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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十一章 画家なんだな

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第七話 スカウト

2016/11/26 若干修正。

 トリスティアーナの街をティーナ、エリカ、ミネア、クロ、俺の五人で回っている。トリスタン国王との謁見用に献上品を探すつもりだったのだが。


「分かったわ。コロシアムは向こうの大通りの先みたい」


 小耳に挟んだ武闘大会のイベント。ピコーンと俺の天才頭脳が閃いたので、俺はティーナに場所を聞き出してもらった。


「よし行こう」


「いいけど…開催は来週よ? エントリーはもう受け付けてるそうだけど」


「分かってる」


 後ろのみんなが首を傾げるが、俺が武闘大会にエントリーするつもりなのかと思ってる様子。


 んな訳無いだろ。


 いくら薬草やヒールの魔法が有るとは言え、こちらの世界の手加減は『死なない程度に斬る』だから、当然、凄く痛い。

 武闘大会はおそらく相手を間違って殺しても不問になっているはずだから、冗談じゃ無い、そんな命知らずな大会に出るつもりは毛頭無い。


 だが、ルール次第によっては、ちょっと俺にも用事が出来そうだ。


「あれか」


 巨大な円形の建物が大通りの向こうに見え、その周囲に命知らずの戦士達がたむろしていた。戦士だけで無く、中にはソロの魔術士もいるようだが、正気かよ。

 鎧が身につけられない魔法使い(スペルユーザー)は防御力がゼロに近い。

 闘技場のリングはおそらくそれほど広くは無いだろうし、障害物も無いだろうから、相手の戦士に突撃されたら魔法は一回唱えられれば良い方だろう。

 この世界の戦士は無駄に体力があるから、よほど強力な攻撃呪文で無いと一撃では落とせないし、逆に体力の無い魔法使いはクリーンヒットをもらえば一撃でキルされかねない。

 どう見たって魔法使いは不利だ。


 ま、それでも出たいってんなら俺は止めないけどね。


 さて、俺の用事を済ませるか。


 コロシアムの入り口近くにカウンターが有り、そこでエントリーを受け付けている様子。

 俺が近づくと、その場にいた戦士達が注目した。


「おい、見ろよ。魔法使いだ」


「女か?」


「男かもな。だが、まだ若い」


「坊主、ここはお前みたいなひょろい奴が来るところじゃねえぜ?」


「悪いことは言わねえ、やめときな」


「そうそう、死んじまったら、ママのおっぱいが吸えなくなるぞ?」


「そりゃそうだ、がはは」


 下品な笑いが沸き起こるが、この手のムキムキ連中のユーモアセンスってどうしようもないな。

 ま、相手はお客さん(・・・・)だ、適当に聞き流そう。


「すみません、武闘大会のルール、教えてもらえますか」


 まともに説明してくれるであろう、カウンターの職員に聞く。


「ああ、いいぞ。何について聞きたい? 一通りか?」


 荒くれ者の戦士相手だからか、丁寧なお姉さんではなく、こちらもゴツい職員。


「いえ、回復アイテムや支援アイテムの使用が許可されるかどうかだけで」


「おう、なら、オーケーだ。いくらでも持ち込み可だが、相当上物のポーションじゃないと使ってる暇は―――」


 おっと、余計な事は喋って欲しくない。途中で遮る。


「それでも、無いよりはマシですよね?」


「ん? まあな」


「どうも」


 懐から包帯を取りだし、頭にぐるぐる巻く。


「プッ! 見ろ! アイツ、もう怪我してるぜ!」


「エントリーだけでか! こいつぁ傑作だ!」

 

 む。まあいい、注目を浴びるのはむしろ好都合だ。


 振り返る。さあ、息を吸って、こいつら全員相手に、やってやるぞぉ!


「参加者のみなさん! 薬草や毒消し草の準備はお済みですか? まだなら忘れないうちにどうぞ。私は薬師で行商です! 防御力アップのポーションなんかもありますよ!」


 戦士達が俺の言葉を聞き、笑いを止め、少し考える。薬草は持ってて当たり前だろうが、毒消しを持ってる奴は少ないだろうね。相手が毒の武器を使ってくると予想しているのは、この大会に何度か出場しているベテランだけだろうし。


「ほう。よし、じゃあ、毒消しを買ってやろう。ただし、ふっかけんなよ? そこいらにも道具屋はいくらでもあるんだ」


「ええ、良心価格、いえ、ここトリスティアーナで一番安くお売りしますよ! 毒消し二つで一ゴールド! これより安い店を見つけたら、どうぞ仰って下さい。それより値下げします!」


「む。二つで一ゴールドだな?」


「ええ」


「じゃ、二つくれ」


「はいどうも。毎度!」


「俺にもくれ」


「俺もだ!」


 よし、集まってきた。


「なるほどね。道理でやる気があると思った」


 ティーナが後ろで眺めながら言う。


「ふふ、うちはてっきり、エントリーするんかなって思ってた。パーティー戦の方やけど」


 ミネアが言うが、ふむ、団体戦もあるのかな? それなら、魔術士がいても不思議じゃ無いが。


「どうでもいいけど、二つで一ゴールドなんて売っても、儲からないじゃない」


 エリカが言うが、いいだろ。これも俺の道具屋開店計画の下準備だ。薬草はタダみたいなもんだし。それに、売るのは何も毒消しだけじゃあ無いぜ。


「えー、アロエ草二つで一ゴールド、ヨモギ草二つで一ゴールド。サロン草は一枚一ゴールド! 打ち身に効くロキソ草、一枚二ゴールドです。それから猫の実もありますよ。こちらは一つ10ゴールド。干した猫の実は20ゴールドになります」


「おい、猫の実がちょっと高いぞ」


 チッ、目敏いな。こちらの本命の商品価格をあっさり見破るとは。この行商は安いという第一印象でだまくらかして行けると思ったが、そう甘くは無いか。


「そうですか、じゃあ、半値の5ゴールドで。干した猫の実は10ゴールドに勉強させて頂きます。猫の実は半額です! 半額ですよー」


 それでも相場の倍なのだが、戦士達は値下がり率に目が行ったか、買う者が出た。俺はトリスティアーナの道具屋の猫の実の値段は具体的に知らない(・・・・)ので、まあ申請があれば約束通りさらに値下げするけどね、ぐひひ。


「残りわずか! 残りわずかです! 数に限りが有ります。売り切れの際はご容赦下さい!」


 一人が食いつけば後は楽勝だ。猫の実はまだ残り四十個持ってるけど、早い者勝ちの雰囲気を漂わせて売りまくる。


 半分ほど、俺の在庫が無くなってきたところで、今日の目玉商品。


「はい、今日はですね、これっ! 防御力アップポーションがオススメです。これさえあれば敵の攻撃のダメージが減る! 驚きの商品です。お値段は600ゴールドのところ、なんと300ゴールド!」


『はい、そこ、拍手!』


 パーティーチャットでティーナ達に演出を強要。さすがにサクラまではやらないが。


「「えー?」」


「わー、安いなあ!」


 ミネアが空気を読んで声を上げてくれた。クロもすぐに拍手。実際、原料のハイポーションの相場が200ゴールドなので、あくどい商売でも無い。

 販売員の俺が安いと言うより、第三者が安いと褒める方が情報に信用が出る。ウインザー効果である。ステマとも言うね。


「さらにさらに、今お買い上げの方には薬草を一つ無料でおまけします! お得ですよ!」


「薬草はいらんが、よし、じゃあ、一つ買ってやろう」


「毎度有り!」


 薬草とセットで300ゴールドなんて言うと、抱き合わせ販売となり現代日本では法律に引っかかりそうだが、おまけだからね。ヒヒヒ。嫌なら買わなくていいし、おまけを断って個別に買うオプションも存在するからセーフのはずだ、多分。値段変わらないけど。




「はい、そちらのお客様で、完売致しました! ありがとうございましたっ! 売り切れです~」


 ちょうどエントリー中の戦士達がたくさんいたこともあって、十分と経たずに売りさばけた。


 ジャラジャラと大量の黄銅貨と小銅貨と大銅貨が手に入った。俺の計算では2300ゴールドくらいかな。財布袋に入りきらないので別の袋に入れて、このズッシリ感。ふひっ。


「売れて良かったわね、ユーイチ。小銭ばっかりだけど…」


 普段、金貨や銀貨しか使わない感じのティーナにとっては小銭は鬱陶しいだけの様子だが、これを夜中に積み上げて一枚二枚と数えるのが楽しいのにね!


「じゃ、ここはもういいわね?」


「ああ、用は済んだ。長居は無用だ」


 野良の戦士、冒険者などという柄の悪い連中が集まっている場所だ。絡まれる前に引き上げるとしよう。

 当店では返品は受け付けません!



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「む。ごめん、ちょっと用事思い出した。みんな、先、行っててや」


 ミネアがそう言うので、近くの店をのんびり見て回ることにする。


「あ、この花、綺麗ねえ」


 トリスティアーナには花屋さんもあるようで、店の種類も多いなぁ。


「むっ!」


 常時表示しているステータスに変化。今、ミネアのHPが少し減った。


「ティーナ」


「ええ、行きましょう!」


 全員でミネアを探す。こう人通りが多くては、少し離れただけで分からなくなりそうだが、そこは探知の呪文。


「向こうの裏通りだ!」


「ええ!」


 しかし、ごろつきかスリにでも絡まれたか? ミネアは美人さんだものね。彼女のレベルから考えて、敵を返り討ちには出来るとは思うが…。

 それでも焦りつつ、裏通りに入る。

 ちょうど、ガタイの良い黒いローブの大男がミネアを放り投げたのが見えた。


「きゃあっ! ぐうっ!」


「ミネア!」


 ティーナがレイピアを抜き放ち、その男に突きを放つ。男は軽々と躱しやがった。くそ。強い…!

 ひとまず、そちらはティーナに任せ、俺はミネアに駆け寄る。彼女はすでに自力で起き上がっていた。


「大丈夫や」


「一応、薬草」


「ん、ありがとな、ユーイチ」


「しかし、アイツは?」


「ううん」


 ミネアも分からないのか、言い淀む。アサシン、だろうか?

 最初にミネアに出会ったとき彼女はアサシンの集団に襲われてたが…


「お待ちを。自分、あなた方の敵ではありませんので」


 などとボソッと言う大男。先ほどからティーナの突きを最小限の動きで完璧に躱しきっているが。 


「なら、何かしら。私の仲間を傷つける相手は、全部敵よ!」


 ハッキリと言ったティーナが鋭い突きを放つ。


「エリカ、電撃はよせ!」


 右手を男にかざすエリカに俺は注意する。男が素早くて当たらない上に、通行人も多い。さっきもそれで失敗したばかりだ。


「分かってるわよ」


 電撃攻撃から設置型のファイアウォールに変えるエリカも、配慮した様子。


 さて…。ここは。


「ティーナ、ちょっと攻撃中止」


 俺は言う。


「ええ? でも」


「ミネアも大した怪我じゃないし、そいつ、全然、攻撃してこないだろ」


 力量は俺達より上のはずだが、一度も攻撃してきていない。敵では無いと言ったが、その通りと思われ。


「うちに用があるなら、はっきりそう言い。この子らには関係あらへん」


 ミネアが前に出て言う。


「いえ、自分が用があるのは、そちらのティーナ様ですので」


「んん? 私?」


「ええ」


 レイピアを止め、男をしげしげと眺めて、やはり首をひねるティーナ。この男に見覚えは無さそうだ。


「自分、こう言う者です。どうぞ」


 懐から、カードを取りだし、ティーナに渡す男。

 受け取ったティーナが、それを読んで、さらに眉をひそめる。


「ラトゥール歌劇団プロデューサー???」


「はい。プロデューサーとは、裏方という意味合いです。自分は歌劇団のメンバーとして活躍して下さる方を探しております」


「ああ…」


 あー、ティーナが美人で華があるから、街角スカウトってことね。はいはい。


「なんや…はは、ギルドの連中かと思った…」


 一気に力が抜けるミネア。

 俺もアサシンかと思ったが、体格も良いし。何しろこの人、さっきから一度も笑ってないし……。厳つい顔ってほどじゃあないし、悪人顔でも無いが、愛想がゼロ。

 こんなんでスカウトマンが務まるのかね。


「せっかくだけど、お断りします」


「いえ、そのカードは返して頂く必要はありません。そのままお持ちになって下さい」


「要らないんだけど」


「いえ、お持ちになって下さい。それをラトゥール座の係員に見せて頂ければ、満員でない限り、チケット代は無料となりますので」


「む」


 おい、今、心が動いたな? ティーナ。


「そちらのミネア様も、先ほどは失礼致しました。お怪我はありませんね?」


「ああ、まあ、うちから仕掛けたようなもんやし、人違いやったわ。こっちもごめんなさい」


「いいえ。自分、不器用ですから、不審者に間違われやすいもので」


 ミネアや他の者にはカードはくれない様子だ。まあ俺は欲しくないけどね、別に。


「あー。まあ、そんな感じね」


 ティーナが納得するが、まあ、事情を知らなければ100%不審者だろうな、この人。もう少し、笑えと。


「お詫びと言ってはなんですが、お茶をご馳走させて頂くという訳には?」


「ううん、どうしようか?」


 ティーナが俺達に聞く。


「うん、ティーナの好きにしてええと思うよ。でも、自分、歌劇団に入るつもりなん?」


「まさか。私は見る方は興味あるけど…」


「主役をされても、今まで見えなかった新しい世界が楽しめると思いますよ」


「むむ」


 心をちょっと動かされてるし。しかも主役って。まあ、ティーナなら、有りかもな。それだけの美貌と華を備えた逸材だろう。台詞覚えや演技も上手いだろうし、歌も上手い。


「では、近くの喫茶店で」


「いえ、私はそういうのは興味ないので、お断りさせて頂きます」


「そうですか、では、日を改めて。今日のところは失礼させて頂きます」


「ええ? いや、日を改められても、受けませんから。あ、ちょっと」


 行ってしまった。


「ふふ、ほっといたらええと思うよ。どうせ、ここにはそんな長くおらんし」


「そうね」


 その日は国王への献上品を見つけられず、街の観光という感じで終わった。



「ほほう、歌劇の主役か。私も英雄譚の主役なら、ちょっとやってみたいな。敵をばったばったと薙ぎ倒すヤツ」


 夕食の時、ティーナが歌劇団にスカウトされた話を聞いて、レーネが腕だけ格好を付け興味を見せる。


「ええ? まあ、レーネなら似合うかもね。ラトゥール歌劇団だから、行って話してみたら?」

 

 それを聞いてリサが止めに入る。


「やめておきなさいよ。ああいうのは歌もやらないといけないし、即興じゃなくて、ちゃんとした演劇でしょう? レーネ、あなた、台詞覚えて練習とか、そこまでやるつもりがあるの?」


「無い」


 あっさりと。


「じゃ、ダメね」


「そうだな」


 他に歌劇団の主役が似合いそうな奴と言えば…クロは気が小さいし、クレアはお芝居をやる感じじゃないしなあ。

 リムは台詞を覚えられないだろうし、スゲぇ色々不安になるわ。無し無し。エリカもトラブる予感。ミオは真面目にやっても観客受けはしないだろうな。

 

「じゃ、お土産はともかく、明日は謁見の願い出に行くのね?」


 俺が歌劇団の主役なんぞに色々気をめぐらせていると、リサが明日のスケジュールをティーナにきちっと確認していた。


「ええ、そのつもり。上手く行くと良いんだけど」


 あまり自信が無さそうなティーナ。他国から侯爵令嬢がやってきて面会を求めたら、どうかな。無下にはしない気がするんだけども。侯爵本人でないところが不安要素だね。

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