だな。

 大して強くなかったか。


「まだだ! 離れろっ、グリーズ!」


 ランスロットが真剣な声で叫ぶ。


「ああ? 何言ってる、コイツはもう…なっ!」


 ランスロットの方を見て怪訝な顔をしたグリーズは、反応が遅れて緑オークの攻撃を完全には躱しきれなかった。

 勢いよく飛ばされて、リングに弾むような感じで叩きつけられた。


「ぐえっ! ちっくしょ」


 グリーズはまだ大丈夫のようだ。ダメージはあったが、何とか自力で立ち上がろうとしている。


「も、モンスターです! 突然モンスターが現れ、グリーズ選手を吹っ飛ばしました!」


 さらに緑オークは、くるりと方向を変え、今度は観客席に向かってパンチを繰り出した。


「あっ!」


「ひい!」


 ヒヤッとしたが、観客も対応が速い。すぐに逃れて、観客席は派手に崩されたが、潰された人間はいないようだ。

 そう言えば、モンスターが普通にいる世界だったな、ここは。


「逃げろ!」


「あのグリーズがやられるくらいだ、俺たちじゃ勝ち目がねえ!」


 慌てふためく観客達が出口へ向かい始めるが、人が多すぎてすぐには動けないか。


「落ち着いて下さい! 係員の指示に従って慌てずに避難して下さい!」


 コロシアムの係員が必死に呼びかけているが、我先にと逃げ出そうとする者も多いので大混乱だ。


「ざっけんな! 俺はやられたわけじゃねえぞ!」


 グリーズが立ち上がって叫ぶが、油断が有ったとは言え、スピードが一線級のこの男で躱しきれない攻撃となると、普通の人間には回避は不可能だろう。

 パワーも見ての通り。

 それも観客はよく分かっている。だからこその恐怖。


「みんな! 観客が避難するまで、私達で足止めするわよ!」


 ああ、君は間違いなくそう言うと思ったよ! ティーナ!


 俺もただぼけーっと見ていたわけでは無い。すでにランスロットやグリーズも含めて二重バリアを展開、コンセントレーターもこの場の全員に掛けた。

 クロもマジックバリアを二重で唱える。

 防御UPと回避UP、それに腕力UPの薬もリサと手分けして配り、これで能力上昇(バフ)は完璧。


「ダメ、目潰し系は効果無い」


 ミオがダークネスとフラッシュを試したが、効かないようだ。

 目潰しが効けば、かなり有利になるんだが、仕方ない。


 エリカも三回ほど、デスでチャレンジしたが、電撃に切り替えた。一発目で決まれば華麗だが、そうそう決まらない呪文だものな。

 俺の勘ではこいつは即死無効を持っている。

 どう見てもボス級だ。


 分析の呪文を使うが、これもダメだった。


「コイツはパワー系だ、下手に近づくな! ソニックブレイド!」


 ランスロットがそう言って、離れた場所から剣を振るい、衝撃波を飛ばした。

 うお、三つ同時とか、俺もそんなの使ってみたい!


 スパパパッと緑オークの体が深く斬れるが、すぐに傷が元通りに塞がっていく。

 魔術かスキルかは分からないが、自動回復、それも高速となると、こいつは相当に厄介だ。


「ふむ、虚空斬!」


 レーネも離れた位置から似たような技を出すが、緑オークの腹を深く切ったものの、また同じように回復されてしまった。


「何だ、コイツは。いくら回復持ちだからって、これだけ深くやりゃあ、少しは効くだろうに。どうなってやがる!」


 グリーズが言うが、彼もここまでの回復力は初めて見たのだろう。


「慌てるな。今は時間を稼ぐんだ」


 ランスロットは落ち着いているし、この人がいればなんとかなるか。何せレベルはこの場で最高の61。出たよ、60台。

 しかも、高レベルになればなるほど上がりにくくなるから、個別スキルの熟練度の関係で小さなレベル差でもその実力には大きく差が出るはずだ。

 俺のステータス呪文をこの場の冒険者全員に掛け直して表示させているが、味方判定されると高レベルでも掴めるようだ。ただし、弱点の表示は失敗。ま、HPゲージだけで充分だ。


 上の観客席の方を見るが、避難は遅々として進まない。転んだか、倒れている観客もいて、そちらの方が心配だ。


「ミネア! リサ! こっちは今はいい。観客の方を頼む」


 俺は二人に指示した。


「分かったわ」

「了解や!」


 さて、急速に怪我が回復してしまうこのモンスターには、どんな攻撃が有効か。


「唸れ風よ、炎の魔神イフリートの名をもって灰燼(かいじん)と化せ、ファイアストーム!」

 

 まず、ミオが無難に炎の呪文を浴びせた。傷を焼き尽くせば再生できないというのは、よくあるパターン。

  

「やったか!?」


「いや、ダメだ。回復してるぞ」


 続いて、クロがブリザードの呪文を使ったが、緑オークの指先までは凍らせて凍傷にさせたものの、完全に凍り付かせることができなかった。

 凍傷もすぐに治ってしまう。


「むう、魔法でもダメか…」


 まだロックフォールなど、試していない属性もあるが、コイツの弱点はそれじゃ無い気がする。


「聖なる矢よ、魔を討ち祓い給え! ホーリーアロー!」


 クレアが攻撃呪文を唱える。クレアに限らず回復役(ヒーラー)は、積極的に攻撃参加しないのが普通だ。攻撃呪文でMP切れを起こしたり、前に出てやられたりすると、一気にパーティーの継戦能力が落ちる。殴り系プリーストのような例外もあるにはあるが、そうで無いクレアは天に加護の祈りを捧げ、その後は誰かが傷ついたら即座に回復できるようにとタイミングを見計らって待機しているのがセオリー。

 だから彼女が攻撃に回るのは珍しい。

 クレアの放った白い光の矢は緑オークに命中したが、大きなダメージは与えられなかった様子。


「ダメです。聖属性が抵抗(レジスト)されていないのに、効果が上がらないなんて。あれほど邪気に満ちていると言うのになぜ…」


 むう、クレアが険しい顔をして言うが、初めて見たよ、そんな顔。

 しかも、あのティーナが緑オークに突っ込んで行かないし、いつも何も考えてないリムまで距離を取って様子見とか。 


 何この空気、重いわあ。

 まだ前衛の戦士達は全力を出していないし、魔法チームもそれは同じ。

 攻め手はいずれ見つかると思うが、すぐには倒せない敵だろうしな。


「マリアンヌ、いざとなったら、クロを連れて逃げるんだぞ」


 余裕がある今のうちに言っておく。


「クエッ!」


 白クーボは、任せなさいと言うように返事をした。


「いいえ、私はユーイチさんと最後まで一緒です」


 ダメよ、クロちゃん、そんなラストシーン直前で妹系ヒロインがのたまうような事を言っちゃ。

 いざとなれば、全員でとんずらするんだしさ。


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