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異世界の闇軍師  作者: まさな
序章 奴隷から始まるホラーライフ

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第十三話 本と剣

2016/10/14 誤字修正。

 今日も午前中はノルド爺さんに付いて森に入り、キノコについて教わった。

 まだまだ毒かそうでないかは見分けは付かないが、キノコは発見出来るようになっている。

 いずれ出来るようになるはずだ。


 屋敷に戻って厨房にキノコを持って行くと、ギルバートがいた。

 彼は買い物に行ってきたらしく、鞄から袋や瓶を取り出してメイドのアマンダ達に渡している。


「おお、ちょうどいい、ユーイチ、これをお館様に渡してきてくれないか」


 ギルバートがワインボトルを渡してきた。


「分かりました」


 キノコを入れている籠をいったんその場に置き、屋敷の中に上がる。

 今の時間、男爵は執務室にいるだろう。そちらに行き、ノック。


「ユーイチです。ギルバートさんから、ワインを受け取ってきました」


「おお、入れ」


 中に入ると、男爵は羽根ペンと羊皮紙で何か書き物をしていたようだ。何の仕事をしているかは分からないが、仕事熱心で感心する。俺なら貴族になったら、遊んで暮らすけどね。


「こちらです」


「うむ、ルバニア五年物の特上品か。悪くない。フランジェの品辺りならどこでも喜ばれようが、うちは下級の芋貴族、贅沢をしていては罰が当たろう」

 

 男爵はそう言ってワインボトルを棚に入れる。すぐには飲まないようだ。贈答用かな。


「では、失礼致します」


「待て、ユーイチ」


「はい」


「ちょっと書斎から、戦の習いという本を持ってきてくれないか」


 む、この家には書斎があるのか。まあ、貴族の家だし、有って当然だとは思うが、チャンスかも。

 この世界を知るには書物が一番だ。

 ネット検索なんて便利なモノは無いし。

 読書も好きだし。


「はい、書斎はどちらでしょう」


「ああ、知らなかったか。いや、なら、自分で取りに行くとしよう。鍵も要るしな」


「そうですか。ですが、お館様、場所さえ教えておいて頂ければ、次からすぐに取って参りますが」


「ううむ」


「失礼致す!」


 突然、野太い声がして、そちらを見ると、ムキムキのおっさんが入ってきた。水色の服を着ていて、身なりは良い。

 しかし…ロブの筋肉も凄いと思っていたが、アレより上がいたとは。腕の筋肉の付き方、なんかおかしいだろ。手首には鉄製のリストバンドをはめてるし、鍛えるのが好きそうな人。

 顔は怖いのでお近づきにはなりたくない。

 彼が入り口を塞いでしまっているので、俺は脇に寄って待つ。


「おお、アルフレッド、騎士達の様子はどうだ」


「てんでなっておりませぬ。いったい、今まで何をしていたのやら。軽く手合わせしてひねってやったら、すぐ音を上げる軟弱者ばかりで」


 この大男にひねられたら、軽く骨折しそうで嫌だ。


「はは、まあそう言うな。指揮さえ執れるようにしておいてくれれば充分だよ」


「いやいや、騎士たる者、いついかなる時でも敵を蹴散らせるよう、己の心身を鍛え上げねばなりませぬ。今しばらくお待ち頂ければ、全員、一人前に仕立ててみせましょうぞ」


「ううん、まあ、それほど時間も無いだろうからな。指揮はしっかり教えておいてくれ」


「心得た!」


「それで、何か用か、アルフレッド」


「騎士に新しい鎧と剣を買い与えてやってはどうかと思いまして」


「ううん、剣はなんとか出来るだろうが、鎧も必要なのか?」


「無論。錆びた鎧など身につけておっては、男爵家の名折れ、笑いものになりましょうぞ」


「私は別に笑われようとも構わないのだが、騎士の士気にも影響するか…」


「でしょうな」


「分かった、なんとかしよう。ユーイチ、お前はもう下がって良いぞ」


「あ、はい、お館様、できれば、本を読ませて頂けないでしょうか」


「うん? お前がか」


「はい」


「お館様、この若造は?」


 ムキムキのアルフレッドが俺に興味を示した。こ、こっちみんな!


「ああ、ギルバートがワダニから買って来た奴隷だ」


「ふん、あの男か。どうせ役に立ちますまい。ひ弱な愚図を高値で掴まされたのでしょう」


 ワダニはどこでも嫌われてるなあ。


「いやいや、なかなかどうして、安い割に木の実も取ってくるし、ノルドにも気に入られたようでな」


「ほう、あのノルドが。ああ、猫の実が最近、増えたのは、こいつが取ってくるからですか」


 ふふん。見直したかね、アルフレッド君。


「そうだ。まあ、目を掛けて、いや、こいつは使用人だからな。お前は気にしなくて良い」


「何を仰います、当家の使用人なればこそ、鉄は熱いうちに打てとも言いますぞ」


「なら、好きにしろ」


 ええと?


「ははっ!」


 男爵はそう言って部屋から出て行ってしまった。

 なんだろう、この嫌な予感…。


「小僧!」


「はっ、はい」


「喜べ。普通なら奴隷になど剣は教えぬ」


 がしっと肩を掴まれ、顔を寄せてこられた。いや、近いって。顔デカいし。


「いや、僕はフツーでいいですから…」


「何を言うか。このアルフレッド=ダルドリー直々に手解きしてやるというのだ、ここは泣いて喜ぶところだぞ」


 喜べねえよ!

 て言うか、ホント止めて。

 俺は体育会系じゃないんだってば。

 肩が痛いです…。


「いえ、仕事も忙しいですし、わざわざダルドリー様のお手を煩わす訳にも」


 逃れようと試みる。


「むっ。ギルバート! ギルバートはおるか!」


 俺を引きずって廊下を行くアルフレッド。

 え、どうするの?

 俺、何されるんですか?


「何でしょう、アルフレッド様。むむ」


 ギルバートが俺を見て厄介そうな事態に気づいてくれたか、眉をひそめる。


「こいつの仕事は無しだ。吾輩(わがはい)が直々に鍛える」


「ああ…分かりました。ですが、その者は体が弱いと聞いておりますので」


「ふんっ! だからこそ鍛えるのだ! 行くぞ、ユーイチ」


 ずるずると。

 踏ん張って抵抗しようにも、体重差がありすぎる。


「いや、ちょっと離して下さい。ギ、ギルバートさん、助けて。お館様、僕は本が読みたいんです!」


 そこにいるお館様にも直訴。その手にはハードカバーの青い本が。知識の源泉が。


 だが、二人とも肩をすくめるばかりで、可哀想にという顔。


 ちょっとー!

 そう言えば前にギルバートが、「屋敷で剣を教えてくれなどとは決して口にするな」と言っていたが、

 コレか! コイツが元凶ですか!


 ひい。


 外の、裏庭へやってきた。


 そこは木と藁で作ってあるカカシが何体か立っており、その近くに上半身裸の男達が座り込んでへばっている。

 男達はムキムキな上に汗だくだ。

 ちなみに、私、まだ引きずられてます。


「貴様ら! 誰が休んで良いと言った!」


 アルフレッドの怒号が飛ぶ。耳が痛ぇ。


「も、申し訳ありません!」


 男達が一斉に立ち上がって、剣の打ち合いを始める。


 あああ…見事なまでの肉体美。

 誰得ですか。

 萎えるわぁ。


「よし、では、ユーイチ、お前はこれを使え」


 アルフレッドがようやく俺から手を離し、一メートルほどの木の棒を渡してきた。

 あー、肩が痛え。

 後でサロン草、貼っておこう。


「これで、打ち合いですか?」


 相手は鉄の剣だよ? なんか、差を付けられている感じだ。


「いや、お前はまず基礎からだ。それをまず千回、素振りしろ」


「はい? 一桁間違えてませんか? 初めは百回とか…」


「間違えてなどおらんわ! 一日千回、これをまずは一年だ。

 そうすれば一年後にはお前の細腕でも二千回は振れるようになろう。

 そうしたら、太い棒に持ち替えて千回。これも一年というところか。

 それからようやく鉄の剣だ。まあ、最初は百回も振れぬだろうが、

 三年も振るっていれば打ち合いが出来るようになる」


 何年かかるんだよ!

 なげーよ。


「あの、お、お断りします…」


 小声で言ってみる。

 ドキドキ。


「む。おいそこっ! 何をやっておる! ここへ来い。腹に力を入れろ!」


 と、アルフレッドが一組の男達を呼び出した。


「お、押忍!」


「力を抜くとは、気合いを入れ直してやる。ふん!」


 アルフレッドが男の腹にグーパンチ。 


「ぐふっ、あ、ありがとうございましたっ!」


「よし、で、なんだ、ユーイチ」


 戻って来たアルフレッド。


「いえ! 何でもありません! 一! 二!」


 アレフレッドのグーパンチなんて食らったら、しゃれにならない。絶対にワダニの鞭より痛いし、ダメージが深そうだ。


「待て待て、ユーイチ、それでは駄目だ。まず吾輩が手本を見せるから、よく見ておけ。こうだ。ふんっ!」


 鉄の幅広の重そうな長剣を、大きく振り上げて手を伸ばしたまま、前にまっすぐ振り下ろし、すぐまた上げる。

 体もブレてないし、なるほど、良いお手本のようだ。


「こうですか。ふんっ!」


「そうだ、少し良くなったが、肘は曲げるな。肩の筋肉で振るのだ。背筋も伸ばす!」


「こ、こうですか、ぐぐ」


 早くも辛い。


「そうだ。それを千回、リズム良く振れ」


 三十回も持ちそうに無いのだが、仕方ない。見てるときはしっかり振ろう。


「そこ! 踏み込みが甘い! 前に出んか、前に!」

「押忍!」


「五! 六! 七! …」


 声はしっかり出して、よし、アルフレッドがこちらを見ていない。

 よーし、しめしめ…。


「八! 九! 十!」


 腕を休め、カウントの声だけ出す。

 ふう、疲れた。

 真面目にやってられっか、こんなの。


 む、ちらっと男達がこちらを見たが、なんか言われるか…。

 あとで個別にサロン草を配って、買収しておく必要がありそうだ。


「そこ! よそ見をするな!」

「お、押忍!」


 ふふふ、完璧だ。

 練習のさなかに、よそ見をしてちゃいかんよ、チミ達!


「ユーイチよ、吾輩が見ておらぬと思っているようだが、そんなに吾輩の愛の鞭が欲しいか」


「い、いえ、申し訳ありませんでした!」


 くそ、気づかれてたよ!


「十一! 十二!」


「馬鹿もん! ズルした数を戻さんか!」


 細けえなあ。


「八! 九! 十!」


 限界は三十回くらいと思っていたが、早くも十七回で腕がだるくなってきた。

 俺の腕、弱っ。


「くっ、十八、十九…」


「ユーイチ、腕が振れておらんぞ。もっと上から下まで大きく! 素早く!」


 無茶言うな。


「二十五、二十六、二十七、ふう」


「腕が振れておらん! 二十五からやり直し!」


「ええ? そんな」


「しっかり振らんと、お前の今日の一日は終わらんぞ」


 マジですか!

 え、これ終わらないと、徹夜なの?


「二十五! 二十六! 二十七! くっ」


「目を閉じるな! 剣を持って目を閉じれば、死ぬと思え!」


「あ、あの、アルフレッド様」


「なんだ、泣き言なら聞かんぞ」


「いえ、自分、今気づいたのですが、サウスポーなので」

 

 右利きだけど、今日から私、左利きになります。


「おお、左利きか。では、持ち替えて良し!」


「はっ。二十八! 二十九!」


「ユーイチ、数は一からやり直せ」


「はうあ! ………。 一! 二!」


 数が無駄に増えてしまうが、今右利きに戻しても腕が持たない。

 時間を稼ごう。


「二十! 二十一!」


 むう、左腕だと、やはり利き腕では無いせいか、力も入らず、疲労も早い。

 次の手を出さねばなるまい。


「アルフレッド様!」


「なんだ? 手は休めるな」


「はっ。二十三! 二十四! 汗を掻いてきたので、二十五! 二十六! 拭いてもよろしいでしょうか」


「拭いて良し!」


 よーし、貴重な休憩時間(インターバル)を得た。

 いかにも手から汗が出ていますというフリをしつつ、布の服でぬぐい、風呂敷からサロン草を四枚、出す。


 じろり、とアルフレッドがこちらを見たが、何も言わない。

 セーフか。

 芋とかじゃないもんな。

 運動選手はよくテーピングとかやってるし。

 サロン草を腕に貼る。


「ユーイチ! もたもたするな!」


 くそ、まあいい、次の休憩時間は、上半身を脱ぐ許可をもらえば良い。

 後はトイレ休憩。

 お腹壊したことにしようかな。


 いや、アルフレッドはこちらのサボりを完全に見抜いている。

 かなり出来る奴だ。

 仮病は使わない方が良い気がしてきた。

 指導は堂に入っているし、正当な休憩なら取ってくれるようなので、その方向で知恵を絞るべきだろう。


「五十五、五十六。ふう、はあ、アルフレッド様」


「なんだ、ユーイチ」


「水を飲んできてもよろしいでしょうか。朝から飲んでいないので」


「良かろう。その桶の水を使え」


 くそう。井戸まで行かせてくれよう。


「で、ですが、私は奴隷ですので、皆様と同じ水では」


「構わん! この練習場においては、上も下も無い。さっさと飲め」


「は。ありがとうございます!」


 時間稼ぎと思われたらペナルティを食らいそうなので、ささっと飲んで、元の場所に戻る。


「五十七! 五十八!」


 まだ百回にも届いていない。

 千回って。

 おいおい…。


「よし、休憩だ!」

 

 助かった。

 アルフレッド以外、全員座り込む。いや、へたり込んだ。


「しかし、サロン草を最初から用意してる奴は初めて見たな」


 男の一人が言う。


「ああ、用意の良いことだ。腕の方は話にならんが」


「よろしかったら、一枚どうぞ」


「おお」


 練習仲間は味方に付けておくに限る。


「ユーイチ、剣の稽古はどうだ」


 アルフレッドが話を向けてくる。


「は、初めてやらせて頂きましたが、細腕の自分にはとてもとても…」


「なに、それくらいの腕の女でも、鍛えれば扱えるようになるから心配はするな」


「はあ」


 おっと、ここは話を盛り上げて休憩時間を稼がないと。

 何やってるの、話題の弾幕薄いよ!


「ちなみに、何年くらいの修行で一人前になれるのでしょうか」


 ちょっとやる気があるかのように見せて、アルフレッドの答えを誘う。


「そうだな、素振り三年、型固め五年、見切り三年で、まあ、十年もあれば、一人前とは言えぬが、それなりの剣士にはなるだろう」


 気の長いお話で。


「だが、覚えの早い者は、素振りでも一年で振れるようになる。お前は少々、筋肉が足らんから、しっかり肉を食え」


「ええ。そうします」


 肉が旨けりゃ、ね。こっちの肉は、獣臭くてあまり食べる気にはなれない。胡椒とか、探してみようかな。


「アルフレッド様の流派は?」


「吾輩か? 吾輩はもちろんスレイダーン正統派に決まっておろう!」


「なるほど、いや、確かに」


 名前を聞いても、ちんぷんかんぷんだ。


「ちなみに、他の流派はどんなのがあるんですか?」


「色々あるぞ。土竜、水鳥、酔剣、火鳥、旋風…」


 旋風剣とか、格好良さそう。


「鉄亀流もありますよ、隊長」


「おお、そうだな」


 それは格好悪い感じ。亀みたいに四つん這いになったりするんだろうか。いやそれじゃ剣が持てないじゃん…。


「どれも特徴というか癖があってな。土竜は攻撃の度に足を踏みならし、一撃は重いが動きが鈍い。水鳥は技の見栄えを重視した技巧派だ」


 ほう。ならば土竜剣士を相手にしたときは撒菱(まきびし)をバラ撒いて、

 水鳥剣は足の動きが弱点だろうから、水攻めで。


「その点、正統派はバランスが良い。後で他流の門を叩いても構わんが、たいていの者は正統派から覚えるものだ」


 オーソドックスか。

 ま、俺は覚える気はさらさらないんで…早く奴隷の仕事に戻りたい。

 

「よし、休憩は終わりだ!」


 もうね、逃げ出したい。

 生存の目的がどうのこうのと言っても、現代っ子の俺はこの辛さには耐えられない。

 よ、よし!

 

 ユーイチは逃げ出した!

 しかし、アルフレッドに回り込まれてしまった!


「どこへ行く」


「い、いえ、足の訓練も必要かと思いまして」


「良かろう。なら、足の訓練をやってやろう」


 さんざん、走らされた。

 脇腹が痛え…。

 脾臓は緊急用に血を貯めている臓器で、それが活発になると脇腹が痛くなるそうだ。


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