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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第1話【ある滋養治士のお話】
2/69

彼女の濃い~ぃ1h②

 都市国家モタルサ。

 全体的に乾燥地帯であるモンモ地方のほぼ中心に位置する。

 多肉植物(サボテン)を主とする防砂林を兼用の防壁とした城塞都市で、さらに奥には太古の巨大移動車両18台をサークル状に並べて囲った本物の城壁もある。これは今も実用的な防衛用城壁として機能し、同時にこの街の観光の目玉となっていた。



「つーか、巨岩でできた“コンボイトラック”って、なんかフザケてるでゴザルなあ……」


「一応は西部劇のキャラバンスタイルのオマージュだそうだよ」


 昔々の西部開拓時代、幌馬車を円形に並べ、防壁として外敵からの襲撃に対処したという歴史がある。都市国家モタルサは、その形になぞらえてデザインされたプレイヤーの拠点の一つなのである。

 対比的に現実のコンテナつきコンボイトラックを十倍に巨大化した大岩が18台、列車のように連なって円を描き、巨大な街の防壁として機能している。城壁が囲む中には木と日乾しレンガで建てられた二階建ての街並みが広がり、やはり西部劇をイメージした雰囲気の街となっていた。丸く絡まりボールのようになった独特の植物、回転草(タンブルウィード)が街の通りをコロコロと転がり、荒野っぽくあると思えば別の一画には噴水広場としてオアシスのイメージで泉もあったりする。

 微妙にウエスタンとマカロニウエスタンとアラビアを舞台にの戦争映画が混在するような、変に無国籍の街なのであった。


「あー、どうでもいいから宿行こうゼ、宿」


「賛成ぇ~。数値のMPは満タンだけど、メンタルのMPはガス欠にゃぅ~」


「お……同じくぅ……」


「ふんはぁ、いやあ、初日からぶっ飛ばし過ぎたなあ」


 マヤヤ達はオーガガ島のラビリンス攻略を途中放棄し、近場の拠点モタルサへと来ていた。

 攻略と言っても、そもそもの目的は新規参入したマヤヤを、古参組がパワーレベリングするためだったので問題は無い。

 オーガはHPは高いものの、特にイヤらしい特殊攻撃を持たない肉弾物理攻撃が主体のモンスターのため、新人が戦闘の雰囲気を掴む目的でよく利用されるのである。


 ゲーム内の体感時間で約六時間。サポートと回復役のウスネとマヤヤが枯渇しかけたMPの回復に時々~少々~と待機した以外、ほぼ連続しての戦闘三昧である。アバターとしての性能に支障は無くとも、長時間の緊張状態は全員の精神的を疲れさせ、特にマヤヤには実質倒れる寸前、といった状態にしていたのであった。


 しかし、おかげでマヤヤはチュートリアル途中でレベル2だったにも関わらず、プレイ初日にして17へと大成長。一応、もうこのゲームでは一人前のレベル20に届くといったところである。

 もっとも、平均レベル60。最高レベル92となるトキヤ等に比べればスズメの涙であるが。


「マヤヤぁ、ゲーム内休憩の取り方、覚えてる?」


「うん。部屋を~借りて、ベッドで~スリープを選択~、だよね」


「そそ。デフォ設定は三時間、現実なら三分相当ね。ホントに休んでんだか休んでないんだか謎だけど、とにかく気分はスッキリするから気にしないように、にゃ。どうせホントの身体は寝てるんだし」


「うん~、わかった~」


「ああ~、こりゃ既に電池切れモードだわ。みんな、ワタシはマヤヤを宿で寝かせるから、三時間後に『ロレンス酒場』に集合。いい?」


「「「ほーい」」」


「あ、オレは隣町で新装備調達してくんで、多少時間がズレると思う」


「りょーかいにゃ。大きくズレそうならメールして」


「ホイヨー」


 こうして、パーティーは一時散開となる。

 ウスネは立ったまま寝そうなマヤヤを連れて近くの休憩宿へ。トキヤを除くメンバーは、モタルサ各所の用事のある施設へと散っていく。

 レベリングゲームに慣れた者ならば、仮想睡眠は一時間も取れば問題ない。廃人カテゴリのプレイヤーとは、戦闘以外の残りの時間は次の冒険(ケイケンチ)への準備に当てて、効率の良い行動をするという習性が、本能レベルで染み付いているのだ。

 各自、装備強化やステータスブースト用のアイテム調達、もしくは獲得した素材の売却やクエスト完了処理と、阿吽の流れで分担し、目的の場所へと移動していったのである。


 残るトキヤは隣のエリアの拠点、『岩窟都市国家ゴリンド』への移動馬車乗り場へと向かう。

 ゴリンドはドワーフが暮らす街という設定で、物理攻撃用の武器や防具を必要とするジョブの聖地と言える街である。

 トキヤは、前々から狙っていたオーガ素材の武装を作る素材の数が今回の戦闘で揃ったので、この機会に作ってしまおうと考えていたのである。


「他のゲームみたいに、一瞬で他のエリアに行けると楽なんだけどなあ」


 このVRゲーム、『トリオン・オブ・ラビリンス』は、メインコンテンツである迷宮探索の他に、その背景となる地方や街の造りにも拘っていた。同様に各地域を結ぶ距離なども拘りぬいていて、それなりの移動距離や時間が設定されているのである。


 ゲームをプレイする者の中には、このての非合理性を利己的に非難し、簡略化を当然の要求として要望する事がある。が、このゲームのサービス側からの回答は『仕様変更は致しません』の一言である。

 それで終われば苦労は無いのだが、一時期、ネット内で大量の“改善要望”の署名を集めて、強引に仕様変更を求めようとしたプレイヤー等がいた。が、逆に『威力妨害行為』とサービス側から訴えられた挙げ句、当事者は個人特定の後にアカウントの永久剥奪の処置を受けて沈黙した。


 以降、散発的に仕様変更を求める騒ぎは起きるものの、その度にこの経緯が語られては沈静化するという事を繰り返している。


 閑話休題。


 自分のボヤきにそんな伝説を連想して思い出し、乗り合い馬車という設定でありながら、個人タクシー的に使用できる移動馬車を拾い、サッサとモタルサの街を出るトキヤであった。



 一方、宿に落ち着いた女子組はというと、男連中が知ろうものなら大歓喜して大変な事となる程に、静かに危険な状況となっていた。


「ううん……、いくら親友とはいえ、これはチョット悪乗りしたかな?」


 半落ちしたマヤヤを連れて、ウスネは適当なツインの部屋に落ち着く。

 VRというリアル嗜好でもゲームはゲーム。休憩用の部屋はプレイヤーの数だけエリア生成され、希望の部屋が無いとか満室という状況は発生しない。なので、街中に宿はたくさんあるが、どの宿がいい、どの宿が悪いといったものも無い。さらに泊まりたい部屋の設定もその場で細かく選択できるので、どうにも一人にしたら危険そうだと、エリア共有できる二人部屋にしてウスネも同じ部屋を利用したのである。


 ここまでは、まあ普通である。ツインなのでベッドは二つ。それぞれに寝て、ステータスウィンドウを開いてメニューから『スリープ』を選択すれば終わりだ。選択後にはアバター同士は非接触状態となるので、同じ部屋とはいっても、時間が経過して自動的に覚醒し、頭もスッキリして再び活動ができるようになるまで安全な状態となるのだから。


 が、ゲーム初心者のマヤヤは、そんな設定すらできずに覚醒状態のまま“寝落ち”という状態になっていた。これはゲームによる情報負荷に精神が耐えられず、システムによる睡眠ではなく当人の失神が原因で起こる現象である。

 この状態が三十分経過すると、自動的にシステムの睡眠行動へとシフトするのだが、実は、その三十分間はプレイヤーが完全無防備の状態になってしまうのである。


「いやあ、まさかホントに『さあ、オネムよ~。お洋服脱ぎ脱ぎしましょうね~』で反応するとは思わなかったわ……」


 覚醒しているのに睡眠状態。つまり寝ぼけているマヤヤはウスネの言葉に反応し、自らの装備解除をしようとしたのだ。だが、ゲーム初心者故にメニューからの選択という手段は取らない。ボタンや留め具をいじって、脱ごうにも脱げない状況にグズったマヤヤへ悪乗りし、巧みにメニューからの除装選択へと誘導したウスネは、実に見事な確信犯である。


「『未成年フィルター』や『ハラスメント設定』の解除までさせちゃったのはマズったにゃあ。て言うかマヤヤ、いつの間にあんなに“育った”のやら、だよ」


 未成年フィルター、つまりインナー装備の表示非表示の選択である。

 フィルターが有効ならば無装備状態でも最低限の装備、水着のような下着類(インナー)を着用した状態となる。しかし、フィルターが無効の場合はそれらも表示されなくなる。いくら本当の身体を元にしたアバターでも生身そのものを再現した仕様にはなっていないので本物の露出にはあたらないが、そこはそれ、シルエットは同じといってもよいのである。しかもマヤヤやウスネはスリーサイズからして忠実に再現しているので、本物同様の羞恥心に繋がるのも当然と言える。

 つい先日までは同じような幼児体型を脱せれない同志と思っていたのに、一人置いていかれたウスネ敵には複雑な心境であった。


「……くぅっ、堂々と天を突きおって……。しかも縦横無尽に揺れおって。て言うかもうスリープ状態だから証拠隠滅できないじゃん! どーしよー!」


 親友の見事な成長に内心で葛藤しているうちに三十分はとっくに過ぎた。マヤヤ自身がスリープ状態に移行してしまったので、ウスネはもう、マヤヤへの接触がいっさいできなくなっている。簡単に言うとマヤヤがスッキリ覚醒するまで、そして覚醒直後までは誰から観てもスッポンポンという状態となっていたのである。

 それは、マヤヤの覚醒の後、ウスネの命運が尽きるという事と同意であった。


「……むむむ、せめて見た目だけでも“どうにか”しとこう……」


 ベッドに備え付けのタオルケットをマヤヤにかけて隠すウスネ。絹のような肌触りのタオルケットは、薄めではあるが案外と重い。仰向けに寝ているマヤヤのボディラインが微妙に透けて現れ、中身を知るウスネには余計に危険な惨状となってしまった。


「ああ、たぶん、今日がワタシの人生最後の日にゃ……ていうか、パーティーメンバー入室可を不可にしとかないと危険にゃ」


 万が一、散った誰かが不意に入ってきたら、そいつをケダモノに変えてしまうだけの威力が今ここに“ある”。

 しかも、もしかしたらその危険物当人は無意識にケダモノを魔王にも変えかねないし、である。

 過去の親友(マヤヤ)の姿を知るウスネである。


「もっとも、それでマヤヤが変化するなら、それはそれでワタシの目論見どおり。なのかなあ?」


 そんな自問。そしてウスネは、マヤヤをこのゲーム、『トリオン・オブ・ラビリンス』へと誘うきっかけとなった事を思い出す。

 この危なっかしい親友に、年相応の感性を得てほしいと願う事になった“きっかけ”を。




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