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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第1話【ある滋養治士のお話】
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彼女の陥落3h⑥

二話分、その2

『ふむ、そろそろお主等の準備も終わったか。というか、妙なスタートを仕切り直せたんで礼を言う』


「前から思ってたが、何で俺と対面する“中の奴”は変な奴ばかりなんだろう。てか、その姿はキレられて当然だぞ」


『いや、これは今回だけの仕様だから。以降は仮面とか着けて素顔ださないし!』


「いやいや、俺は知ってる。過去、そんな風に今回だけな設定でやったイベントが、何故か毎年恒例みてーに繰り返されたのが何度もあった事を。一昨年だったか、夏のビーチクイーンイベントに選ばれた娘のアバター情報コピった巨大石像がイベント後、灯台代わりに会場エリアの岬に晒された事。しかも次の年のイベントじゃ石像がゴーレム化して大暴れ。哀れモデルの娘が泣いてキャラデータ作り直してたよなあ!」


『むっ、そんなトラブルあったのか。後で担当を問い詰め……、じゃなく、我が関与せん異世界の話を出されても意味不明じゃ。……まあ、我もまだまだ転生したばかり、しばらく後には姿も変わるやもしれん。“トキヤ”なる名も王としてはやや役不足じゃのう。もっと威厳のある名を、じっくり吟味するのも良かろう……』


「うわー、露骨に誤魔化したでゴザル」


「まあ、トキヤの名誉のためには助かるが!」


『ふははははっ、……ではこの件はこれで手打ちという事で……、色王の門出の祝いに血の花咲かせて消えるがいいわ!!』


「グダグダでゴザ~ル!」


 イロイロとダメな会話がなされているが、一応は戦闘の最中の会話である。

 トキヤからイワオへと対応が変わった事で攻め手もトキヤから色王にチェンジ。イワオは盾役としての定番な行動に従事して色王の攻撃を躱し、または防ぎ、その隙間からテンマルが色王を削るという流れであった。

 互いに様子見という態度を隠してもおらず、見た目は“千日手”である。たまに隙を狙う激しい攻防を見られるが、結果は大したダメージを出せない状態ばかりである。


「まあ、でも結構予想ついたな。このエリア、俺達のクエスト終了後に開放される新エリア、とかなんだろう?」


『む……』


「いやいや、クエスト用の使い捨てにしちゃあ、作り込み有り過ぎだから。聞けばこのクエスト、5年も前に受けたらしいし。その頃にはこんなエリア、一発芸で終わらせる経営余裕無かっただろうしな!」


 少々生臭い話だが、いくらVR環境を売りにしたゲームとはいえ、全てが潤沢な資金で創られるとは限らない。むしろ10年前となると、VR技術をゲームに利用し始めた新規ジャンルを売りにした投機的な面が圧倒的に強い。ソフト開発能力を持った最低限の人員の集団が名目上の会社を立ち上げ、試作品や半請負で“導入版”的な物を乱造したのが実情である。

 それら実質的なアルファ版以前の代物(コンペ)を、市場販路に強い大手ソフトメーカーが権利買い取りによって所有。場合によっては開発集団諸共を一時的に子会社化する事で精度の高い“製品”に仕上げるのだ。

 『トリオン・オブ・ラビリンス』の場合、新興の弱小ソフト開発会社で創られ、サービス開始から2年は独自の経営形態で運営された。だが人気は出たものの、ゲームシステム的に取り扱う“倫理”内容で業界からは異端な扱いを受けており、その圧力で徐々に業界から爪弾きされている状況でもあった。

 以降、紆余曲折の後、『トリオン・オブ・ラビリンス』は生き残りの策として、その運営権利をゲーム業界の権力の影響下ではない別の大勢力に組する事で消滅を免れ、現在に至る。

 そしてその大勢力の潤沢な開発資金を元に、開発集団達の理想どおりの世界が供給されはじめたのが、サービス開始後6~7年の時期なのである。


『……君、もしかしてウチの関係者かい?』


「いえ違いますよ。……いやそうでもないか。というか、アンタ達の業界でアンタ達の“系列”に属さない社会人ってのを探すのも、結構大変でしょうよ」


『ああ、納得。よく業界で3人に1人はウチの身内。みたいに言うもんなあ』


「そうそう。そんな都市伝説話の一つで、このゲームの由来ってのは有名なんですよっ、と!」


「それ言うなら、拙者の勤め先も“関係者”になるでゴザル! 因みに地方密着型の運送業でゴザルが」


「俺んとこはまあ、まだ近いか。とある“医療機器”の製造委託だもんなあ」


 暗に資金面以外の繋がりは無いと言っている内容である。

 最も、イワオがゲーム内で発見、及び秘匿するチート技能という面では、もう完全な関係者とも言えるかもしれないのだが。


『ふむ、まあ妙に私と接する応対力に違和感はあるが、“そういう事”としておこう。ではこれからは役に徹するか。──さあてっ、我の転生を祝ってもらおうか! 久方振りの宴じゃあ!! 色王トキヤ(仮)の名を讃える赤き血の絨毯、ぶちまけるを許そうぞ!』


「イマイチ、役に成りきれておらんでゴザルなあ」


 色王の口上とテンマルのツッコミが出たところで、背後にトキヤやカッツェの気配が揃う。こうしてようやく、『唐揚げ定食』と色王との、エキストラ版ラスボス戦がスタートした。



 さて、イワオの言う“対人戦”とは、所謂“PvP”。『プレイヤーvsプレイヤー』の事を指す。

 『トリオン・オブ・ラビリンス』の場合、一部のPvP禁止エリア以外は普通に殺し合い可能となる仕様である。が、一般的なPvPを推奨するゲームとはやや趣を異なる状態での仕様とも言えるのだ。

 主に一般的なPvP行為には、ちゃんと利点(メリット)欠点(デメリット)が設定されているのである。例えば、殺した相手から欲しいアイテムを奪える。だが犯罪者としてプレイヤー設備の使用ができなくなる。などだ。この例は多くのゲームで踏襲され、付随するよう細々な違いによって個性化もされている。


 だが、『トリオン・オブ・ラビリンス』においてはPvP行為で殺す利点はいっさい無い形で導入されている。NPCによる公権監視の状況でなければ、殺す事での欠点もほぼ無い。良くも悪くも、プレイヤー間での心象だけが問題となる行為なのである。


 要は、サービス側はシステム的に認めはするが、それによる損益にはいっさい関知しないという意志表示なのである。強いて言えば、殺される側に行動の制限が多少は発生するが、一方的に殺されるから被害者だ。という発言は、発言止まりにしかならない。嫌なら殺されないようになれ。そうなる環境はあるのだから。という理屈なのである。


 だが、何度も何度も、陰湿的につきまとっての殺人行為はさすがに問題があると判断され、それなりの制限が設けられてはいる。

 同一個人間、またはフォート間のPvP行為は、そのログイン期間においては最大2回が限度となっている。これは殺す側と殺される側のどちらかが有効なら良い。

 例外的に『決闘』モードならば制限対象にはならないが、このような問題有りでそのモードを使う馬鹿はいないであろうし、もし居た場合、サービス側が関知するのも馬鹿馬鹿しいだけである。


 そして、『トリオン・オブ・ラビリンス』でワザワザ『対人戦』と称される言い方の時は、その馬鹿同士が合意の上で殺し合う本気で馬鹿な、またエゲツナイ行為が横行する状況を言うのであった。


『さて、では本番と行く──、ぐっ?!』


 色王を間に挟んで前後して立つイワオとトキヤ。そのままの流れでイワオへと剣を振るった色王は、その一撃がイワオの盾に防がれた瞬間、唐突に麻痺状態に陥った。

 この状態の基本は、守護騎士の基本とも言えるスキル『カウンターバッシュ』の効果である。それがイワオからの発動をスタートに、ノックバック効果で弾かれた色王の行動を攻撃扱いと判定したトキヤが背後から再びカウンターバッシュ。前後からほぼ同時に、同じスキルの反響状態という状況に置かれたのである。


 カウンターバッシュの発動効果は“瞬間”判定。だが効果時間は最低でも5秒は継続する。対象はその間麻痺と硬直で行動不能となり、絶好のサンドバックと化す。モンスター相手の場合、反撃されないこのチャンスに集中してダメージを与えるのがパーティー戦での基本中の基本だ。

 そしてカウンターバッシュの再使用時間(クールタイム)は3分。モンスターが硬直から解かれ、再びカウンターバッシュが使用になるまでは、なるべくダメージを受けない戦闘行動で耐えていく、というのが、初期プレイ時代、決定的な攻撃手段を持たない構成での基本戦闘となっている。


 が、それもスキルの成長やアクセサリ装備の導入で全く違う状態へと変わる。

 現在、イワオやトキヤが限界まで成長させたカウンターバッシュは再使用まで28秒。硬直効果時間は30秒までとなっている。つまり、相手からの攻撃が来る限り、一撃毎にフルボッコ祭りが始まるわけである。

 それが前後でピンポン状況ともなれば、“ほぼ”硬直から回復と同時に次のスキル効果でまた硬直。見事に悪質なハメ技となるわけである。


「対人戦の基本はな、“ずっとオレのターン”しかないんだよな!」


 硬直開始となった途端、テンマルから何本もの歪な射線を描かれて“黒くテカテカ”の鏃をもった矢が殺到する。『カサカサー』とか『ブゥワーン』など、生理的な恐怖のメロディーを奏でながら飛ぶ“Dンジャラス”な矢、クリーピングアローである。


『グギギっ?!』


 狙いも実にエゲツナイ。当たった場所の詳細を書けば、如何なグロ好きでも本能的な恐れを抱く箇所ばかりである。およそ人体に置ける急所という急所。最低限の例えを書くならば、『奥歯である“親不知”。それが抜かれる感触の、痛み以外を全身で感じた』といえば、想像できる者もいるであろうか?


 ただ確実な事は、色王の中の人間はこの瞬間、かなり重度の先端恐怖症に開眼した。


「ううむ、テンマル。その矢、本気で気持ち悪いぞ。まさか向かい合う俺と色王の間に割り込んで、真っ正面から突き刺さるとは思わなかった!」


「地面スレスレに飛んだ挙げ句、足元から垂直に飛び上がる変化もだよね!」


 間近から色王が矢衾状態と化す様を見て、やや内股になるトキヤである。想像したくないダメージを想像した故の反応であった。


『ギギッギッ……。うわあっ! ちょっ、君達。この攻撃は汚いぞ!』


「お、どうやら言語パラメータいじって麻痺対象から外したな」


 大量の矢を全身に生やしたのも一瞬。ダメージ算出の終わった矢は光の破片と化して消える。そして同時に硬直状態は維持されているが、さすがに『グギギ』と唸るだけでは意味がないと思ったか、サービス側の強みを使って強引に喋れるように処置したのである。


「いやいや、フォート同士の対人戦じゃ基本戦術だぞ。なんせ対象1人の拘束に2人のリソースを使うんだ。そう便利とも言えるもんじゃない」


「と言っても、大概最後の1人をイビリ倒すんで使う外道技でゴザルが」


『むむ、既存スキルの組み合わせだけで中味は合法なのが質悪いな!』


 この会話の間にも、何度もテンマルから矢が放たれては色王が一時的に“ハリネズミ”と化す。最初のダメージ判定チェックで部位破壊扱いが認めれなかったので、見た目で攻撃側にも精神上のダメージをくれたエゲツナイ部位へは攻撃は無くなっている。

 現状はほぼ胴体を貫通して命中する絵面で収まっていた。


 が──


「やっぱりな。“遊び”とか“殺しはしない”とか、やけに強調してるから倒せるとは思ってなかったんだよなあ……」


 フルボッコ状態のまま10分近く続いた戦闘でイワオがボヤく。

 ダメージの累積が色王のHPの50%を割り、HPの残量が視覚化してようやく、色王が“倒せない”対象だと判明したのである。


「人型なのに部位破壊も効かない時点で大概でゴザルなあ」


 色王が動けない状況が確定した時点で、テンマルは接敵位置まで近寄ってのゼロ距離射撃となっている。

 試しにと、剣を握る掌へ貫通性の高い矢を5連射してみたが、ダメージは出ても剣を握る手に変化は無い。普通は、このての攻撃がなされれば“剣を放す”などの演出が起きるのだ。


『ふっ……。本来ならばここまでダメージを受けた時点で、即死範囲攻撃で戦闘終了。という流れだったのだがなあ……』


 何故か遠い目になった色王の独白である。


『こんな戦法、成立せんように修正してやる!』


「まあ、頑張ってくれ。サービス側はこの戦法二年前から知ってる筈だが、未だに修正かからんしなあ」


「特にうちだけで使う技でもゴザらんなあ」


『むおおおおっ』


 ゲーム開発において、扱う仕事量や質の違いで細かい情報共有ができない。という事は良くある。戦闘というシステムで動く共通点はあっても、ジョブのデザインや、スキルやアイテム効果のデザインという面から見た場合、作成時は全く関係無いと判断され、実装後に問題を発覚させるのである。

 このての問題の悪質な部分は、システムの大部分においては正常である。という事だ。ほんの些細な部分だけが、場合によっては致命的とも言える状況を生むのである。


 因みにだが、今の状況が事実上放置されているのは、この現象を可能とするのが対人戦に限っての事だからだ。ハメ技とは言え、完全に連続する技能を使ってのものでは無い。タイミングの取りようでは、スキル効果が切れた一瞬を利用して自力で抜け出す事も可能……ではあるのだ。

 そのタイミングの確認には、人間の思考速度を遥かに超えるAIでなければ無理なのではあるが。


「それはともかくだ。“不壊属性”(イモータリィ)は予想済みなんで、次の手を使うかあ」


『次の手?』


「そう。ああ、視界の麻痺も外しておいた方がいいかな。で、アンタから左手側をちょいと見てみるといい」


『む?』


 イワオの忠告で視界を自由にし、言われた方を見た色王。そこには──


『む、君らのパーティーの女性達だな』


 カッツェにガードされる形で、マヤヤとウスネが膝をついてしゃがんでいた。

 心なしか、二人とも泣きながら無理やり笑っている。


『何故彼女等はあそこまで弱っているのかな? というか、地面が随分と濡れているような?』


「まあ、俺達の間では『君が泣いても止めない攻撃』ってやつだなあ」


「えーと、最終勧告……かな。敗北宣言するまで終わらないから。多分」


「何時かは弾切れが。は無いと思った方が良いでゴザルよ……」


 何故か色王を攻めるイワオ達の方がテンションが低い。

 そして色王の疑問に言葉で答える事も無く、回答は行動でもって、示されたのであった。




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