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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第2話【】
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三匹娘の初クエスト④

 さて、このクエストの基本行動は『鮎の友釣り』と似ている。

 魔物の沸く位置が基本廃墟の中であり、狭い。室内で戦闘が出来ないわけでは無いが、大人数人が魔物と対峙するには少々動き難いのが実情だ。

 特にこの場の大人が、独りで人間2人から3人分の筋肉はあるウザマッチョが3体である。見た目も空間的にも暑苦しい事この上ない。


 なので、〈G☆I〉の戦法は『囮役が室内に進入し、魔物と遭遇したら外へと釣り出す』という事となる。


 尤も、エクセルスライムに襲撃されるモエ達は、襲われた時点で自立移動ができない。小柄な身体がスッポリとスライムに取り込まれてしまうからだ。

 だから回収役は〈G☆I〉自身が担当している。

 具体的な方法は、モエ達3人のそれぞれの腰にロープが結わえてある。スライムが湧き、獲物に食いついたらロープを引いて外へ引きずり出す。それだけだ。

 後は魔物を倒してドロップ品の回収してお終い。となる。


 モエ達が着ている“仕事着”は、このエリアを発見した者達が考案した物を改良したアイテムだ。

 見た目は登山用のポンチョに似ている。

 一枚布の真ん中に首を出す穴が有り、被るだけの代物である。

 四方の角に当たる部分にホックがあって、互いを合わせて留める事が出来る。身体の前後に配置し、足の間で留めさえすれば、多少暴れても股間が見える事も無い。

 一時的にスライムの粘液塗れになっても透けない生地なので、戦闘終了後に霰もない恰好を晒す心配も無いという、モエ達にとっては紳士の装備である。


 状態の再現性の関係で、身体にピッタリ張り付く状態はどうしようもないのだが、幸か不幸か、そこまで気にする余裕が無いので問題とはなっていない。


 だがクエストが始まって一時間程経ってみて、未だ元気に襲われまくるのはミュラのみであったりする。

 最初はマリアが、次にモエがと、『ちょっと気分が』と言葉少なく休憩を願い出て、男達の視線が通らない背後でへたり込んでいるのだ。


「おじ様の~言葉~の意~味……、解りました~わぁ」


 マリアが顔を真っ赤にして俯きつつボヤく。それを聞きとめたモエが『それって、何々?』と問い詰め、マリアはクエストを受ける時の懸念の話を伝えた。


 ジョージ曰わく、『週に50回以上自分で“慰めてんなら”、受けない方が良いぞ』である。1日平均7回前後。マリア的には“さすがに無い”と判断したのだ。


 そもそも、そんな質問の意味すら理解出来なかったのだが、実際に体験してみて“よ~っく”意味が解ったのだ。


 魔物に襲われたにしては、異様に気持ち良過ぎるのである。


 エクセルスライムの粘液は透明のゼリー状であるが、体感で感じる上で言えば“細かい粒の集合体”に近い。全身が包まれたと同時に、全身くま無く擽られるように弄られ(まさぐられ)た感触に満ちるのである。

 表皮は勿論、鼻や耳など潜り込まれる場所には容赦なく侵入される。もう性感帯とか感じやすいとか関係無い。全身を万遍なく攻められ、強制的に開発された心境である。


 『このままだと怖い事になる』


 その本能的な恐怖に負けて、逃げ出したわけだ。


 マリアがモエに話したのはジョージの発言の部分のみであるが、互いの顔の赤らみを見れば、その意味するところは良く解る。

 たまにモエが小刻みに跳ねる動きを取るのも、マリアとして迂闊に突っ込めない処である。なんせ、そのまんまプーメランと化す質問だ。


 兎も角、下手に動かず自然に気分が落ち着くのを待つしかない。

 そう心に決めて、静かに堪えるマリアなのだった。


 一方、モエの場合は少々別の意味で耐えていた。

 エクセルスライムで発情されられてしまったのはマリアと同じである。だが、他者からの蹂躙による高ぶりを遺憾ながらも経験済みなモエの場合、より具体的な結果の発露を恐れて、堪えていたのである。


 『漏らしてたまるもんですか!』


 別段、毎回毎回同じ結果になるものでも無いのだが、既にモエの頭の中では決まった結果の図式が出来てしまっていた。

 なので性感の疼きは、何故かトイレの我慢に置き換えられていたのである。


 『Trillion of Labyrinth』の仕様では排泄機能と感覚はオミットされている筈なのだが、現実の感覚をそう簡単に忘れる事も無理と言えば無理な話だ。

 結果的に、モエは出もしない尿意を必死に堪える形で、自分の脳内で再現される幻の苦痛に悶えていた。

 だが現実では耐えきれる類のものでは無い。

 十数分の精神的格闘の末、結局敗退したモエが近くの瓦礫のスミに隠れるも、精神的な解放感が得られた反面、身体的には何も起きない事にショックを受けるのである。


 そんな友人2人の苦悩を余所に、ミュラは独りで元気に囮役である。

 同じ場所での連続ポップは無いので、並ぶ廃墟に次々飛び込んではスライムに包まれて釣られる。

 解放されれば全身ずぶ濡れのエフェクトが消えない内に、次の廃墟へ走り入る。後は延々、繰り返しだ。


 〈G☆I〉の面々も最初は囮役が減った事に困った顔をしていたが、ミュラの活躍に中てられて興奮していると言って良い。

 素材のドロップも心なしか増加している印象なので、実質、不満を感じてもいないのだ。


 だが、もう少し状況を冷静に見れる者が居れば、ミュラの行動がやや異常となっているのに気づいたであろう。

 実はミュラ、これでもちゃんと発情しているのである。


 体型的には年齢相応の女性らしさを持つミュラだが、実は性感的な意味では未発達も甚だしい状態である。

 身体が性的な興奮を発現できる状態でない場合、意識や行動での誤動作が起きる。多くの場合、やたら暴力的な行動をとったり、意識朦朧として錯乱した状態となる。

 ミュラもその状態なのだ。現実ならばこの状況中に身体の急速な変化を誘発出来るのだが、残念ながら仮想の身体には変化は起きない。

 なので、思考に限界まで負荷がかかり、強制的に意識を閉ざすスリープ機能が発動するか、または身体機能に危険と判断されて強制ログアウトとなるか、そんな地味に危険な状態と言えるのだ。


「うひひひひっ! ひゃんひゃんっ、きひひー!」


 エクセルスライムを40体倒したあたりからミュラが奇声を発するようになり、そのオカシさに全員が異様な感想を抱く。

 目の錯覚かと思えたが、ミュラの全身は微かに発光すらしているようで、同時にやけに甘い匂いが周囲に漂っているのにも気づく。


「む? 些か変わったエフェクトだが、アレはもしや“狂乱モード”か?」


 〈G☆I〉のリーダーであるアノルドーがモエとマリアには意味不明な発言をかます。

 それが分かったのか、ジャンクがモエ達に補足説明をしてくれる。


 〈狂乱モード〉とは、前衛職でも体術格闘カテゴリーのジョブが有する可能性が有る隠しスキルである。一般スキルの〈バーサーク〉持ちから発現する上位スキル効果らしいのだが、未だ詳しい解析が終了していないので本当かは分からない。

 しかも、このモードの発現で起きる現象も統一性が無いので、同じ扱いとしていいのかも謎である。

 ただ共通する事としては、当人と仲間にとってメリットは生むが、同時にかなり面倒な状況も生む。

 多くの事例としては、無差別範囲テロに近い状態だという物だ。


 今回はその定番と言えるかもしれない。


 ミュラの異変に合わせてか、何故か周囲の廃墟からエクセルスライムが湧いて出て来たのである。その範囲は半径約100m。数にして200~300体前後は湧いているように見える。


 更に女性プレイヤーを襲うというアルゴリズムが解除されたようで、〈G☆I〉にも平然と向かって来る。


 取り込む以外の攻撃手段を持たず、またHPにダメージが出る事も無い。それが分かっていても、大量のスライムに迫られるのは精神的にキツい。

 本能的に避けれたのは行動に制限の無かった男達のみ。興奮状態のミュラは自ら、集まり結合したような巨大な粘液の塊に突撃。見事に飲み込まれた。

 モエ達も半分腰が抜けたような状態だ。腕の力で這いずる程度では到底逃げられない。

 あっと言う間にスライムの濁流に飲み込まれ、その場にはブルブル揺れる半透明の巨大饅頭が誕生する事となったのである。


「新スキルの発現か。まさか噂が本当だったとはっ!」


「“カニバルサークル”か、名称からして危険なスキルだな」


 パーティーを組んでいる為に、ステータス表記で現在ミュラがどのようなスキルを使っているかは確認できる。だが〈カニバルサークル〉がどのような効果のスキルかは分からない。

 現状で出来たのは、せいぜい魔物を大量に集める効果なのだろう、という連想くらいだ。


「だが今回に限っては好都合。あの状態から動く気配も無い。地道に削って倒すついでに救出作業も出来るか?」


「いや、待て。あの子達が、また何かスキルを使った……あ」


 ドーム空間の高い天蓋に巨大が穴が開いていた。

 穴の先には昼の青空では無く、暗い夜空、もしくは宇宙が広がっている。


 〈G☆I〉にはそれが神術師の技だと理解できた。自分達のフォートには居ないが、長いプレイ期間の中では何人かと行き摺りのパーティーを組んだ事もある。

 回復役として、神術師に攻撃スキルを使わせるのは前衛失格の不名誉な記憶だが、そんな修羅場も幾度かは経験している。


 だから即座にスキルの判別も出来たのだが、しかし、その規模に至っては初体験と言っていい。


 威力や設定は神が関係するせいで高いスキルだ。だがあくまでもプレイヤー単体で行使するスキルでもある。

 基本、攻撃対象は単体となり、今回のように大量のスライムには適さないのだ。


 が、上空に広がる召還の門は、男達が過去に見たどれよりも大きい。

 みるみる上空全てを満天の星空が覆い、今が夜なのだと錯覚させるまでになる。


 そしてその夜空の大きさイッパイに落ちてくる巨大な……、いや“広大”な拳が落ちて来た。


 拳に比べればスライムの山など指一本の幅も無い。

 拳が地面に激突する衝撃波は、規模の割には威力が無い。それでも軽く吹き飛ぶ男達が体勢を整え、天罰後の惨状を確認してみれば、全てのスライムは欠片も残さずモザイクと光の塵に変化して消えていっていた。


 後に残るは、それぞれ思い思いの恰好で果てている〈テトラペッツ〉の三匹娘。モエ達だけであった。


 ただし、ミュラとマリアが完全に放心しているのに対して、モエのみ横寝状態で両手で顔を押さえて“イヤイヤ”と爆涙中なのが印象的である。

 モエがモエのみ可能とする必殺技を発動したのは確実であるが、その条件が如何なる“もの”だったかを推察する事は出来ない。


 スライムは全て消えたが、モエ達に対する効果の残滓は残っているのだ。


 全身ベットリと粘液に塗れて濡れた姿だ。

 モエの濡れ方が、やや粘液のみよりも“水っぽいかどうか?”などは、判別出来る事でも無かったのである。


「「「……」」」


 暫くの間、唖然とするしかない男達である。


 だがそれも、時差をおいて処理されたドロップ品のインフォメーションで終わる。

 余りにも大量にドロップした“レアアイテム”は、全員のストレージ枠を一つを完全に埋めて、更に二つ目の半分近くまで埋めたとの結果を知る。それはスライム一体あたりに3~4個を落とした意味となる。

 はっきり言えば、レアと名の付くドロップ数では無い。


 となると、今回の結果は発動したスキルの効果と予想できる。または複数のスキルのコンボ効果とも。

 未知の現象を目の当たりにした事で、男達のゲーマー気質が刺激された瞬間である。


「この戦術、もう何回か試してみるか?」


 もっとも、それも利益追求の延長という思考の元であるのはブレないが。


「二度とやるかーーーー!!」


 だがしっかり聞こえていたモエからは、速攻でのダメ出しである。


「バカーーーーー!!」


 結局、当初の予定も契約も一切合切無視する形で、今回のクエストはモエがキレた事で終了となったのであった。





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