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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第2話【】
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三匹娘の『野営地』クエスト④

「せいやあ!」


「「「うきゃーーーー!!!」」」


 ジョージのかけ声と共に少女が三匹宙に舞い、バスケットならば3ポイント確実な飛距離の放物線を描いて一人のNPCを押し潰す。


「ぐぉうぇっ!」


 乙女のシークレット処置により加重ダメージの計算数値にはモザイクがかかって判別不可だが、下敷きになった密輸業者のNPCが致命傷を負ったのは確実のようで、今度は死亡処置がなされて微量の経験値を残して消えていった。

 後に残るのは三枚目の金属板。それに次の目的地を記すメモだ。


「よしこれで三ヶ所目、次からは戦闘もあるから気い締めて行くぞー!」


「「「それ以前にこの不当な扱いにモノ申ーーーす!」」」


「仕方ねーだろが。クエスト受注者が対象と接触、または該当エリアへの移動がクエスト進行条件なんだ。お前らを弾にして投げる以外の手段があるなら言ってみろ」


「まずまずっ、前提からして違うから! 投げないからね普通!」


「もう~ちょ~っと、ジョブ的~な頑張りしたいの~ですよ、おじ様ぁ」


「ハイ! ヘッドダイヴは角が心配なのでドロップキックの方向をキボンヌっ!」


 三者三様、てんでんバラバラな意見が飛ぶ。そして多数決ならば肯定に天秤が傾くことに、唯一否定意見を出したモエがうなだれる。


「よし言うだけ言ったな。じゃ次、行くぞー」


 だが肯定否定以前に、ジョージに意見を取り入れる意思そのものが無いので意味が無い。

 せめてもの救いは、ジョージの宣言によってモエ達の足がはんば自動で動く事だ。忘れがちだが、アバターに取り付けられた〈贖罪の首枷〉には上位支配者から命令される強制行動に従う機能がある。タンガロを出てから二日、見渡す限りの地平線という広大なフィールドエリアを徒歩で彷徨えたのは、仮想の肉体をジョージに自動操作された要素が大きかった。


「ううう……、馬車とか飛行船とか、普通こんな広いとこの移動なら有るのが普通なのに」


「ここの開発連中は、そういう発想の連中を弾く意味でワザとだだっ広くしてるだよな」


 MMO系は広大なオープンフィールドを自由気儘に堪能できるのが王道といえるのだが、反面その広さが問題になり『手軽に遊べない』または『移動に手間がかかる』などの意見も多い。

 それらの意見を取り入れて転移系機能を導入する物もあるが、大陸の端から端へ一瞬で跳べる事で広大さという印象は激減し、そこを求めるプレイヤーは離れていく。更に手軽さという面ではクエストを遊ぶ時だけ集まるMO系が既に確立したジャンルとして存在するので、結果的にはMMO的な演出を減らした分だけ、プレイヤーを減らして行くことになるのである。

 『Trillion of Labyrinth』の場合、その案件を逆手にとってMMOに適さないプレイヤーは“要らない”という方針をとった。そして、逆行させるように、容易に街から街への移動をさせないよう不便化させた。


『ゲームプレイヤーに開示している世界は70%、しかしプレイヤーが発見している世界は僅か22%である』


 今年中頃、サービス側からアナウンスされたゲーム状況の、報告内容の一部である。この挑発的な発言に感化されて既存プレイヤーや新規プレイヤーが躍起になってフィールドを彷徨ったが、一ヶ月後、『プレイヤーの皆さん頑張りましたね、あなた方は世界の28%を知る者となりました』という皮肉満載のアナウンスを受けて俄かプレイヤーは消え失せた。


 それでも、総合的なプレイヤー数は増加傾向らしいので、サービス側の挑発による人口増加の策略は成功したと言えるのだろう。


 それはともかく。


 街道馬車を使えば数時間の移動も、かなりの救済措置というレベルなのがこのゲームのクオリティ。クエストのためとはいえ、徒歩での移動では、正直“現実での今夜一晩”では足りなかったろう、というのが実状だった。


「ま、馬車や車とはいかんが、歩くよりは遥かにマシに移動はできる。イベントも瞬殺している。ラストまでにゃ今日一日じゃあ終われんだろうが、明日中には充分終わるだろうし、一日くらいはお前ら専用の野営地でノンビリできるかねえ」


「でもでもっ、ちょっっっと、移動の揺れが半端無いっ、かなあっ!」


「キャッハーーーーイ!」


「この子達は~っ、……召喚系~の~っ、魔法なの~かしらぁ?」


 イベント戦闘を人間投擲で済ませた一行は直ぐさま次のイベント地点への移動を始める。位置的にはノエドとタンガロを直線で結ぶ街道沿い。街の間を結ぶ移動馬車なら二十分、しかし徒歩での移動となると片道でも四日という、かなり辻褄の合わない距離となる。

 この距離の解釈は徒歩が基準であり、馬車の方がおかしい解釈となる。まあ、移動代というコストを払う上でのボーナスと思えばいい。


 さて『Trillion of Labyrinth』を嗜むプレイヤーは、基本、このだだっ広さを楽しむ趣向なのだが、だからといって長い時間を移動のみに費やすのまでを楽しむ者は少ない。なので、大概のプレイヤーは個人個人で出来るレベルの移動短縮手段を持つ。自分で作るか他者から買うか、方法も形態も機能すらも千差万別だが、それも新人を脱するプレイヤーは必須とするシステムでは設定していないクエストとなる。


 今回、ジョージが用意した移動手段は“騎獣”にカテゴライズされる物に見える。

 本来は『|魔獣使い《テラーテイマー》』や『精霊使い(フェイシーヴ)』などの、いわゆるペットジョブが使役する動物型のNPCを専有化したものだ。ペットジョブ自身は戦闘に使用しない設定にすることで制限時間無しの使役が可能となるし、冒険者ギルドのシステムを介すことで他人への譲渡もできる。『Trillion of Labyrinth』では一般的な物といえる。


 ……ただし、外見的には騎獣と言い難いのだが。


 ジョージが跨がるのは身の丈2m半、前後横にも厚みの有る人型。禿とは言えないバーコード風味の頭部に、上の寂しさとは反比例した鎖骨まで隠す程の膨大な顎髭。ハッキリ言えば筋肉の塊系の人間カテゴリのオッサンである。ギリシャ彫刻の人体像の如く、まるで弾ける寸前の肉体は走る動きにギリギリミシミシと肉と筋の摩擦音を奏でている。

 上半身は汗に濡れた裸体を存分に晒し、下半身は赤のジャージにナ○キのスニーカー。パッと見るに熱苦しいの一言だ。ジョージはそんな存在に肩車の要領で跨がり、平然としていたりする。


 そして、続くモエ達も微妙に細部の意匠が違う、しかし同じ存在のコピペのような筋肉オヤジに跨がっていたりするのだった。


 四騎のゴツいオヤジが短距離走のスタート直後のような前傾姿勢のまま走る様は、なかなかにシュールな光景である。


「まあ魔法とは言えるが、いささか普通の魔法とは違うんだよなあ」


「そう言えば~、おじ様の~ジョブが~何~なのか知らないわねえ?」


 マリアのもっともな疑問であった。

 『Trillion of Labyrinth』においては、もうジョブが明確な役割を放棄して久しい。純戦士系ジョブが回復魔法スキル付きの装備を着けて汎用性を上げるなど、プレイヤーのほぼ全員、個性的な万能性を備える性能に落ち着いているためだ。

 モエ達が接した他人には偏りがあるが、やはり自己回復を全く持たない者はいなかった。


 だが、ある意味この世界で一番長く過ごした他人のジョージには、商人の顔以外、今までジョブを臭わせる行動が無かったのである。

 少女三人に穴の開くほどの視線を向けられるのも当然と言えば当然だろう。


「オレのジョブは『魔神操士(スナッフマイス)』っつーもんでなあ、一応はユニークジョブっぽいな」


「ユニークジョブ?」


「まあ、“世界にただ一つ”って意味で使うが、ジョブは基本仕様上、発生すれば誰でもなれる。要は今んとこオレ以外に同じジョブがいないってだけだ」


 『魔神操士』は四次ジョブとなる最上位扱いとなり、遡ればペットジョブ全般からのツリーに収まる。一応、ペットジョブの新米であるマリアには興味深い対象となった。が、その興味は無残にも潰える。

 本来ジョージは最上位ジョブの『亜神繰士(アモーリア)』というジョブであった。これは神や悪魔といった魔物の中では最高レベルの対象を召喚できるジョブでしかなかった。が、ある日。戦闘時の簡易召喚ではない騎獣扱いで召喚しようとした時カスタマイズ項目が増えていたのに気づき、その仕様を実践したら見事ジョブ変更となったのである。


「うううっ、しがない~未成年扶養枠には~不可能~な条件~ですぅ」


 魔神繰士と亜神繰士の違いは、そのものズバリ召喚対象を改造できるかできないかの違いであった。しかも、この改造には新たなプレイヤーアバターを創るのと同様のシステムなのである。

 更に言うと、改造には最低一つ、自分が使うVRハード、しかも『Trillion of Labyrinth』専用の『D≒R-kit(ディーニアールキット)』を必要とする。メーカーからこっそりと送られて来た並列化コードを連結し、二機同時に動かすことで漸く亜神を魔神へと改造できるというわけだ。

 この時点でかかるコストは約15万円なり。当然のように、ハードの購入は自腹という鬼仕様であった。

 だがまだ終わらない。


 『Trillion of Labyrinth』は基本、ソフトのダウンロードとアバターの維持は無料となる。ソフトを含め様々な追加要素が有料で存在はするが、専用ハード代以外には極端なローコストで楽しめるのだ。そして〈D≒R-kit〉を専用ハードとするものの、このハードは医療用VRハードとしての認知度も高く、ゲーム以外の目的で購入する家も多い。なので、ある意味『Trillion of Labyrinth』はもっとも手軽に手を出せるVRゲームとも言える背景がある。

 が、逆にその背景から外れる状況となる、かかるコストは異様に跳ね上がる。先に言ったハード代の他に、同一アカウントに関連づけたアバター扱いの魔神はそのままセカンドアバターとして登録され、維持代として月に千円を必要とするのである。これは魔神を増やせばその分、普通に累積されることとなる。


「今んとこ10体は登録してあるな。まあ月に一万なら問題ねーけど」


「……っ、さすが大人! ううう~、目標~にすら~できない~いぃぃぃ……」


「と、そうこうする内に次のポイントだな。……お、目標発見、よし“エンゼン・ブラザーズ”指示通りの行動開始だ」


 ジョージの発言によりジョブ話は一旦終わり、野営地クエストのイベント消化に切り替わる。

 ジョージの視線をモエ達が追えば、遠く地平線近くに茶色の迷彩マントを被る者が魔物を連れて歩く様子が確認できた。と、突然その姿がグンと大きくなる。

 

「「「ふえ!?」」」


 揺れが消えたと同時に風圧に仰け反る三人。自分の様子は解らないが、隣を併走する親友の状況を見れば想像はできる。自分達が跨がる筋肉オヤジ、もとい魔神エンゼン・ブラザーズ三体が猛スピードで駆け始めたのである。一歩踏み出す毎に10m、まさに飛ぶように駆けていた。


「「「きゃーーーー!」」」


 およそ数キロの距離を体感で数秒で詰め、現場に到着。しかしそのまま走り去って数メートル先に止まる。この異様な遭遇にはイベント用のNPCすら驚いたようで、目の前を駆け抜けた魔神達に固まるだけの反応しかとれないようだ。

 そして……。


「「「ぎゃーーー!!」」」


どこかで見た光景のように、魔神達は自らに跨がる少女等を砲丸投げに似た投擲にて射出。それぞれ見事に命中し、マント姿の推定密輸業者は配下の魔物共々に致命的なダメージを与えられて瞬殺したのであった。


「まぁあれだ。接敵範囲まで近づきイベントを進行状態にする。進行すりゃ後は戦闘行為でHPを削りゃあいいから、ほぼゼロ距離からのカタパルト攻撃で瞬殺と。うん、ガキ一匹分の質量攻撃でも加速ダメージが追加されりゃあそれなりとなるみてーだわ。つか、このゲームその辺のダメージ計算にも対応してんのはスゲーはなあ」


 ジョージからは地平線ギリギリで行われた戦闘であり、点と点がぶつかる程度の視認性しかない。しかし同じパーティーなのでステータスが画面に表示されるため、戦闘自体が上手く収まったのは確認できている。


「なんちゅーか、青大将は何処でもマイペースなんやねぇ」


 小娘砲弾の成果を確認していれば、いつの間にかジョージの隣には黒いローブの女が昨夜と同じ恰好で立っていた。

 しかもケラケラケラと腹を抱えて爆笑中である。


「まぁた予定外の登場しやがって……、お前の出番は次だろうがよ」


「あてかて知らんがな。なんや、手ぇ中にメモが生まれよったに。これは青大将と(トウ)さんらに必要なんやろ。なら届けんとなぁな親切やん。ホレ」


 ローブ女が指先でピンと跳ね飛ばす紙片。それは丁度よくジョージの手に届き、中の内容を読めば次の遭遇ポイントを示すイベントアイテムであることは確かだった。


「どうにもこう、とことんクエストが変質してやがるなあ……」


「一応言うで。あては無関係やさかい」


 その言葉を最後に女は消えた。

 ジョージはアバター能力で可能な限りの精査をかけるが、女を追跡できる程の残存情報を得る事はできない。そしてそれも、戦闘エリアからほぼ文句を言うだけに戻って来たモエ達により中断せざるをえなかった。


(進行自体にはオカシイ部分は無い。しかし内容的には被る部分の辻褄合わせ感が半端無い。なんつーか、嫌な予感が治まらんなあ)


 保護者がそんな心配をしているとは欠片も思わず、またも人間爆弾として扱われた小娘達の口撃が鳴き響く。

 それを聞き流しつつ移動を再開するジョージは紙片からのポイントへの最短距離を確認。魔神の健脚でも半日はかかるのを知る。


「んじゃまぁ、暗くなるまで進んで、オレの野営地を展開して休むぞー」


「「「少しは反省を所望するーーー!」」」


 次はいよいよ、野営地クエストのラストバトル。

 その、一応は予定である。





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