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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十一章 画家なんだな

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第五話 ラウル

2016/11/26 若干修正。

「本当に、申し訳ありませんでした! 僕の不注意です」


 青年の部屋は、たくさんのキャンバスが置いて有り、どうやら彼は画家らしい。

 目に入ったいくつかの絵を見たが、そこそこ上手いかなと言う程度。ただ、いかにもな油絵の静物画ばかりで、可愛い女の子が一人も描かれていないとは、どういうことかね?

 これは色々、問い詰める必要がありそうだ。


「謝って済むんなら、牢屋はいらんけどな」


「っ! は、はい…」


 普段は優しいミネアが、割と手厳しい。

 青年は平民、こっちは貴族とそれに仕える騎士、怪我をさせていたら本当にタダでは済まないところだったと思うが。

 ま、本気で兵士に突き出して牢屋に入れようってつもりは、まるで無いんだろうけどね。


「でも、なんであんなところから鉢植えを落としてきたの?」


 ティーナが問う。


「いえ、先ほども言いましたが、わざとでは無いんです! 水をやって、少しでも日当たりが良くなるようにと外に出そうとして……済みません」


 青年は嘘をついているようには見えない。ただ、落ち着き無く、きょろきょろしているのが気になるが。気が小さいだけかな。

 なぜかティーナには決して目を合わせようとしないが……。


「ほんなら、落ちるようなところへ置いたらあかんな」


「はい、二度とやりません。どうか、お許しを」


「ま、それは許そう。だが、なんで人物画を描かないんだ?」


 気になるので聞く。


「ああ…僕は、人の目を見るのが苦手で、人物は苦手なんです」


「そんな感じね」


 ティーナも青年の特徴はもう見抜いているようだ。


「出会ったばかりのユーイチにどこか似てるもの」


「えっ? そう。まあ、そうかもな」


 俺も人の目を見て話すの、苦手だし。慣れた人間なら大丈夫だけどね。


「ラウル、いるんだろ! 今日こそは家賃を払ってもらうよ!」


 ドンドンと乱暴にドアを叩く音と、おばさんの声。ここの大家だろう。

 となると、どうやら売れている画家では無さそうだ。


「い、今、開けます」


「おや? お客さんかい? 珍しいね」


「ええ…」


「それより、家賃だよ」


「ああ、あの、大家さん、済みません、その、お金の方は……もう少し、待って頂けませんか」


「ええ? ラウル、そうやってもう秋からずっとじゃないか。今日はもうダメだよ。そこの絵の具やキャンバスとやらを売っておいで」


「そんな!」


「当たり前だよ。それが嫌なら、さっさと仕事を見つけて働いて稼いでおいで。売れもしない絵を描いて何になるんだい」


「くっ!」


「まあまあ、ちなみに、滞納中の家賃はおいくらで?」


 俺が口を挟む。


「二千と六百ゴールドだよ」


「じゃ、これで足りますね」


 銀貨と大銅貨を渡してやる。


「おお、ああ、確かに。じゃ、ラウル、来月分はちゃんと月末に払っておくれ」


 大家が去って行く。


「あの…」


「うん、ラウル、家賃は立て替えてやったが、条件が一つ有る」


「な、なんでしょう…?」


 いきなりアニメ絵を描け! と言っても乗ってこないだろうし、ここはニンジンをぶら下げてからにするか。


「実を言うと、僕は画商のテオドールという人にコネがあってね」


「えっ! あのテオドール商会の?」


 有名なようだ。


「知っているのか?」


「ええ、そりゃ、一番の大物ですからね。この辺りの一流画家はたいてい、取引がありますよ。まあ、僕は全然ですが」


 ラウルが肩をすくめて自嘲気味に笑う。ダメだな。芸術家ってのはもっとこう自信にあふれてたり、不思議ちゃん全開で、お、コイツはなにか凄い絵を描くんじゃね? と思わせないと。

 金髪のナイーブそうな青年だが、顔がそこそこ良くても、インパクトがまるで無い。服もボロい布服じゃあね。

 まずは形から、そうだな、ファッションやメイクからプロデュースしてやるぜ!


「よし、じゃあ、ティーナ、ここはもういいから、ぐえっ!?」


 首を片手で掴まれた。


「それで、何を彼に描かせるつもりなの、ユーイチ」


 くそっ、順番をミスった!

 まず、ティーナ達を追い出してから、交渉すべきだったのに。


 だが、ここで引くわけには行かない。


「もちろん、売れる絵だ」


 真顔でキリッと。


「むぅ…裸、よね?」


「最低」


 エリカも決めつけてるし。


「いいや。貴族の家に良く飾ってある肖像とか、ああ言うのだよ」


 最初は、ね!


「そ。まあ、そうかもね」


 手が離された。ふう。チョロいぜ。


「じゃ、ラウル、家賃を立て替えてやったんだ。俺が望む通りに絵を描いてもらうぞ」


「えっ! あ、は、はい。絵を描くことなら喜んで!」


「それじゃ、まずは服から変えていこう」


「えっ? 服…ですか?」


 聞き間違いかと思って首を傾げるラウル。


「そうだ、服だ。ティーナ、彼を思いきりエキセントリックで、ファンキーで、アバンギャルドな、そんなアーティストになるようコーディネートを頼む」


 自分で言っててどれも意味はよく分かんないけど、まあ、フツーじゃ無けりゃ良い。

 派手なファッションなら、うちのパーティーメンバーの中ではティーナが一番だからな。赤いミニスカートに白マントの剣士とか、こっちの世界にもなかなかいない。


「ええ? ううん、それでテオドールさんが絵を買ってくれると言うの?」


「まあな。とにかく、芸術はセンスが命だ! こんな普通のみすぼらしい格好で、絵が描けるか! 愚か者めっ!」


「すっ、すみません……!」


「ううん……ユーイチって時々、急に態度が大きくなって、その道の権威みたいな口を利き始めるけど…」


 ティーナが半開きの目で呆れ顔。


「ホントね」


 エリカも、まーたいつもの病気が始まったと言う感じの冷淡な目。


「そやけど、割と詳しかったりもするしな。まあ、実際、テオドールさんに絵を売ったこともあるんやし、ユーイチが出した金やし、任せてみたらええんちゃう?」


 ミネアが優しい。


「そうね」


 決まった。俺の壮大なる人類最終補完(エロアニメ)計画がついに動き出す時が来たか……!


「フフ、フハハハ、フハハハハハ、ハーッハッハッ、ハーッハッハッ、ゲホッ、ゴホッ」


 いかん、苦しい、ちょっと調子に乗って笑いすぎた。


「ううん、やっぱり凄く心配なんだけど」


「そうやね…」


「アホらし」


「お、お手伝いします」


 さすがクロ。でも、この計画は極秘プロジェクトだから、男だけで進めたいんだよなあ。クロはティーナとも親しいから、情報筒抜けになっちゃうだろうし。


「ええ? まあ、ユーイチがおかしな事をしないように、ちゃんと私に報告してね、クロ」


「はい」


 くそっ。これで断れなくなってしまった。


「う、うん、じゃあ、クロも頼むよ」


「どーして、そこで動揺してるかな?」


 すでにいつでも抜き放てるようレイピアの柄に手を置いているティーナ。ひい。


「い、いや、クロも遊びたい盛りだろうに、いつも俺のアシスタントみたいなことをやらせてるから、少し心苦しくてね」


 よし、上手い言い訳が出来た。


「ううん…、筋は通ってる気はするけど、絶対嘘ね」


 ぐう、見抜かれております。こうなったら!


「ティーナ! 君はッ! クロを奴隷のように扱うつもりなのかッ! そうだと言うなら、俺はたとえ君であっても許さないぞぉおっ!」


 宰相みたいに、唇をプルプル震わせて、全身全霊で怒りの演技。


「誰もそんな事は言ってないでしょ。下手なごまかしをしてるようだし、ええ、じゃ、ラウル、あなたが描いた絵は、売る前に必ず私に見せるように。これはロフォール子爵としての命令です。いいわね? ユーイチ」


 気の弱そうなラウルのことだ、これで一番地位の高いティーナに逆らわなくなるだろう。こっそり嘘ついてごまかしときゃいいんだと俺が言い聞かせてもダメだろう。ティーナも普段お人好しなくせに、こういうところだけ無駄に有能だから困る。


「くっ、権力をそんなところに使うとは…なんて酷い…理不尽な…」


「何とでも言ってなさい。じゃ…そうね、その服、さすがに私もちょっとどうかと思うから、服屋に行きましょう」


 コーディネートするのは好きなティーナが、ラウルを連れ出す。もうこの計画は半ば破綻してしまっているので、ふうー、ま、適当に絵を描かせるか。家賃、俺の金で払っちゃってるし。





「うーん、あ! あの店にしましょう」


 街を歩いてティーナが目を付けたのは、店頭にマネキンが置いてある高級店。俺はそう言う店は、過去に一悶着あったので、あまり行きたく無いのだが、まあ、今は騎士だしな? 買えないなんてことは無いだろう。


「えっ! あ、あの、僕は手持ちがありませんが」


 ラウルがビクビクしながら言う。ホント、コイツ、気が弱そうだな。俺より臆病だ。


「いいのよ。私が出してあげるから」


「はあ、良いのでしょうか…」


「いいのいいの。あ、みんなのも選びましょ」


「だが、断る」


 ここではっきり言わないと赤ローブの刑になるしな。あれで街中を歩くとか超ハズいんですけど。


「ちょっと…いい加減、たまには色を変えなさいよ。いっつも黒ばっかりじゃない」


「そう言う君は、いつも白いマントじゃないか」


 中の服は時々、白色にしたりピンクにしたりするときもあるので、マントで攻める。


「いいわ。じゃ、マントも赤にするから」


「むう。いや、個人の自由にしよう」


「ダメ。ここはパーティーで…うーん」


「ティーナ、それはどうかと思うで? まあ、リーダーさんはティーナやから、どうしても言うんなら、反対はせえへんけど」


「そうね。私もファッションまで強制しようとは思ってないし。どこかの仮面美少女さんは、部下に全員黒タイツを着せるみたいだけど」


 ティーナが俺の方をじろっと見る。


「いや、アレは敵の話なんだが、正直、すまん……」


 あれからイシーダと会ってないんだよなあ。よもや外国まで話が広がっていくとは思ってなかったし、この世界の吟遊詩人の行動範囲を侮ってたわ。


 ティーナのご機嫌も取っておきたくなったので、気は進まないが、謁見用のローブを一着、この店で新調することにする。


「うん! 似合うじゃない」


 ティーナは着替え終わった俺を見るなり笑顔で言うが。


「いや、コレ、すっげー落ち着かねえよ。よくお前、赤なんて着こなしてるよなあ…」


 その勇気に敬服するわ。


「ええ? 私に言わせれば、よく黒ずくめでいられるわねって感じだけど」


 だって黒は心が落ち着くじゃん。それに、何者にも染まらない色というのがこれまたカッコイイわけですよ。


「ふふっ、ちょっと派手やけど、似合ってるで、ユーイチ」


「ププッ」


 おのれエリカ、お前も同じ赤ローブになってるのに笑うとは。


「むう」


「いかかですか、この赤ローブには、このハットもよろしいかと思いますわ」


 小指を立てた()の店員が俺の頭に勝手に赤い羽付き帽子を乗せてくるし。


「いっ、やっ、だっ!」


 乱暴に掴み取る。


「あら、残念。もっとお客様は新しい挑戦をすべきです。もっと新しい自分に目覚めましょう。素質があるんですから」


 ホント止めて。そんな素質、欲しくねーよ。俺はノーマルでいたいんだ。だいたい何に目覚めるんだ! こえーよ。


「ユーイチ、じゃ、これなんてどう?」


 ティーナが店員の突飛さは完璧にスルーして、別の赤い帽子を持ってくるが、だから俺は赤はいらねーっての。


「いい。それより、ラウルやクロはどうなってるんだ?」


「今、お着替えが終わると思いますわ。ああ、来た来た。あらまあ、ステキ! とっても可愛いわ!」


 クロがフリルの付いた白いワンピースを着て、恥ずかしそうにしながら出てきた。


「ああ、いい! 似合うわね!」


「ええなあ。うん、似合ってるで、クロ」


「ありがとうございます。こういう服は久しぶりなので、少し照れますね…」


 クリスタニアの王宮では毎日ドレスだったそうだが、今は俺を真似てか、ローブばかりだもんなあ。


「ほら」


 ティーナが俺を肘で軽く小突いてくる。


「おっと。ああクロ、とっても似合ってるし、それ一着、買っておいたらどうだ?」


「はい、ユーイチさんがそう仰るなら、そうします」


 うーん、クロのしたいようにして欲しいんだけどな。


「他にも、クロの欲しい服、買っていいからね?」


 ティーナも言う。


「いえ、あまりたくさん持っていても、運ぶのに苦労しますし、戦闘には向かないと思いますから」


 戦闘か。それもそうだな。そこまで考えるとは、クロももう一人前の冒険者だろう。


「うーん、まあ、ロフォールの屋敷か、ラインシュバルトの城に送っておけば良いわ。ほら、ミネアも選ばないと」


 ティーナが解決策を言い、ミネアにも勧める。


「あはは、うちはええよ、そう言う服は」


「ダメ。こっちの国王に謁見するんだし、それなりにしてもらわないと」


「ええ? ううん…」


「じゃあ、こちらはいかがですか。最近、街娘の間で流行っている服です」


 店員が先ほどまで出して来たのより、少し地味な感じの服を出して来た。


「そやね。じゃあ、着てみようかな」


「ええ、どうぞどうぞ。はーい、こちら、試着室にご案内して!」


 ミネアが別の店員に案内された後、ようやくラウルが試着室から出てきた。


 うっわ。またこれは派手というか、この世界のファッションとは違う次元だな。

 薄黄色と緑のストライプに、肩を半分だけ出して左右非対称(アシンメトリー)になっているが。


「あらまあ、やだ! そんなに似合うなんて、ああ! 信じられない!」


 この店員、やり手だわー。本心かは分からないが、飛び上がらんばかりに褒めまくってくる。

 うーん、俺に服屋の店員は無理だな。


「へえ、こんな服もあるんだ……ちょっと派手だけど」


 さすがのティーナも自分で着る勇気は出ない感じのレベルらしい。


「変な服」


 エリカは正直だ。クロは驚いた顔をしてるが無言。


「あ、あの、コレを着ないとダメなんですか?」


 俺以上にどぎまぎしつつ、ラウルが自分の服を掴んで不安げな顔。


「ティーナ、有り? 無し?」


 俺にはファッションセンスなんてかけらも無いので、ティーナに聞く。


「有りね」


「よし、じゃ、ラウル。それも絵のためだ。今までのダメな自分を捨て去れ。これからはニューラウルだ」


「は、はあ」


 厳しいかもしれんが、頑張れ。どのみち、画家なら外はそんなに出歩かないだろ。

 芸術、いやアニメに目覚めてくれ。

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