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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十一章 画家なんだな

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第四話 芸術の都、トリスティアーナ

2016/10/4 若干修正。

 画商のテオドールに俺のスケッチが高値で売れてしまったので、つい、調子に乗ってエロい事を考えついてしまった俺は、ティーナにみっちりお説教を食らった。

 ティーナは自分の裸の絵を売るつもりだろうと予想したようで、うん、別にティーナ限定じゃないんだけど、凄いね、エスパーだよね。

 ともかく、表面上は反省したフリをした。ヒヒ。


「みんな、見えたで。あれがトリスティアーナの城下街や」


 ミネアが指差した先、そこには石やレンガを用いた高度な建築物が放射線状に広がり、かなり高い塔が四つ、それぞれ東西南北にそびえ立っていた。

 これは初めて見る者を圧倒するだろう。

 かなり計画的に整備された街だ。


「わぁ…!」


 ティーナも感動したような声を漏らす。


「ふむ、話には聞いていたが、やはり大きいな」


 レーネが淡々と言うが、俺はこれだけの大きさの都市を見たのは初めてだ。こちらの世界で、だけど。


「フン、デカけりゃいいってもんじゃないわ」


 エリカがほとんど負け惜しみを言ってるが。


「じゃ、あんまりお上りさんみたいに口を開けてないで、行くわよ」


 リサが引き締め、皆、頷いてトリスティアーナの門を目指す。

 俺達は観光に来たわけでは無い。

 ここ、トリスタンの王都で、トリスタンの国王に謁見を求め、外交を行わねばならない。


 会ってくれるのかね…。

 急に心配になってきた。門前払いされるのが一番キツイだろうな。


 もちろん、俺達はミッドランド国王から親書を預かり、さらに俺達に先行して、使節が向かう旨はトリスタンにも伝えてある。


 だが、許可されたかどうかまでは聞いていない。


「じゃ、まずは宿を探しましょう」


 リサが言い、トリスティアーナに足を踏み入れた俺達は、街並みに呆気にとられつつ歩いた。


 まず、ファッションが違う。

 色とりどりの、若草やピンクなどの明るめの布を組み合わせた服で、貴族だけでなく平民もそれを着込んでいる。

 女性は髪飾りやネックレス、イヤリングのどれかを身につけており、男性も形の違う帽子や靴に羽根を付けたりしておしゃれだ。


 着飾るためには、最低限の衣食住が保障されていないと、金がそこまで回らないだろう。

 (ゆえ)にここトリスタンはミッドランドよりも大国であり、先進国に違いない。


 他にも、複雑な造形の噴水も有り、躍動感に満ちた騎士の像も設置されていたりする。

 馬車には凝った装飾の魔道具の明かりが付いたり、色が塗ってあったりと、高級感が有る。


「あの店は何のお店かしら?」


 ティーナが言うのでそちらを見ると、一際大きな建物の前には先ほどからひっきりなしに馬車が停まり、貴族が店の中に入っていく。


「ちょっと、聞いてくるわね」


「あ、おい」


 宿が先だろうと思ったが、まあ、ティーナも子供では無いのだし、問題は無いだろう。


「ユーイチ、あっちから魚の臭いがするニャ」


 コイツは勝手には行かせられないな。


「宿にチェックインしてからな、リム」


「ムゥ、早くして欲しいニャ」


「見つかったわ。こっちよ」


 リサが宿を選んで戻って来た。


「ティーナは?」


「あそこの店が何か、聞きに行ってる」


「ああ」


 戻って来るティーナが見えた。ちょっと楽しそうだ。


「ねえ! あそこは劇場で、今は貴族の娘と奴隷の青年が恋に落ちる物語をやってるんだって。後で見に行ってみない?」


 劇場か。娯楽施設はいずれセルンの村にも作る予定だったが、闘技場よりはこっちの方が近代的だな。

 あ、魔法で映画とか出来ないかな。

 どうせならアニメで。お、こっちの世界の画家を洗脳…オホン、宗旨替えさせて染めてやれば!

 なんと、18禁エロアニメも堂々と見れるのでは?


 おおおお…。


「ユーイチ、行くわよ。早くしなさい」


 リサが呼ぶ。


「ああ」


 この計画は極秘裏に進めなければなるまい。特に特定の芸術を理解してくれそうに無い異端審問官、ティーナやリサに見つかってはダメだ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「ラストが納得行かなかったけど、でも、凄く面白かったわね!」


 まだ興奮気味のティーナは、オペラを心ゆくまで堪能したようだ。俺としては、唐突に出演者が歌い出すのってどうも違和感でしかなかったのだが、ま、それも好き好きだろう。歌声はとても素晴らしかったし、オーケストラの伴奏まで付いて、この世界の芸術のレベルは、現代の地球と比べても全く遜色が無い。

 これはちょっと、認識を改める必要があるだろう。


「まあ、人族にしては、なかなか良かったんじゃない?」


 最後、悲劇の青年にどっぷり感情移入して涙していたエリカが、ツンデレで褒める。


「青年が可哀想でしたけど、ええ、とても感動しましたね、ふふ」


 いつも微笑んで感情をあまり表に出さないクレアはそう言うが。本心が読めねえ。


「うん、最後がちょっとなあ。でも、良いお芝居やった。ユーイチ、強く生きなあかんよ?」


 かなりハマってしまったミネアは、俺を演劇の中の青年と同一視してるし。


「………」


 それ以上にのめり込んだクロは、気分まで沈んじゃってるし。


「クロ、あれはお芝居だからな。現実に起きた話じゃ無いんだから、切り替えろ」


「あ、はい」


 ま、俺としても劇のラストは、青年がアサシンの包囲網を突破して大逆転! という展開のハッピーエンドが良いと思うのだが。

 

「ん?」


 誰かに見られているような気がして後ろを振り返ったが、こちらを見ている人はいなかった。


「どうかした?」


「いや、何でも」


「そ。じゃ、後は自由行動にしましょ」


 明日、城にお目通りを願いに行く予定だ。


「では、私は神殿の方へ行って来ますね」


 クレアは新しい街に到着する度に、ほとんど神殿に顔を出している。なるほど、これも巡礼か。


「ああ」


「ユーイチはどこか行きたいところはあるん?」


 ミネアが聞いてくるが、特にこれと言って―――


「あ、ティーナ、国王への土産だが、変更した方が良いんじゃないか?」


 そこに気が付いて言ってみる。土産とは、ミッドランドの王様へのお土産では無く、ここ、トリスタンの国王への挨拶代わりの献上品のことだ。


「ああ、そうね…葡萄酒も多分、こっちの品の方が美味しそうな気がして来たし」


 悪い品を持って行くより、良い品を持って行く方が、印象は良いに決まっている。


「じゃ、酒屋に寄ってみる?」


 ミネアが言うが。


「いや、トリスタン産のを買ってもな。どうだろう、ここは俺とクロで料理を一つ」


「あ、いいわね」


「あかんよ」


 ミネアが首を横に振った。


「む?」


「王様は毒殺を恐れるから、食べ物は多分、ええ顔をされんと思うし、受け取ってもらえんと思うよ? 酒は別としてな」


 むう、それがあるのか。見落としていた。酒はこの世界でも贈答用として一般的らしいから例外としても、確かに見ず知らずの人間が作る料理など、警備担当者からしたらもっての外だろう。


「ああ、確かに、ミネアの言う通りね。じゃあ、他に……」


 俺達がミッドランドから持ってきている物の中で、こちらの国王に喜ばれそうな珍しい代物。


 ……俺のローブかな。防刃仕様で、アナライザーさんからも高い評価を得ているし。

 ただ、これを脱いじゃうと、帰りが不安よね。


「おい、邪魔だ」


 後ろから通行人が文句を言ってきた。


「ああ、ごめんなさい」


 人の往来が激しいため、ここで立ち止まって相談というのはマズかった。


「歩きながら、相談しよか」


 ミネアが言う。


「そうね」


「それに、何か思いつくかもしれんし、店を見て回ろうか」


「ああ」


 ミネアの提案に頷き、店をいくつか、順に見て回る。


「んん?」


 また、背後に視線を感じた。


「どないしたん?」


「いや、ちょっと、誰かに見られてるような気がして」


「ふうん? ま、気のせいや思うよ?」


「そうかなあ」


 ティーナも周囲を注意深く見回すが、肩をすくめた。それらしき人間はいなかった様子。


「じゃ、次はそこの靴屋さんやな」


「ああ」


「ふふ、ユーイチも羽付きのブーツ、買ってみる?」


 ティーナが笑って言うが、俺がそう言う派手なのを好まないのを知っていて言っている。


「俺はそう言うのは良いよ」


「危ない!」


「うわっ!」


 ミネアが急に俺を突き飛ばしたので、びっくりした。

  

 次の瞬間、さっきまで俺がいた場所に、鉢植えが落ちてきた。

 おお。


「すっ、すみません! 大丈夫ですか!?」


 上から声がして、見ると四階の窓からやせ気味の青年が顔を出し血相を変えている。


 ……今の、狙ったのか?


「危ないじゃない! 下手したら死ぬわよ?」


 ティーナがムッとした顔で抗議し睨む。


「ほっ、本当に済みません!」


「自分、そこ、動かんといてな」


 ミネアは上の青年にそう言い、鉢植えを調べる。


「特に仕掛けは無いな。じゃ、エリカ、これ、片付けといて」


「なんで私が」


「私がやります」


 クロは良い子だ。


「うん、じゃ、クロちゃん、お願いな。じゃ、上、行こか」


 皆で顔を見合わせて頷き、俺に鉢植えを落とした男に事情を聞きに行くことにする。


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