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異世界の闇軍師  作者: まさな
第八章 村長だべさ

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第四話 もぬけの殻

2016/9/29 若干修正。

 九月一日。スレイダーン国と交わした条約により、ロフォール領がミッドランド国へ正式に割譲された。

 それに伴い、ティーナがロフォール領主として着任する手筈になっている。

 侯爵令嬢から子爵へってのは格下げのような気もするのだが、次女であり嫡子で無いティーナはラインシュバルト家の家督も継がないので、一応出世なんだそうだ。


「見えたわ。あれが、私の新しい館ね」


 ティーナが指差すが、ひっそりと森に囲まれている小さめの邸宅は、ラインシュバルトの城と比べると、かなり見劣りする。


「砦とは別なのね」


 リサが淡々と言う。まあ、下手に気遣われてもティーナも居心地が悪いだろう。俺も普通で行くか。


「ええ。でも、領主なんだからこんな辺鄙(へんぴ)なところより、砦の方が指揮を執りやすいと思うけど、どういうことかしら…」


 剛胆なティーナには、最前線の怖さは思いつかないらしい。説明してやるか。


「領主だからこそ、戦場から離れて安全なところに居たいと思う訳だよ」


「ああ、ユーイチみたいな領主だったのね」


「む。まあな」


「自分だけ安全なところなんてね」


 リサが言う。


「臆病者だな」


 レーネが言う。


「汚い奴ニャー」


 リムも言う。


 何とでも言え。


「ちょっと、そこまで言わなくてもいいでしょう。ここを作ったのはユーイチじゃないんだし」


 ティーナがかばってくれた。


「そうです。ユーイチ様はそんなお人では無いですから」


 クロが言うが、いや、そんな人なんだけどね? クロの俺に対する美化がちょっと怖いです。

 猫の時はそんなに言ってなかった…って当然か。喋れなかったんだし。

 

 クロをここに連れてくるのは不安が残るのだが、真剣な目で「私も戦えます! 足手まといになんてなりません!」と言ってくるし、ラインシュバルトのお城に一人だけ居させるのも可哀想だったので連れてきた。

 俺の可愛い妹みたいなもんだし、しっかり守ってやらないとな。


「お嬢様、ご無事で何より」


 先に到着していた騎士のリックスが出迎える。兜こそ着けていないが、鎧を身につけ、このまま戦に出られそうだ。バーライン村の時はリックスも平服だったんだけどね。


「別に戦に来たわけでも無し、少し警備が物々し過ぎるわ。ギブソンも、引き継ぎが済んだら、帰っていいから」


「む、俺は帰らんぞ」


 甲冑を着込んだ騎士が言う。兜を外したところも見たが、ギブソンは髭もじゃのちょっと怖めの顔の人だった。リックスはヒゲ無しのイケメン。どちらも茶髪だが、リックスは明るめの色で、ギブソンは焦げ茶色だ。

 二人とも上級騎士でお館様からよく指示を受けているので、ラインシュバルトの重臣だろう。


「それだと一から十までお父様にやってもらう感じじゃない。私が子爵として成長できないわ」


「まあ、そう仰いますな。新任は色々と大変ですし、私かギブソンのどちらかは残りますが、片方はいずれ戻りますし、ティーナ様をお館様として命令も聞きますから」


 リックスが笑顔で言う。


「だと良いけど。それで、リックス、中は?」


「人っ子一人、残っておりません。宝物庫も糧食庫も空です。家具はさすがに置いていったようですが」


 敵に明け渡すんだから、財産を残しておくわけが無い。本当ならこの館も焼いてしまいたいくらいだったのだろうが、いずれ取り戻すつもりか、条約で禁じられたか、どちらかだろう。


「ま、そんなものかしらね。じゃ、糧食を運び込んで、チェックはもうリックスがやってくれたでしょうし…ひとまず、それで」


「はっ!」


「こういうときの返事だけは良いんだから」


「お前のためにやってくれるんだ、そう言うな。それで、部屋割りはどうするんだ?」


 レーネが聞く。


「ああ、うん、それを決めないとね。みんなで見て回って、好きな部屋を取って良いわ」


「一番良い部屋と執務室はティーナのだけどね」


 リサが言う。


「んーまあ、執務室はそうかしらね」


「あたしは台所に近いところが良いニャ!」


「却下」


 ティーナが即座に拒否。


「ニャ!?」


「リムの部屋は食堂の近くにしてあげるから」


「ニャ! それなら良いニャ!」


 つまみ食いさせない配慮はさすがだ。


「ユーイチの部屋も作るん?」


 ミネアが聞くが、俺は村長になる予定だしな。できればみんなと一緒が良いが、自分の治める村に住むのが普通かも。


「当然でしょ。ユーイチに割り振るのはここから一番近いセルンの村だから、一時間と掛からないわ。私の直轄の村はその隣。これ、子爵としての命令だから」


 一時間とは近いな。それならこの屋敷に住んでいても良いか。


「ま、別に俺はどこでも良いし、みんなの近くの方がありがたいから拒否なんてしないけどな」


 誰かがそれは職権濫用だと突っ込んでくるかと思ったが、みんな納得の表情で頷いている。


「ん、むしろほっとした。一番遠くでスレイダーンの国境間近だと、どろどろの権力争いを見せられた気分になってた」


 ミオが凄いこと言うし。そんなのされたら、そこまで俺と競うつもりなのかと、戦慄してただろうな。


「なんでそんな事しなきゃいけないのよ。領主の腕前勝負は受けてるけど、足の引っ張り合いみたいなことをするつもりは無いから」


「同じ陣営だし、俺がティーナの部下という位置づけだからな」


「そうそう」


 屋敷の部屋を見て回るが、内装は綺麗にしてあって、全く問題が無い。


「ああ、うちはこの部屋がええな。落ち着きそうや」


 少し狭い部屋に入ったとき、ミネアが言った。


「いいの? ここ、窓が一つしか無いけど」


 ティーナはこの部屋はあまり気に入らなかったようだ。


「本人が良いって言ってるんだから、好きにさせておけば良いでしょ」


 リサが言う。


「そ。まあ、変えたくなったら、まだ部屋はあるみたいだし、いつでも言ってね。クロちゃんはどこにするの?」


「あ、その、私はユーイチ様と一緒のお部屋が…」


「却下! 人間になったんだから、きちんと一人一部屋よ」


 ティーナがキッと睨むようにして言う。


「はあ、残念です」


 俺も残念だが、王女で女の子だもんなあ。猫の時は全然気にしなかったけど。


「お。私はここにするぞ。他の奴は諦めろ」


 熊の毛皮のカーペットが床に有り、レーネはこれが気に入ったのだろう。


「諦めるも何も、取り合うような部屋じゃ無いわよ。好きになさい」


 リサが言うが、まあ、俺の他は全員女子だし、この部屋を好むのはレーネくらいのもんだろう。熊の頭が、本物だけに引くわー。やたらデカいし。


「ユーイチさんはどこにするんですか?」


 クレアが聞いてきた。


「うん? ああ、まあ、余ったところでいいんだが」


「なら、私の部屋の隣でいいわね?」


 ティーナが言う。


「ん? まあいいが」


「む…」


 そこでなぜ俺を睨む、エリカ。


「では、私はその隣で」


 クレアが言う。


「あ…」


「クロは俺の部屋の向かいにすればいいよ」


 言う。


「あ、そうですね。はい」


 にっこり笑うクロ。よしよし。


 部屋割りを決め、各自の荷物を置いて、執務室に集まる。


 机の席に座ったティーナが言う。


「じゃ、揃ったわね。今日の予定だけど、夕方に近隣の領主を集めて新任の晩餐会、と言っても、ほとんど私の配下だけで、あとはヘイグ男爵が来るだけだから、心配しなくて良いわ。先方もパーティーは辞退すると言ってきてるし」


 パーティーが無くてほっとする。ダンスも教わっているが、俺は苦手だ。スキルシステムのおかげで、何とか最低限のレベルはマスターできたけど、それ以上にするつもりは無い。


「ニャ、あたしもご飯以外はパスで」


「いいけど、今日はご飯と挨拶だけだし、無礼講にしてあげるから」


 多少不安がつきまとうが、男爵相手なら、ティーナの方が格上、なんとかなるだろう。


「色々やることはあるけど、まずは顔合わせね」


 夕食まで時間が空いたので聞いてみたが、地図は適当に街と村の場所を示した物しか置いてなかったそうだ。早急に正確な地図を作る必要があるな。

 税収目録の方はそのまま置いて有ったそうで、ティーナがその写しを書く間、俺も確認した。


「じゃ、街を見て回る?」


「そうだな」


 みんなで連れだって視察。ギブソンや他の騎士も護衛として付いて来たから大所帯だ。


「うーん、小さいし、人が全然居ないわね…」


 領主のお膝元の街だが、ラインシュバルトや王都などとは比べるべくもない。ティーナの父が小規模だと言っていたが、ルドラやヒューズの街とそう変わらないだろう。田舎だ。

 さらに敵国の領主がやって来ると言うことで、かなりの数の町人が逃げ出したのか、空き家になっている家もあちこちにある。まあ、ティーナはそんな悪逆な領主では無いけれど、苛烈な徴税をやったり、領民を見せしめや嗜虐でいじめたりする領主なんて、珍しくも無いだろう。

 見つけても、俺たちの姿を見ると、顔を引き攣らせてさっと裏路地に隠れたり、窓を閉める街の人達。


「む、なんかへこむわね」


「これは早々にお触れを出した方が良いぞ、ティーナ」


 俺は言う。


「ん? どう言うお触れを出すの?」


「来年の八月いっぱいまで無税、自国の領民として厚遇するから心配要らないって感じの」


「ああ、そうね。じゃ、ギブソン、兵を使ってこのお触れ、出してくれる? 今すぐ」


「分かった。ケイン、戻って兵士を連れてこい」


「了解!」


 ダッシュして戻っていくケイン。仕事熱心で真面目な騎士だ。俺と同格なのに、いや、俺は上級騎士に上がったんだった。うん、上級騎士は楽をして良し。下級騎士は頑張れ。


「じゃ、私達も手分けしてお触れを出しましょうか」


「待て。他の者はいいが、お嬢はダメだ」


 ギブソンが言う。


「何でよ?」


「決まってるだろうが。護衛する身にもなってみろ」


「自分の身くらい自分で守れるんだけど…」


「ダメだ。刺客がいないとも限らん」


「ふう、仕方ないわね。じゃ、兵士が来るのを待ちましょう」


 兵士がやってきて、お触れを出して回ったが、街の人は半信半疑のようで反応が無い。


「どうすればいいのかしら」


「焦っても仕方ない。酷い目に遭わないと分かれば、直に出てくる」


 ギブソンが言うが、それだと結構時間が掛かるし、町人の逃亡が続くと、税収も落ちてくるしなあ。


「私は神殿に行ってきますね」


 クレアが言う。


「あ、うん、分かった」


「じゃ、私は冒険者ギルドに顔を出してくるわ」


 リサが言う。


「あ、そうね、お願い」


 神殿やギルドの人間を通じて、新しい領主はお優しい御方だから心配するな、と口コミで地道に行くのも良いが…。


「お、こっちの収穫祭って終わったのかな?」


 お祭りを大々的にやって酒や食べ物でも振る舞えば、少しは街の雰囲気も変わるだろう。


「いいわね、それ。聞いてみましょう」


 ティーナが開いている道具屋に入る。俺たちを見て青ざめる店主。 


「心配しなくて良いわ。何もしないから。ちょっと聞きたいんだけど、この街の収穫祭は終わったの?」


「い、いえ、まだでございますが…」


「そ、ありがとう」


 まだビビってるし。ここはあれだな。


「店主、このポーションを一つ、くれ」


「は、はい、お代は結構ですから、どうぞお持ち下さい」


 そう言うと思った。


「いやいや、ちゃんと払うぞ! 道具屋で代金を払わなかったら、誰であろうと、うちの領主様に罰せられるからな!」


 デカい声で言う。


「ええ、その通りよ」


「では、これで」


「は、はい、確かに」


 店の外に出た。


「凄くわざとらしかったんだけど…」


 ティーナが言う。


「ん、あからさまにお芝居とバレバレ」


 ミオも言う。


「まあいいだろ。タダでせしめた訳じゃ無いんだし」


「そうね。ギブソン、いちいち言わなくても良いと思うけど、兵士には街の人に手荒な真似をしないよう、言っておいてよ?」


「うちの騎士団にそんな不心得者がいるわけ無いだろうが。お館様もそんな事はしないようにと言いつけを出してるぞ。まあいい、帰ったら訓示を出しておく。お前がここの領主だ」


 嫌そうに言うギブソンだが、命令は守るようだ。


「ええ、お願いね」


 ティーナはお前が領主だと言われたことが嬉しかったのか、にっこり笑って言った。

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