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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十章 子爵家の家臣

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第十話 引き連れ禁止

2016/11/25 若干修正。

 甲羅が直径十メートルはあろうかという巨大なマグマタートル。

 なかなか倒せないので、諦めて引き下がった俺達だが…。


「よし、回復は完了だ」


 離脱の際にブレスでダメージを負ってしまうのが問題だったが、しんがりを務めた前衛チームは手持ちのポーションや耐火性マントを上手く使って乗り切ってくれた。

 残りのダメージを薬草で回復させ、俺の報告にリサが頷く。フッ、戦闘中以外にクレアの出番は無いぜ。大魔法(グレートヒール)が使える人のMPは節約しないとね。 


「じゃ、とっとと見えない位置まで降りるわよ」


 火口から離れて、下へ向かう。途中、後ろを見たが、まだ大亀は姿を見せない。


「どうやら諦めてくれたようね」


「そうね」


 ほっとする。追いかけられたら面倒だった。


 いったん休憩を挟み、手頃な大きさのマグマタートルを一匹見つけて倒し、これでミミの甲羅クエストは無事完了した。後は山を下りてロフォールに帰るだけだ。

 山の中で野宿して、翌日。


「どうしたの、リサ?」


 山頂の方をじっと見ているリサに、ティーナが聞く。


「あそこに見えるの、あの大亀じゃない?」


 そう言って指差すが、俺にはよく見えない。


「ええ? む」


 ティーナは何か見えた様子。


「あ、ほんまや。あちゃー。降りてきてるな」


「ええ?」


「この距離で私達が見えてるとは思わないけど、どう思う、ユーイチ」


 リサが聞いてきた。


「ううん、下へ逃げたと思って、まだ探してるのかな」


 普通、途中で諦めると思うんだが。


「ん、目覚めてエサを探してるのかも」


 ミオが言う。

 モンスターが食い物が必要かどうかは議論の余地があるが、あのボス亀が下に降りてくるとなると、このまま麓の街へ向かうのはマズい。


「戦うしか無いようね。幸い、魔法チームのMPも全快してるみたいだし、ユーイチ、ポーションのストックは?」


 ティーナが聞いてきた。


「ああ、まだ七割残ってる」


「七割って…」


「あれだけ使ってか…」


 そこでドン引きするのもどうかと思うが。多い方がいいだろ?


「次から持つの半分にしなさいよ。動きが鈍るでしょ」


 リサが言う。


「いや、むう…持てる範囲で持ってるんだが」


「動ける範囲にした方がいいわ。鈍らない程度にね。じゃ、作戦を立てましょう」


 ティーナが言い、どうやって戦うかを入念に話し合った。相手の降りてくる速度は遅いので、この距離なら時間的な余裕は充分にある。


「罠に掛けるかどうかは別として、戦闘になった場合は、足場の確保できるところがいいわね。こことか」


 リサが言う。


「そうやね。広くないと、ブレスに備えた散開ができへんし」


「ええ」


「ん、そこは斥候して、ポイントを事前に決めておくのがいい」


 ミオが言う。


「分かった。じゃ、ミネア、それはアンタに任せるわ」


「了解。それじゃ、行ってくるな」


「気を付けてね」



「さて、次だけど、アレはまともに戦うより、やっぱり罠に引っかけたいところね。何か、良い案はない?」


 リサが言うが、同感だ。


「落とし穴なんてどうかしら?」


 ティーナが言う。


「いいわね。足止めすれば、色々と手も増えるでしょうし」


「だが、アレを落とすとなると、相当、掘らないといけないぞ?」


 レーネが懸念するが。


「ん、ゴーレムと(ウォール)使いの魔法チームがいれば、余裕」


 ミオが言う。


「そうね。じゃ、魔法チームにはそれをやってもらおうかしら」


「ん、じゃあ、さっそく。ここに作る」


 ミオとクロとエリカがゴーレムをまず、作り始めた。

 俺はもう少し作戦を考えてからにする。


「落としたところを氷系の持続呪文で攻撃か…」


「上から岩を落とすのはどうニャ?」


 リムが言うが、硬い甲羅がある上に、アレを潰せるような岩をどうやって動かせと。俺が扱える落石(ロックフォール)の呪文では直径五十センチの岩がせいぜい。魔術チームに得意属性の差はあれ、そこまでの実力の差は無い。レベルもほぼ同じだ。


「それは止めた方がいいわね。第一、どうやって岩を動かすのよ」


 リサもそこを指摘。


「それは考えてないニャ」


「じゃあダメね」


「ニャ」


「だが、意見は駄目元でいいから、ドンドン出してくれ。選択肢が多い方が、安心できるしな」


 言っておく。


「多い方が生存率が高くなるとか、勝てるなんて言わないところが、なかなかね」


 ティーナが微笑んでそこを指摘したが、作戦の数は作戦の質には直結してないからなあ。確率的な問題だ。


「魔法チームは、何か無いの?」


 リサが作業中のみんなに話を向けるが。


「フン、あればこんなコトしてないわよ。私、ゴーレム好きじゃ無いし」


 自分で電撃を放つのが好きなんだろうな、エリカは。


「ん、右に同じ。ゴーレムは好みじゃ無い」


 などと言うミオだが、こちらはただの冗談だろう。だが、作戦は思いつかない様子。


「申し訳ありません。私はあまりそう言ったことは苦手で…」


 クロが手を止めて言う。


「ああ、いいわ、クロ。あなたは他に向いてることがたくさんあるし。相手を陥れるような陰険なのは私やユーイチに任せておきなさい」


 いつもドライなリサだがクロには優しいからな。


「はあ」


 まだ納得行かなそうなので、俺も言っておく。


「作業、頼むぞ、クロ」


「はい、分かりました」


「扱いが上手いわね」


「可愛い妹分だからな」


「ふふ。それを聞いて安心した」


「甘いわよ、ティーナ。コイツのスケベ心は妹にも向いてるんだから」


「なっ!」


「い、いや、その話は今はいいだろ」


「今はって…むぅ、まあ、今は作戦だったわね」


「ああ」


「あ、そうだ、クレア、何か、アイツを浄化できる呪文とかない?」


 ティーナが、まるで俺を汚らわしいモノとして捉え、そこから連想で出てきたような発想だが。


「いいえ、それはちょっと無理だと思います。アンデッドでは無いですし……」


 クレアが残念そうに首を振る。


「結界とか、それも?」


 一応確認するが、あれは魔除けだからなあ。


「ええ、ごめんなさい。相手の動きを封じるような強い儀式や魔法は、私も知らないものですから」


「謝らなくていいわよ。ユーイチも手持ちの呪文で使えそうなのは、無いのよね?」


 ティーナが聞いてくるが。


「アイスウォールくらいだな。スリップはやってはみるけど、あんまり意味が無さそうだし。バインドも開発しておけばなあ」


 だが、あの大きさとなると、俺のレベルでは多分、束縛できないだろう。


「デスとか、窒息が使えれば良かったんだけど」


 作業をしていたエリカが言う。ま、それが使えてたら、彼女が華麗に決めてくれてただろうな。小さい方のマグマタートルを分析したときに、耐性があったので、ボス級の大亀も間違いなく無効化してくるだろう。

 エリカが使わないのだから、効く可能性はゼロだ。効く感じも全然しないし。


「じゃ、落とし穴に落として時間を稼いで、私達だけで倒せないようなら、麓の冒険者ギルドに応援を頼みましょう」


「そうね」


 リサがまとめ、方針は決定した。




「GHAAA!」


 量産型ゴーレムが、与えられた石のスコップを使って、土を掘り起こす。

 俺たち魔法チームもアースウォールで地面を柔らかくしたり、ストーンウォールで岩を持ち運び易いよう、変形させたり。

 この地形、ほとんどが岩と火山灰なんだよな。


「ティーナ、今、思いついたんだが」


「ええ、何?」


「倒せそうに無いなら、ストーンウォールで岩で固めて封印ってのはどうかな?」


「ふふ、さすがユーイチね!」


「なるほどね。でも、それって……」


 リサが、何か引っかかるのか、言い淀む。


「ん、伝説級の大魔導師や大司祭のやってきたこと。アレは封印するしか無い強敵」


 ミオがわざとだろうが大袈裟に言う。


「待て待て。俺達に倒せないだけであって、勇者とか、ザックさん辺りなら行けると思うぞ」


「ん、そこは黙って伝説を作る。封印さえしてしまえば、解いて確かめる不届き者は出てこない」


「うわあ…」


 まんま、詐欺だな。


「それはどうかと思うけど、街に被害は出せないし、ううん、レベルは確かめておきたいわねえ」


 ティーナが腕組みして自分の口元に手をやる。


「確かめる方法、あるの? レベルが高い奴や、ボスは無理なんでしょ?」


 リサが俺に聞く。


「ああ。多分、ダメだろうな。まあ、何度かはやって確かめておくが」


「ん、レベル不明の方が真実味が出る」


「ちょっとミオ、話は作っちゃダメよ」


 不正が嫌いなティーナが真面目に諭すが。


「ん、事実しか語らない。都合のいいところだけ編集して」


「もう…」


「ま、それくらいはいいでしょ」


 かくして、あの吟遊詩人イシーダが喜びそうなネタだなあと思いつつも俺達はひたすら穴を掘り続けた。

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