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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十章 子爵家の家臣

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第十七話 交渉

2016/11/25 若干修正。

「貴様ら! ここがスレイダーンのエルトラント男爵家の領地と知っての狼藉か!」


 甲冑を着込んだ騎士が怒鳴る。すでにスレイダーン側の兵は剣を抜き放っており、こちらの側も剣を抜いて構えてるし。


 わあ。

 作戦は早くも失敗だ。

 それどころか敵兵の一部隊に包囲されて、これBADENDルート臭いよ? 脱出できんの?


 やっちまった感…。



 浮民の対応にうんざりしてきた俺としては、後手後手の対応ではなく、根本から問題解決してしまいたい。


 そう思ったのだ。


 事の発端は増税にあるのだから、外交ルートを通じてスレイダーン側に善処を要求してはどうか。

 隣の領主ももうちょっと領民の生活に目を向けて、生活保護とまでは言わないが、監視強化くらいはしろと。


 それを然るべき筋、王宮や外務大臣なりを通して、お手紙で伝えてもらったら…と思っただけなのですが。


「それなら、直接、相手の領主に言った方が早いわよ」


 と、ティーナが言い、


「左様ですな。ここは税を軽くするよう、直談判してみましょう」


 とリックスが応じた。


 もちろん、俺は「え? それ危険でしょ?」とやんわりと止めたのだが―――あれがマズかったわ。

 全力で止めるべきだったわー。

 リックスは出来る男、と思っていたのが間違いでござった。


 ああ、リセットしてロードしたい!


「まあ、そういきり立つな。こちらは土産を持って挨拶に来たのだぞ。和平条約を結んだ相手を斬ったとあれば、そちらの国王陛下も良く思わないであろう?」


 リックスが剣を抜いたまま、笑顔で言うが。


「黙れ! 貴様らの首を並べ立てれば、陛下もお喜びになるわ! 者ども―――」


 ああもう、ここは言うしか無い!


「お待ちを! 我らはすぐに帰りますので!」


「なに? ふん、それを黙って見過ごすと思ったか」


「いえ、もちろん、タダでとは申しませんよ。どうか、これで一つ、お見逃しを」


 財布の袋から金貨を一枚取り出して見せる。


「……我らを金で買収するつもりか?」


「いえ、これはエルトラント男爵様への献上品にございます。もちろん、男爵様の分は別にご用意致しますので、どうか、気持ちとしてお収め下さい」


 金貨の入った小袋ごと差し出してみせる。魚心あれば水心ありで、ね? ね?


「聞いたか? ミッドランドの奴ら、砦を奪っておいて、たったこれっぽっちの金貨で事を収めろと言う」


 隊長の甲冑騎士が周りの兵に、呆れたと言わんばかりに両手を広げて見回す。


「そのように受け取られるのは心外ですが、アブニール殿下が一時とは言え曲者の手に落ちるとは、両国にとっても不幸な事でした」


「曲者って…」


 ティーナ、黙っててよ? 俺達がアブニール第二王子を捕らえた伏兵部隊の一員だったとバレたら、しゃれにならないし。


「くっ! 殿下のお命を危うくしたのは、貴様らミッドランドの仕業であろうが!」


「いや、どこの組織にも跳ねっ返りはいるものでして。慈悲深い殿下をお慕いしている私としても心を痛めている次第です」  


 私は宥和派で強硬派とは別ですのよ。そーゆーニュアンスで。


「んん? 殿下が慈悲深いだと? 貴様は、殿下を知っていると言うのか?」


「…これは内密にして頂きたいのですが、縁がございまして一度だけ、お目通りさせて頂きました」


「物は言い様ね」


 リサが言うが、黙ってなさい。


「何!? 真か?」


「は、殿下は大変威厳のあられる御方でして。それと、護衛騎士の方々も見るも立派な黄金の鎧でして、いやはや」


 威厳のかけらも感じなかったが、ここはリップサービスしまくりですよ、ハイ。


「ぬう…いや! やはり、勝手な侵入を許すわけには行かん! 貴様らは間諜として引っ捕らえてくれるわ」


 ダメかぁ。


「ええ? 私はロフォール子爵と身分を明らかにしているわ。それに、面会に行くことも予め手紙で伝えてあるでしょう」


「黙れ。こちらは出迎えるなどとは返事をしておらん! 後はロフォール砦を引き渡してもらうよう、ふふ、ミッドランドの国王に嘆願の手紙を出すのだな」


 やっぱり根に持ってるのね。当然だろう。人質と交換にぶんどった領地だもんな。


「意趣返しのつもり? でも、生憎、私の身柄では、アブニール殿下と同じ価値にはならないでしょうね」


 ティーナが言う。


「当たり前だ。ま、砦の庭がせいぜい…いや、とにかく、貴様らは人質だ!」


 ティーナの言うことを認めてしまえば取り分が減ると思ったか、敵の隊長もその話の深入りを避けた。


「それならば、丁重に扱って頂きたく。我らもアブニール殿下には傷一つ付けておりません」


 俺がお願いする。引き渡した後で王子がどう扱われたかなんて俺はよく知らないけど、そういうことにしておく。交渉目的の王族の人質だから、手荒には扱わなかったはずだ。


「ふん、王族と同じに扱えと言うか、生意気な貴族め」


「そう言うあなたは騎士でしょう。どちらが生意気なんだか」


 ティーナも、頼むから刺激するようなことは言わないで頂戴。


「ユーイチ、私達のレベルなら、突破も可能だと思うけど?」


 リサが小声で言ってくる。


「ダメだ。それじゃ戦争を引き起こすっての」


 この場にはエリカもいるし、リックスや部下の兵が、手加減をするとはとても思えない。


「そうね。では、検分するにしろ何にしろ、男爵に会わせてもらうわよ?」


 ティーナが要求するが、まあ、そこは大事なところなんだけどな。

 要求しても、通るとは限らない。


「ふん、首だけ会わせてやるから、心配するな」


「それじゃ砦との交換は無理な話ね」


「知ったことか」


 この騎士も、ティーナの身柄を押さえたくらいでは砦は帰ってこないと分かっているだろう。

 そうなると、首を()ねて見せしめや鬱憤晴らしにされかねんな。むう、ここは言っておこう。


「いや、この御方は名門ラインシュバルト侯爵家の血筋、重臣の愛娘となれば、我らが陛下も温情ある御裁可をなされるかも…」


「ユーイチ、勝手な事を口にしてはダメよ。あなたには外交の権限は無いのだから」


 ティーナが厳しい顔で言う。まあ、そうだけど、ほのめかして命の価値は上げておかないとさ。


「ほう、子爵だと聞いたが、そうか、侯爵の娘か…。よかろう。丁重にお連れしろ」


 よし、正解だった。

 どーよ? お前ら。


 あれ? みんな面白く無さそうな顔ね。まあ、まだ助かった訳じゃ無いけどさ。




 スレイダーン兵に囲まれつつ移動していると、向こうの道から馬に乗った騎士が数人、結構な速度でやってきた。


「どう! どう!」


 真ん中の白い髪の青年は、貴族っぽいな。この人がエルトラント男爵だろうか?


「コーネリアス様! そのような手勢で来られるとは、危険でございますぞ」


 俺達を連行している騎士がそう言って慌てて近づく。


「いいえ、自分は今は一介の部隊長に過ぎません。爵位も継いでおりませんから、問題にはなりませんよ」


「いや、しかし…」


「それより、その者達が侵入してきたという兵ですか? 何やら貴族らしき人物がいるようですが…」


「ロフォール子爵だそうです。のこのことやってくるとは」


「む、それは、使節ではないのですか? いかがです?」


 コーネリアスと呼ばれた青年がこちらに質問する。


「いかにも」


 リックスが頷く。


「失礼を致しました。自分は、フィリップ=フォン=コーネリアスと申します。エルトラント増援部隊の副司令をしております」


 馬を下りて片膝を突くコーネリアス卿。どう見ても貴族だね。爵位がどうのこうのと言ってたし。


「お、おやめ下さい、コーネリアス様。相手は敵の子爵、公爵であらせられるあなたが、謙るなど」


 むむ、公爵って、貴族の一番上、確かこの世界では王族の親戚とかがなるヤツだろ? それが前線に少数の護衛でやってくるとはね。

 そのコーネリアスが小さくため息をついて言う。


「ホルガー殿、どうもあなたは色々と誤解しておられるようだが、嫡子と言えども正式に陛下に任じられるまでは領主では有りません。王族ならいざ知らず、私の現在の地位は一介の騎士ですよ。それから、和平を結んだミッドランドは敵ではありません。特に外交の使節の貴族となれば、それなりの配慮を」


「わ、わかり申した」


 そうだぞ、ホルガー君。もっと俺達を丁重に扱い給えよ?


「ロフォール様、それで今回は王都へ向かわれるのですか?」


 コーネリアスがティーナに聞いてくる。


「いえ、それが、んー、王都へは向かいません。私は領主としてエルトラント男爵とボルン子爵に面会したくやって参りました」


「そうですか。では、僭越ながら、私が護衛に付くと致しましょう。ホルガー殿、報せはもう男爵家には?」


「いや、まだですが……おい、客人が来ると報せてくるのだ!」


「はっ!」


「結構。今はまだ(・・)事を構えるべき時ではありません。丁重にお願いします」


「承知しました」


 今のコーネリアスの言い方とホルガー君の納得の様子って、スレイダーンには、近々ミッドランド侵攻計画があるのかね?

 気になるが、聞いたところでまともには答えてくれないだろうしなあ。



「ロフォール様、あなたはオズワードの悪魔を倒したと聞きましたが」


 男爵家に向かって移動しつつ、コーネリアスが世間話のつもりか、そんな話題を向ける。


「よくご存じで。ええ、仮面剣士では無く、私が倒しました」


 ティーナが、勘違いされていることも想定して念入りに答える。


「ふふ、まあ、噂話には尾ひれが付くものです。しかし、吟遊詩人(バード)達がこぞって歌いたがるのも頷ける話です。こうまで美しい御方とは」


 うお。さらっと歯の浮くような台詞を。


「え? ええ? それはどうも」


 むむ、アーサーと似たタイプなのかね。だとすると、俺にいちゃもんを付けてくるパターンかな。


 だが、コーネリアスは悪魔についていくつか質問した後は、黙ったままで俺にちょっかいを掛けてくることもなかった。




 エルトラント男爵の館に到着し、俺とティーナとリックスだけ、中に通される。後はお付きの者として外で待機だ。男爵だって、刃物を持った人間を何人も入れたくは無いだろうしな。


「お待たせしました」


 む、髭面のむさい中年男を予想していたのに、若い青髪の美少女がやってきた。嬉しい誤算です。

 しかし、仕草や顔は知的に見えるのに、これがエルトラント領の領主か……。


 硬い表情の男爵は、まあ、当然だろうな。ついこの間まで戦争をやってた相手国の人間だ。税を下げろという要求は内政干渉でもあるし。


「お初にお目に掛かる。ロフォールに新たに就任した領主、ティーナ=フォン=ロフォール子爵と申します。こちらは我が配下のリックスとユーイチ」


 ティーナが俺を紹介したので軽くお辞儀。この辺の礼儀は日本と共通なのでありがたい。


「はい、こちらもお初にお目に掛かります。エルトラント領を治めるモニカ=フォン=エルトラント男爵と申します」


 さあ、交渉開始だ。

 こちらは三人、向こうは一人。領主一人だけで話を聞いてくれるのは好都合だ。邪魔が入ると面倒だからね。俺達を捕らえようとしたホルガー君とか。


「さっそくですけど、私の出した手紙は読んで頂けましたね?」


 ティーナは三度、手紙を出しているが、返事は一通も無かった。


「ええ…ですが、税を下げろという要求は飲めません」


「どうしてかしら? あなたも自分の領民が何人も逃げ出しているのは、知っているでしょう?」


「それは…ええ」


 望ましいことでは無いと思っているようで、あとは財政状況や理由が分かれば、こっちも手助けしてやれるかも知れないんだけどね。


「なら」


「いいえ、あくまで私の領地の税率のお話です。他領の方が口を挟むことでは無いかと」


「そうね。ただ、私の領地に多数の浮民が流入してこちらの統治も面倒事が増えているわ。その点、配慮してもらえないかしら」


「分かりました。なるべく、減らすよう努力します」


「それで、いかような策をお採りになるのですかな?」


 リックスが具体策を問い詰める。


「それは…領民にお触れを出し、ロフォール領へは行かないよう、罰則も付けます」


 彼女もきちんと対応しようとしてくれる意思はあるようだが、良い策とは言えないな。

 なので言う。


「悪くは無いですが、浮民は逃亡に際して捕まったら罰せられることはもう覚悟の上でしょう。それにロフォールの周辺に浮民が発生すれば、どのみちこちらにも流れ込んできます」


 水が高い方から低い方へ流れるように、食べ物を求めて浮民が比較的まともで受け入れに寛容なロフォールに流れ込んでくるのは目に見えている。


「では、どうしろと」


「まず、すぐに出来る手としては、監視の強化を行って下さい。主要な街道に兵を配置しておくだけでも、逃亡しようとする領民には大きなプレッシャーになります」


 言う。俺が浮民だったら、姿を見ただけで、すぐ諦めるね。捕まったらどんな目に遭わされるか。


「見回りはさせていますが、分かりました。街道に常駐させましょう」


「ありがとうございます。それから、近所同士をひとまとまりとして、浮民を出した家の両隣も連帯責任で罰を与えるとお触れを出して下さい」


 これも俺が言う。


「む…悪くない者まで罰しろと?」


「実際に罰する必要は無いですが、連帯責任として領民に相互監視させる方が効果が期待できます。まあ、お互いの助け合いも期待してと言うことですよ」


 実に暗い手だが、生半可なやり方では、領民の逃亡は止められない。向こうも必死なのだ。


「分かりました。そのようにお触れを出しましょう」


「ええ。次に、病人の手当を領主の責任で行って下さい。家に重病人が一人でもいれば、介護に労働力を取られ、それだけで生活が格段に苦しくなります」


 そこは領主に金を出してもらわないとな。行政サービスは税金の対価であるべきで、貴族の贅沢のために増税してもらっては困る。

 そんな事を続けていれば、いずれ治安の悪化や反乱となり、貴族達にとっても最悪の結果となろう。


「分かりました。重病人の手当はこちらで行うようにしましょう」


「ありがとうございます。では、少量ですが、薬をいくつか献上させて頂きます。これが普通の薬草、これが毒消し、こちらは風邪や熱の症状に効く月見草のポーションです」


 紐で結んで束にして袋に入れた薬草と、箱入りポーションを、ローブの中からテーブルの上に出していく。薬草は、ま、千枚くらいあれば足りるだろう。もし足りなかったらいつでも言ってね! まだまだ持ってくるよ!


「ど、どうも。これで少量…?」


「何か?」


「い、いえ」


「たいていは栄養失調、食べ物の不足だと思うので、食べ物も併せて配って下さいね?」


「む…それは…重病人については、そのようにしましょう」


 歯切れが悪いが、備蓄が足りてないのかね?


「麦が足りていないようなら、取引として、格安で譲りますよ?」


「…んん? いえ、結構です。どうせ高値で売りつけるおつもりでしょう」


「いやいや、麦袋一つを10ゴールドで良いですから。ただし数は百袋までで」


 これは事前にティーナやリックスとも話し合っている。領主の倉から放出するんだから、勝手にはできないし、俺が個人でロフォールの街から買い上げたとしても、大量となれば値段の高騰を招いてしまうからそれも話を通しておく必要はある。


「ううん…少し、お待ちを」


 エルトラント男爵はメイドを呼び、麦の値段を聞いたようだ。


「普通の半値のようですが、ダメになったのですか?」


「いや、まともに食べられるちゃんとした麦ですよ。どうしても信用出来ないと言うことであれば、ロバート商会を間に挟みましょう。手数料が上乗せされますが、名の通った商人の品なら、安心でしょう」


「なぜそこまで…むう、それほど、そちらに浮民が?」


「まあ、殺到してますね。ここだけで無く、他領からも来ています。特にボルン子爵領が一番酷い」


 そこが今回の交渉の本命相手なのだが、ついでに隣のエルトラントの領主とも交渉で改善は促しておきたい。ここもそれなりに浮民が発生しているし。


「ああ…あそこは、いえ、何でもありません」


 今、さもありなんって顔したよね。先が思いやられそうだわ……。

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