第十一話 殊勲
2016/10/3 若干修正。
スレイダーンの王子が砦に視察に来ているという情報を掴み、大軍で砦を包囲するという噂を流し、まんまと砦から逃げ延びようとした王子をとっ捕まえる…。
今考えても、そう上手くは行かないでしょう、と思う作戦なのだが、見事に嵌まって成功した。
カーティス卿って凄いな。策士だよ、策士。
……ただ、あの高レベルの護衛騎士は、普通、返り討ちだと思うのよ。
そこがちょっとね……。
とは言え、無事にミッドランドの野営地に戻ってきたので、報告だ。
「戻って来たか、ユーイチ」
すでにミッドランドの騎兵部隊の斥候が俺たちを把握していて、騎士隊長には報告が上がっていたようだ。
ニヤニヤしてるけど、一歩間違えば全滅してたし、そしたらアンタの責任問題よ?
そこをとことん追及してやりたくなる笑顔だが、それは後にするか。
「は、作戦通り、王子を捕らえて参りました」
見事捕らえてきました、なーんて言いたくなったが、自画自賛ってのもね。俺一人の手柄でも無いし。
「な、なにっ! そうか、やったか! やあ、お前は出来る奴だと思ってたんだ」
ホントかよ。
「お前ら、ユーイチがやったぞ! 敵の王子を捕らえて帰った!」
「おおっ!」
「やったな! 新入り」
「さすがは魔術士だ」
「くっ、お嬢様を大切にするんだぞ!」
いや、まだ結婚するとかそう言う段階じゃないんだけど、まあいいや。
「よし、すぐに報告に行くぞ」
続いて、騎士隊長に連れられて大将のところへ。王子の身柄はすでに引き渡してあるので、向こうはもう知ってるだろうけど。
「む、来たか…。でかしたっ!」
やたらデカい声で言うアーロン侯爵。一瞬、怒ってるのかと思ったよ。
「ははっ、ありがとうございます。これもカーティス様の優れた作戦の結果なれば」
上官を褒めておかないとね。実際、作戦を出したのはそこのカーティス副将軍だし。
「いやいや、レオナルドも運良く上手く行けばそれでいいと言う程度だからな。そうであろう?」
「は。これほど敵が乗ってくるとは、僥倖にございますれば。しかし、機転を利かせ、敵の護衛を上手く振り切ったとのこと、この者の才が無ければ、不可能だったでしょう」
「ふん、若いくせに、チッ、才能持ちか、こやつめ、こやつめ!」
手加減はしてくれてるんだろうけど、頭や胸を結構な力で殴られる。
「あう、痛いです、閣下」
「おやめ下さい閣下。親愛の表現も、相手は下級騎士、まだ付き合いも短い相手ならば」
「ふむ、なら、おお、ワシの孫娘と結婚してみるか、ユーイチ。そうすれば好きなだけドツキ放題だ! ガハハ」
いや、そこで本音出されても。孫娘さんが可哀想過ぎるし。
「閣下、お戯れはそれくらいに。侯爵家の令嬢ともなれば、貴族からあてがうのが慣わし、名門のアーロン家となれば、なおさらにございます」
「ふん、分かっておるわ。しかし、下級騎士の魔法使いか」
「は」
「作戦も成功させたのだ、上級くらいにはなってもよかろう。そうは思わぬか、レオナルド」
「それについては、王宮直属の騎士、陛下のお心次第なれば」
「ふん、堅物め。上級騎士程度、褒美でちょちょっとだろうに。ついでに、男爵くらいになれば、幕僚にできよう」
ええ? このおっさんの側仕えってこと? 冗談は止めて。
「閣下、あまり地位を口にされますと。陛下の専権事項なれば」
カーティス卿がそう言って止めてくれた。
「ぬ、不忠義と受け取られては敵わんか。無論、前線の司令を預かる身として、功績を挙げた部下に褒美を出すことは構わぬな?」
「もちろんでございます」
「ならば、レオナルドよ、敵の大将を超える首級を挙げたのだ、これだけの功績、金品で済ますわけにも行くまい。ワシから陛下に推薦状を出すというのはどうだ?」
うわあ、このおっさん、本気だ。
「地位を明記されないのでしたら、よろしいかと存じます」
「ふん、まあ、元は奴隷だったか? さすがに男爵は難しかろうな。だが、上級騎士か、惜しい。チッ、ユーイチ、もう一度、ちょっと行ってきて、今度は王太子を捕らえてこんか」
「いえ、無理です」
即答。
「むっ。ハッハッハッ、口答えするでないわ! 小僧がっ! ワシに逆らうなど百年早いぞ」
ボコッ! ドスッ!
「は、ははー、申し訳ございません、お許しを。あう」
「閣下」
「ぬう。しかしな…ユーイチよ、お主、よもや、これが初陣ではあるまいな?」
この質問、ハイ、と笑顔で元気良く答えたら、どうなるんだろうね? そんな勇気は無いけど。
「いえ、戦は二回目にございますれば…ついでに言えば、初陣は大敗北、しっぽを巻いて命からがら逃げ帰った次第で」
「む、そうかそうか。よし、推薦状を書いてやるぞ。玉もくれてやる。剣も、さすがにこの剣は我が家の家宝、渡せぬが、何本か使っていないのがあったな」
上機嫌になったのは良いけど、剣はもらっても嬉しくないん…。だから慎ましげに遠慮しておこう。
「いえ、閣下、推薦状と玉だけでも身に余る光栄にございますれば、作戦を立てた上官のカーティス様にもご配慮を」
「んん? はは、レオナルド、聞いたか? こやつ、お主の褒美まで心配しているぞ。お前にそっくりで、いけ好かん奴だな!」
この二人の関係ってどうなのよ?
「ユーイチよ、私はすでに閣下から褒美を頂いておる。心配には及ばんぞ」
「ははっ、差し出がましい事を申しました。お許しを」
「もう良いわ。では、渡してやれ。推薦状は、今から書いてやる。紙とペンを持って参れ!」
玉と言うから、丸い水晶玉でもくれるのかと思ったら、側仕えの騎士が恭しく両手で四角い銀細工を渡してくれた。
「ほほう、これは見事な装飾ですね。我が家の家宝と致します」
「むっ! それはワシへの当てつけか?」
「へ?」
「ユーイチよ、それは開けて見るものだ」
カーティス卿がそう言うので、箱を開けてみる。おお、でっかいエメラルドが入ってたよ…。やっべ。
「も、申し訳ございません。このような高価な褒美、今まで目にしたことが無かったもので、気づきませんでした」
「ふん、玉と言ったら宝玉に決まっておろうに。まあいい、奴隷なら知らずとも無理はないか。さて、推薦状も書いてやったぞ。誰ぞ、これを急ぎ王都まで届けるのだ!」
「ははっ!」
長居したら八つ当たり確定なので、礼を言ってさっさと天幕から出る。
「ユーイチ!」
「ああ、ティーナ、おわっ!?」
抱きつかれた。
「無事で良かった! 陣を抜け出して後を追おうとしたんだけど、ギブソンに捕まえられちゃって」
「ああ、心配を掛けて済まなかった。うん、この通り、ピンピンしてるよ、いてて…」
胸を張ったら、痛かった。あのおっさん…。
「む、どこを痛めてるのよ? ほら、ポーション飲んで」
「おう。サンキュ。ふう。とりあえず、アーロン侯爵は要注意だ」
「む。あなたに何かしたのね? きちんと褒美を出すよう、掛け合ってくるわ」
「わー、待て待て! 褒美はちゃんと、凄いのもらったから。ほら、玉と地位の推薦状」
箱をティーナに渡す。ティーナは宝石箱と分かっているようですぐに開けた。
「あっ、これ凄い。うちに有るのより大きいわ」
「へえ、じゃ、かなり凄いのをくれたんだろうな」
「そうね。綺麗…」
取りだして光にかざして見とれるティーナは、やはり女の子だ。
「良かったら、ティーナにあげるよ」
「えっ! あっ、ダメダメ、これはあなたの褒美でしょ。ちゃんと家宝にしないと、アーロン侯爵も良く思わないわよ」
「おっと、寿命が無くなるところだった。そうだな、家宝にする」
「うん、それがいいよ」
王子を捕らえたことで、明日に予定されていた総攻撃は中止となり、ミッドランドの先遣隊は勝利の撤収となった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ユーイチ様!」
ラインシュバルトの城に戻ると、クロが俺に抱きついてきた。
「ああ、心配掛けたね。でも、無事だっただろ」
「はい、でも、でも…うう」
泣き崩れるクロ。空色のフリルのドレスを着ていて、こうして見るとお姫様だなあとしみじみ思うが。
光沢のある銀髪とか綺麗なんだけど。
それでも、泣いていては可愛さが半減だ。
「よしよし」
猫の時はあごの下や、脇腹を撫でてやっていたが、さすがに人間となると、頭や背中しか撫でられない。
ようやく落ち着いたところで、出迎えてくれていたティーナの母のマリーンに挨拶する。
「マリーン様、クロのこと、ありがとうございました」
頭を下げる。
「あら、そっちなの? ふふ。ええ、もちろん、クロちゃんも当家の大切な客人ですし、それに、なんだか娘みたいで、こういう、大人しくて可愛らしい娘が欲しかったのよ」
「お母様、それ、私とお姉様は不満だったと言うこと?」
ティーナが聞く。
「まさか。でも、二人とも誰に似たのか気が強いし、こういう可愛らしいドレスは着ないでしょ? クロちゃんがもうちょっと小さい頃に来てくれたら、どんな手を使ってでも娘にしてたわね」
「お母様…そう言う子を見つけても、変な手は使わないで下さいね」
「ふふ。それと、二人とも、ルーファスには今夜の晩餐には絶対に出席するという約束を取り付けたから、後は上手くやりなさい」
ウインクするマリーンは、俺とティーナをくっつけようとしているが、あまり力を入れてもらっても困るんだよなあ。
「も、もう、そう言うのは順序があるんだから、勝手に進めないで」
「そんな悠長なこと言ってたら、もらい手が無くなるわよ?」
「う」
「いやいや、マリーン様、ティーナはまだまだ若いですし」
言っておく。
「ダメよ。殿方は若い子をありがたがるんだから。十五歳のティーナと、二十五歳のティーナ、ユーイチならどっちを選ぶ?」
「間違いなく十五歳を頂きます!」
右手に握り拳を作りつつ、真顔で即答。
「ほら」
「ハッ!」
しまった、つい本音が!
「む。ふーん」
「い、いや、今のは十五歳の君はさぞ可愛かったんだろうなあって、そんな意味で…」
「それ、今は可愛くなくなったって言ってるのよね?」
「い、いやいや、そうじゃないんだが、お、大人っぽくなったよね!」
「子供の頃の私を知らないのにそんな事言えるんだ」
「はうっ、…うう、あー、ええっと、予想が付くと言いますか、付かないと言いますか…」
「もう黙ってなさいよ、ユーイチ。言い訳するだけボロボロじゃない。それに、上級騎士になれる見込みが有っても、貴族じゃないんだから、あまり先走らない方が良いと思うけど」
リサがその辺を気にする。
「あら、別に家督は継がないんだし、私は良いと思うわよ? だいたい、うちはこれ以上大きくすると、やっかみが大変だもの」
マリーンが言うが、家督はルークが継ぐのだろう。優秀そうなお兄さんだし。ティーナも家出するくらいなんだから、家督に興味があるとはとても思えない。
もう一人の、ティーナの姉はもう結婚していて、この家にはいないそうだ。
「いざとなれば、駆け落ちでもいいんじゃないのか?」
などとレーネが言い出すし。
「ええ? それだと、こっそり赤ちゃん、見せに来てね?」
「もう、お母様、それは見せますけど、駆け落ち前提で話さないで。というか、何度も言うけれど、私とユーイチはまだそこまでの関係じゃ―――」
「いいじゃない。アーサーに比べたら、随分と前向きだし」
「アレは…」
顔をしかめて、アレ呼ばわり。哀れ、アーサー。
「ううん、かなり揉めてるみたいね。でも、お父様にはきちんと話しておかないと、面倒な事になるわよ?」
「ええ、それも有って、きちんと話の場を設けるように、言ってたんだけど。お父様ったら。まあ、戦もあって忙しかったとは思うけど…」
「そうね。でも、今夜くらいは、祝勝の場でもあるし、大丈夫よ。その辺も食事の後できちんと話しておきなさい」
「はい」
俺から逃れると言うより、ティーナの婚約解消を嫌がっていたのか。両方かも。
「じゃ、他のみんなもご苦労様。この子のお守り大変だったでしょう?」
「ちょっと、子供扱いしないでよ…」
「問題無かったと思いますけど、部隊が違っていたので」
リサが言う。
「ああ、そう。ユーイチとも別々に?」
「いえ、ユーイチの部下という形で彼に付いてましたから」
「そ。じゃあ、ユーイチがもう少し、出世するといいわね」
「ええ…」
リサの返事は歯切れが悪かったが、騎士や貴族の堅苦しいのは嫌だと思ったのだろう。
「じゃ、立ち話もなんだから、あなたたちの武勇伝、お茶でも飲みながら聞かせて頂戴」
客間でマリーンとクロにあれこれ話し、すぐに夕食の時間となった。
「あ、ティーナ、それじゃダメよ。着替えてらっしゃい」
「ええ? これ、楽なのに」
「冒険者をやってても良いけど、今日くらいはきちんと貴族をやってなさい。ユーイチのことや婚約解消の話をするんでしょ」
「分かりました、お母様」
さて、こうなると、ちょっと緊張してくるなあ。ティーナの父親だから、そんな酷いことはしてこないと思うんだが。
ムキムキだったらどうしましょ?
…それは無いよね? だってルークがムキムキじゃないし。




