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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第1話【ある滋養治士のお話】
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彼女の陥落3h⑦

御飯時に読むのはオススメしませぬw

『ゴメンナサイ。もう私の負けでイイデス。いえ負けさせてクダサイ。ああっ、畜生! さすがにキャラクター属性の変更は非活動ファイルじゃねーと出来ねー! 誰かオレをコロシテクレー!!』


 マヤヤ達が“攻撃”(?)に参加を始めて1時間後。色王……、正確には色王の“中の人”はイロイロと限界を超えて……コワレタ。

 同様に、この攻撃の“メインアタッカー役”であったマヤヤとウスネも、『やっと攻撃しないで済む』と分かり、爆涙しながら感極まった表情で喜んでいる。


「なんかこう、またこれでウチの悪評が蔓延しそうだよねえ」


「トキヤだってキャラ消し寸前の状況だったんだゼ。んなクエスト導入したアホに律儀に付き合うのもアホジャン」


「付き合うと言えば、つい調子に乗って新造の矢を使いきってしまったでゴザル。また素材集めしたいので後で付き合ってほしいでゴザルよ」


「「いや遠慮する!」」


 『唐揚げ定食』の全員が戦闘姿勢を解いたことで、とっくに戦闘を放棄していた色王もようやく解放される。が、硬直状態から解放されているのにも関わらず、未だに棒立ちのまま『ゴメンナサイ、ゴメンナサイ』と呟いているのだから、本気で正気を無くしている様子なのは明らかである。


「ああー、やっと終わったかぁ。まあ、トキヤが元通りになったのはいいが、なんかあんまり美味しくないクエストだったなあ……」


 まだ完全に終わったとは言えないのだが、ラスボス担当が精神的に死んでいる状況では、どうしようもない。

 ならばと、ここまでの間に何か重要な取りこぼしは無かったか? とイワオは記憶を浚い直す。が、結局この戦闘前まで思い出しても何も無い。

 仕方ないのでこの例外的な戦闘の内容も、思い出せるだけ思い出してみる、イワオであった。








 カウンターバッシュの複数スキル連動発動によるハメ技。それが無事二巡したのを確認したイワオは、ゲーム的には倒せない色王(ラスボス)を“VR環境的”に倒すための切り札を打つ事にした。


 戦闘現場にはやや遠めに位置どりしたマヤヤとウスネに合図を送り、段取りどおり、少女等は自分のジョブ能力を利用した、とある“非戦闘行為”を組み合わせて色王への攻撃を開始した。

 先ず色王の鼻先に『赤い×印』のターゲットカーソルが発生する。しかしこのカーソルは、テンマルが矢を放つ時に発生する攻撃用の物では無い。主にパーティー間でアイテムを移動する時に発生する投げ渡し(アイテムスロー)専用のターゲットカーソルなのである。


 『アイテムスロー』とは、戦闘行動中のみ発生する移動制限のある行動である。ほとんどの場合、HPを減らした前衛に対し後衛から回復用のアイテムを投げ当てる形で回復する、などに使う。問題は、この行為が不確実性の高い行為だという部分だ。投げる当人の技術や敵からの妨害で失敗扱いになるのも多いのである。

 特に回復したい者との間に“障害物”があった場合、その障害物に当たる事で失敗する確率はかなり高い。


 色王の鼻先に点ったターゲットカーソルは、本来、背後のトキヤに向けて投げられる物が色王という障害物に当たって失敗する。という事を知らせるサインなのである。


 そしてその投擲者であるウスネが振りかぶって投げた“物”は、HP回復や状態異常回復を発生させる、所謂ポーションの類では無かった。ただの“素材”である。

 アイテム名は『ブッシュラビット』。初心者や生産メインの冒険者が、近場の草原や森林地帯で気軽に狩れる魔物対象では無い“ウサギ”型の素材アイテムである。現実の兎に酷似する外見で、動物キャラ専門の声優からサンプリングした鳴き声も含めて異様に愛らしい。そう、狩る事で一応は死骸と化してなお、だ。

 本来はこの状態に“加工”と称する収穫素材の選択をする事で『皮』『肉』『生薬』などとジョブに応じた別素材へと変化するのだ。


 が、その加工工程には裏仕様とも呼べる物があるのである。


 アイテムスローによって投げられたブッシュラビットは、緩い放物線を描いて色王の眼前まで飛ぶ。そして、このまま“ポテン”と当たって終わりか? というタイミングで、“パン!”と弾けた。皮と肉は一瞬で細かいミンチとなり、血と変わらない代物と化し粘度のあるゲル的な液体となって色王の顔面にぶちまけられる。血糊で視界が埋まる寸前、華奢な全身骨格が確実に見え、視界が閉ざされた後に“コツツ”と当たる感触を残す。

 一秒そこらで、血糊含めて全ての惨状は光となって消えた。が、色王の中の人の心象を再現してか、その表情は呆けたままだ。


『……え?』


 そして投げられる2投目。今度はウサギの顔を正面から見る角度で、同様に弾けられた。無駄に精巧に創られた頭蓋の虚ろな眼窟と、“視線が合った”と感じてしまった色王(中の人)である。


「きゃああ!」


 悲鳴の先に反応してみれば、マヤヤが投げようとしたのだろう。が、失敗。足下で赤い斑点と化した元ウサギに投げた本人が怖がっていた。


「ほら、込めるHPの量間違えたにゃーね。後上手投げ無理なら下から投げるにゃー」


「う……うええ、ウスネちゃぁん!」


「うん。分かるにゃ。……でもすぐ慣れる……にゃ!」


 “慣れれるか!”と遠くのネコ娘に大声でツッコミをいれた色王である。


 そう、対アンデッドジョブである回復職のひとつ、滋養治士は、ジョブスキルを使い死骸にこのような効果を付与できたのである。

 使うスキルは『HP遊填』。アンデッドを回復する事でダメージに変化させる回復職定番のスキルだ。それをHP設定が無いはずの“死骸”対象の素材に使用すると、まるで時限爆弾のような代物と化すのである。

 移譲するHPの量により破裂する時間に変化が生じるので、少女組はそのタイミングを身体で覚えるために戦闘の間中、見た目愛らしい小動物を血がタップリ詰まった水風船に変えていたのである。


 ウスネがほぼ百発百中で命中させる反面、マヤヤは三割程度の命中率である。だが、ほぼ顔面近くで弾けられる他、足下にポテンと転がったウサギが弾ける様子を観ることも色王のSAN値変動には一役かっていたりする。


 こうしてマヤヤの誤投も含め、色王周辺は攻撃側の精神も共に削る赤い絨毯爆撃の地となる。数十分後、マヤヤ達の装備破壊効果も終了し、見た目を気にせず自由に動けるようになると飛んで来る数も増えるし命中率も上がってくる。

 一度、この地獄の状況に人としての常軌を超えた色王が意地のハメ技解除を成功させたが、『唐揚げ定食』側も廃人。あっさり繰り出そうとした範囲即死攻撃を不発に終わらされ、またもハメ技に持ち込まれる。


 そうして一時間後、とうとう精神的に限界を迎えた色王(中の人)より降伏宣言が出されたのであった。








「……まあ、内容はともかく“おかしい部分”は無いか」


「お兄ちゃん、それマジならちょっと兄妹の関係に疑問ができるにゃー」


 至極真面目な顔で結論を下すイワオへ、ウスネから白い眼差しのツッコミ発動である。


『全く、やっぱりこんな結果になりましたねー』


 唐突に、この場では初めて聞く女性の声であった。全員が声の発生源を注目すれば、麻痺硬直から解放され、膝を付いて放心する色王の隣にこの場には“そぐわない人物”が立っている。種族は人間(プレナ)。極普通の街着に赤の縁取りがされた黒のショール姿。立場的にイワオは良く見かける、冒険者の店の受付嬢定番の姿である。

 しかも受付嬢の顔に見覚えほ無いが、その声と口調はここ最近相手をしている受付嬢の中の人“糸山さん”なるサービススタッフであるのも良く分かった。

 分かりはしたが、何故このタイミングで登場。かは分からない。


『あ、えーとイワオさん。幸か不幸かこの件での問題は全て不問となりまして、一応クビは免れました。ですので今後ともよしなにお願いします♪』


「あ、此方こそ今後もお世話になります」


 スタッフ糸山の社交辞令につい反射的に返礼を返すイワオである。


「イワオ、この受付嬢は誰でゴザル?」


 そして当然、突然の闖入者への質問が起こる。


「ああ、この人はモタルサの受付嬢の振りしてる“糸や──”ゴフォ!」


 あっさり本名をバラそうとしたイワオへのツッコミ。眉間への“クナイ”投擲という実力行使にでたスタッフ糸山である。見た目のインパクトはともかく、HPは1しか減らないので加減のある攻撃であるのは直ぐ分かる。


『ホホホホホホ、イワオ様ぁ、本気で私に玄関前に立たれたいのですかあ?』


「いやスマン。気が抜けてた」


 クナイを刺したまんまの姿で謝罪するイワオ。このクナイを凝視し、固まってるテンマル。が、次の瞬間テンマルが消え、スタッフ糸山の眼前に現れると素早く糸山の手を取り、その瞳を真っ直ぐ見つめて真摯な口調でのたまった。


「美しいお嬢さん。是非ひとつ、拙者の願いを聞いてもらえんでゴザルか?」


『へ? あ、えーと、何でしょう?』


「その武器の出所をお教え願いたい。さあ! ハリィ! ハリィ!! キヒィィ!」


 ベルでバラなお耽美的アプローチからのウメズティック“ひぃぃぃっ”な顔面変化を披露するテンマルである。披露されたスタッフ糸山としては、狼狽以外に何を返せという状況となる。


『ええええっとぉ、イワオ……さん?』


「気にするな。ただ錯乱してるだけだ」


 テンマルは外見がガル○ォードなので、本能的にキュンとくる女性プレイヤーは少なくない。が、忍者フェチ丸出しの行動を目の当たりにすれば直ぐ目が覚める。スタッフ糸山もその流れから洩れず、露骨に抱いた戸惑いの種類を変化させていた。


 イワオがカッツェにアイコンタクトを送り、カッツェが強引にテンマルを引きずっていく事で話が再開。

 何故糸山がこのエリアへ現れたのか?

 何故この妙なクエストが妙なまま進行したのか?


 その種明かしが訥々(とつとつ)と、語られる事となったのである。




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