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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十一章 画家なんだな

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第一話 左遷と任務

ここから外交編です。セルン村の経営はまた後の章で引き続きやります。


2016/10/4 若干修正。

 あれから二ヶ月が過ぎた。

 浮民はまだぽつぽつとやってくるが、ゴーレムと兵士を置いて威嚇すればそれ以上近づいてこない。

 もちろん、受け入れもしていない。

 食料増産に目処が付いてトラブルを起こさないなら、労働力としては入れたいかなと言う気はするのだが…セルン村は基本的に人手不足なのだ。冬はそうでも無いが農繁期は忙しい。


 だが、村人の浮民に対する目は厳しく、受け入れは止めてくれと俺に直訴してくる村人もちらほら。たいてい、習慣の違いや、互いのコミュニケーション不足から来るいざこざが原因だ。

 それだけでなく、自分たちがあくせく働いて作った麦パンを他人にタダでくれてやるのは不快に思って当然だ。

 セルン村にも、元浮民と、元からの村人との間で、派閥みたいなのが出来てしまい、はっきり言って双方の仲が悪い。

 こればっかりはコミュ力の高いティーナ達でも手を焼くくらいなのだから、俺に良い案が出るはずも無い。

 一応、ルールを明確にして、双方の言い分を聞いた上で罰したり説得したり仲介役を買って出ているが、面倒臭え…。


 その間、俺はトラブル処理以外でティーナの屋敷からは出ず、魔法の研究や、様々な芸術的創作活動に取り組んでおりました。

 決して、決して、裸の女の子をフルカラーで印刷したいという己の欲望にやたら忠実に行動していた訳では無いのだ。


 だが、魔法でフルカラーをやろうとすると、上手く行かない。

 

 仕方ないのでラインシュバルトから絵の具を取り寄せ、自分で描くことにした。

 熟練度システムがあるから余裕!

 と思ったのだが、二ヶ月描いても俺の要求レベルには達していない。最初のビール瓶みたいな小学生絵から比べると、凄くまともにはなってるんだけど……。

 アレだね、日本のイラストレーターやアニメーターの人達は天才なんだろうね。


 しかもおぼろげな記憶以外にお手本が無いので、仕方なくクロやティーナなど、うちのパーティーの女子をモデルにして描いて練習するのだが、上手く描こうとすると写実っぽい絵になってしまう。


「これ、凄いわね…」


「ん、間違いなく一流レベル」


「ユーイチさんの絵は上手いです」


 などと、みんなは感心してくれるのだが、俺が見たいのは二次元のロリ絵、しかもちょっとエッチなヤツなので。


「くそっ! これも違う!」


 キャンバスの紙をくしゃくしゃに丸めて投げる。

 紙は大量に必要だったので試行錯誤の末、木を粗めと細かめの二種類の石臼で徹底的にすり潰し、石灰と濃緑石の粉末を混ぜてぐつぐつ煮込んで、それをいったん布で濾して水分だけ飛ばし、最後に大理石を用いたプレス機で潰して固めるという方法で、量産に成功した。

 紙ギルドに睨まれても困るので極秘とし、俺のお絵かき用とパーティー仲間のメモ用紙にしか使っていない。

 質はざらついた画用紙と言った感じ。白さが足りないと思ったので、塩素で漂白しようとしたのだが、毒物のため俺が死にかけたので怖くてそれ以上はやってない。

 さすがに現代技術には敵わない。


「ユーイチさん…」


「こうなったら……クロ、服を脱いでくれ」


「え? え、えっと」


「芸術のためだ。君なら理解してくれるよな!?」


「わ、わかり―――」


「待ちなさい、この外道!」


 スコッ!


「ふおっ、ティーナ! へ、部屋に入るときはノックくらいしてくれよ!」


 色々困るだろ。特に今とか。


「うるさい。あなたを信頼してる子に、そんな要求をするなんて、刺すわよ?」


「いや、もう刺してるし、痛いから抜いて!」


「ティーナさん、ユーイチさんも反省してますから」


「むぅ、そうやってクロが甘やかすから、図に乗ってくるのよ、コイツは」


「はい…でも…」


「……ふう。次は無いわよ? ユーイチ」


「は、はいっ!」


「じゃ、王都から召集が掛かったわ。すぐ出立するわよ」


 助かった……。

 後でクロがいないところでお説教が来るのは確実だが、最悪の事態は乗り切った。


 うん、どうかしていたね、俺も。

 部屋の鍵を閉めておくんだった! チッ!


 反省したところで準備を整え、慌ただしく出発する。

 ただティーナは、王宮が浮民問題について、特にスレイダーン側のボルン子爵領をどうにかしてくれると言う期待で急ぐようだが、そんな良い手が有るとは思えないんだよね。

 ま、いっか。

 面倒臭いことは他人に任せてしまおう。

 俺はド素人なんだし。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 馬車で二週間近くかけてようやく王都へ。

 しかし、ここ、いつ来ても人が多いな。


 宿では無く、ラインシュバルトの別邸で一泊し、翌朝、王城へ入る。


 んで、謁見の間。

 緊張はするが、もう三度目だからね。

 やり方も分かっている。


「苦しゅう無い。面を上げよ」


 国王陛下の言葉に、跪いたままだが、顔を上げる。


「ロフォールよ、そなたの報告によれば、浮民の対策に手を焼いているとか」


「は、次から次へと流れ込み、村人との軋轢もあって芳しくありません。一部は盗賊や暴徒と化して死人も出ております。何卒、早急に手を打って頂きたく」


「ふむ。そなたにはもう少し期待しておったのだがな。どう見る、オーバルト」


 むむ、統治能力の不足と見られてしまったか? まあ、確かに自分の領地の問題について王宮に助力を要請するのは、王宮側としては面倒な困ったちゃんに見えるかも。

 だが、浮民発生源のボルン子爵をどうにかするのには、やはり外交ルートだろうし。


「は、ロフォール子爵はまだ若輩者です。さらに、敵国から接収した領地なれば、さほど反発を招かず治めた手腕は非凡なものかと。領民の病を治療し、治安も劇的に改善させ、開墾もゴーレムを用いて大規模に行い、もう少し(・・・・)様子を見たいところではありましたが」


 あれ? ティーナはクビになっちゃうのか?


「うむ。だが、スレイダーン側からは、ゴーレム軍団を撤収させないなら、敵対行為と見なすと言ってきておるな?」


「は、ゴーレムは動きも遅く、戦でそれほど役に立つ物ではございませんが、上位の限られた魔術士しか作り得ぬ物、つまりは魔術士を恐れたと思われます」


「ユーイチよ、そなたも魔術士であったな?」


 国王の問い。今もローブを着て樫の杖を持っているのに違うとは言えない。どう転ぶか分からないが、下手な嘘は命取りだろう。


「は。その通りにございます。ゴーレムは鋼の賢者の弟子たるミオから教わり、私と同僚で作り出した物なれば」


「そうか。奴隷にしては知恵が回ると思っていたが、鋼の賢者に連なる者なら、納得であるな、オーバルト」


 国王がニヤリと笑って隣の宰相に話を振る。


「は、鋼の賢者は我が国でも名の知れた魔導師、多少、風変わりなところがございますが、トレイダーとの戦においても多大な戦果を上げ、陛下への忠誠も厚く、問題の無い人物かと」


 ここで少し後ろの貴族達がひそひそやり始めたが、何を言ってるかまでは俺には聞こえなかった。


「うむ。スレイダーンなど恐れることも無いが、今は東の動きが気になる。ユーイチには新たに任を与えることとし、ロフォールを離れてもらおう」


 後ろでどよめき。どこか安心したようなため息や、失笑も聞こえたが、元奴隷が領地を持っていること自体、気に入らない貴族や騎士は多いからな。

 まあ、アレだ、(てい)の良い左遷みたいっすね。是非も無しってヤツだな。罰として取り上げると言われないだけ、マシだろう。

 ネルロ達、俺がいなくなって上手くやってくれるかね……まあ、ジーナ大ババ様がいれば、なんとかなるか。

 あ、紙の処分、しておかないとな…やべえ。


 ここは何にせよ、やる気のある顔で返事をしておく。


「はっ!」


「ロフォールよ、褒美とは言え新任の土地で慣れぬ事もあったであろう。そこは気にせずとも良い」


「は…」


 緊張した声のティーナ。


「オーバルト、若き領主や冒険好きの領主は代官を置く事があるな?」


「左様にございます。代官に有能な者を付け、落ち着いたところでロフォール卿に引き渡せば、褒美のありがたみも増すかと」


 ピッチャー交代で抑えのリリーフ投入か。ノーアウト満塁って程の問題では無いと思うが、面倒な問題だし片付けてもらえるならその方が良いのかも。


「お待ち下さい」


 わあ、どうしてティーナはこの場で物言いを付けちゃうのかね。領地の取り上げじゃないんだから、数年くらい待とうよ。

 無能のレッテルを貼られるのが我慢ならないんだろうけどさ。


「浮民の問題は領外のスレイダーンが深く関わるために陛下にお願い申し上げましたが、私で解決できるかと思います」


「これはこれは、自らの失策を陛下に押しつけておいて、都合が悪くなれば独断で引っ込めるとは。ラインシュバルトの娘も随分と態度が大きいわい」


 悪代官、ディープシュガー侯爵が悪し様に言うが、したり顔ってところが小物なんだよ、オマエ。


「ディープシュガーよ、口が過ぎよう。浮民を大量に出したのはスレイダーンの失政によるもの。ラインシュバルト、いや、ロフォールよ、そなたの気持ちも分からぬでは無いが、これは取り上げでは無い。余が整えて改めてくれてやると言うのだ。聞き分けよ」


「御意」


 ティーナが内心はともかく肯定の返事をする。ディープシュガーは国王の注意が来ると分かっていたようで、それ以上は特に反応もせず黙り込んだ。


「して、代官だが、適任はおるか? オーバルト」


「は、二人、候補がおります。一人目は王宮付きの上級騎士オイゲン。代官を長く勤め上げ、実績には定評がございます」


「うむ、鉄骨のオイゲンか。ブッフバルト領を立て直した手腕をもってすれば、上手くやってくれよう。もう一人は?」


「エックハルト家のタール」


 おお、という納得したような声が貴族達から上がった。知名度、高そうだね。俺はさっぱり知らんけど…セバスチャン、頼むぜ、おい。


「ふむ、なるほどな。エックハルト領の税収を七割も上げた才をもってすれば、この問題も片付けてくれよう。よかろう、エックハルトを代官とする」


「御意」


「さて、もう一つあるな。ロフォールよ、そなたにはアルカディアに赴いて外交を行ってもらう」


 うわ、さっきまでざわついてた後ろがシーンとしたよ。何コレ、何コレ。嫌な予感。


「わ、私が、ですか?」


「そうだ。報告によればアルカディアの女王と謁見し、取引をまとめたというではないか。今回はスレイダーンとの条約を重んじてこのような配置となったが、そなたには期待しておるぞ」


「ははっ」


「お、お待ち下さい! 陛下」


 アンジェが物言いを付けた。今日の金髪ドリルは物静かで存在感が無いと思っていたが、やはり目立つな。


「エクセルロットか。まあ、そなたの言いたいことはすでに分かっておるが、言ってみるが良い」


 ティーナの永遠のライバルというのは国王もよく知っているようだ。


「は。恐れながら、外交は接部、ライオネル侯爵の領分。何故、ロフォール卿にお命じになったのか、お聞かせを」


「うむ、確かにそなたの言うとおりだ。だが、ライオネルよ、これはそなたの発案であったな?」


「はっ、左様でございます」


 悪代官の隣に控えていた金髪のダンディな貴族が返事をしたが、あれがアーサーの父さんか。確かに似てるな。うえ、近づかないようにしないと……。


「ライオネル卿が?」


 アンジェも振り返ってそちらを見る。


「そうだ。このところ、トレイダーの動きが不穏でな。できれば、先に東方と結んでおきたい」


 ライオネル侯爵が言う。


「なるほど、トリスタンとアルカディアは犬猿の仲、そう言うことですの」


 アンジェはすぐに納得したようだが。 


 ええと…確か地図だと、ミッドランドの東南にトレイダー帝国、東にトリスタン王国があって、さらにその東がアルカディア王国だったか。


 トレイダー帝国がこちらに戦を仕掛けてきそうだから、東の国に応援なり牽制なりしてもらおうという腹積もりのようだ。


 トレイダー帝国も遠征している間に後ろの国、特に大国トリスタンからちょっかいを出されてはおちおちしていられないだろう。逆にトレイダーの立場としてはトリスタンとアルカディアが同時期に戦になって、トリスタンの身動きが取れないのが望ましいはずだけど。


「そういう訳じゃ。ロフォールよ、ユーイチを連れ、トリスタンやアルカディアと交渉して参れ」


「ははっ」


「では、本日の謁見はここまでとする!」


 国王が席を立ち、退出して行く。その間、礼をして微動だにしなかった宰相のオーバルトも続いて退出し、貴族達も解散し始めた。


「行こう」


 大役を担ったものの、代官の件で憮然としているティーナと共に、大広間を出る。

 その時、歩いている貴族達のお喋りが聞こえてきた。


「しかし、タールとはな。陛下も高く買っておられるようだが、アレも平民上がり、面白くない事よな」


 ほう? じゃあ、相当有能なんだろうな。大きな功績がなければ、騎士なり貴族にはなれないだろう。


「だが、やり手の豪商だけ有って、才気はあると聞く。ロフォールなどワシは欲しくないが、あやつなら立て直せるであろう」


「だと良いが。エックハルトの貧窮に付け入り、金で地位を手に入れたやり方がロフォールで通用するとは思えんな」


 評価が分かれているが、いや、噂で判断するのは止めた方が良いな。貴族の嫉妬かもしれないし。

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