第十六話 菜園を作る村長
2016/11/23 若干修正。
捨てる場所が決まるまで、古代竜のアクアの面倒をしばらくの間、見る必要がある。
今は大人しいし弱いので襲われる心配は無いが、問題は、エサだ。
木の実やキノコを喜んで食べるが、猫の実を一日十個ぺろりと食うとなると、大量に用意しないといけない。
飢え死にさせてしまえば成竜がどこからかやってきて村が襲われるらしいし。
それに、飢えて人間を食い物にし始めでもしたら最悪だ。
木の実集めが得意の俺がいれば問題無いが、王都に用事で出かけなきゃいけない時もあるだろう。
交通の悪いこの世界では、行って戻るだけで一ヶ月とか二ヶ月とか平気で掛かっちゃうし。
電話も電子メールも無いから、現地から指示を出すと言うのも困難だ。
村の食糧事情を改善させるためにも、木の実やキノコを集められる人材を育てた方が良い。
なので、村の事を良く知っているジーナお婆さんと、元村長のネルロと話し合い、村で採取に向いている人間をリストアップした。
条件は、普段ヒマで、力仕事は向かない奴で、ある程度の根気や真面目さがある人間。
力仕事が出来るなら、畑を耕したり木を切ったり、農村にはやる仕事がいくらでもある。
ネルロやベリルみたいな奴を森に放つと、途中で仕事を放棄して遊び呆けるだろうしな。
「で、お前らが候補となった」
一人目はジーナの孫のエル。綺麗な水色の髪の十七歳。凄い美少女。髪の毛は三つ編み。
ネルロの幼なじみだそうだが、性格は正反対で至って真面目。手先が器用なので、他の仕事をやらせたいところだが、物覚えは良いと言うし、一時的な先生役になってもらうか。
二人目は金髪の美少年、トゥーレ。彼もネルロの幼なじみで十七だそうだ。
人見知りする物静かなタイプ。
三人目は子供のリリム。まだ十歳だというが、まあ、木の実集めならできるだろ。
俺を見ておどおどしている。
この三人だ。全員、線が細く、力仕事は向いてない。
ミミも木の実集めに参加したがっていたが、彼女はこの村では唯一の鍛冶職人だし、忙しいので鍛冶職に専念してもらうことにした。
「分かりました」
「はい…」
「………」
エル以外は気が進まないようだが、これも村の仕事だからね。食い物がたくさん取れるんだから、それが報酬にもなるし、頑張って欲しい。
重労働じゃ無いんだし。
「じゃ、俺と一緒に森に入ってもらって、実際に集めながら覚えてもらう。行こう」
籠を背負わせ、三人とクロ、それに護衛のケインと兵士二人を連れて森に入る。
この森はゴブリンが出る時があるが、リサとミネアが定期的に巡回してくれているし、クレアが祭壇の結界を張ってくれたので、子供のリリムを一人にしない限りは安全だろう。
「最初は猫の実から集めようか。これな。食べたから分かってるだろ?」
懐から猫の実を出して見せる。
二十センチくらいある赤い実に、真ん中から猫の手が生えているように見える果物だ。
落ちている数は少ないが目立つので見つけやすいし、美味しいからやる気も出るだろう。
「はい」
エルが返事をして残りの二人も頷く。
俺の勘で、有りそうな場所に向かう。
「あ、あった!」
エルがさっそく見つけた。
「よし、いいぞ。まだ落ちてるから、他の二人も良く探すんだ」
「えっ、ああ、あった」
トゥーレも見つけた。
「まだあるぞ」
「え…」
「ほら、リリム、右側」
エルが小声で教える。
「あ」
「よし、全員見つけたようだな。そんな感じだ。崩れてなければ食べられるから。猫の手は毛をこうやって抜いてな」
触るだけで毛が抜けるから、難しくは無い。
「ええ、知ってます」
「うん。じゃ、この場所も覚えておくように。そこに猫の木があるから、よく落ちてるはずだ」
「「はい」」
次はバルブの実。ドングリを少し大きくしたヤツ。焼けば食える。苦みがあるが、ドラゴンのエサ用だ。
パンキノコと薬草も教え、そこで止めておく。
他のキノコは危険があるし、一度には覚えられないだろうしな。
リリムには一人で森に入らないよう言い含めておく。また、日が暮れては迷うから昼過ぎから入るのはダメだと全員に言っておいた。森を舐めるな!
村に戻る。
「ミミ、木の実を持ってきたぞ」
「あ、お兄ちゃん!」
「キュッ!」
アクアも俺がエサ係だと認識しているのか、さっと寄ってきて待機の姿勢に入る。目がキラキラしてるし、分かったよ。
「ほれ」
猫の実を食わせてやる。
パクッ、モグモグ、ゴックン。
もう少し味わって食えと言いたくなるが、所詮、ドラゴンだしな。
「はい、アクア、ジャンプ!」
ミミが教え込んだのか、指示する。
「キュッ!」
背中の小さな羽をばたつかせてジャンプするアクアだが、こいつ、将来は飛べるのかな?
「うん! 偉いね!」
よく出来たときはご褒美。
パクッ、モグモグ、ゴックン。
ま、その辺はミミに任せておけば良いだろう。どうせ捨てに行くんだし。
ブレスも吹かせようと試してみたが、吹けないようだった。無闇やたらに炎を吐かれても危険なので、ミミにもやらせなくて良いと言ってある。
上に穴の開いた石の箱を作ってやり、ミミに木の実を預けておく。アクアが頑張って首を突っ込もうとしていたが、フフ、お前の首は入らないサイズだぜ?
「キュー…。キュッ! キュッ!」
俺に寄ってきておねだりしてくるが。
「ちゃんと良い子にしてたらな」
「キュッ!」
「じゃ、また来る」
「うん!」
釘を受け取ってミミの工房を出る。
次は俺の工房に入って、パン作り。
色々、焼き時間や材料の量を試行錯誤して、品質の良い美味しいパンを作りたいからな。
異なる分量で練り上げ、石のテーブルにしまい込んで寝かせておく。
今度はベッド作りだ。
クロと一緒に、工房の前の広場で木を組んで釘を打っていると、遠巻きに眺めていたトゥーレがやってきた。
「あの、村長…」
「ん? なんだ、トゥーレ」
「それ、僕も手伝いますけど」
「お、そうか、じゃ、ベッドを作るから…って分かんないか」
「いえ、聞いたことがあるので。こんな感じの、箱にすればいいんですよね?」
「おお、そうだ」
トゥーレは賢そうだ。暇を見て、読み書きも教えておくかな。
「できたー!」
ベッドは昼過ぎに完成した。実際に横になってみるが、うん、マットや敷き布団を良くすれば、寝心地も良くなるだろう。
強度は太い板と支柱を使ったので、全く問題無さそうだ。
最初は支柱に釘を一本ずつ打ち付けて固定しようとしたが、くねくね動いて安定しないので、二カ所でひと組、打つようにしたが、それですぐに安定した。
色々、やってみないと分かんないことが多いね。
「じゃ、むっ! しまった。部屋の中に入れて組み上げれば良かった…」
「「あ…」」
クロもトゥーレも気づかなかったようで、うん、やっちゃったね。
まあ、ゴーレムという強い味方がこっちにはいるし。
召、喚!
「GHAAA!」
ゴーレムを使って、そうっと運ばせる。そうっとだぞ? せっかく作ったんだから壊してくれるなよ。ドキドキ。
運び込む先は、俺の工房の隣だ。
壊さずに運べた。めでたしめでたし。
石も運ばせて、外壁と屋根を後から作り、俺の部屋にする予定。
「木の床も欲しいなあ」
「ええ。絨毯も欲しいですね」
と、クロ。
「扉も作らないと」
と、トゥーレ。
「そうだな」
色々、作らないとな。
パンを焼いて、みんなに振る舞い、屋敷に戻って寝る。
翌日。セルン村の俺の工房でパンを作っているとミミとアクアがやって来た。
「お兄ちゃん。アクアがもっと食べたいって」
「キュー! キュー!」
「ええ? 食いしん坊だなあ。分かった。じゃあ、木の実を取ってくるから」
「お願いね!」
ついでに、アクアにも木の実の取り方を教えてしまおう。
ミミも飼い主として付いてくると言うので、昨日のメンバーに加えて、木の実探しをやらせる。
「クンクン。キュッ!」
「わ、また見つけたの? アクア、凄いね!」
ふむ、鼻が利くようだな。それに、俺に褒めてもらいたいのか、すぐに食べずに咥えたまま俺のところに持ってくる。
「よし、偉いな。食って良し!」
「キュアッ!」
モグモグ、ゴックン。
「じゃ、ここはもういい。次を探すか」
場所を移動。
「あっ! ダメ! アクア!」
「ん?」
ミミが止めるので、どうしたのかと思ったら、アクアがリスを咥えていた。
「アクア、めっ!」
ミミが叱る。
「キュー…」
「ほら、放してやれ。可哀想だろ」
俺も言う。
「キュッ!」
言うことを聞いた。肉食にはさせないからな。ミミにも危険性を含めて、言い聞かせてある。
このまま草食で育ってくれれば、安全なんだがなあ。
どうなることやら。
村に戻って思いついたので、ゴーレムに土を掘り起こさせ、そこに猫の実を埋めてみる。
エスターンの街で手に入れていた、カレーに近い香辛料のテルペの種も隣の畑に植えた。
「クンクン」
「ダメだぞ、アクア。それは捨てたんじゃ無くて、植えて育てるんだからな」
「キュー?」
「大きくなったら、たくさん実がなるから、それまで食っちゃダメだぞ。いいな?」
「キュッ!」
本当に分かってるのかね。
「でも、猫の実って育つんですか?」
トゥーレが聞く。
「さあ? でも、種には違いないから、上手く行けば芽が出るだろう」
別に失敗してもいいしね。
ウォーターウォールの呪文で水を出し、畑に水を撒いておく。
あと、石をストーンウォールで石碑に変化させ、メモの呪文で猫の木の菜園と看板にしておく。
さて、後は芽が出るのを待つだけだが。
………。
「芽吹け! グロウアップ!」
呪文で行けるかもしれないよね。ちょっと実験してみるか。
「伸びろ! グロウアップ!」
「あ。じゃあ、私も、大きくなあれ! グロウアップ!」
俺とクロで色々試す。
「キュー! キュキュッ、キュッ!」
脇で興味津々と言った感じで見ていたアクアも、真似をし始める。
結果は、ダメだった。
まあ、気長に行くべ。




