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異世界の闇軍師  作者: まさな
第八章 村長だべさ

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第十八話 村民の若人に手を焼かされる村長

2016/11/23 若干修正。

 食いしん坊ドラゴン、アクアを飼っているので、木の実集めは怠れない。

 でも、脱穀装置二号も作りたいし。

 領主様献上分の籾殻を取った一袋も必要だし。

 脱穀作業も早めに終わらせないと、二毛作の種蒔きが間に合わなくなってしまう。

 板も欲しいしなあ…。


 人手がちょっと足りてない。


 なので、リリムに加えて今日は代打のベリルを木の実集めに連れてきたのだが…


「で、どーよ、村長。村の子の誰がいいの?」


「何の話だ」


「とぼけないでよ。エルとか、可愛いから狙ってるでしょー」


「いや…可愛いのは認めるが、そんな事より、木の実を説明するぞ、ベリル」


「あ、話を逸らした。やっぱ、気になってんじゃん。ネルロもうかうかしてられないね! ヤバいヤバい、ね、リリム!」


「聞けよ人の話…」


 お祭りや合コンの盛り上げには最適だが、俺はこういう女の子は苦手だ…。


 何とか一通り説明を終え、ベリルに木の実を取らせてみたが、割と見つけるのが上手い。


 ベリルが「後は任せて!」と言うし、リリムの面倒はちゃんと見てくれているようだから、俺は早々に退散した。



「ふう、疲れた」


 さて、気を取り直して脱穀装置二号の開発に取り組むか。

 これは籾殻を取るのが目的だから、籾殻取り装置と呼ぶ方が分かりやすくて良いな。


 そして、ジーナおばば様のおかげで、すでにヒントは見えている。

 

「石臼の表面の両側に革を張り付けて固定して…と」


 あとは適度な隙間を空けて、ゴリゴリと回すだけ。


「おっ! 出来るじゃないか。しかも、綺麗に剥けたし。んじゃ、石臼を軸にはめて、モーターに繋いで、少し傾斜を付けて自然に内側から外側へ流れるようにすれば…」


 色々と微調整しつつ、ファンも付けて送風で籾殻を飛ばす機能も付けた。


「でーきーたー!」


 電動式籾殻取り装置一号。


「エル、ちょっと来てくれ」


「あ、はい」


「この装置が籾殻を楽に取る機械だ」


「機械? ええと、水車みたいな、からくり…」


「そうだ。お前も、俺が作った発電機や脱穀装置は見ただろ?」


「え、ええ。仕組みは半分くらいしか分かってないですけど…」


「いや、半分も解れば上等だ。要は、使い方だけ、きちんと覚えてくれればいいから」


 電子レンジの仕組みなんて知らなくても使えるからな。

 水分子を震わせることまでは俺も分かっているが、どうやったらそうなるのやら。

 インターネットが無いと現代知識がほとんど活かせねえ…。


「それで、どうやって使うんですか?」


「ここに籾を投入して、ゴーレム!」


「GHAAAAA!」


 うん、ビクッとしたエルちゃんが可愛い。

 ゴーレムは作成者の命令しか受け付けないので、俺がスイッチオンしないといけないのがネックだが、まあいい。


「これで、ほれ、ここから出てくるから袋で取るだけだ」


「ああ、ええ? 何もしなくても出てくるんだ…」


「そうだ。これだと手作業より早くできるし、大量に作れるからな。利点はそこだ」


「はい」


「と言うわけで、この籾殻取り装置一号の現場責任者に君を任命する」


「えっと…」


「うん、仕事の内容は、この装置の使い方を村人に教え、これと同じ装置を何台か作るから、変な使い方をしてないか、周りの村人のチェックを君がするんだ」


「分かりました」


 ベリルと違って話が早いなあ。


「じゃ、投入の方、任せる。俺はもう一台作るから。途中で何か分からない点があれば、すぐに聞くように」


「はい」


 装置の二台目を作る。エルも無駄口は叩かないので、安心だ。


「よーし、出来た」


「は、早いですね…」


「フフフ…熟練度が上がってきてるからな。モーターのコイルの巻き巻きとか、神業じみてきたぜー」


 モーターから作ってるが、ちょっと他人に自慢したい速さになって来たし。


「そ、そうですか」


 若干引き気味のエルちゃんがとっても可愛いです。

 きっとマッドサイエンティストにでも見えてるんだろうね。

 だが、それが良い!


 あとは、ゴーレムも一から作って、完成。


「よし。じゃ、誰か作業員を呼んでくる」


 ジーナおばば様に頼んで、人手を見繕ってもらう。


「何すればええだぁ?」


 むう、今にもぽっくり逝きそうな爺様だが、袋のセットと、投入くらいは出来るだろ。 


「エル、頼んだぞ」


「はい。じゃ、お爺ちゃん、私がやるから見ててね。こうやって袋をここに当てて…」


 きちんと説明できるかをチェックして、うん、大丈夫そうだ。と言うか、俺より説明が上手いよ、エルちゃん。


「おお、こりゃぶったまげただ。独りでに、臼が動いとる。霊じゃ、霊の仕業じゃ!」


 いや、そこでさっきからゴーレムが動いてるのを完全スルーしてそっちかよ!


「お爺ちゃん、これは電気と言って…まあいいか。悪さはしない霊だから、大丈夫よ」


 エルも説明をはしょった。


「おお、そうだべか」


 納得してくれたようだし、もうそれでいいよ。


 残りの三台も完成させ、少し暇そうなエルに、全部、見てもらうことにした。投入してからしばらく時間が空くし、順番に入れていけば問題無い。


「じゃ、忙しいと思ったら、無理に入れなくて良いからな」


 (せわ)しくしたら、ミスをするのが人間だ。その日の体調や気分もあるんだし、人は人、ゴーレムや歯車のように扱うつもりは無い。

 仕事が捗る方がいいが、だからと言って、無理は良くない。

 効率だけを追い求めてはダメだ。


「はい、大丈夫です。あ、お爺ちゃん、そろそろ…お爺ちゃん!」


「フガッ! お、おお、いかん、死んだ婆さんの夢を見ておったわい。川の向こうで、なんでか若返っておっての、こっちに来たらダメじゃ言うてな、不思議な夢じゃった…」


「そ、そう」


 死んだ婆さんがしっかりしてなかったら、今、ご臨終してそうだな、おい。


「じゃあ、後は頼んだ、エル。お爺ちゃんが具合悪くなったら、休ませてやってくれ」


「ええ」


 さっさとご隠居させてやりたいが、納税分の生産力が上がらないと、労働力でカバーするしかないしなあ。



 そろそろ帰る支度をする時間なので先にミミの工房に行って片付けをするように言い、俺の工房に行ってパンをオーブンに投入。ミミが作ってくれたパン用のスコップや炭掴みが役立つわぁ。


「すみません、遅れました」


 クロが謝りつつ工房に入ってきた。


「いや、いいよ、俺も今、ここに来たばかりだし。じゃ、手伝ってくれ」


「はい」


 二人で手分けしてオーブンにパンを入れていく。


「よし、ゴーレム、いいぞ」


「GHAAAAA!」


 電源を入れ、オーブンの温度が上がるのを待つ。先にオーブンを温めておいて、後からパンを入れるというやり方が良いかもしれないが、デカいオーブンだし、火傷が怖いからな。


「さて、後は、待つだけだな」


「はい。美味しいパンが出来るといいですね」


「ああ」


「村長~、取ってきたよ!」


「ああ、ベリル、ご苦労さん」


「見て見て! これ、美味しそうなキノコでしょ」


「むっ! それは」

「あっ! それは」


 俺とクロが凍り付く。ノルド爺さんに教わった、猛毒のホワイトキノコじゃないか。


「ん? どうかしたの?」


「いや、それは食べられないキノコ、毒キノコだぞ、ベリル」


「えー? そうなんだ」


「まさかとは思うが、口にしてないな?」


「あー、それが、一本、味見しちゃった。苦いだけだったけど」


「えっ、おい。大丈夫なのか?」


「うーん、平気? そう言えば、ちょっとお腹が痛くなってきた…むむ」


「クロ! すぐにネルロとエルを呼んでこい!」


「は、はい!」


 くそ、一本で、致死量の猛毒だぞ。普通の紫の毒消しは多分、効かないし。

 まずは、吐き出させないとな。


「じゃ、ベリル、外へ出ろ」


 パン工房で吐かれちゃ敵わないし、外に連れ出す。


「ど、どうしよう」


 俺たちの態度に事態の深刻さに気づいたか、狼狽えるベリル。


「落ち着け。手当はしてやるから。じゃ、吐き出せ」


「ええ? そう言われても」


「喉の奥に手を入れてみろ」


「あ、そうか、うん、お、おえっ!」


 ベリルが吐きだそうとしている間に、俺は分析(アナライズ)の呪文。



 ベリル Lv 16 HP 171/193


【弱点】 特になし

【耐性】 特になし

【状態】 猛毒

【解説】 人族の村人。

     ミッドランド所属。

     スレイダーンの意識が強い。

     性格は奔放で積極的。



 解説はどうでも良いのだが、猛毒状態を確認。

 HPはまだそんなに減っていないが、ここから急激に来るだろう。

 割とレベルが高めだが、毒の耐性は無いようだし…

 

 ローブの懐に仕舞っている高級(ハイ)ポーションを取りだし、工房の棚から下剤のラック草の実の入った小袋を出して中身も確認する。


「ベリル、はは、バッカだな、お前、毒キノコ、食ったって?」


 ネルロが笑いながらやってくるが。


「ネルロッ! すぐお湯を用意しろっ! いいか、これは村長じゃ無い、上級騎士としての命令だ!」


「わ、分かった」


 俺の剣幕に少し驚いた様子で、ネルロは家に走って行く。


「ベリル! すぐに吐き出して」


 エルも毒キノコの対応を知っているようで、来るなりそう言ってきた。


「やってるけど、げええ」


 ホワイトキノコの破片が嘔吐物にいくつか混じってるが、よく見えない。赤色や茶色も混じっているし、なんか色々つまみ食いしてたな、コイツは。


「エル、他の手当のやり方は知ってるか?」


「ううん、お婆ちゃんは、全部吐き出させて、ラック草を飲ませるくらいしか手が無いって。これを」


 エルもラック草の実は持っていたようだ。


「そうか。ベリル、とにかく、胃の中身を全部吐き出せ」


「キツイんだけど…」


「ダメよ。一本で死んじゃうくらいらしいから」


 エルが言う。


「ええっ? じゃあ、私、死ぬの?」


 ベリルも不安がる。


「ええ?」


 エルもそうと知って顔が青ざめる。

 俺も不安だが、ここは落ち着かせないと。


「大丈夫だ。吐き出せば、助かるぞ」


 言っておく。


「う、うん。おえ、げええ」


 その間、クロが問題のホワイトキノコを籠から全部集めて別にして、分析の呪文を使っていた。

 出てきたウインドウを見る。


【名称】 ホワイトキノコ 

【種別】 毒キノコ

【材質】 キノコ

【耐久】 11 / 12

【重量】 1 

【総合評価】 EE

【解説】 

 真っ白な毒キノコ。 

 見た目は美味しそうに見えるが、猛毒。

 一本を丸ごと食べると、大人でも死ぬ。

 遅効性の毒で、神経と消化器官を冒し、

 食べてから一時間くらいで症状が出始め、

 発熱、幻覚、激痛を伴い、

 三日後に死ぬ。

 食べてしまったら、吐き出すか、

 早めにラック草の実を飲むしかない。

 味は痺れのある独特のえぐみ(・・・)と苦み。



「くっそ」


 ノルド爺さんが「食べたらもう死ぬと思え」と言っていたが、手が無いようだ。

 パンキノコしか教えなかったが、それも教えるべきでは無かったかも。

 他のキノコは毒キノコがあるから取るなとは言ったが、言うこと聞いてないし。

 

 ベリルの嘔吐物を指でつついて、ホワイトキノコの量を確認する。


「お前、一本、食べたんだな?」


「う、うん。それだけだよ」


「じゃ、まだ足りないな。ネルロ! 湯はまだか!」


「そんなすぐに沸くわけねえだろ。ほれ、飲ますのか?」


「ああ。じゃ、マグカップ」


「お、おお。持ってくる!」


「相変わらずネルロは気が利かないわねえ」


 苦笑するベリルだが、顔色がさっきより悪い。HPも10ポイントくらい減ってきたし。


「あ、ケイン! お前はティーナにこれを報せて、クレアを連れて来てくれ」


「分かりました!」 


 さっと馬に飛び乗って、駆け出すケイン。頼んだぞ。


「持ってきたぞ!」


 ネルロが持って来たマグカップで鍋のお湯を飲ませ、また吐かせる。それを繰り返して、胃を洗浄した。

 内容物が水だけになったので、今度はハイポーションでラック草の実を飲ませる。

 

「むう、完全回復しないか…」


 重傷や骨折があると、ハイポーションでもHPが全快しないが、この毒もその系統らしい。


「一応、この毒消しポーションも飲んどけ。こっちは気休めだがな」


「頭が、くらくらする。わ、キノコがいっぱい!」


「べ、ベリル? ちょっと、しっかりしなさい!」


「幻覚症状だ。寝かせておいた方が良い」


 分析(アナライズ)の呪文の結果で、出てくる症状の方は分かっている。


「分かりました。こっちへ」


 エルの家に連れて行き、ベッドに寝かせる。


「発熱も出てくるから、水桶に布を浸して、頭と首を冷やすんだ」


 脳の発熱を下げるには頸動脈やリンパ腺を冷やすのが有効だ。

 人間の体の温度は、外気温の影響もあるため指先などの末端やおでこなどの表面より、内側の方が高い。体温計を脇の下に挟むのはそのためだ。特に首筋は心臓から脳へ大量に送り出される血、太い血管がちょうど冷やしやすい位置を通る。

 またリンパ腺は免疫器官の一部なので、体の中の異物に反応して活発になればこれも熱を出す。


「はい」


 用意した桶にアイスウォールで氷も浮かべておく。

 後は、ティーナが良い薬を持っているか、クレアの回復魔法に頼るしか無い。


「少し、様子を見ててくれ」


 そう言って、家を出る。


「あ…」


 リリムが不安げな顔をして突っ立っていたので、頭を撫でてやる。


「ご、ごめんなさい。ダメって言ったんだけど」


「ま、次からは、絶対ダメ! って、強く言うんだぞ」


「うん」


 俺も甘かった。


 一時間後、ベリルがうなされ始め、返事はするが、かなり幻覚にやられているようだった。ステータスの呪文を唱え、HPに注意しつつ、時折、ハイポーションと毒消しを飲ませる。


 状態は悪くなる一方。


 くそ、まさか、死んだりはしないよな?


 そうなったら、木の実を取りに行かせた俺の責任も問われるだろう。パンキノコも集めさせたし。

 罰が怖いとかじゃないんだが、自分の軽率さに腹が立つ。もっとしっかり言い聞かせておけば。


 二時間後、ようやくティーナ達がやってきてくれた。


「ベリルさんは?」


「こっちだ」


 みんなをエルの家に案内する。


「これが屋敷にあった一番強い回復薬と万能薬よ」


 ティーナが青く光る液体の入った瓶と、黄色く光る液体の入った瓶を取りだした。


「飲ませてくれ」


「ええ」


 薬を分析(アナライズ)してみる。



【名称】 極上(エクストラ)ポーション 

【種別】 回復薬

【材質】 アロエ草、リポビ草、聖水、ヨーメ酒、

     ミスリル、エルダータートルの肝

【耐久】 1 / 10

【重量】 1 

【総合評価】 AA

【解説】 

 極上の回復薬。霊薬。 

 通常の傷や骨折であれば、たちどころに全快する。

 欠損部位も傷口が回復途中であれば、全快する。

 弱毒、軽症の病気、弱い呪い、疲労、虚弱体質も全快する。

 精神系異常や幻覚も全快する。

 それ以上の状態異常は回復しない。



【名称】 万能薬(エリクシール)ポーション 

【種別】 治療薬

【材質】 月見草、世界樹の炭、聖水、ヨーメ酒、

     ミスリル、フェニックスの羽根

【耐久】 1 / 10

【重量】 1 

【総合評価】 AA

【解説】 

 極上の治療薬。霊薬。 

 通常の毒や状態異常であれば、たちどころに全快する。

 一部を除く病気、弱い呪い、疲労、虚弱体質も全快する。

 精神系異常や幻覚も全快する。

 状態異常が原因の体力低下も全快する。

 HPもある程度回復する。



 うお、また凄い薬を持ってきたなぁ。青い方、エクストラポーションはアーサーが死にそうになった時にセバスチャンが飲ませてたな。

 あの時は分析(アナライズ)するの忘れてたけど。

 くそ、材料が分かったのは良いけど、簡単に手に入りそうに無いのもあるし、見た事も無い材料もあるし、当分、作れそうに無いなあ。


 だが、これで多分、行けるだろう。

 これでダメなら、薬ではもうお手上げだと思うが。



「では、次は私に治療させて下さい。女神ミルスよ、清め祓い給え。大いなる治しよ(グレートキュアー)!」


 暖かな光に包まれたベリルは、表情が和らぎ、ステータスも気づくと通常に戻っていた。


「よし! 治ったぞ!」


「「「やった!」」」


 ホワイトキノコは魔法で焼却処分とし、出てきた灰は村から離れた場所に埋めた。

 命が助かって良かったが、反省が必要だ。

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