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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十章 子爵家の家臣

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第十二話 アルカディア女王との謁見

2016/11/25 若干修正。

 大亀を封印して街に戻った俺達は、一応、冒険者ギルドに報告はしてからロフォールへ帰ろうかと思ったのだが。


「えっ! じゃあ、あなたたちがあの伝説のマグマタートルを倒したのですか!」


 ギルドのお姉さんが大きな声を出して驚いているが、んん? 伝説の?


「どういうこと? 伝説って」


 リサが渋い顔で聞く。

 別に情報収集の担当者と決めているわけでは無いのだが、意識の高いリサとしては、情報の聞き漏らしがあるとプライドに関わるのだろう。


「ええ、この街には古くからマグマタートルの言い伝えがあるんです。岩山のように大きなマグマタートルが、ずっと昔に暴れ回って、勇者とその仲間達が苦労して倒して封印したんだそうです」


「前にも暴れた奴だったのかしらね? その割に、封印はされてなかったんだけど」


「別口かもしれんなあ」


 ミネアが言う。


「だが、封印した後で火山が噴火して封印が崩れたり、風化して崩れる可能性もあるな」


 俺が言う。俺達が封印したあそこも、火山の火口に近いから、完璧では無い。溶岩で蒸発してくれればいいが、炎耐性がある魔物だし。


「火山の噴火はどうしようも無いですけど、ええ、後でギルドとしても調査隊を組んで状態を確認する事となると思います」


「ま、後は任せるわ。やれるだけのことはやったし、そう簡単に、一年や二年で崩れるような柔な作りにはしてないから」


「はあ…」


「ま、俺の予想では、五十年は固いな。上手く行けば千年行くかも」


 石の変形だからな。数万年は変質しないかもしれない。地下に埋める方式だったから、上を溶岩が流れたくらいでは、あの封印は解けない。火口からも少し離れているし。


「そ、そうなんですか。あっ! 上に報告して、報酬を用意しますので、少しだけ! 少しだけ、お待ち下さい」


 ギルドのお姉さんが慌てて言う。


「別に、報酬は要らないわよ」


「いえ、そうはいきません。あんな大物を倒したんですから。討伐隊を組む前でこちらも費用が浮きましたし」


「討伐隊?」


 話を詳しく聞いてみると、俺達が戦う直前にあの大亀を目撃した冒険者がいたようで、すでにギルドには報告が行っていたようだ。

 サイズの嘘をつかなくて良かったねー。

 大きさから大変な事態だと判断し、王宮も動いて、緊急の討伐部隊が編成されている真っ最中だったらしい。

 結構、大事になっていた様子。


「となると、このまま黙ってハイさようならとは行かないわね」


 リサが言うが。別に、悪いコトしたわけじゃ無いし、とんずらこいても、どこの誰だか―――ああ、クレアの名前がバッチリ刻まれちゃってるよ。失敗したね。


「ニャ! まさか、また謁見ニャ?」


 リムが警戒するが、こういうときは勘がいいな。


「えっ! 王様と会えるの!?」


 ミミは謁見の大変さを知らないから期待にキラキラ目を輝かせちゃってるが。

 ま、いい機会だ、教育のためにも、謁見に参加させてやるか。ふふふ。


「私は遠慮したいんだけど…」


「ダメよ、エリカ。きっと冒険者一行と言うことで呼ばれると思うし」


 ティーナが言う。


「私、このパーティーに入った覚え無いのに…」


「ええ?」


「今更ね。まあ、別に抜けたいなら、いつでもどうぞ。誰も止めないわよ」


 リサが言い放つが、本気にして出て行ったらどうするんだと。


「む…フン」


 俺をチラッと見てから目をそらすエリカ。何なんだ。

 俺に止めて欲しかったのかね? でも、絶対俺が言うと、なんか言い返してくるだろ、お前。


「もう、そんなわけ無いでしょ。エリカがどうしても抜けたいって言うなら話は別だけど、私は一緒にいて欲しいから」


 ティーナが言う。


「し、仕方ないわね。そう言うことなら、いてあげてもいいわよ」


 おおう、完全にツンデレのエリカだ。貴重だなあ。顔を赤らめつつ腕組みしてツインテールの金髪を揺らすエルフ。


「じゃ、もういいか? 宿に先に戻ってるぞ」


 面倒事はお前らに任せたと言わんばかりにさっさとレーネが帰ってしまう。まあ手続きにそう何人も要らないけどね。




 その一週間後、俺達は王城に呼ばれ、アルカディアの女王と謁見する運びとなった。

 面倒臭いなあ、と言うのが正直な気持ちだが。


「良く来た。楽にしていいぞ。まあ、そこに座れ」


 広間では無く、応接室での面会。うるさ型の貴族や大臣もおらず、少数の護衛とお付きの部下が一人だけだ。

 女王が着ている服もガウンなどでは無く、オレンジに染めた動きやすそうなタイトな絹の服で、普段着と言った感じ。ミニスカだ。足を組んでいるが、その健康的な太ももの視線吸引力がハンパない。

 予想していたのと全然違う形式だったので、俺達はちょっと面食らう。


「陛下、あまり崩されても、皆が驚いております。おそらく、この者達はミッドランド国王と面識があるはず」


 お付きの部下が言う。


「そうか。まあ、向こうは向こう、こちらはこちらのしきたりがあるからな。今回は無礼講でやらせてもらうぞ?」


 そう言った女王は、まだ若い。と言うか、俺達と同い年か、下手したら年下かも。

 ワインレッドの深みのある赤い髪をセミロングにし、黄金の細い冠、サークレットを額にはめている。笑顔を浮かべ明るい性格の印象だ。細腕だからそれほど武人という印象では無いけど、雰囲気はレーネに近いかな。

 

「え、ええ。ご自由に、いえ、構いません」


 ティーナがどう答えた物かちょっと迷った。


「別に不敬だのなんだのと文句を付ける気は無いから、リラックスしろ。と言っても相手が国王ではそうもいかんか。さっそく本題に入るが、マグマタートルのデカ物を仕留めてくれたこと、アルカディアの王として礼を言う。大儀であった」


「は、ありがとうございます」


 ティーナが代表して受け答え。


「古文書を調べさせたが、過去に二度、街を襲って大きな被害が出ている事が分かった。やはり、炎を吐いていたか?」


「ええ、頻繁に。動きが遅いため、攻撃手段はそれしか無いようです。数ターンに一度、ああ、こちらが何度か攻撃する間に―――」


「良い、私も軽い冒険の嗜みはあるのでな、冒険者の言葉ならよく知っているぞ」


 若き女王はそう言ってニヤッと笑った後、思案するように椅子の手すりに肘を突いて今度は真顔になる。


「しかし、数ターンに一度となると、回復が持たんな」


「ええ。こちらには優秀な薬師と司祭がいたので、それと、風の魔法でブレスを撥ね返しました」


「ほお、それは面白い。風の魔法か、なるほど、参考にさせてもらおう。弱点は氷か?」


「はい。ただ、あれだけの大きさとなると、氷の呪文でも倒せませんでした。傷が自然に回復していて」


 女王の問いにティーナが答える。


「む。それは厄介だな。なるほど、古文書でもなかなか倒せずに最後は封印という形を取っていたが、それで納得がいった。甲羅が硬いだけではなく、切っても切っても再生するわけか」


「はい。そこまで早い回復ではありませんが、戦闘中に切った傷が小さくなっていたようです。ね? レーネ」


 ティーナがレーネに確認を取る。


「ああ。私の付けた傷が、小さくなっていたからな。間違いは無い」


「そうか。ミース、お前なら、どう対処する?」


 女王が脇に控えた部下に問う。青髪のこちらも若い女の子。学者風の帽子をかぶっている。


「は、自然回復する傷に対しては、炎で焼くのが常道ですが、マグマタートルは炎に耐性が有り、氷しか使えません。術士の部隊を後方に配置し、交代しつつ相手が諦めるのを待つか、籠城しての持久戦かと」


「籠城はいいが、その間に街を荒らされては、意味が無いぞ」


「は。申し訳ございません。妙手となるとなかなか」


「まあいい、古代の王も難儀したのだ。そう簡単に片付けられるのでは、伝説にもなるまい」


「は」


「それで、褒美だが、どうだ? お前達、我が配下に加わるつもりは無いか? 領地もくれてやるぞ」


「陛下!」


 腹心の部下が怒っている様子だが…。ま、ティーナは断るだろうな。


「せっかくのお話ですが、私はすでにミッドランド国王ハイフリード十六世陛下から、領地を頂いておりますれば、過分にございます」


「ふふ、過分か。謙虚な奴だな。それとも警戒したか? まあいい、それならば、玉と金貨を受け取るが良い。金品なら多くあっても困ることはあるまい。どこの物でもな」


「は、それではありがたく」


 金貨を三袋、おそらく三百万ゴールドだろう。それに、宝石を三つ、四センチくらいの大きさの物をもらった。

 太っ腹だわ、この王様。お腹はきっちりくびれてるけど。


「ハイフリード殿にはよろしく伝えておいてくれ」


「御意」


「さて、どうだ、夕食の席にお前達を招きたいが」


「ええと…」


 ティーナがみんなを見るが。


「別に、断っても構わんぞ。ただの誘いだ。もちろん、無礼講でな」


「はあ…」


 ティーナが迷っているが、それも失礼だろう。


「ティーナ、参加希望者だけ、ってことで」


「ああ、そうね。では、手が空いている者だけ、いえ、ううん」


 ティーナが言い掛けたが、それも失礼な感じだ。


「ハハッ、いいぞ。お前達も忙しいであろう。そこは都合を付けろなどとは言わんから、好きにしろ」


 気さくな王様だし、細かいことは気にしなくても良さそうだ。脇の部下も慣れているのか澄まし顔のまま。


 リムとエリカが欠席することになったが、他は全員参加だ。


「では、旨い物を用意させた。好きなだけ食え」


 メイド達が料理皿の(クロッシュ)を一斉に取り払い、色とりどりの豪華な食事が顔を見せた。全体的に魚料理が多いが、リムは残念なことをしたな。


「あ、美味しい」


「ほう、これはなかなか」


「お…」


 焼き魚は塩がたっぷり掛けてあって、くそう、白ご飯が欲しいや。

 魚の煮付けは絶妙な味で、パンにも良く合う。


「どうだ、気に入ったか?」


「「「 はい! 」」」


「よし。我が国では、料理長は毎年選抜大会をやって切磋琢磨させているからな」


「へえ」


 料理人にとっては大変かも知れないが、励みにもなるだろう。

 ただ、うちでもやってみようか、とは行かない。

 大きな国でないと、料理人も集まらないだろうし。


「ミッドランドで旨い物があれば、持ってくるなり教えるがいい。いつでもお前達の好みの料理を出してやれるぞ?」


「それはありがとうございます。では、ユーイチ、ハンバーグなんかを」


「そうだな」


「ほう? そのハンバーグとは、何だ?」


「肉料理にございます。普通のステーキと違い、柔らかく、味もしっかりしています」


「よし、では、聞いたな、ミース。さっそく料理人達に作らせろ」


「は」


「あっ、ロフォール名物なので、こちらの料理人は知らないと思います」


 そのレシピを後で教えると言うことで納得してもらった。



「そうか、子爵は今年、もらったばかりか」


 雑談をして、冒険談の一端を披露したりもしたが、ここではまだ美少女仮面は活躍してないようでほっとする。


「ロフォールは何が取れる?」


「そうですね…特にこれと言った物は何も」


「なんだ、珍しい物が有れば、買ってやるぞ。鋼でも構わんが」


「はあ、そちらはちょっと。うちの領地では鉄はそれほど取れませんので」


「あ、陛下、こちらでは塩はたくさん取れますよね?」


 俺が言う。海の国と交易が出来れば、塩も安くなるし、ミッドランドの料理事情も改善されるはずだ。


「ああ、海があるからな」


「では、金か、パスタという珍しい料理の材料で交換と行きませんか?」


「乗った!」


 早いな。食いつきいいわぁ。


「ええ? ユーイチ」


「なに、心配するな。そちらの納得する値段で交換してやる。それと、間に行商を挟んでだな」


 女王は熱心だが、公平にやってくれる感じだ。


「ううん、やはり、お待ち下さい、陛下。我らは接部では有りません。接部大臣の貴族とは親しくしているので、話を通しておきます。それから、ということで」


 おっと、ティーナが待ったを掛けたが、役職と関わる話なのか。しくったわー。


「すまん、ティーナ、そう言えば、交易も接部の役割だったな」


 習ったけど、忘れてたわ。外交は接部と覚えているが、交易が抜け落ちていた。外交+交易=『接部』だな。現代日本で言えば、外務省+経産省って感じかな。


「ええ」


「そうか。それは、後で断らぬと受け取って良いのだな?」


「はい、少量であればおそらく」


「少量? つまらんな。まあいい。ミッドランドは内陸の国、とあれば、塩の交易は渡りに船と言ったところか、ミース」


 女王が部下に視線をやって確認を取る。


「は、多少ふっかけても、乗ってくるかと思いますが」


「おいおい、これから仲良くしようという相手に、ふっかけてどうするというのだ。公平だ、公平」


「は…」


 いい人そうに見えるが、今のやりとりは、ミースの演技に乗った形だろうな。他国の正式な使者でないにしても、貴族の前でふっかけるだの何だのと言えば、心証が悪いし、その程度のことを理解しない腹心でもないだろう。

 ま、ロフォールの街で売られる塩の値段より安く仕入れられればそれでいいけど。




 料理はまだまだたくさん残ってしまっているが、腹一杯になったので、頃合いを見て挨拶して宿に戻った。


「料理は旨かったニャ?」


「ええ。あなたも来れば良かったのに、リム。お魚、たくさんあったわよ」


 ティーナが言う。


「ニャ、ニャん…だと」


「まあ、また次も呼ばれる機会はありそうだぞ」


 可哀想なので言っておいてやる。


「ニャ! 行くニャ!」


「ふふ。すぐじゃないわよ、リム。じゃ、私は先にライオネルの叔父様に手紙を出しておくわね」


「ああ。悪いな。許可、出そう?」


 俺が持ちかけてしまった話なので成否は気になる。


「まあ、あまり大規模にやらなければ、大丈夫よ。どこがどれだけ取引をするかを管理するのがあそこで、まずい取引でも無いと思うし」


 ティーナがそう言うなら問題無さそうだ。

 すでに日が沈んだので、手紙を出すのは明日にして、眠る。


 翌日、朝食を終えて、手紙を出しに行こうかと思っていたら、俺達に客が来ていると言う。

 誰かと思えば、日焼けした精悍な商人、ロバートだった。ヌール子爵の魔の手からエリカ達を救出したときに世話になったが、割と大きな商隊(キャラバン)の会頭さんだ。


「どうも、お久しぶりです、皆さん」


 にこやかに笑うロバートは、いかにもやり手の商人という感じで、如才ない。


「どういうこと? アンタがどうしてこの宿を知ってたのか、そこをまず言いなさいよ」


 リサがバリバリに警戒してるが。


「私はアルカディアの女王陛下とも取引がありましてね。そのご縁ですよ」


「ふうん。じゃ、ティーナとユーイチに任せるわ」


「ううん。それで、ロバートさん、どう言うご用件ですか?」


 ティーナが気が進まない感じで聞く。


「ええ、ただ、ここではちょっと。立ち話も何ですから、私の店でお茶でもどうです」


「ええ。じゃ、そっちで話しましょうか。ユーイチも来てね?」


「ああ」


 女王陛下の口利きとなると、塩の件だろう。間に商人を挟むと言っていたし。


「第八章 第一話 ティーナをなだめる村長」で少し出てきた役職がまた出てきました。覚えなくてもいいように作中は描写していこうと思います。飛鳥時代の律令制を少しだけ参考にしていますが『接部』は私の勝手な造語です。


 国王   造幣、人事(領地)(外交)

 宰相   王宮、人事、宝物   …… 式部とも呼ばれる

 悪代官  税務(測量)     …… 民部 以下同様

 縦ドリル 財務、整備      …… 商部

 アーサー 外務(交易)     …… 接部

 アーロン 軍務、軍備      …… 兵部

 ティーナ 軍務、監査      …… 探部

 バルシアン 魔術        …… 星部

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