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異世界の闇軍師  作者: まさな
第九章 料理の魔術士

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第九話 乳搾り

2017/2/12 後書き追加。

 乳牛を一頭買い上げ、さっそく牛舎も作った。ストーンウォールで。

 ヴァネッサに木造でやってもらっても良かったかも知れないが、麦倉も作ってもらってるからね。


「アクア、マリアンヌ、今日からお前らの新しい仲間、牛のハナちゃんだ。仲良くするんだぞ? 食べたり攻撃するのは駄目だからな?」


 早めに紹介しておかないと、万が一もあり得るので、ドラゴンのアクアと、クーボのマリアンヌに乳牛を紹介しておくことにする。 


「キュッ!」

「クエッ!」


 二匹とも、分かってるもん! 馬鹿にしないで! と言う感じで返事をするが、当てにして良いものか…。


「それにしてもマリアンヌ、お前、あっという間にデカくなったなあ…」


「クエ?」


 この間、卵から孵ってよちよち歩きだと思ったのに、もう大きさは一人前だ。俺よりデカい。二メートル近く有り、人も乗せられる。

 アクアの方も、こんな感じで成長するのかね。クーボはこの大きさで止まってくれるはずだが、古代竜って多分、成体は山のようにデカいはずで…。


「マリアンヌはたくさん食べてたものね! アクアもしっかり食べて追いつかないと」


 アクアの飼い主であるミミがそんな事を言っちゃうが。


「キュッ!」


「いや、ミミ、アクアを急かすのは止めてくれ。ドラゴンとクーボは成長の早さが違うし、アクアも急にデカくなられるとなあ…」


「大丈夫だよ。アクアは賢いし、優しいもの!」


 ううん、子供の純真さを否定するのは辛いんだが。ミミもドラゴンについて詳しいわけじゃないし。


「問題を起こせば、村長としても上級騎士としても厳しい対応を取る。それは忘れるな」


「ええ? ユーイチのバカ…」


 ミミが怒っちゃった。とほほ。


「私は、大丈夫だと思います」


 クロもそう言うが、まあいいだろう、問題は今のところ起きてないんだから。


 ネルロ達にも紹介し、乳牛にストレスを与えないよう、近くで怒鳴ったり、触ったりしないようにと、村人達に簡単な注意事項を伝えておく。

 せっかくの乳牛に病原菌を移されたら敵わんし。


 ハナちゃんは、俺の設定した放牧地帯で草をモグモグと食い始めた。水桶を側に置いてやり、しばらく見張っていたが、逃げる様子も無い。

 これなら柵は要らないな。


 夕方、牛舎にハナを連れて行き、藁を食べさせつつ、俺はハナのお腹の下に桶を置いて、乳搾り。

 最初はちょっとずつしか絞れなかったが、熟練度がすぐに上がり、一時間もすると良いペースになった。牛乳も桶二杯分、取れた。

 それを壺に小分けして入れ、一つずつ、順にゴーレム電気コンロの上に置いて暖めて殺菌する。65度で30分もやればいいだろう。牛乳が膜を作らないよう、低温殺菌だ。温度を知る呪文も難なく開発できた。

 水の沸騰が100度、氷になるのが0度、体温が36度と確認も取った。摂氏だ。


 やはり、食い物が懸かると、開発のスピードと精度が違うぜ!


 が、しかし、牛乳が40度を超えると膜ができてしまう。


 殺菌の温度を下げるか……?

 いや、安全が第一だ。膜は取り除けば良い。そう思って次の壺をかき混ぜながら暖めると、膜が出来なかった。


「なるほど、かき混ぜながら暖めればいいわけか。よし、じゃ、そっちは飲んで良いぞ、クロ」


「あ、いえ、待ちます」


 俺の作業が終わるのを待つようだ。暖かいうちに飲んだ方が美味しい気がするけどね。まあいい。最後に殺菌した壺の牛乳を柄杓で掬ってマグカップに注ぎ、二人で飲んでみる。


 さて、お味は…。


「おお、なんだこれ、うめぇー!」


「美味しいです!」


 取れ立て新鮮だからか、日本のスーパーで売ってる牛乳よりも美味しい。

 柔らかい甘みと、ミルクの良い香り。


 ネルロやベリルもやってきたので、飲ませてやる。


「うお、うめえな、おい」


「ホントだ。これ、本当にユーイチが絞ったの?」


「ああ、そうだ。別に、俺が絞ろうが誰が絞ろうが、味は変わらんぞ」


「「 お代わり! 」」


「いいけど、一人、三杯までな」


 止まらなくなる美味しさなので、制限を掛けておかないと、ここにいる人間だけで飲み尽くしてしまいそうだ。


「ええ? ケチ」


「他のみんなにも飲ませたいし、これから毎日飲めるぞ」


 ニヤッとして言ってやる。


「「 やった! 」」


 ティーナ達の分の壺をロドルの荷台に載せ、残りはアイスウォールで氷を置いた即席冷蔵庫に収めておく。

 もちろん運搬時にも、壺の周りにアイスウォールの氷と、さらに布で覆って、温度管理はしっかりしておく。


「ん、これはいつものより美味しいわね」


「旨いニャー!」


 ティーナ達も喜んでくれた。



 翌日、セルン村にやってきて、まずは牛の乳搾り。


「むう、何頭か飼うつもりだったけど、一頭だけで充分かもしれないな…」


 一人コップ一杯を毎日飲むとしても、十数リットルあれば足りる。

 乳搾りは、今は大変だが熟練度も上がってくるし、専属の村人も付ける予定だ。風車で製粉も自動化すれば、村人もかなり手が空いてくるはずだし。


 充分な量が取れるなら、チーズ作りなど、乳製品を村の特産として頑張ってみるのもいいかも。

 ま、焦って牛を増やしても危険だ。まずは牛の世話を一年くらいはやって、慣れておかないとな。

 どんなトラブルが出てくるか、素人の付け焼き刃ほど怖い物は無いし。


 藁を入れ替え牛舎の掃除を終え、ハナを外に放牧する。


「ゴーレムA、ハナが一定範囲から出たら、咆えて警報を鳴らせ」


「GHAAA!」


「よし。ゴーレムB、お前はハナに誰かが襲ってきたりしたら警報を鳴らせ」


「GHAAA!」


 単純な条件付けしか受け付けてくれないが、ひとまずこれでいいだろう。

 賢いゴーレムも、作ってみたいが、ちょっと今は手が回らない。


 ヴァネッサの麦倉建築に協力し、昼過ぎに抜けて、俺は工房に向かう。


「お待たせしました!」


 息を切らせてクロが入ってきたが。


「そんな焦らなくて良いぞ。いや、次からきちんと時間指定しておくか」


 昼過ぎとか午後とか、曖昧な時間を指定するとクロが急ぎすぎる嫌いがあるし。


「すみません…」


「いや、怒ったわけじゃ無いんだが。それより、今日はいよいよ、生クリームへの挑戦だ」


「はい! ケーキの基本ですね!」


 クロも気合いが入っているが、この世界にも生クリームのケーキは存在する。と言っても、多分、王族や貴族でないと、なかなか食べる機会は無いんじゃないかな。

 街で買える牛乳は保存状態が悪くて飲めたもんじゃなかったし。ケーキも店頭では販売していなかった。

 まあ、生クリームは常温では長持ちしないだろうし。


 冷凍技術や輸送技術が発達しないと、内陸部での海系の魚介類や生菓子なんかは普及しないと思う。

 魚のお刺身が全国どこでも食べれる日本は、アスファルトの舗装道路がそこら中に張り巡らせてあるからな。


 さて、クリームの作り方だが……。


 かき混ぜてみればいいんじゃね?


 小学校か中学校で習った気もするんだが、興味なかったので忘れてしまっている。

 むう。


 まあいい、試行錯誤してれば、できるだろうし。

 クラウス料理長に聞くのもいいが、まずは自分で試したい。

 

「混ぜ混ぜ混ぜ混ぜ」


 ひたすら混ぜる。クロも挑戦したいと言うので、彼女も専用のエプロンをして、ボウルで牛乳をかき混ぜている。


「ふう、疲れました…」


 三十分ほど、混ぜ混ぜしていたが、そりゃ疲れるわな。


「休んでて良いぞ」


 俺の方はもうちょっと頑張ってみたが、固まる気配は無かった。


「次は、ちょっと煮込んでみるか」


 生クリームと言うからには、煮ちゃ駄目な気がするんだが、やってみないとね。


 暖めると、牛乳の表面に膜が出来る。

 これの正体は、タンパク質だったかな?

 多分、クリームとは別物。

 クリームって脂肪分だったと思う。


「混ぜ混ぜ混ぜ混ぜ」


 ひたすら混ぜる。ひたすら単純作業。


 ハッ!


「そうだ、これをゴーレムにやらせれば良いんだ」


「あ、そうですね。でも…」


 上手くできるかな。

 コイツ、回転運動は得意じゃないんだよね。発電機の回しも結構苦労して教え込んだし。


「ふむ、回転させなくてもいいか」


 泡立て器を作ろうかとも思ったが、構造が複雑だし、それよりは水筒みたいな密閉容器に入れて振りまくる方が良い気がした。

 バーテンダーシェイク作戦だ。


 さっそく、ストーンウォールで円柱密閉容器を作り、その中に牛乳を半分入れ、呪文で石を変形させて密閉させておく。


「さあ、ゴーレムよ、ひたすら振れ!」


「GHAAAAA!」


 しかし、こいつら、魔力を使ってるとは言え、それだけで動いてるのかね。無駄にハイパワーだし、魔力だけとは思えないんだが。


 待つ間、今度は牛乳アイスを作ってみたくなり、同じ密閉容器を作って、アイスウォールで凍らせる。


「あー、こんな感じ、こんな感じ」


 凍ったものなんて久しぶりに食ったな。砂糖を入れてないので甘さが足りないが、硬いアイスだ。


「あ…面白い味というか、冷たいです」


 もうちょっと口でとろけるような、ソフトクリームみたいなのを…やっぱそれもクリームを作らないと駄目だな。


「パンでも作るか」


 牛乳をたっぷり入れたパンを作ってみる。


「お、これは…イースト菌さえあれば、行けるな」


 牛乳の味がするパンは、味はなかなかだった。


「これも美味しいです」


「うぉーい、食いに来たぞ」


「やっほー、今日は何を作ってるの!」


 村の遊び人、ネルロとベリルがやってきた。


「む、もうそんな時間か。まあいい、ほれ、ミルクアイスにミルクパンだ、食ってけ」


「おし!」


「いっただきまーす!」


「むお、なんだこれ、冷てえっ」


「あー、牛乳を凍らせたんだね?」


「そうだ。アイスウォールの呪文でな」


「なるほど」


「どうでもいいが、そこのゴーレムには何をやらせてるんだ? 筒を振ってるようにしか見えねえんだが」


 ネルロが気になったらしい。


「ああ。攪拌させるというかな、まあ、牛乳を振らせてる」


「…意味あんのか、それ」


「実験中だ」


「ええ?」


「あはは、ユーイチってホント、不思議なことしてるねえ」


 俺は元世界の知識を前提としてるが、それを知らない人間には摩訶不思議に見えちゃうんだろうな。


「じゃ、そろそろ片付けておくか」


 ゴーレムを停止させて、一応、筒の中身を確認してみる。


「ふおっ! これは、もしや!」


 塊が見えたので、スプーンで掬って食べてみる。

 

 舌の上でゆっくりと、ふああっとした口溶け。味は薄い牛乳と言うところか。

 良いねえ。


「ん? 俺にも食わせろ」


「アタシも!」


 食い意地の張った奴らだが、この世界の一般庶民の反応も知りたいので、食わせてやる。


「んん? なんか変わった味だな」


「あ! これって…」


「ああ、クリームですね!」


 クロも食べて、認定してくれた。


 よし、クリームが開発できたなら、ついにアレも出来る。


 時間切れなので、今日のお料理タイムはここまでとして、ゴーレムに新しい筒をセットして、クリームを多めに作らせておく。

あとがき

 ご指摘を頂きましたが、搾りたての処理されていない牛乳は放置しておくと、天然の生クリームが浮いてくるそうです。詳細は「ノンホモ牛乳」「クリームライン」で検索して下さい。

 ちょっと修正が難しいので、ユーイチのいるこの世界の乳牛はノンホモで!

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