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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十章 子爵家の家臣

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第一話 活火山へ出発

2016/11/24 若干修正。

 アンジェが視察を終えて帰った後、セルン村としては、しばらく暇になった。

 十一月に入り、そろそろ雪がちらつくそうだ。

 村人の冬着や暖房が心配だったので、風車の建築を中止し、ヴァネッサには村人達の家を作ってもらうことにした。

 竪穴式住居は立て掛ける粗末な板がドア代わりで、どう見ても断熱構造では無いし。


 俺やクロやエリカ、それにゴーレムも総動員して、石造りや木造の家を作った。さすがに、二階建て三階建ては手間が掛かるし、技術的に難しいので今回は止めにしたが、冬場を乗り切れる暖炉付きの家に村人達も喜んでいた。

 冬着も街で毛皮や木綿の服を買い、足りない分はラインシュバルトから送ってもらった。

 服はフリルの付いていない平民用なんてやたら安い。


 しかし、それすら買えていなかったセルン村は、本当に貧乏だった。

 ビッグシルクワーム…蚕のデカい奴を飼い、絹糸が取れるようになっているので、これからは金に困ることも無くなっていくと思われる。


 あと、織物職人のメアリーが求人に応じてやってきてくれた。

 金髪美人のお姉さんだ。

 が、織機の作り方は知らないと言う。

 布と糸があれば服を作れると言うので、木綿の布と糸を買ってやり、それで適当に服を作ってもらうことにした。

 絹糸で作ってもらってもいいのだが、そんな高級服は作れないし、村人が着るなら木綿でしょとメアリーが言うので、それに従っている。


 でも、やっぱり織機も欲しい。

 いずれ作ってみようと思うが、その前に、ミミが溶鉱炉を要望しているので、東の火山へ向かうことになった。

 あんまり気は進まないのだが、ティーナが話を聞きつけてしまったし、チッ。


 目指すは東のアルカディア国にあるサラマン山だ。

 移動するだけで片道一ヶ月もかかる遠出だ。

 領主が二ヶ月も留守にしていいのかと俺は問うたが、


「リックスがいてくれるし、冬場はすることも無いのよ」


 とティーナはあっさりと。

 冒険好きのお館様にも困ったものだ。


「冒険なんて大っ嫌いだーっ!」


 日が暮れてきたし、少し肌寒いし、夕日に向かって叫んでみた。

 すでに俺達のパーティーはサラマン山に向かって移動中である。


「じゃ、パーティーから抜けていいわよ。村長も代理を立てればいいし、こんな騎士、除名にしてやりなさいよ」


 と、リサが恐ろしいことを言い出す。


「か、軽い冗談、冗談だから」


「ごめんね、ユーイチ。あなたがモンスターのいるところを嫌ってるのは分かってるけど、魔術士としてのあなたの力量も買ってるから」


 ティーナが言うが、魔術士も俺一人じゃないんだし、無理に連れて行くほどのことも無いと思うんだが。


「それに、溶鉱炉ー!」


 むう、ミミが言うし、仕方ないな。


「分かったよ、ミミ。色々、作ってくれてるしな。でも、お前、家に帰らなくて寂しくないのか?」


「みんながいるから大丈夫だよ。それに途中、ラジールにも寄るんでしょ?」


 東へ向かうので、ミミの実家にも寄る予定だ。


「ああ、そうだ」


「おっとうとおっかあにも色々、村でのこと教えてあげないとね! それに、溶鉱炉の作り方もおっとうに聞いておかないと!」


 元気な九歳である。しかもかなりしっかりしてるよな。

 

「キュッ!」


 もう一匹、アクアがミミの側を離れようとしないので、仕方なく連れてきている。ミミも自分が使う溶鉱炉を見極めたいらしく、留守番するつもりは無いと言うし。


「アクア、大トカゲ(ロドル)は返事なんてしないんだから、気を付けろよ」


「キュー」


 分かってると言いたげに、しかし、返事をするアクア。大丈夫かな。今は周りに俺達しかいないから良いんだけど。


「心配しなくても、アクアは私達の言うこと、分かるみたいだし、この色なら大丈夫よ」


 ティーナが自信ありげに言うが、俺は心配だ。一応、黒く染色できる草の実を見つけていたので、それを使ってアクアの色を水色から黒色に変えている。

 ただ、大トカゲ(ロドル)とはやっぱり違う。形、特に顔の辺りが、ドラゴンなんだよなあ。


「キュッ!」


「退治とかされなきゃいいが」


 ドラゴンスレイヤー願望の冒険者に見つかったり、ドラゴンの素材を集める錬金術師や商人、盗賊、ううん…。


「そこはしっかり私らが守ってやるさ。な? アクア」


 レーネが言うと、アクアも安心だというように返事をする。


「キュー」


「でも、バレたら、騒ぎになりますよね…」


 クロが心配そうに言う。白い大鳥(クーボ)、マリアンヌの背中に乗っている。クロが乗りたかったわけでは無く、レーネがマリアンヌに乗って遊んでいると、マリアンヌがクロも背中に乗せたがり、ほぼ無理矢理である。

 最初は涙目だったクロも、ようやく高さに慣れたようだ。


「その時はその時だ。逃げればいいだろ」


 レーネは簡単に考えているが…。


「とにかく、最初は白を切り通して、ロドルで行くわよ」


 リサが念を押す。


「分かってるニャ。アクアはドラゴンじゃ無くてロドルニャ!」


 コイツが一番不安だな。


「リム、アンタはそんなときは黙ってなさいよ?」


 リサも半ば諦めたようにため息交じりで注意した。


「ですが、竜を従えている竜騎士もいます。普通の竜だと言えば、大丈夫ではないでしょうか」


 クレアが穏やかに微笑んで言うが、それでも結構、注目を浴びる気はするね。

 面倒な事にならなきゃいいけど。




 王都には寄らず、街道を東へ東へと移動し、九日ほどでラジールの炭鉱町に到着した。


「おっかあ!」


「ああ、ミミ、お帰り」


 母親に抱きつくミミは、やはり子供だ。


「元気にしてたみたいね、ミミ」


「うん! あのねあのね、たくさん、道具や調理器具を作ったんだよ!」


「へえ、やるわね。ああ、皆さん、お茶を入れますね」


「いえ、お気遣い無く」


 ミミの母親とも話してみたが、最初は、セルン村に二日三日ほど遊びに行くという認識だったらしい。父親のダルクは違ったようだが。


「本当にいいんですか?」


 ティーナが確認する。いくらこの世界の成人式が十五歳とは言え、ミミはまだ九つ、独り立ちするには少し早すぎる。


「ええ、ミミが嫌で無ければそれでお願いします。私も木工職人として奉公に出たのは子供の頃でしたからね。いつでも会いに来られるんだし、手紙もありますから」


 ミミの心配はしているようだが、自主性を重んじる教育方針のようだ。

 ま、これで幼女誘拐などとおかしな事件に発展せずに済む。

 返す返すもドワーフ体型なのが残念だ! くっ!


 夕方、ダルクが帰ってきた。顔が赤いし、少し飲んできたようだ。


「おっとう!」


「おお、帰ったか、ミミ! 上手くやってるようだな!」


「もちろん!」


 声がデカいのは父親譲りか。

 性格まで父親に似ないか、ちょっと心配です…。


「ええ、ミミが鍋や包丁の手入れをしてくれるので、助かりますよ。ちょうどいい器具も作ってくれてるし」


 俺がセルン村での様子を聞かせてやると、ダルクは満足そうに頷いた。


「おう、やっぱり鍛冶師の娘だな。生まれたときから筋はいいと思ってたんだ!」


 何かをつつかせてそう思ったならともかく、生まれた瞬間からだと単なる親バカだ。

 それはおかしいと突っ込むのも野暮なので笑って黙っておく。


「ん、それはおかしい。赤ん坊の腕の良さなんて分からない」


 ミオ、空気は読もうな。


「いやいや、分かるってもんよ。コイツは、光り物を見せるとぴたっと泣き止んで喜んでたからな!」


 それはダルクが自分の作った道具を自慢げに見せたからだろうと思うのだが、小さい頃から興味を持って英才教育を受けるのはちょっと羨ましい。


 ジャガイモとソーセージの煮込み料理をたらふくご馳走になり、ジャガイモは村に植えてみようと思ったので、帰りにもらって行く約束をした。


「じゃ、いいな、一番デカいのを持って帰るんだぞ! ミミ!」


「分かってるよ!」


 一泊しただけで、ラジールの街を後にする。別に急ぐ旅では無いのだが、ミミは一日も早く溶鉱炉が欲しいようで、みんなを急かしている。



「ミミ、ダルクさんはああ言ってたけど、大きいマグマタートルは強いと思うし、俺は使いやすい手頃なのが良いと思うぞ。運ぶのも楽だし」


 一番デカいと限定されると、見つけるのに苦労しそうなので、方向性を変えようと示唆しておく。


「ヤダ! 一番大きいのじゃないと、大きな道具、作れないし。大は小を兼ねるって言うでしょ!」


 むむ、割と考えてるし、ちゃんと理由があったんだな。


「いいじゃない、子供の夢を潰そう潰そうとしてるアンタは見苦しいわよ、ユーイチ」


 リサが突っかかってくるが。


「むぐぐ、別に潰そうとしてるわけじゃないぞ…」


「キュッ! キュッ!」


 マグマタートルなんかボクがやっつけるよ! と言う感じで意気込むアクア。

 健気で可愛いけど、お前はあんまり強く逞しくなって欲しくないのよ。

 間違ってもレベルは上げさせないようにしないとな。


「いいか、アクア、お前はミミを守るのが仕事だから、モンスターを倒すのは俺達に任せておくんだぞ」


「キュッ!」


 チョロい。


「そうね。ミミとアクアとマリアンヌは、レベルが低いし、前に出ちゃダメよ?」


 ティーナが注意するが、もう三回目だ。


「もう、分かってるよ! でも、甲羅選びは私にやらせてね!」


「ええ。それは任せるわ」


 ここまでの道中、モンスターは何度も出てきているが、今のレベル37の俺たちの敵では無いので問題は無かった。

 ただ、マグマタートルはそれなりに強いと聞いたので、油断はできない。

 行商のルキーノは、ドラゴンと比べたら全然弱いなどと言っていたが、ドラゴンと比較してる時点で参考にならない。そう思って調べたら、やはりレベル30はないとキツイ相手だと分かった。


 レベルは適正だと思うが…。


「ユーイチ、心配せんでも、大丈夫と思うよ?」


 ミネアが俺の表情に気づいて気遣ってくれた。


「そうよ。私のデスで一撃で仕留めてやるわ」


 エリカが言うが、まあ、一発か二発で効いてくれればいいんだけどね。

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