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異世界の闇軍師  作者: まさな
第八章 村長だべさ

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第二話 勉強する村長

2017/8/2 誤字修正。

 功績によりロフォール領を治めることになった俺とティーナ。


 だが、前任者のお引っ越しもあるので、着任まではまだ一月ほど時間がある。

 本当なら引き継ぎの期間も欲しいところだが、敵国の貴族から満足な指導など得られるはずも無いし。

 幸い、麦の収穫前に統治権をもらえるので領民の飢え死には心配しなくて済みそうだ。

 

 焼け野原にして敵に渡すという苛烈なことも出来るのではと心配したが、ティーナの父ルーファスが「条約でそこは詰めてある」と笑って否定した。

 外交官は有能だなぁと思ったが、この世界では領地の取り合いは珍しくも無いので、譲渡の場合に焼き討ちはしないのが慣習だそうだ。


「うう、こんなことなら、領主としての勉強も真面目にやっておけば良かった…」


 俺の隣で嘆くティーナ。


「まったくだ。私もお前を甘やかしすぎた。反省して心を鬼にするから、今からでも頑張りなさい」


 心を鬼にすると言いつつも微笑んでいるティーナの父。


 ラインシュバルトの城の執務室で、俺とティーナは村長や領主としての指導を受けている。先生は現役の領主であらせられるお父様と上級騎士のリックスだ。


「お館様、税収目録はこんな感じでよろしいでしょうか?」


 チェックを終えて、俺は羊皮紙を差し出す。


「えっ! もう出来たの?」


 ティーナが驚いてるが。


「まあね」


 形式に則って、誰それが何日にどれだけの麦を納めたかを羅列し、最後に合計を書き込んだだけのもの。

 実際にラインシュバルトの去年の村の報告書を見せてもらって、実践している。

 ティーナの名誉のために言っておくが、彼女は俺より上の領主のため、関税や人頭税や商税など、書く事も多く、複雑なのだ。


「どれ、見せてみなさい。む…ほう。リックス、これを見ろ」


 ティーナの父が一目見るなり、家臣にも見せる。


「むっ、これは…」


 リックスも一目で気づいたか。


「ちょっと、何?」


 ティーナも気になったか、俺の税収目録の羊皮紙を覗き込む。


「字が少し汚いわね」


「うっ、これでも、小学校の時は習字教室に行ってたんだけどなあ」


 パソコンとプリンタさえあれば、印刷で綺麗に仕上げる自信はあるんだが、こっちの人達って、ティーナも含めてやたら字が綺麗なのよね。

 手書きしか無く、それが貴族の能力と見なされるから、文字の練習もきちんとやっているのだろう。


「小学校? まあそこはどうでも良い。村長にしては上手い方だ。それより、気づかないのか? ティーナ」


「いいえ、きちんとアルファベット順に並べ変えてるわね、ふう」


 こちらの世界の文字は、俺には日本語のように見てぱっと理解できてしまうのだが、よくよく見ると片仮名ではなく、アルファベットだ。しかも英語とも違う。

 真面目に考え出すと頭痛がしてくるので、もはやそういう物だと諦めているが、不思議だ。外国語や古文も行けるのだが、大陸語と呼ばれる公用語がこの世界では一般的なので、通訳としての活躍の場は無さそうだ。


「大した記憶力ですな」


 リックスが感心してくれるが、メモリーの呪文だから。


「種明かしはこれですよ」


 下書きしたウインドウを全員に見せる。計算やソート機能まで付いてるよ。便利!


「ふむ、魔術か」


「これはいささか風変わりな」


「私も魔法、使えたらなあ」


 ティーナがうらやむので言っておく。


「君の場合、配下に魔法使いなり優秀な税務官を置いておけばいいだろう」


「でも、仕事の内容は知っておかないと。それにやる気が失せるから、そう言うこと言わないの。お父様、これ、別に並べ替えはしなくても良いわよね?」


「そうだな。凡庸の評価で良いなら、それで構わん」


「くっ!」


 ティーナは真面目なところがあるから、並べ替えをやるんだろう。手書きでそれやるの、大変だよ?


「では、ユーイチ、お前も街の税収目録を作ってみなさい」


「はい」


「負けるもんですか…!」


 なぜそこまで俺をライバル視するのかよくわからないが、君の家臣になったのにね?

 それにティーナは人としての器やら剣の腕やら美貌やら諸々、勝ってるところがあるだろうに、真面目と言うか、欲張りと言うか。


「次は、輸送の手配だ。ここも気を付けねばなるまい」


 宅配や電子決済なんてものは無いから、麦を荷馬車に載せて、領主の城や王都まで運ぶ必要がある。街道の盗賊にも気を付けないとね。


「道が確かなら、最短距離の街道からルートを変更して運ぶのも手だ。斥候を先行させて安全を確認させ、警備も怠ってはならん」


「そうね、下手したら猫の獣人や黒い魔術士も出てくるかも知れないし」


 ティーナが当てつけのように俺を見るが、止めて! お父様の前で、ワタシの暗い過去を暴かないで!


「ふふ、そう言えば、この者、盗賊上がりだったな」


 すでに話しちゃってるし。


「いえ、私は盗賊団に捕まっていただけの被害者でしたので」


「そう言うことにしておきましょうか」


「いや、ホントに事実だから。荷馬車を襲ったことは一度も無いよ!」


「その割には仲良さそうだったわね」


「ゴホン、話がそれておりますぞ。輸送先ですが、王城を指定しておけば、後は城の方で案内をしてくれます」


 リックスが話を戻してくれた。真面目な騎士で助かる。 


「その時、領収書みたいな物をもらうんですか?」


 聞く。


「ん? いや、そのような物は無いが…」


 無いのか。それはちょっと不安だな。後で渡した、渡してないの水掛け論にならなきゃ良いけど。


「心配しなくても、お城の役人がそんな横領をするとは思えないけど」


 だと良いんだが。


「ロフォール領の街は四つ、いずれも小規模だ。村は十八。人口は合計で六千」


 ティーナの父がそう言うと、ティーナが悲鳴に似た声を上げた。


「ええっ? そんなに少ないの?」


 俺としてはラインシュバルト領の人口を聞きたいところだが、どこかの密偵と疑われては敵わないので、聞き流そう。


「それほど広い領地でも無いからな」



 人口六千人か。

 平均の生活費が年に一万二千ゴールドとすると、一人頭に二割の税収を掛けたら、それだけで1440万ゴールド。

 うお、スゲェ! 領主はお金持ちになれそうだわ。

 でも、男爵家の平民の使用人の月収が千ゴールドだったから、農村だとその半分以下かな。

 さらに王都への上納金が半分くらいだろうから、それを差し引いて360万ゴールド。

 日本円で七億二千万円!


 ウホッ。領主になりたいな!


 徴兵するとなると、十五歳から四十歳までの男子で、平均年齢は五十歳ぐらいとかだろうから、対象年齢の層が総人口の四分の一として、千五百人か。

 兵士の数は総動員を掛けたとしても少ないなぁ。

 ラインシュバルトの兵数は騎兵六百、歩兵四千くらいのはずだから、最低でも人口はこちらが三倍の一万八千人、ティーナの声の感じからすると、十万くらいは行くかもね。


 現代の日本の人口とは比べるべくもないが、地球の中世の世界人口が数億人でしかなかったことを考えると、この世界の人口が多いとはとても思えない。電気すら無いし。


 俺が村長になったら、輪作やら化学肥料やら魔術でガンガンに増やすけどさ。

 フフフ。チーターや! チーター村長を目指すでぇ!



「税収は、硬貨が年で合計249万2041ゴールド、上納を差し引くと124万6020ゴールド」


「「少なっ!」」


 俺とティーナの声がハモる。


「小規模の街だからな。内訳は、人頭税が220万3200ゴールド。商税が14万2521ゴールド、関税が14万6320ゴールドとなる」


「商税が低いわね…」


 人頭税がほとんどだな。関税が一割行かないなら、撤廃して行商人を呼び込めば、それ以上に儲かるんじゃね?


「次に年貢の方だが、春蒔きライ麦の収穫量は7万2281袋、冬蒔き大麦の収穫量は6万1501袋、作付面積は4800ヘクタールとなり…」


「えっ!」


 ちょっと数字に驚いてしまった。

 東京ドームが5ヘクタール弱だから、それが960個とか、広すぎじゃないの?

 そんなに麦畑あんの?


「んん? どうかしたかユーイチ」


「はあ、あの、ヘクタールの単位って…」


「100メートル×100メートルが1ヘクタールだ。一万平方メートルだな」


 単位は地球と同じらしい。地球の大きさを元に決められたメートルが使われること自体、おかしいと思うのだが、一応、聞いてみるか。


「1メートルはどうやって決めたんですか?」


「教皇とトリスタンとフランジェが、地域が違っても単位が同じになるようにと、錫杖の長さを条約で決めたのが始まりだ」


「このくらいの長さだ」


 リックスが両手を広げて示すが、まあ、地球の一メートルと同じくらいか。


 その錫杖はどうやって長さを決めたのか、小一時間問いただしたいところだが、今は止めておこうか。書物の閲覧も頼めばなんとかしてくれるだろうし、自分で調べる方が良い。

 侯爵も忙しいからな。


「そうですか、分かりました。説明を止めて申し訳ありません」


「うむ、疑問に思った事があれば、その時に聞いておけ」


 頷く。


「ロフォール領は今年は陛下のご配慮を頂いたので、王都への上納は免除されている。だから、麦は備蓄するため、製粉せずにそのまま保管しておくのだ。その方が長持ちするからな」


「「なるほど」」


「それから、来年の作付けのために、種籾は二割は残しておく必要がある。それは農夫が管理するから、領主は普段は気にしなくて良いが、飢饉の時は食べ尽くしてしまう者もいるから注意しろ」


 上納の他に種蒔き用にも残しておかないといけないとは。

 農作物って天候に左右されやすいし、大変だなあ。


 輪作で無双しようかとも思ってたけど、すでに二毛作はやってるみたいだし、オラだんだん、自信がなくなってきたべ。

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