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異世界の闇軍師  作者: まさな
第八章 村長だべさ

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第十話 収穫祭の準備に追われる村長

2016/11/22 数行ほど描写を追加。

 村の結界用の祭壇を作って、一仕事終えた気になっていた俺だったが。


「村長、祭はどうするんだ? もう明後日だぞ」


 などと他人事のように言うネルロに、反発せざるを得ない。


「は? それは、お前が言い出さないとダメな事だろ」


「何を言ってる。俺はお前に村長を継がせたじゃないか」


「そうだけど、俺はこの村の事なんてろくに知らないし、お前も村長になりたての頃は、先代から何か助言してもらったんじゃないのか」


「む…」


 その通りだったようだ。


「ま、済んだことは仕方ない。次から俺が忘れてると思ったら、ちゃんと言うように」


「分かった。それで、祭は?」


「普段はどうするんだ?」


「うちの村は貧しいし、脱穀で忙しいからな。酒と肉を振る舞って終わりだ」


「ふうん? 飾り付けは?」


「面倒だったから、俺の代で止めにした」


 なんかダメダメな村長の気がしてきたが、俺も面倒だしナイスだネルロよ。


「じゃあ、酒と肉だけ、用意すればいいんだな?」


「そうだが、うちの村はもう一昨年から酒を造ってないんだ。食べる分でやっとになってたからな。肉はブーイが獲ってるが、大物がまだ獲れてない。俺も今日は手伝いに行くつもりだ」


「そうか。分かった。あまり無理はしなくて良いが、振る舞う肉はこの村の人間が獲ってきた肉じゃないとダメなのか?」


「そんな事は無い。大物が獲れなかったら、街に交換に行くんだ」


「分かった。じゃあ、酒と肉は俺がちゃんと用意するから」


「頼んだぞ」


「ああ。それで、キャンプファイアーみたいなこともしないんだな?」


「なんだそれ」


「でっかい焚き火をやったりするんだ。夜中に」


「やるのは昼だ。肉を焼くのは、(かまど)を使ってる」


「わかった」


 大した準備で無くてほっとした。

 買い出しは明日でも良いと思うが、忘れないうちにやっておくか。

 畑の柵もできあがったし、今はゴーレム用の(クワ)を作っている。石を呪文で変形させて大きなヘラのようにして、麦畑の耕しをやらせている。クロやエリカもゴーレムを作ってくれて、俺もあれから十体くらい作ったので、すでに量産体制に入ってたり。

 だって、土木作業や力仕事なんかはゴーレム最強だもの。細かい作業ができないという欠点はあるが、大雑把な作業、特に単純作業はゴーレムの得意分野だ。文句言わないし、疲労しないし。壊れても元が土だから、環境汚染も無い理想的なロボットだ。

 魔法陣タイプはいちいち設置に時間が掛かるものの、一度呼び出してしまえば、その後の魔力消費も無く、呼び出せる数に制限も無い。作りたい放題だ。魔石が有れば、だけどね。

 ティーナとミオのタッグはゴーレムを五十体ほど作り、耕作と開墾の二つのチームに分けて作業中だという。開墾の方は、石を取り除いたり、木の根っこを取り除くのに苦労していて、ゴーレムをもってしても難しいらしい。



 クロとケインと護衛の兵士の数人を連れてロフォールの街へやってきた。


「お、人がいるな」


「そうですね」


 クロが少し嬉しそうに頷く。


「少しはお触れの効果があったみたいですね」


 ケインが言うが、その通りだろう。それに領主が着任して一週間が過ぎ、どうやら安全そうだと街の人達も感じたのだろう。

 街の警備兵が俺たちを見つけて、背筋を伸ばして気を付けをしてから一礼する。多少堅苦しいが、兵士は規律が大事だからな。


「ご苦労」


 ケインが声を掛けるが、なるほど、そうやればいいのか。ケインがいない時は真似してみようっと。


「ユーイチ様、肉屋と酒屋、どちらに行きますか?」


 ケインが聞いてくる。


「そうだな、どっちでもいいが、酒屋からまず回ってみるか」


「分かりました。酒屋はあちらです」


 ケインはすでに街を把握しているようで、むむ、出来るな、コイツ。下級騎士のくせに!


 ケインの指差した方に向かってみると、壺の方のカメや(ボトル)、樽が並んでいる店があった。


「あー、色々あるな。こんなことならネルロにどれが良いか聞いておくんだった」


「自分がひとっ走り、行ってきましょうか?」


 ケインが言うが、俺がお前の立場だったら、黙りを決め込んで、主人が行けと言っても「えー?」と嫌そうな顔するけどな。


「別に良いよ。それに、行かせるなら、下っ端だろ」


 俺の視線に三人の平民兵士が、しまったという顔をする。そうだぞ、お前らの上司(ケイン)がああ言ったら、そこは「いえっ、自分が行って参ります!」と言って速攻で走るくらいでなきゃね。

 ま、俺はそこまでの規律は求めてないんだけどさ。


「はあ」


 気が抜けたような声を出すケインも部下には優しいようだ。


「こ、これは領主様!」


 店の奥から樽を出して来た酒屋の主人が俺たちを見て青ざめる。ムキムキなのに、権力には勝てないか。


「いや、俺は上級騎士のユーイチ、ティーナの家臣だ。こっちのケインとクロも家臣だからな」


「そ、そうですか。し、失礼しました」


「別に難癖付けたりしないから、落ち着いてくれ。仕事はそのままでオーケー」


「はあ」


 それでも落ち着かない様子。ああ、何しに来たのかと心配なんだろうな。


「今日は収穫祭に村で振る舞う酒を買いに来たんだ。俺は村長に任命されているからな」


「ああ、そうでございましたか。では、この樽などいかがでしょう」


 さすがは商人、すかさず勧めてくるか。 


「ちょっと大きすぎる気がするな。六十人くらいしかいないんだぞ」


 俺の胸元まであるでっかい樽。分析(アナライズ)してみたら、150リットルとかね。

 一人で二リットル以上とか、そんな酒豪だらけの村は無いと思うんだ。いや、あるのかな? 酒の量はよく分からん。


「ああ、でしたら、こちらのカメでどうでしょう」


 直径四十センチ、高さ五十センチくらいの壺入り酒。分析すると、50リットル。きっちり分量が揃ってるな。


「ふむ。どう思う、ケイン」


「そうですね。ですが、村長として就任最初の祝い酒ですし、高級な酒を飲みきれないほど持って行ってもいいのでは?」


 ティーナならまずそうするだろうが、そんなに甘やかすと舐められそうなんだよなあ。

 どうもネルロが生意気だしさぁ。

 ヒヒヒ、農民は生かさず殺さず!

 贅沢品よりも、食い物をたくさん与えた方が良い気がしてきた。


 でもまあ、村の生産が上がってきたら、『農民も活かして殺さず』

 領主の権威を上げるためにも村人への報酬として高級酒をたくさん振る舞うとしよう。ま、将来の話だな。

 『人はパンのみに生きるにあらず』と言うじゃない。本来の意味は酒じゃ無くて「神の言葉が必要だ」みたいな話だったと思うが、俺は宗教家ではないので、人気取りのカリスマのテクニックだけ利用させてもらおうっと。


「ふん、高級品の味を覚えて、そればかり買い求めるようになっても事だ。今は貧しい村なんだし、親父、二番目に安い酒で、そのサイズを出してくれ」


 俺は鼻を鳴らして、いかにも厳しい村長だぞという顔で注文する。


「わ、分かりました」


 別のカメを持ってくる店主。分析したが、麦の安酒(エール)と出た。ま、庶民が飲むんだし、ワインで無くて良いだろう。


「じゃあ、それで。ああ、荷台がいるな」


「それでしたら、お付けしますよ。おい、大トカゲ(ロドル)を持って来い!」


 サービスの良い店だ。ついでに配達もやってくれれば良いが、この世界だと街の外に出るのは命がけだから、ちょっと無理だろうな。


「値段はいくらだ」


「はあ、50ゴールドになりますが…」


「やっす! 待て待て、親父、ロドルだけでも千ゴールド、荷台の値段もあるだろうが」


「それは、領主様の家臣様ということで…」


「いやいや、ダメだ。いいか、たとえ、うちのお館様であろうと、適正な値段で売るように。赤字はダメだ」


「赤字?」


「ああ、損と言うことだ。店の方がな」


「でしたら、1160ゴールドで」


「本当にその値段なのだろうな? 嘘は許さぬぞ?」


 顔を寄せて出来るだけ怖い声を出す。俺が凄んでも迫力なんて出ないけどさ。


「は、はあ」


「そこっ! お店の人をいじめない! たとえユーイチであろうと、不当な値切りは許さないわよ!」


 うえ、お館様のご登場かよ。しかも、勘違いしてるし。

 まあいいや、街の人の注目も浴びてるし、一芝居打っておくか。


「ははーっ、これはお館様」


 片膝を突いて、跪く。クロやケインや兵士達も俺に倣って跪く。 


「で、いくらのものを、いくらにしようとしたの?」


 ここで嘘を言うと、斬られかねないので、本当のことを言う。ただし小声で。


「50ゴールドを、1160ゴールドに」


「ちょっ! そんなに負けさせたら、お店が潰れちゃうじゃない! 1160ゴールドをきちんと払いなさい、あと、店主に謝罪。いいわね?」


「ははっ! 正直すまんかった」


「いえ、あの」


 そこはウインクして親父を黙らせる。銀貨一枚と大銅貨一枚と、小銅貨六枚をちょうどで払う。


「確かに」


「必要経費なら出すし、そんな端金をケチって収入にしようとか、止めなさいよ」


「うん。いや、そんな悪いことはしてないんだけどね」


「黙りなさい。権力を笠に着て、そんな半額以下に負けさせるなんて、言語道断よ」


「へーい」


「じゃ、二度とやらないように。いいわね」


「はっ!」


 跪いたままのクロ達に合図して立たせる。

 ティーナの脇でリックスが声を殺して笑っているが、彼には真実が見えているようだ。


「じゃ、もういいわね。主人、今度は私がそちらの言い値で買うわ。この店にある一番良いお酒の大樽を三十」


 いや、そんな量はねえだろ。


「さ、三十でございますか?」


「ええ、最低限でね。有るなら上乗せで買うわ」


「も、申し訳ございません、最高級品となると、ボトル一本しか…」


「ええ?」


「下町の酒屋に、そんな高級品がたくさんあるわけ無いだろ。リックスに買い付けさせろよ」


「む。この大樽は、安物の酒なの?」


「は、はい、左様にございます…」


「そう。んー…、どうしたらいいかしら、リックス。うちのお城から運ばせる?」


「いえ、それは手間が掛かりすぎますし、明後日に間に合いません」


「ああ、そっか」


「それに、この街の売り上げにならないだろ。農民に振る舞うなら安酒で充分だ」


「む。ユーイチ、上級騎士に格上げされたからって、急に下の者を(さげす)むなんて感心しないわね」


 面倒臭いなあ。


「でしたらご自由に。ただ、酒屋の主人がビクビクしちゃってるから、ここの在庫に有る物を注文し、無理なご注文はなさらないようお願い申し上げますよ、お館様」


「別に無理な注文はするつもりは無いけれど。じゃ、この店にある一番高い酒から、大樽三十くらいになる量までの安物を全部頂戴」


「か、畏まりました」


 大人買いだなあ。ま、後で飲んべえが大量発生しないことを祈りつつ、俺の村のことだけ考えておくか。


「では、お館様、失礼致します」


「む。ええ」


 カメを載せたロドルを引いて、その場を離れる。


「ユーイチ様、どうして本当のことを説明なさらなかったのですか?」


 ケインが言うが。


「だって、あそこで言い訳しても、ティーナが聞く耳持たない感じだったし、それに、街の人も、部下の横暴を許さない領主様というイメージが付いて、今後の統治がやりやすくなるだろ」


「ううん、なるほど」


「ユーイチ様が悪者になっちゃいますけど…」


「俺は良いよ、クロ。セルンの村の評判だけ、気にしてりゃいいし」


 あの村人はあまり街に寄り着かない感じだったしな。

 

 肉屋では解体済みの肉を買う。セルン村の人も解体は出来ると思うが、大物は手間だからな。気分は出ないかもしれないが、腹一杯食べられる方が重要だ。

 他にパンとチーズと果実も買って、荷台を山積みにして村に戻る。


「うおっ! こんなに持ってきたのか!」


 ネルロが驚いたが、まあ、そうだろうな。


「ああ。じゃ、お前の家に…いや、この村で一番信用がおける者の家に運び込むぞ」


 コイツつまみ食いしそうだし。


「じゃ、ジーナ婆さんのところだろうな。俺はあんま行きたく無いんだが…」


「好都合だ。その家に案内しろ。村長命令だ」


「分かったよ」


 ネルロの家の隣にそのジーナの家はあった。


「じゃ、ちょっとここで待ってろ。邪魔するぞ」


 ネルロがそう言って家に入る。


「あっ、ネルロ」


 んん? なんか声がやたら若いんだけど。


「なんか用さね。こっちは忙しいんだ。遊びの誘いなら、お断りだよ」


 ああ、婆さんは別にいるのか。ちょっと焦ったよ。


「いや、ちゃんとした用事だ。村長が食い物を持ってきたから、ここで預かってくれ」


 ネルロが言う。


「ああ。じゃ、ご挨拶しないと」


 透き通った声の女の子が言うが。


「いや、エル、アンタは、ちょっと麻袋を持っておいで」


 お婆さんは彼女にお使いを頼んだようだ。


「ん、でも…」


「ワシが挨拶するさね。この家の長だからね」


「分かったわ、お婆ちゃん」


 水色の髪を三つ編みにした凄い美少女が出てきて、俺に一礼するとさっさと行ってしまった。

 エルちゃ~ん。まあいいか。


「おい、婆さんが挨拶するそうだ。腰が悪いから、お前が来い」


 ネルロが俺を呼んだ。


「ああ。失礼する」


 中では、石の台に麦を乗せ、木の棒で叩いて脱穀していたようだ。手作業は大変だね。農機具やエンジンや電気を開発したいが、農機具の知識はさっぱりだからなあ。


「ワシがジーナじゃ」


 むむ、妖怪のようなしわくちゃのお婆ちゃん。さっきのエルちゃんが年を取ったらこうなっちゃうの? 信じられん…。

 おっと、名乗られたら、名乗り返さねば。


「ロフォール子爵の家臣、上級騎士のユーイチだ」


「上級騎士にしては、頼りなさそうだねえ」


「だな」


 ほっといてくれ。


「おほん、収穫祭に振る舞う酒と食べ物を、ここで保管してもらいたいんだが、構わないか?」


 咳払いして俺は言う。


「ああ、構わないさ。そこのネルロに預けるよりは大分マシさね」


「どう言う意味だよ、ババア」


「ふん、子供の頃から収穫祭の食べ物をつまみ食いしてたお前は、村人には信頼されておらん。そう言う意味じゃ」


「ぐ」


 ここに持ってきて大正解だったようだな。快く引き受けてくれたし、この婆さんは村人のことは詳しそうだから、味方に付けておきたい。


「じゃ、さっそく、運び込もう」


 冷蔵庫なんて上等な物は無いが、直射日光はよろしくないだろうしな。

 ネルロとケインと兵士で重い物を運んでもらい、俺やクロは、果物など、軽い物を運ぶ。


「よし、これで全部だ」


「随分と買い込んだねえ。ユーイチや、代金はどうするんだい?」


「ああ、それはもう僕の金で支払い済みなので心配要らないですよ」


 どうもこのくらいの歳の人にタメ口はしっくりこないので敬語にしておく。


「そうかい。ならいいが」


「ジーナさん、この村の問題点、困ったことは何かありますか?」


「人手が足りないね。兵役に働き手が取られてしまって、子供も口減らしで奴隷商に売ってしまって、残りは年寄りばかりだ。今年は無税というが、来年からどうなることやら」


「過酷な取り立てや兵役はしないよう、お館様に進言しておきます。まあ、大丈夫ですよ」


「どうだかね」


 全然信用されてないな。まあ、仕方ないか。


 村を発展させるとかの前に、まずは村人の信用を得ないとなあ。

私用メモ


熟成させたビール …… ラガー

熟成させてないビール …… エール

ホップ …… 保存を助け味や香りを良くする草


エールってたまに本で見かけるけどどう言う飲み物なんだろうと思ってました。

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