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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十章 子爵家の家臣

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第二十一話 騎士と村娘

2016/11/26 若干修正。

 要注意人物の浮民、ビートとロビー。

 うん、あの二人はトラブルメーカーの予感はしてたんだ。


 ただ、せいぜい揉め事くらいで、どちらかと言うとロビーの方が何か、しでかさないかと、そちらに意識が行っていたな。

 まさか、ビートがエルに手を出そうとするなんて、思ってもみなかった。



「申し訳ございませんっ! 自分の監督不行き届きです」


 ケインが俺に頭を下げて謝ってくるが、ケインが悪いわけでも無いんだよなあ。

 セルン村の治安担当者として、きちんと見回りもやってくれているし、ケインが村人同士の喧嘩をなだめ上手く仲裁したりするところを俺も何度か見ている。


「改善案はあるのか?」


 別に問い詰めるつもりでは無い。形式上の謝罪というのもそこはけじめとして必要なときもあるが、俺が求めるのは実態であり、結果だ。

 それが出せないのなら、ケインがこれ以上、悩んだり謝ったりする必要は無い。


「は、要注意人物からは目を離さないようにすべきでした。人員の追加を具申しておけば、防げたと思います」


「ふむ。そうだな。じゃ、次から不十分の気がしたら、対策を取ってくれ。俺には事後報告で構わん」


「分かりました」


 これで治安対策と警備の問題は片が付いた。ビートの行方は探知(ディテクト)の呪文で探ったが、北の方へ移動していた。どうやら自分の村、レイジ村に戻る様子。一度領地から逃亡して簡単に戻れるとも思えないが、そこはもう俺があれこれ言うところじゃないしな。

 

 もう一人の、ロビーの方はロフォール砦の近くをうろついていたところを偵察隊に捕らえられ、尋問の末、スレイダーンの下級騎士で有ることが判明した。ま、色々と怪しかったから、特に驚きは無い。

 アーロン侯爵の騎士団からギブソンを通してすぐに報告がもたらされたが、こちらの情報網の連携は取れているようで、その確認が出来たのも収穫かも。


 一応、こちらの在籍の村人という体裁であったので、俺に処分をどうするかの問い合わせが来たのだが、少し知恵を絞り、生かして返すよう進言した。

 砦の本当の兵数は四千八百ほどだが、六千八百と言う数字をロビーに教えてやり、帰らせた。もちろん、俺のスタイリッシュ嘘呪文で脅しを与えての事だ。嘘の情報を上官に告げて褒美を受け取るか、それとも死を選ぶか、ま、ロビーは小物だから、確実に褒美の方を選ぶに違いない。

 本当の兵数は教えていないので、ロビーがありのままを話したとしても問題は無い。


「じゃ、ケイン、一度、ティーナの屋敷に戻ろう」


「はい」


 クロを呼びに工房に行くと、ベリルがいた。


「ああ、来た来た。村長ぉ、ビートの事だけど」


「奴は村から永久追放だ。近くにはいないし、来たら兵に斬らせる」


「そ。ならいいんだけど。アイツさぁ、俺の女になれば色々美味しい思いも出来るし面倒を見てやる、なーんて言ってたけど、自分が浮民だって忘れてるみたいでさー」


「そうだな。ベリル、お前は特に酷いことはされてないな?」


「……唇、奪われた」


 そう言ってサッと目を伏せそっぽを向く彼女。


「えっ!」


「ぷぷっ、なーんてね! やーねぇ、アタシがそんな間抜けに見えるぅ? 無理矢理チューしようとしてくるから、鼻っ柱にがつんと行ってやったわよ。もちグーで」


「お前な。本当に何も無かったんだな?」


「もー、しつこい。冗談だって。無いっての。私の心配より、エルの心配をしなさいよ。あの子、ろくに男と手も握ったこと無いから、びっくりしてるわよ?」


「むう、様子はどうだった?」


「それは自分で見に行けっての。そこはね、つけ込んで優しくしてやればイチコロだから。チャンスチャンス!」


 小声でウインクしてくるアホ。


「何の話をしている。真面目に話してるんだぞ、こっちは」


「アタシだって真面目だけど。それとも、やっぱ領主様がいいんだ? それともあの金髪エルフ? ちょっとここだけの話、どれが本命か、いい加減に教えなさいよ」


「ふぅー、分かった、自分で見に行く」


 コイツと話をしてると、時間の無駄だ。何かを吸い取られてるように疲れるわぁ。

 工房を出て、エルの居場所を村人に聞くと、女衆のところにいると言うのでそこに案内してもらう。


「ああ、村長、じゃ、アタシはちょっと水汲みにでも行ってくるかね」


 そこの家のおっかさんが、気を利かせてか、そう言って外に出て行く。

 エルはちょっと緊張した顔。


「エル、少し話があるんだが、いいか? ビートのことなんだが…、もし話したくなかったり、俺と二人きりが怖いなら―――」


「いえっ、そんな、村長を怖いなんて思った事、一度も無いですから」


「そうか」


「はい。大丈夫です」


 思ったよりは平気そうな顔をしていてほっとする。これがさめざめと泣いてたりしてたら、ビートは八つ裂きの刑にするところだ。


「もう聞いたかも知れないが、ビートは村から永久追放、この村に近づいたら兵に斬らせるから、心配するな。お前は、俺がちゃんと責任を持って守ってやる。大船に乗った気でいろ」


 ここはビシッとして言っておかないと、上の者が不安そうにしてたら、下の者も不安になるだろうし。


「は、はい…」


 具体的にビートに何をされたのか、エルに聞きたくなるが、藪蛇だよな。彼女が大丈夫だと言っている以上、詮索するのもどうかと思う。


「あの、私、言い寄られて、肩を掴まれて、それだけでしたから。びっくりして悲鳴を上げたら、他のみんなが来てくれて」


「そうか。ならいいんだ」


 そうだとすると、ビートはレイプ未遂じゃなくて、わいせつ未遂あたりなのかな? まあ、どのみち、嫌がる女の子にお触りしたり、無理矢理口説こうとする時点でアウト。特に俺の(・・)エルを狙う奴は、村長権限で全員、追い出してやるッ!

 ヒュウ…告白もしてないし手も握ったことも無い女の子に、俺の女とか、内心で宣言するだけでもドキドキだぜー。

 本人が今、目の前にいるしな。

 水色のお下げの髪の優しい目をした女の子。


「ちょっと、押さないでよ、今、いいところなんだから」


 家の入り口の向こうでひそひそ声が聞こえるし。


「ケインッ! そこの曲者を斬れ!」


「ちょっと! 何てコト言い出すのよ! アタシよアタシ、ベリルだってば!」


 いや、分かってるから言ったんだけど。ケインも命令を実行する気は無いらしく、苦笑して肩をすくめる。


「ベリル、心配してくれるのはありがたいけど、村長は変な事はしない人だし、失礼よ?」


 エルがはっきりと言う。


「いやいやいや、コイツだって男だし。オオカミだし。ま、心配してると言うより、凄い展開になったら見逃せないじゃん? ふふ」


「もう……出てって」


 エルも相手をするのがアホらしくなった様子。


「ほれ、行くぞ、出歯亀」


「誰が出歯亀よ。ってか、アンタまで出て行ったら、意味ないでしょうが、せっかく、そう言うムードになりかけてたのに」


 どんなムードだよ。俺は純粋にショックを受けて落ち込んでいるであろうエルを心配して来ただけなのに。


 ともあれ、エルがそれほど落ち込んでいない様子だったので、安心した。


「警備はしっかり頼むぞ」


「はっ!」


 帰り際、兵士達にそう声を掛けておく。




 ティーナの屋敷で夕食の時、ビートの話題になった。


「そう、無理矢理言い寄るなんて、最低ね」


 ティーナも不快感をあらわにする。


「追放なんて生ぬるいことせずに、あんなのは斬ってやればいいのよ」


 リサが言うが、あんまり簡単にそれを選ぶと、感覚が麻痺しそうでちょっと怖いんだよな。

 それに、法律に基づいて公平に行きたい。権力者の好き嫌いで罪の軽重が変わっては三権分立にならない。


「うふふ、ですが、殿方の本能もありますから」


 クレアが擁護するようなことを言い出すので、数人がじろっと睨む。それでも平然と微笑んでいるクレアは肝が据わってると言うかなんと言うか。


「そんな奴、アタシがぶっ飛ばしてやるニャ!」


「ダメよ、リム。もう村長が罰を下したんだし、私達が人族を強く殴ったら、それだけで死ぬ危険もあるんだから」


 ニーナがリムを窘める。同じ猫耳族なのに、大人と子供かと言うほどに性格も違う。まあ、猫耳族に偏見があったな。主にリムのせいで。

 アッセリオから一足先にこちらにやってきたニーナは、この屋敷のメイドをやっている。メイド長のメリッサの話では真面目な働き者だそうで、良い拾い物と言ったら彼女に失礼だが、良いメイドさんだ。 


「ニャニャ、殺すつもりは無いニャ」


 少し焦るリムは、俺を一度ネコパンチで気絶させた事も有るし、気を付けてもらいたい。 


「ええ」


「そうだニーナ、明日セルン村に行って、エルと話をしてやってくれないか」


 思いついて、彼女に頼んでみる。


「私が、ですか? 誰かを慰めるのはあまり得意では無いのですが…」


「いやいや、そう難しく考えずに、単にエルの話し相手になってくれればと思っただけで、特に何かをする必要も無いよ。セルン村はどうも騒がしい女しかいないし、エルと年が近くて真面目な子の方がエルも落ち着いて話せると思う」


「分かりました。ご命令とあらば」


「いや、命令でも無いんだが…」


 ニーナはまだ奴隷の身分だからな。しかも俺が買っちゃったという…。ティーナの反応が怖かったが、今のは正当な理由と認めてくれたようで、笑顔でティーナも頷いた。


「良いんじゃないかしら。ニーナもずっと屋敷に籠もりっぱなしじゃ良くないし、少し、ユーイチの村も見てきたら?」


「分かりました、お館様」


「ううん、真面目ねえ…」


 ファーストネームで気軽に呼んで欲しそうなティーナだが、実際、身分が違うし、ニーナはまだここに来て日が浅いから仕方ないだろう。ベリルだと平気で呼び捨てにしそうで、それもアレなんだが。


 翌日。

 ニーナをエルのところへ連れて行ってやったが。


「あっ、ネッ、ネコミミ…」


 エルもやはりこの魅力が分かるのか、無意識に手を伸ばしかけ、はっとしたように引っ込める。


「もし、触りたいのなら、触っても良いですよ?」


 ニーナ本人が言う。


「い、いえ、それは」


「じゃ、適当に話でもしててくれ。俺は工房にいるから」


「はい」


 真面目で控え目な二人だけに、打ち解けるにはかなり時間が掛かるだろうと思ったが、夕方にはすっかり仲良くなっていた。

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