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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十章 子爵家の家臣

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第二話 水の都、アッセリオ

2016/11/24 若干修正。

「そろそろ関所や」


 ミネアが言い、門と兵士が見えたので緊張する。

 ここからはトリスタン王国の領土。

 ミッドランドの関所もすでに通っているが、ティーナが子爵、俺が上級騎士なので、身分証の紋章さえ見せれば、完全にフリーパスだ。他にも冒険者、行商、狩人も国境から外に出る分にはタダで出られるという。ただし、平民と奴隷はそうはいかない。用向きを証明できるモノが無いと出国も認められない。年貢逃れを防ぐためだ。

 つまり俺は盗賊団に加入するとき、関所を通らずに森を通ってスレイダーン王国からミッドランド王国に入っていたので密入国したことになる。…内緒だ。


 関所では、大きなリュックを背負った行商が二人と、荷車に壺を載せた男、それに茶色いローブの夫婦が順番を待っていた。


「よし、行っていいぞ」


「ありがとうございます」


 チェックと関税はスムーズに進んでいるようだ。


「ティーナ、揉め事は…」


 前にこれで冷や汗を掻いたことがあるので事前に注意というか、お願いをしておく。


「分かってるわよ。ここから先は私の地位もあんまり通じないし、下手なことはできないわ」


 トリスタンの関税は子爵が銀貨一枚、上級騎士が大銅貨二枚、その他の冒険者は小銅貨一枚と割と安かった。

 兵士も丁寧で笑顔を見せていたし、アルカディア王国への道を教えてくれるなど親切。


「うん、やっぱり兵士はああでないとね」


 ティーナがにこやかに言うが、ミッドランド王国ってDQN国家だったりするんだろうか?

 ううん…ま、気にしても仕方ない。

 村長としてはせめてセルン村の兵士が変な事しないようにだけ、注意しておくか。とは言え、ケインも村人に対して気さくで親切だったから、大丈夫だろう。

 出発前、彼は騎士らしく俺達の護衛について行くと主張して粘ったが、ティーナが冒険者としてのお忍びだからと認めなかった。

 ま、護衛と言えども兵士をぞろぞろ連れて行くと、冒険と言うより視察みたいになっちゃうし、他国に兵は連れて行けないよね。外交は別だけど。


「そう言えば、リムはここの出身なのよね?」


 ティーナが話を向ける。


「ニャ? でも、あちしはこの道、知らないニャ」


「そう。どこからミッドランドに入ってきたの?」


「ん? さあ? 覚えて無いニャ」


「さあって…」


 ティーナががっくり来ているが、コイツに計画性なんてないし。適当に魚を探してぶらつきながらやってきたのだろう。その辺の野良猫みたいなもんだ。

 多分、密入国だろうな。深くは突っ込むまい。


 少し歩くと、道が南と合流して東に続いており、南側の道からは石畳が敷き詰めてある。石ころさえなければ歩きやすさはそう変わらないのだが、雨の日にぬかるまないで済むのだろう。

 左右は森で他には何も無い。


「道が良くなってるわね。街の外なのに石畳なんて…」


 リサが渋い顔になったが、王都や侯爵領の街中でしか見ない舗装だもんな。


「ふふ、街を見たら、もっと驚くんちゃう?」


 ミネアが悪戯っぽく笑うが、発展した街が有りそう。


「へえ、それは楽しみね。ミネアはこの辺に詳しいんだ?」


 ティーナが何気なく聞いたのだが、ミネアはちょっと困った顔を見せた。


「あー、うん、詳しいって程でもないんよ。一度、立ち寄っただけやし」


「そ。レーネは?」


「私は北の人間だからな。ここに来たのは初めてだ」


「北? ハイランドとか?」


「ああ」


「一年中、雪に覆われてるって聞いたけど、ホントなの?」


 リサが質問する。


「北の山には万年雪が残ってるが、夏は普通に歩けるぞ」


 夏限定となると、寒そうだし生活が大変だなぁ。俺はそんなところ行きたく無いし住みたくも無い。


「それで…む、馬車ね」


 後ろから馬の蹄の音が聞こえてきたので、皆が寄って道を空ける。


「どうも! むっ!」


 俺達に笑顔で挨拶して通り過ぎようとした御者が慌てたように馬車を止めた。


「どう! どう!」


 何か絡まれるのかと緊張したが、相手は商人だろう。ターバンは巻いていないが、馬車には装飾も無い。


「こ、これは失礼を。貴族様とはつゆ知らず」


 血相を変えている御者だが、相手が貴族でどかせたとあらば、タダじゃ済まないんだろうな。


「ああ、私達は平民だから、気にしなくていいわ」


 ティーナが苦笑してひらひらと右手を振る。


「え? しかし…」


「お忍びだ、お忍び。気を利かせてさっさと行け」


 レーネが追い払うように右手を払う。


「わ、分かりました。はいやっ!」


 何もそこまで急がなくてもと思うのだが、この世界の階級差はいかんともしがたいからなあ。


「ううん、悪いことしちゃったわね」


「そう思うなら、その白マント、止めなさいよ。目立って仕方ないわ」


 リサが言う。


「むっ。これは、気に入ってるんだもん」


「白はいいですよね」


 クロがティーナを擁護するが、マリアンヌに騎乗しているからな。この白いクーボはすでに俺より大きく、すっかりクロに懐いている。

 クロの膝に後ろから頭突きをしたときは焦ったが、背中に乗ってもらいたかっただけのようで、ジーナ大ババ様がそう教えてくれた。


「クエッ」


 マリアンヌが可愛らしくない声を上げる。


「一番目立ってるのは、そこの黒いのだと思うけど」


 エリカが言うが、そんなに俺は目立ってないよね?

 貴族にも見えないだろうし。


「ユーイチも白いローブにしない?」


 何度目かのティーナのお誘い。


「嫌だよ。クレアがいるから聖職者に見えちゃうだろ」


 クレアは金の錫杖を持って白いローブだから、どこから見ても聖職者。にっこり微笑む彼女は、見た目と裏腹に、時々アグレッシブな誘惑で俺をからかっている。


「別にいいでしょう」


「そう思うなら、ティーナが黒マントにすれば、ネクロマンサー一味になるぞ」


「冗談。あっ、見えてきた!」


 道を少し曲がって森を抜けると、街が見えてきた。石のブロックで二メートル近い塀が組まれている。

 横幅の端はどこまであるのか、ここからではちょっと見えない。


「ニャ、大きな街ニャー。魚が楽しみニャ!」


 これだけ大きな街なら、魚も種類豊富だろう。水場が近ければの話だが。


「あっ、ちょっとリム」


 我先にと駆け出したリムだが、門番の兵士がいるからトラブっても知らんぞ。


「水の都、アッセリオにようこそ!」


 だが、門番の兵士は笑顔でそう言った。何だろう…これこそが有るべきRPGの世界だよな。

 奴隷からスタートって…ひんひん…。


 入場料は無料だそうで、冒険者カードの提示だけ求められた俺達はすぐ中に入ることができた。


「あ、凄い、街の中に川が!」


 真ん中に水路が有り、アーチ状の石橋が左右の道を繋いでいる。水路は横幅四メートルと言ったところか。その水路の上には小舟が行き来しており、長い棒を持った船頭が客を乗せている。

 潮の香りはしないので、川の水なのだろう。

 まあ、観光地にありがちなアレだね。これで水の都って言い切っちゃうのもどうかと思うが。 


「ははっ、これで驚いてちゃダメダメ、この先に行くと、水の都の意味が分かるよ」


 ベレー帽をかぶった子供が笑って言う。


「行ってみましょ!」


「応ニャ!」

「うん!」

「そうだな」


 ティーナやリム、ミミ、それにレーネが駆け出す。

 若者は元気じゃのう…。


「お姉さん達は行かないの?」


「別に私達は観光に来たわけじゃ無いし、他を当たりなさい」


 リサがあっちに行けと手を振る。


「そう言わずに。冒険者でも宿くらい、必要でしょ?」


「宿の看板くらい、すぐ見つけられるし、案内は要らないわ」


「いい宿かどうかまでは知らないよね?」


「それくらい、目利きは出来るっての。しつこくすると詰め所に突き出すわよ」


「ちぇっ、はいはい、分かったよ」


 少年は諦めたらしく、肩をすくめて歩き去って行く。


「なるほど、案内料で小遣いを稼いでるのか」


 商魂たくましい奴だな。


「大きな街になると、必ず出てくるわね、ああいうの。じゃ、私達は先に宿を見つけましょう」


 宿はたいてい、大通りか街の入り口近くと相場が決まっているので、迷う事も無い。


「ちょっと値段を聞いてくるわ」


 立派な宿を見つけ、リサが中に入っていく。


「じゃ、うちも向こうの宿、値段聞いてくるな」


 ミネアも向かう。


「ねえ、みんな、凄いわよ!」


 ティーナが興奮気味に戻って来た。


「家が水の中に有るニャ!」


「そうか」

「へえ」

「ふふ」


「ええ? それだけ? ちょっと来てみなさいよ」


 俺の手を引くティーナ。


「いや、行くから引っ張らないでくれ」


 付いて行ってみると、なるほど、確かに水の中に家がずらっと建ち並んでいる感じ。


「え? これ、どうやって家に入るの?」


「そう思うでしょー」


「裏側に入り口があったニャ! 船頭、こっちニャ!」


 別にわざわざ回り込んで見に行かなくてもいいのだが、呼んでしまった物は仕方ない。

 おっかなびっくり船に乗り込み、座る。


「ここの深さは…」


「心配すんな。立てば顔が出るくらいだ」


 船頭が答えてくれた。

 落ちたらパニックにならないようにして立とう。でも、ローブは水を吸って危険だろう…。


「心配性ねえ」


「ニャハハ、いつもの事ニャ」


 さすがにアクアとマリアンヌは乗れないので、その場に置いていく。


「キュー…」

「クー…」


「ごめんなさい、待っててね」


 クロが言う。


「いい子にしてるのよ!」


 ミミも言う。


「キュッ!」

「クエッ」


 理解したようだ。こちらは動き出したので船の縁をしっかり掴んで落ちないようにしておく。

 泳ぐ季節じゃねえし。心臓麻痺とかになったらしゃれにならん。ああ、準備運動しとけば良かった。ライフジャケットも着てないし…。


「こうやって街を移動するってなんか楽しいでしょ?」


 ティーナが俺に聞いてくるが。

 

「うーん、なあ、これ、無料?」


「む。小銅貨一枚だって」


 高っ! 一回十ゴールドかよ。


「たまにならな」


「うん」


 船頭は器用に石壁を棒で押したり、底を押してゆっくりと移動。


「ほら、こっちが入り口よ」


 家の前に通路がちゃんとあり、そこから出入り出来るようになっていた。ま、当たり前だな。


「でも、雨が降ったら、増水してまずいんじゃ…」


「この辺りは雨はそんなに降らないよ。増水しても、船なら行き来は問題無いさ」


 船頭が答える。大荒れの天気でなければ、船も浮かんで問題なしか。


「下水とかは…」


「ちょっと、ユーイチ、なんでそう言う話ばっかりするの?」


「いや、気になるだろ?」


 村長として。


「ええ…?」


「ふふ、安心しな。下水道はちゃんと別に水路があるんだ。この水路は綺麗なもんさ。飲み水も別だぞ」


 む、上下水道が完備とか、この街は相当、進んでるな。

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