第七話 捕虜
描写あっさりですが人間同士の殺傷があります。
2016/11/22 若干修正。
騎士としてミッドランド軍に配属されている俺は、スレイダーン軍の迎撃部隊と交戦中なので。
今、逃げるのはまずいだろうなあ…。
とにかく、迫ってくる騎兵に対して、目潰しの呪文を片っ端から使う。
「うおっ、まぶしい!」
「ぬうっ、暗くて何も見えぬ」
フラッシュとダークネスの呪文、どちらが効きやすいのかよく分からなかったので、交互に使ってみたが、両方、あっさりと成功。
おや、ナイトメアは効きにくかったのに、ふむ、精神異常系のナイトメアがちょっと難易度が高いのか。
「ユーイチ様! 右の敵は僕にお任せを!」
同僚の騎士ケインが俺の右前方に出て、向かってきた騎士を斬って落馬させる。
「助かります! あと、様付けで無くて良いので」
「しかし、ティーナお嬢様と親しくされている御方、そうも行きませんよ!」
次の騎士に斬りかかりながらそう叫ぶケイン。ま、今はそれどころじゃ無いし、彼の集中をかき乱すようなことは止めよう。俺も、喋りながらでは呪文が使えない。
「よし! ユーイチを守れ!」
騎士隊長もそう部隊に命じて、俺の前に味方の騎士が寄ってくる。ふう、これで問題無さそう。
「左、弓兵や!」
ミネアがそう叫び、見ると敵の騎士が、俺に向けて弓矢を構えている!
え? 騎士って剣か槍じゃないと卑怯でしょ!
放たれたらどうしようと思っていたら、先に騎士の腕に一直線に飛んだボウガンの矢が刺さり、悲鳴を上げて敵が弓を落とした。
「リサ! 助かった!」
「ふん、魔術士は弓矢に弱いから、良く覚えておきなさいよ」
「お、おう」
ゲームでも後衛の魔術士に対して、弓矢は有効な武器なのだが、意識から抜け落ちてたなあ。
「何よ、こいつら、死なないじゃない」
エリカが電撃の呪文を騎士に当てたが、一発では倒せない様子。
分析の呪文を唱えてみる。
騎士 Lv 14 HP 118/163
【弱点】 特になし
【耐性】 無し
【状態】 通常
【解説】 スレイダーンの下級騎士。
騎士としての訓練を積んだ正規兵。
武具と馬の扱いに慣れている。
人間だからモンスターみたいな扱いはしたくないが、今の俺たちにとってはそんなに強くない相手。
こんなものか。
『中級の電撃は三発まで撃って良いぞ、エリカ』
『ええ? 結構体力があるのね。人族はしぶとい…』
お前の中で人族はモンスター扱いなのかと疑いたくなるが、上級魔法を使うつもりは無いようで安心だ。魔力消費も大きいし、いくら敵兵と言えども、無駄に殺す必要は無い。重傷を負わせれば無力化できる。
「突撃! オレに続けっ!」
前方右から、ルークが騎兵隊を率いて敵の側面に突っ込んだ。まともには斬り合わず、すり抜けざまに斬りつける程度だったが、次々と敵の騎兵が落馬して行く。
ルークって次期侯爵のはずなのに、先頭を切るなんて凄いな。ああいう兄がいるから、妹のティーナも勇猛果敢なのだろう。心配だなあ。
ティーナの姿を探して見回してみたが、見つけられなかった。心配だが、今は自分の身を心配した方がいいか。
「敵の生き残りがいないか、探せ!」
すでに大勢は決したようで、掃討戦に移るようだ。
それは良いが、探し出してどうするんだろうね?
気になりつつも、探知の呪文で敵の生き残りを探す。結構いるな。
「あそこと、そこ、あと、そこの倒れてる騎士も息があるぞ」
告げていく。
「よし、トドメを刺せ!」
「えっ! ちょっ」
俺が止める間もなく、剣が振り下ろされた。いや、そんな予感もしたんだけどね。だって、命令だもの…。
「ユーイチ様、何か問題でも?」
馬上から降りて、敵兵にトドメを刺したケインが俺に聞く。
「いや、何も殺さなくても…と思ったので」
「ふむ、生かして、ああ、情報でも得ますか?」
「まあ、それもいいかもね。そこの騎士、武器を捨てて降伏しろ」
一応、無駄かも知れないなあと思いつつ、騎士の一人に降伏勧告をしてみる。
「わ、分かった。命ばかりはお助けを」
なんだ、そんなに忠義が強いってわけでも無いのか。
『全員、生き残りには降伏勧告を。聞かない奴には、他の奴に譲って、カルマは溜めないように』
パーティーだけにでも、指示しておく。
『カルマなら、気にしなくても、神殿に寄付を積めばすぐ祓ってもらえるぞ?』
レーネがやったことがあるようでそんな事を言い出すが、それは二の次の話だし。
『いいの! とにかく、無益な殺生は禁止で』
『ティーナが近くにいないからって調子に乗りすぎ』
エリカが反発するが。
『別に良いでしょ、ユーイチが指示を出しても。特に間違ってるわけでも無いし、無駄に神殿に金を払う必要も無いわ』
リサが擁護してくれた。
「む、あれは重傷だな…」
首を切られた兵士が倒れているが、放って置いてもすぐ死にそうな感じ。
近寄る。
「た、助けて…」
怯えているが、動けない兵士にヨモギポーションを首に振りかけてやる。
お、ダメかと思ったが、血はかなり止まった。
せっかくなので、アロエ草も取りだして渡す。
「あ、ありがとうごぜえますだ」
農夫らしき兵士は、アロエ草を食べた。大量に血を流したから、すぐ元気になるという状態では無いが、何とか起き上がれるようになった。
「で、降伏した兵士はどうするニャ?」
「そうだな、武器は取り上げて、一カ所に集めて」
放置はまずいので、俺の近くに集めさせる。俺たちのパーティーがそうやっていると、騎士達もその方が良いのかと思ったらしく集めてくれた。
「よし、だいたい集まったな。今すぐ死にそうな者、手当が必要な者は手を挙げろ」
三人ほど、手を挙げた。
出血のある者にヨモギ草を渡してやり、そのほかにはアロエ草も渡す。
「これでいいな。じゃ、次、監視の呪文を唱えるから、大人しくしているように。大人しくしない者はここで切り捨てるぞ」
そう言って、それっぽい呪文をでっちあげてテキトーに唱える。
「寿限無寿限無、いあいあはすたぁ! きえええい!」
きええいっと気合いを入れたら、その場で大人しくしている兵士達がビクッと震えて、ちょっと面白い。
「ふう、よし、これでお前達は、下手な動きは出来ないぞ。やったが最後、死の星が見えるようになって、直に死ぬから、注意しろ。大人しくしていれば問題無い。分かったな?」
ブンブンと凄い勢いで頷く兵士達。魔法を知らないと、俺が偽の呪文を唱えたなんて気づかないだろうしな。
捕虜の一丁上がりだ。
「あ、水筒が空の奴、おいでおいで」
手招きすると、ビクッとして五人が前にザザッと出てきた。
「いや、そんなに焦らなくても、反抗的な態度を取らない限りは大丈夫だから」
あまり脅しても可哀想なので言っておく。まだ皆恐怖に包まれている顔をしているが、幾分か緊張が解けたようだ。
「んじゃ、水筒の栓を抜いてここら辺に出して」
「? こうですか?」
「そうそう。もちっと寄せて、んじゃ、ウォーターウォール! ほれ、掬え!」
空中に水壁を出したままで少し維持して、水筒の補給をさせる。
「んじゃ、こんなもんかな、飲んで良し! 後ろの連中も、自分のを好きに飲んで良いぞ。持ってない奴は隣の奴に分けてもらえ」
「おお。ありがとうございます」
だが、渋い顔で飲まない奴が一人。周囲を気にしている。
「どうかした?」
「これは毒の水では?」
「なっ! げほっげほっ!」
兵士達が驚いて咳き込み始めちゃうし。
「いやいや! 普通に飲める水だから。貸して」
俺が一口飲んで、安全を証明。親指を立てて歯を見せないスマイル。生死に関わるので、割と必死に練習してたり。練習中にエリカが俺の顔を見て爆笑したりするけど気にしない。
「ああ、し、失礼しました」
「うむ。じゃ、何か、情報を持ってる奴は、手を挙げて」
別にそれが目的で助けたわけでも無いし、ケインが言うので言ってみただけだが、二人、騎士が手を挙げた。
「ふむ? じゃ、そっちから、喋る」
「は、ロフォール砦には現在、アブニール殿下が視察で滞在しておられます」
「ん? 殿下?」
「はい、スレイダーンの第二王子ですが…」
「ああ。えっ? この近くに?」
国境のすぐ近く、最前線だよね?
「はい」
「そうか…。んじゃ、そっちのもう一人」
「は、自分も同じ情報です」
「そうか。じゃ、楽にして休んでて良いぞ。リサ、ちょっと見張り、しててくれる?」
「いいけど、報告したらさっさと処分してよ」
「処分って。ちゃんと、捕虜として扱うから、心配しないように」
農夫には捕虜では通じないかと、説明しておく。
「しばらくしたら家に帰れるから」
「おお、本当だか?」
「助かったべ」
ようやく皆に笑顔が出た。後は、ティーナに掛け合えば、これくらいの数の捕虜、どうとでもしてくれるだろう。
まずは自分の上司の隊長のところ。彼は忙しそうに部下の騎士にあれこれ指示している。それが一段落するのを待つことにする。
「何か用か、ユーイチ」
終わる前に話しかけられた。
「は、捕虜からスレイダーンの第二王子がロフォール砦にいるとの情報を得ました」
「なにっ!?」
む、そんなに凄い情報? まあ、敵国の王子の一人だものね。
そうじゃなくて、捕虜を取ったから大問題だ、なーんて事は無いよね?
騎士隊長の補佐役の騎士も驚いた様子。
「隊長、それが本当なら、すぐに騎士団長や大将軍にお知らせすべきでは?」
「無論だ。ユーイチ、その情報、間違いは無いのだな?」
「うーん、敵の捕虜から得られた情報なので、間違いが無いかと言われると困るんですが、呪文で脅したので、変な嘘はついてないと思われます」
「いいだろう。付いてこい」
「は」
どうせなら隊長さんから報告して欲しかったんだが、まあいい。




