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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第2話【】
53/69

萌香のアバターメイキング②

 アバターメイクを終えてチュートリアルを開始する。

 この時点で萌香はゲーム世界へと移動。体感する時間がゲーム内のものへと変化し、現実の1時間を1日として生きる事となる。

 約束の時刻まで約24時間。その間にチュートリアルを終わらせるのが、萌香の最初のクエストとなった。


 と意気込んだものの、チュートリアルの最初は、自分の境遇をどうするかが質問形式で行われた。


 『生まれは?』の問いに複数ある選択から『裕福な商人』を選ぶ。これは初期補正で所持金が多くなりそうだから、という理由で選んだ。

 『ジョブを得た経緯は?』の問いには『劇的な経験』を選ぶ。ファンタジーである。突如目覚める人智を超えた力というシチュエーションは、萌香の中では基本であった。同時に得たスキルの能力値が高くなるような選択もする。これも萌香には当然の選択であった。

 更にアバターやジョブの性能に関係するような質問が続き、時間も無い事からとにかく“上げる”方向で選択していく。

 そして最後に、『冒険者になった理由は?』という問いがかけられた。『一攫千金』『英雄への道』『王と成るため』。そんな定番な選択の中に一つだけ『運命の出逢い』という、ちょっと質問の答えとしてはどうなんだ? な内容があった。

 萌香は乙女である。つい、脊椎反射でそれを選択しても、攻められるものでは無いだろう。


『──選択は成されました。貴女は高みを目指す試練を“望む”ようですね。では、貴女の夢の実現に沿えるべき、波乱の過去を追体験致しましょうか』


「え?」


 例えばそれが、高い能力値を得るに値する“素地”と必要とするための、過去イベントの選択だったとしても、だ。


 『Trillion of Labyrinth』においてのチュートリアルとは、そのプレイヤーのアバターが、ゲームの世界で生きてきた過去を演出する物である。

 現在の強さを得る以上、アバターは、そしてプレイヤーは、その強さを得る経験をしてきたという事となる。それをチュートリアルとして体験する事で、やや“スパルタ式”にではあるがゲームへと慣れていく仕様なのである。その流れで覚えていくスキルなどは、情報としてアバターに記録される以上にプレイヤーの魂に刻まれるレベルで習得されると、経験をしてきた者達からは尊ばれる仕様である。


 ぶっちゃけ、某国海兵隊キャンプよりはマシな程度の経験であったとしても……なのだが。


 因みに、その過酷さはちゃんとヘルプに記載されている。だから最初から欲張らず適当な過酷度で済ませるのが、ちゃんと予習をした者の利口な方法なのだが……萌香はそのあたり、案外残念な子なのであった。


 そこらの説明が律儀にヘルプウィンドウで展開し、しかし既に決定した選択は翻らない。

 チュートリアルの舞台へと、周囲の光景がモザイク状の変化を遂げていかんとする中──


「きっ……、聞いてないーよー!!」


 萌香の叫びは、実に虚しく、響き、飲み込まれていったのである。

 そして、暗転。




 萌香改め、モエが目覚めたのは薄暗い室内である。

 回りは土と埃臭さが合わさった臭いが満ちる、四畳程の広さの丸太組みの小屋といった様相だ。周囲には使い古された農具や壊れかけた家具が適当に配されている。湿った土の臭いの欠片も無い事から、何処かの廃村の倉庫小屋と連想ができるのだが、都会っ子であるモエに思い至る事はできなかった。


 そんな小屋の中に、モエは横たえられて監禁されているのである。


 腕は後ろ手にロープか何か縛られていた。上腕と胴を連結するようしっかりと巻かれているので縄抜けすらできない本格的な縛り方である。脚も膝を中心に両足の腿と脛同士を繋げる結わえ方で、脚自体を動かす自由度はあるが歩くのは無理という妙にマニアックな縛りである。

 当然モエは動けない。


 チュートリアル開始早々にこの状況。モエが混乱するかというと、実はそうでもない。何故なら、この状況になるための経緯とも言う記憶情報が、ダイジェスト的に擬似記憶として与えられているからだ。


 それは萌香が、最初の質問応対で記した内容を元に構成されたモエの出生の記憶である。


 モエは都市間貿易で一代で財を成した大商人の、一人娘として生まれた。早くから跡継ぎとしての英才教育を受けたモエは、まだ10歳でありながらも異才の片鱗を表し、将来を有望と目されるようになる。が、それがモエの不幸の始まりでもあった。

 急盛したモエの家は、拠点となる街では新興。当然、商売敵も多い。真っ当に仕事で覇を競う商売敵など少数派であり、簡単で楽な妨害。つまり“汚い手段”に出る者が後を経たず、何十度もの攻防の末にとうとう、モエの一族はモエ一人を残して闇に消されたのである。


 そして何故、今は無力な子供一人が生かされているか? それはモエの持つ異才故の利用価値である。人身売買の商品として、隷属化の魔法を施して奴隷にするための準備待ちが今の状況なのだ。


 ……というシチュエーション、である。


(全年齢で何この危険な展開ー!)


 拘束には猿轡も含んでいる。拘束ならば当然。しかも直径2センチの円柱形の棒を噛まされる“シャフトギャグ”というマニアック振りである。

 未成年女子が体験するには、些か過激な経験であった。


「──おう、奴隷商人の奴、遅くねえ?」


 モエの意識が整ったのをスタートとしてか、小屋の隅に居た数人の男が話し始める。

 数は3人。どの男も身体の要所をカバーするだけの粗末な革の防具を着けただけの、如何にも“ゴロツキ”な印象である。モエが視線をやればそれぞれの頭の上に『野盗/Lv2』と揃って表示される、典型的な悪役だ。


「何時もの魔法使いが先週死んじまったんだってよ。だから別の隷属魔法使えるのを調達したんだが、コイツが複数の奴隷商人を掛け持つ奴で、スケジュールが立て込んでるんだとよ」


「なんだそれ。食いっぱぐれ無さそうだな。俺も魔法覚えようかね」


「ケケケっ、〈明かり〉(“ライト”)さえ使えねーのに良く言うな」


「うっせい!」


 と、実に隷属魔法が難しい魔法なのかの説明プレイを披露してくれる。同時にモエのシステムウィンドウが開き、『〈隷属魔法〉(“スレイヴリム”)の知識を得ました』『〈ライト〉の知識を得ました』と余り嬉しくない報告がなされる。

 魔法やスキルの大半は、このように知識を得る事で習熟度を増やしていき、それが一定値に達した時に得られる魔法やスキルの候補となるのである。

 余談だが、これはNPC相手に行うのが普通なのだが、高レベルのプレイヤーと会話する事でも同じ効果を得られる。そのため、“そういう対象”が身近に居るならば、チュートリアルを全て無視してスタートするプレイヤーも居たりする。


 その後も野盗達の雑談は続き、モエは〈炎の牙〉(“ファイアダーツ”)〈影走り〉(“シャドウラン”)〈縄抜け〉(“スリッピング”)〈軽業〉(“アクロバット”)等の報告をシステムから貰う。

 自分のジョブ的には全く必要の無さげな、寧ろ聖職者では覚えたらマズいだろうなラインナップに泣けてくる気分である。


(せめてペド好き展開が無いのは救いなのかなあ……)


 ほぼ動けないので子供の身体への違和感は無いが、モエの萌香の部分では現在の状況の“ビジュアル的な商品価値”は“計り知れない売れ筋”という自己評価を出してしまっている。

 なのに“ソレ方面”に動かない野盗達に、何故か賞賛の気持ちを持っているのが、モエ的に恐ろしい違和感なのであった。


 寧ろ『モエ、恐ろしい子』とでも世間では思われるのが普通なのだが。

 何故かそこに気づかない? “本当に恐ろしい子”、である。


 さて、そうこうしている内に下衆な雰囲気全開の奴隷商人が、これまた見るだけで虫酸が走る雰囲気の魔法使い風の男を連れて登場する。


「──ほう、才能だけの娘と思えば、外見も将来有望そうな餓鬼ザンス」


ふぁぅう(ザンス)!?」


「おや、起きてたザンスか」


 奴隷商人の語尾言葉についツッコんでしまったモエ。

 元から自動進行ではなくモエも参加する寸劇スタイルだったのか、反応するモエに対応した会話を振ってきた奴隷商人である。


「……どの道、隷属魔法には起きてもらわんと効果が薄い。都合が好いのは面倒が少なくて助かる……」


 声帯が壊れたような、カサカサと掠れる声音の魔法使いが隷属魔法の説明を挟む。


「……娘、お前にこれから一生消えない魔法を“刻む”。終われば息をするにも主人の命令が居る生き人形の暮らしだ。好きなだけ泣けるのは今のうち、だぞ……」


 それから隷属魔法の詳細が細かく語られ、その度にモエのウィンドウでは隷属魔法の習熟度が増加していく。そして遂に、『〈南洋式隷属魔法(初級)〉が習得可能になりました。習得するならばアイコンを選択し魔法スロットへドロップしてください』とアナウンスが立ち上がり、しかも最初の習得だったので丁寧な習得方法の説明までがなされる。


(縛られてるのにどーせぃっていうのー!)


 ウィンドウの操作は基本、利き腕の指の操作で展開する。現状のモエにとっては、無駄としか言いようの無い説明である。


 ともかく、習得可能となった事で、モエは隷属魔法の説明以外の内容まで知る事ができた。

 “南洋式隷属魔法”とは、隷属魔法の一様式を表す名称で、様式は“流派”と解釈していい。南洋式の魔法行使は、隷属させる対象に『奴隷になる』という自覚を持たせる催眠術に似た性質がある。その状態にした時点で“証”と呼べる物を対象に“刻み”、証がある限り魔法の効果を持続させるというものなのである。

 この流派で言う証は『焼き印』となる。魔法使いの指先に炎の魔法で作成した焼き印の証を作り、胸の心臓の位置に火傷として印す。肉まで達した焼き印は、身体を動かす度に“ヒキツリ”として対象に奴隷の自覚を焼き付ける、正真正銘、外道の魔法として機能するのである。


 この魔法のデザインをした者の感性が、本気で心配になる仕様であった。


(ううう、後で担当したスタッフの実名調べて晒してやるう!)


 強制的にいらん知識をくれたスタッフを心底恨むモエである。


 因みにこの魔法。ペットジョブが使役するモンスターを得るのに使う魔法の亜種扱いであり、方法自体はそうマイナー扱いの魔法でもない。


 さて、モエ自身は隷属魔法の詳細が分かった事で、魔法使いが人指し指を向けて来た理由が分かり過ぎる程分かってしまう。

 しかも先端が滲むように赤熱化し、“刻印”の形になるともう、このまま奴隷生活のチュートリアルとなるのかと不安になっていく。


(熱いのかな? 熱いのかなっ!? うわ、熱い! 近い熱い近い熱い!!)


 仮想の灼熱感に本気で怯え、その現実味の有り様にマジ泣きし、“ふっ”と、気絶をしかけたタイミングでの事だ。


“ドカン!”


「そこまでだっ!」


 木の砕ける破砕音と共に若い男の叫びが響き、逆光になった人影が飛びこんで来た。

 しかしモエが意識を手放す流れは止まらない。

 薄れる景色の中、その人影が何となく、虹色に煌めく鎧を着ているようには見えた……気がしたのが、この年齢のモエが唯一覚えていれた事であった。


 そして、暗転。




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