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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十章 子爵家の家臣

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第十四話 浮民問題

2016/11/25 若干修正。

 俺の留守中、セルン村では行き倒れの平民を保護したということだが。

 村から追い出されたと言うのはどういうことなのか。

 まずは本人から話を聞いてからだな。


「ええ。こちらです」


 エルが案内し、村の外れの空き家にその男はいた。

 男っすか…。 

 体格は良く筋肉質だ。ただ、俺達が行くと、ビクッとして、気が弱そう。


「ホズさん、前に話したけど、この人が村長です。騎士なので礼儀には気を付けて――」


「ああ、いや、それは気にしなくていい。無礼講でいいぞ」


 エルを遮って言う。ホズは見るからに青い顔をし始めたし、萎縮して話も出来なくなっては意味が無い。敬語も止めた方がいいな。


「ホズ、と言ったな。お前の村の名は?」


「レイズだす」


「この村の近くなのか?」


「あー、あう…」


「いや、隣村じゃねえな。北の方にそんな名前が有ったような気がするが」


 言い淀んでしまったホズの代わりにネルロが言う。

 

「そうなのか?」


「あー……」


「おい! ちゃんと答えろ!」


 ネルロが怒鳴るが、んもー、完全にビビって震えてんじゃん。


「ちょっと、ネルロ。それじゃ話が出来ないわよ」


「はっきりしねえ奴を見るとイライラすんだよ」


「ネルロ、ちょっと水汲みに行ってきてくれ」


「ああ? 分かった」


 尋問に付き合うよりはそっちの方が良いと思ったらしく、すぐに出て行くネルロ。


「大丈夫だ。別に危害は――手荒な真似はしないから」


 少し優しく言ってやる。


「ご、ごめんなさいだす、オラ、よくわかんねえだ。北とかそういうのは」


「ああ。ま、それはそれでいい。それで、どうしてレイズの村を追い出されたんだ?」


「…それは…オラが、トロいから」


 まあ、言葉の喋りも遅いし、イライラする人間も多いだろうな。


「そうか。他に、理由は無いのか? 盗みをやったとか、乱暴を働いたとか」


「し、してねえべ。オラ、何にも。だども、オラがやったと言われて、そうなのかなって…」


 いやいや、そこは自分の身の潔白は気合い入れて主張しようよ!


「違うなら堂々としてろ。お前は何も悪くない」


「あ、ああ…」


「じゃ、自分で歩けるよな? レイズの村に帰ったら、村長に盗みはやってなかったってきちんと言って許してもらえ」


「………」


「どうした? 何か、他に問題があるのか」


「村長は、オラの話は聞いてくれねえべ」


「じゃあ、俺が話をしてやろ…むむ、北となると、スレイダーン所属の村か…」


 ロフォール領内の隣村なら、少々揉めたとしても、領主のティーナに泣きつけばどうとでもなるが、戦までやったスレイダーン国が相手だと、絶対に話がややこしくなる。向こうの領主が出張って来たら、それだけで外交問題に発展するな。

 マズいなあ…。


「エル、こういうときは、どうするのが普通なんだ?」


「ううん、それが、私も…、子供の頃に一度、ミッドランドの村になったというのは覚えてるんですが、その時は、こういう話は無かったので…」


 この村は、結構頻繁に所属がひっくり返っているらしい。前線だしな。それでみんな、あまりスレイダーンやらミッドランドにこだわらなかったか。


「あ、お婆ちゃんに聞いた方が」


「そうだな。大ババ様に聞くか」


 村の知恵袋に話を持って行く。


「大ババ様、ただいま戻りました」


「うむ」


「さっそくですが、ホズの件で、少しお話を」


「それは、村長のお前さんが決めるとええ」


「まあ、そう言わずに」


 事情は知っているようなので、過去の事例について聞いた。


「盗人の場合は、捕まえて送り返すのが当たり前だね。だが、今は領主が事を構えているから、この村のしきたりで罰するのが普通さね」


「その盗人の容疑が、無実の場合は?」


「それなら、許しておやり」


 許すにしても、レイズの村長が許さないと意味が無いんだよな。これはティーナに持って行く話かも。

 外交ルートを通じて司法問題を解決する。村人一人になんか大袈裟だが。


「レイズの村に送り返せない場合は?」


 ついでにその可能性についても大ババ様に聞いておく。なにせ、ついこの間、戦争したばっかりの相手だしな。外交ルートが存在するかどうかも怪しい。


「それは、村長の決めることさね。追い出すか、ここの里の人間にするか。だが、いくら働き手と言っても、急に何人も増やすわけには行かないよ。次の収穫が増える訳じゃ無いんだ」


「ああ、そうですよね」


 会社だと、急に従業員を増やしても、受注の仕事が無ければ、給料だけ支払わなければならず、赤字で倒産だ。

 ゲームだと人口を増やしまくればそれだけで発展するけど、リアルは違うし。

 ジーナの話だと、無実でも追い出すケースも有ったようだ。人減らしのために家族を奴隷に売りに出すくらいだし、余所者に温情を掛けられるわけないか。


「じゃ、エル、ホズには何か適当な仕事を割り振って面倒を見てやってくれ」


「それは、この村の人間にすると言うことですか?」


「いや、ティーナに、領主に掛け合って話してみるから、結論が出るまでは保留、ここにいさせるってだけの話だ」


「分かりました」


 悪さをするような人間にも見えなかったし、今までもエルが面倒を見てたんだろうから、問題は無いだろう。


 村の門番をやっている兵士に、ティーナの屋敷に行ってくると告げて、護衛のケインを伴って向かう。




「ティーナ、俺だ」


 執務室にティーナがいるというので、ノック。


「あ、ユーイチ、ちょうど良かった。入って」


 ティーナが言う。


「ああ。何か、俺に用か?」


 中には、リックスがいた。いくつか羊皮紙の巻物を持っているので、溜まっていた決裁を片付けているのだろう。

 領主様も大変だね。


「ええ。スレイダーンから、何人も浮民が流れ込んできてるの。盗みを働いてトラブルになってるところもあるし、あなたの意見を聞きたいわ」


「うえ、何人も来てるのか…」


 面倒な事になりそう。


「ええ」


「実は、俺の村にも一人、行き倒れが来てて、その件でちょっと話そうと思ってたんだ」


「そう、セルン村にもやっぱり来てたんだ。報告が上がってないわよ?」


「う。それはすまんかった。後で出すよ」


 エルかトゥーレに書き方を教えて任せよう。


「まあ、帰ったばかりだし、ふふ、叱ってるわけじゃ無いんだけど、これからきちんとしてね、村長さん」


「分かりました」


「それで、浮民の方だけど」


「ああ。俺の意見の前に、通常の領主は今までどうしてたんだ?」


「盗みを働いた浮民は奴隷落としか死罪、その他は追い返すか、開墾した土地を与えて領民にするのが普通ね」


「盗みでいきなり死罪か…やっぱり立場が弱いんだな」


 奴隷以下の扱いだ。


「そうね。でも、彼らも食えなくてやってきてるんでしょうから、可哀想だわ」


「いえ、お館様、ここは厳しくやりませんと、さらに流入が増えますぞ」


 リックスが言う。難民の押し付け合いか。うわー、シビアな世界だわー。


「ええ…ユーイチは、どう思う?」


「それがこちらのやり方なら、それで行くしか無いだろう。君は受け入れる判断を考えてたのか?」


「む、そうだけど」


「浮民に与える土地と仕事があるならいいが、急に増やしても、収穫は増えないぞ。それで食わせられるのか?」


 大ババ様からの受け売りを言う。


「む。開墾の土地はあるし、今年も税の免除があるはずだから、対応できるはずよ」


「ああ、余裕なんだな?」


「まあ、今のところはね」


「ですが、噂を聞きつければ、どっとやってきます。その時に、早い者勝ちであぶれた残りを切り捨てる覚悟がお有りならよろしいですが」


 リックスが言うが、甘いティーナのことだ。公平にやらないとと、無理もやり始めるに決まってる。


「それなら、最初から切り捨てて、備蓄を増やすべきだ」


 言う。ただでさえ、セルン村では栄養失調気味で、今でこそ改善してきてはいるが、余裕があるわけじゃないからな。

 不作が来たときに備えておかないと。


「む。あなたがそう言うとは、思わなかったわ」


 失望したと言わんばかりに俺を見つめるティーナ。リックスの考えに対抗するため、味方に付いて欲しかったのだろう。


「そりゃ、全員を受け入れて施すのが理想だろう。だが、それで元の村人まで全滅なり酷い状態になったら、良い領主とは言えないな」


 それでも理想を追い求めるなら、聖職者になって私財を出せば良い。

 

「ふう、そうね。でも、それなら、受け入れられる限界までは受け入れるわ。そこから先は切り捨てる」


「それが乳飲み子であってもですかな?」


 リックスが意地悪く問うが。


「むぅ、自分で食い扶持を稼げない子供はいいでしょう」


「その理屈だと、老いて働けぬ老人も、怪我をして手足を失った者も、病気で働けぬ者も……と、際限なく膨れあがることでしょうな」


 リックスが言う。


「待って。際限なくと言うことは無いわ。保護が必要な人間だけよ」

 

「だが、五体満足の働き盛りの男でも、畑も技術も無ければ、食えないんじゃないのか?」


 疑問に思って聞く。


「むむむ…」


 ティーナも解答を持っている訳では無いか。


「分かった。じゃあ、保護が必要な人間の数の枠を予め別枠で決めておいて、そこまでに収まるよう受け入れ体制を整えよう。それでどうかな」


 言う。


「うん、決まりね!」


 俺が領主なら、働き盛りと美少女だけを受け入れて老人や病人は…まあ、治せる病気なら治してからだなあ。老人も、脱穀装置くらいは動かせるし。

 うーん、どこで線引きするか、こりゃ難問だ。

 だが、線引きしないわけには行かない。


「分かりました。では、そのように」


 リックスもティーナの決定には素直に従うようで、文句は言わない。


「リックス、受け入れ可能な人数はどれくらいになりそう?」


「そうですな。ロフォールの人口が六千、その五分が限界でしょう。三百ですな。これに開墾で増えるであろう分を加えるなら、九百というところですか」


「では、千人とします」


「むう、私の予想も誤差がありますぞ?」


 リックスが言う。


「大丈夫、ユーイチが肥料を改良してるし、ゴーレムも増やせば、収穫も増えるでしょう」


「い、いやいや、待て待て、俺の肥料はまだ実験段階で成功するかどうかも分かんないんだぞ? それに、開墾しただけじゃダメだ。種蒔きして収穫までして初めて増えるんだから」


 種籾も結構量が必要だからな。急激に開墾して全部種を蒔くとなると、食べる分が足りなくなってしまう。


「でも、百人を養う分程度の金貨なら、たくさんあるでしょ。足りない分は買い付ければ良いのよ」


 パンが数個で一ゴールド、一日の生活費を二ゴールドとして、一年なら730ゴールドか。

 千人だと七十三万ゴールド。

 アルカディアで三百万ゴールドの褒美をもらったから、あれだけで四年は千人の失業者を養える計算だ。

 ま、あれはパーティーのお金でリサが管理してるから、彼女の許可もいるが、ティーナのお小遣いや家の金を使えば、それ以上、二千人も可能かな。


「お待ちを。金貨でパンを買い占めれば、値段が一気に高騰(こうとう)してしまいますぞ」


「「 あ 」」


 迂闊(うかつ)。ティーナも俺も、手持ちの予算でしか事を考えてなかった。ロフォールの生産力の限界も加味しないとダメなのか。


 こりゃあ、リックスの言うとおり、九百が良いところだろうな。


「ユーイチ、魔法で麦を生み出せないの?」


「無茶言うな。やってはみるけど、無から有を出すのは、無理っぽい気がするぞ。この世界にそんな魔法があると聞いたことがあるのか?」


「無いわね」

「有りませんな」


 じゃあ、多分、無理だ。魔力変換で頑張るにしても、魔力から生み出された食い物って、不安が残るものね。

 となると、品種改良や農業改革、それと、輸入だな。

 だが、パンもこちらの世界のパンは保存が利かないし、防腐剤や包装技術も考えないと。

 いや、麦のままで輸入すれば、長持ちするか。


 うーん、黙っておいた方が、ティーナが無理な受け入れをしないで済むが、彼女も賢いし、すぐに気づくか。

 言うことにする。


「麦を輸入するという手はどうだ?」


「あっ!」


「結構ですが、ラインシュバルトからは大っぴらに出来ませんぞ。お父上に頼り切りではティーナ様の統治能力が疑われることになります」


「む、じゃあ、それ以外ね。リックス、麦を出してくれそうな領主をリストアップして」


「は。こちらになりますな」


 羊皮紙の巻物を差し出したリックスは、すでに準備していたようだ。この人も有能だなあ。


「む。有るんなら最初から出してよ」


「ふふ、申し訳ござらん」


「うーん、アンジェとアーサーのところも借りを作りたくないから、ダメとして…ちょっとリックス、ディープシュガー侯爵なんて私のところに出してくれるはずも無いでしょ」


 ティーナが嫌そうな顔をするが、あの悪代官顔の大臣はラインシュバルトとは仲が悪そうだしな。謁見じゃティーナに物言いを付けて嫌みも言ってたし。


「いえ、交渉次第かと思いまして。そのリストは、麦の輸出実績に基づいたリストですので、家の関係は考慮しておりません。考慮した物はこちらになります」


「だから、最初からこっちを…」


 ティーナも自分が試されたり教育されているのは自覚があるようで、強くは言わない。ジトッとした目でリックスを一瞥しすぐにリストに目を戻す。


「あれ? こっちのリスト、ジャン叔父様が抜けてるけど?」


「あの御方は四六時中、領外を飛び回っておられますからな。領主の交渉や決裁が必要な事柄は上手くは行きますまい」


 そんなんでジャンの領地は大丈夫なのかね。


「ああ…手紙も向こうから一方通行だし、困った人ね」


「まったくですな」


 リックスが肩をすくめるが、ティーナは他人のこと、言えるのかなー?


「じゃ、このリストの領主全員に、まずは手紙で打診して、その気があるかどうか確かめてみるわね」


「全員でございますか? それで全員が前向きに話を進めてくれと返事をなされ、その中に伯爵以上の方々が混ざっていると、いささか…」


 リックスも懸念する。


「大丈夫よ。このリストほとんど伯爵以上だし、値段で折り合わないってことも良くあることでしょう。難癖付けられそうな相手は止めておくから」


「では、ラインシュバルトの派閥の貴族に対しては、高圧的にならないようご配慮下さい。あちらも、無理をして値段を下げてくるかも知れません」


 ティーナお嬢様にゴマすりか。それ以上に、脅されて従っている貴族もいるのかね?


「む…、分かったわ。でも、それなら、派閥の貴族もちょっと止めた方が良いわね。恨みに思われるような取引はしたくないわ」


 お父様のご威光を使うのは嫌いなようで、ティーナはあっさり言う。


「ですが、そうなると、取引相手が極端に少なくなりますが」


「いいのよ。足りないようなら、またリストを見直すわ」


「は」


 結局、その日は夕食までティーナに付き合い、領主の仕事を手伝った。

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