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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十一章 画家なんだな

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第八話 フィギュア

2016/11/26 若干修正。

 翌日、謁見の願い出をティーナに任せた俺は、ラウルのアパートメントに来ている。その日にお願いして即日で王様が出てくるわけ無いからね。向こうも忙しいだろうし。


「違う! お前の絵にはエロスが足りない! それで人々を感動させられるとでも思っているのか!」


「す、すみません! ですが、僕は、もうちょっと、清楚な感じの絵が描きたいと言うか…」


「黙れ! お前は金を返さないといけない立場だろ? うん? 自分が描きたい絵は趣味でいくらでも描けばいいが、売れる絵は人々が欲する物を描かないといけないってのは分かるな?」


 ニーズだ。俺のニーズ。


「は、はい…そうですね」


「なら、もっとアオリまくって、ローアングルで攻めろ。B地区もしっかり分かるように描け。全部描き直しだ! たわけ!」


「わ、わかりました…」


「後は、そうだなぁ…ちょっと待っててくれ」


 口では絵の方向性を説明しにくいので、街に出てちょうど良い大きさの石を買い、マリアンヌに引かせて持って帰り、ゴーレムに運ばせラウルのアパートに入れる。重いからね。


「こ、これは、ゴーレム。初めて見ました…」


「ああ、それはどうでもいいが、ちょっと見てろ」


 石をストーンウォールの呪文で適当に切り分け、さらに俺が元世界で持っていた魔法少女の形に加工する。何度かやっていたので、精巧な石のフィギュアが出来上がった。着色もしたいところだが、後でやるか。


「なっ! こ、これは! いったいどうやって。石が独りでに」


「そこはどうでもいいから」


「ええ?」


「それより、これがお前に描いて欲しいキャラだから」


「ああ。ちょっと、造形が、かなりデフォルメされてますね…顔と目が大きい」


「この絵を描けば、そうだな、余裕で千ゴールドで売れるぞ」


「えっ! 本当ですか」


「ああ、本当だとも」


 俺が買うからね。


「頑張ります」


「おう。頑張れ。じゃ、絵の具、ちょっと借りるぞ」


「はい、絵の具代も出して頂きましたし、ユーイチ様の好きにして下さい」


 ラウルは炭やペンでデッサンの練習中なので、絵の具や筆は今は必要無い。


「私も頑張ります!」


「よし、クロ、みんなで頑張ろう!」


「はい!」


 鬼の居ぬ間に、頑張ってパンチラを描く。クロがいるので、18禁の絵は控えておく。


「ユーイチ様、これでどうでしょう」


 ラウルが出来上がった絵を見せてくるが。


「うーん、確かに良くなったが、そーじゃないんだなー。パンツをモロに見せればそれでいいって自分、思ってるだろ?」


「ち、違うんですか?!」


「当たり前だ。そんなものはエロスじゃねえ! チラリズムを、ああ、教えてなかったな。チラッと見える程度がいいんだ。一瞬の物足りなさに、ちょっと下から屈んで覗き見したくなるだろ?」


「い、いえ…僕は」


「なるんだ!」


「は、はい!」


「ラウル、いい加減、自分に嘘をつくのは止めるんだ。見たい物は見たいで良い。己の中にあるイドをありのままに受け止めろ。それが例えどんなに醜く、汚らわしい物に見えたとしても、だ。自分を今までの常識やしがらみから解き放て!」


「わ、わかりました」


 本当は色々とエロい教科書や聖書(バイブル)を与えてやりたいところだが、俺のおぼろげな記憶の中にしか無い。

 歯がゆいが、今は出来る事をやらねば。


「ふう、こんなものか」


 石に石膏のコーティングを施し、さらに絵の具で色を付け、メモランダムの呪文で細かな主線を加え、完成。絵の具のムラが気になるところだが、とにかく色つきになった俺の嫁。衣服のシワの形状まで再現できるレベルになって来たが、まだまだだな。

 本物はこんなもんじゃねえ。


「あっ、これは、ピンクですか…こういう色になるとは」


「魔法少女の基本は白とピンクだ。覚えておくように」


「はいっ!」


 もちろん、他の色の組み合わせもきちんと紹介しないとな。次は黒色のミニスカートに上は赤のスウェット風のブラウスのフィギュア。

 先ほどの幼児体型の嫁とは違って、少し大人にしてスレンダー気味に。もちろん、ツインテール。


「むむ、これはすらっとしてますね」


「ああ。この貧乳具合が堪らんだろう?」


「え、ええと…その」


 チラッとクロの方を見やるラウルは、まだ自分が解き放てていない様子だ。嘆かわしい。


「ふう、ラウル。人目を気にするのはなぜだ?」


「えっ、それはだって…」


「自分に自信が無いからだ! いいか、ラウル、お前に求められているのは神殿での説法じゃあ無い。そういうありがたいモノが欲しい人達は、神殿やお上品な画廊に行くだろう。だが! お前は今、誰のために絵を描こうとしている?」


「それは、ユーイチ様のためです」


 よろしい。


「では俺が欲しているイデアはお前の中にあるイデアと同じなのか?」


「いえ、違うと思います」


「そうだ。俺が求めているのは芸術的な風景画やお上品な肖像画などでは無い! はっきり言おう。俺が求めているのは幼女の裸だッ! 禁断の、ぷにぷにのエロスだッ!」


「!!!」


「ちょっと! あなたラウルに何を描かせてるんですかっ!」


 そんな問い詰める声と共に、バァーンッとドアが開いて白色のスカーフをした若い女性が乗り込んできた。


「ヒッ!」


 雰囲気がティーナに似ていたので、思わず身を縮めて鼻を両手でかばう。


「マリー!」


 むむ、ラウルの知り合いみたいだね。

 じろっと俺を睨んだマリーは、つかつかとラウルの机に近寄り、彼が描いている絵を見た。


「むむ…なんで下から…しかもこれ下着が」


「マ、マリー。と、とにかく落ち着いて。この御方が、昨日言った上級騎士のユーイチ様だ」


「む。初めまして」


 警戒感と不快感を隠せない様子だが、それでも頭を下げるマリー。


「紹介します。ユーイチ様。彼女は僕の知り合いのマリーです」


「そうか」


 見ると、手提げ籠にパンを入れてきているし、差し入れに来たのだろう。

 チッ、なんだよコイツ、俺と同じモテない同志かと思ってたのに、良い感じの彼女がいるじゃん!

 これだから金髪のイケメンは。


 さて、どう対応したものか。こっちは上級騎士、相手はおそらく平民の街娘、強硬な態度に出て追い出しても問題は無いはずだが…。

 でも、割と気が強そうな感じの子だし、俺を敵と見なされるとラウルの業務に支障が出るかも。


 迷っていると、先にマリーが口を開いた。


「今、幼女の裸がどうとか…司祭様が聞いたら、いえ、常識有る人が聞いたら眉をひそめるような声が聞こえましたけど?」


「いえいえ、誤解ですよ、マリーさん。その絵をご覧になっても分かるとおり、裸ではありませんし。失礼ですが、あなたは美術の教えを受けた事が?」


「いえ、ラウルにちょっと教えてもらった程度ですけど…」


「そうですか。私は数々の名画で審美眼を養い、かの有名なテオドール氏とも取引があります。美術独特の難解な表現や専門用語を何か誤解されたのでは?」


「むむ…いえ、とてもそうは思えませんけど」


「だが、事実として、あなたが懸念されるような絵は、ラウルは描いていませんね?」


「いえ、なんだか変な方向から描いてますし、下着がちょっと見えてますけど」


「まあ、特別な練習でね、下から描くと、ありのままに見える物を描くわけですから」


「でも、この女の子、ありのままにしては、ちょっと顔が大きすぎないですか?」


「うんうん、そこはデフォルメだから」


 手強いな。


「マリー、差し入れ、いつもありがとう。こっちはもういいから」


 ラウルも空気を読んで、マリーを追い出しに掛かる。


「む。いえ、少し見学させてもらうわ。いいわよね? ラウル」


「う、ううん」


「いやいや、マリーさん、完成したらきちんと見せてあげますが、今は練習中、ラウルも出来の悪い絵はあなたに見せたくないでしょうしね」


「私は別に、出来が悪い絵でも構いませんけど。今までずっと見てきたし」


「でも、今回は彼は大きなモノを掴みかけようとしています。ニューラウルの登場なんです」


「ああ、それでこの変な服を着せて…怪しい詐欺で無ければいいんですけど」


「もちろん。責任を持って彼を一流画家、いえ、トリスティアーナ一の画家にして見せましょう。私はそれなりの出資をしていますからね。彼に成功を収めてもらわないと、丸損です」


「むむ…家賃を立て替えてくれたことには感謝しますけど、いえ、やっぱり私がお金を」


「それはダメだよ、マリー。君にはいつもパンを奢ってもらってるんだし」


「気にしないで。売り物にならない失敗作を持ってきてあげてるだけよ」


「ほう、充分に売れそうな美味しそうなパンですがね。私なら一個、一ゴールドで買いましょう」


「む。これは…売り物じゃありませんから」


「そうですか、それは残念。ただ、マリーさん、勘違いはしないで欲しいんですが、今、ラウルの家賃をあなたが立て替えたところで、彼の為にはなりませんよ」


「どういうことですか」


「私はテオドール氏に絵を売ったこともある、成功している画家、と言っても良いでしょう。少なくとも、そこの売れない画家よりは稼ぎが良い」


「むっ! ラウルは、売れなくてもいい絵を描いてるわ」


「ええ、ええ。ですが、売れないと彼も生活が苦しい。自分の彼女にヒモのようにたかるなんて、男のプライドが許さないよな? ラウル」


「あ、いや、彼女というわけでは」


 んもう、へたれ。


「じゃあ、お前は、彼女でも無いタダの知り合いの女の子に、貢がせて趣味の絵を描き、道楽で暮らすつもりなのか?」


「そ、そんな事は有りません! 僕はッ! 画家になりたいんですッ! マリー、悪いが今日は帰ってくれ」


「ええ? むう、じゃあ、また来るわ。パンはここに置いておくから」


「ありがとう」


「じゃ、失礼します」


 ふう、何とか追い返せた。


「すみません、ユーイチ様」


「ま、手強い相手だったが、それは良いとしよう。ラウル、彼女はいい人かもしれないが、美術の専門家でも無ければ、目利きの画商でも無い。俺の言いたいことは、分かるな?」


「はい。僕は、彼女に咎められたとしても、この絵を、売れる絵を描き続けます」


「よし、その意気だ。彼女も君が成功すれば、きっと分かってくれるさ」


 多分。


 その後、マリーの持ってきてくれたパンを三人で分けて食べ(とても美味しかった)、部屋の鍵を掛けて、みっちりと各自の課題に取り組んだ。

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