彼女を弄る1h②
仲間のレクチャーによって滋養治士の仕様を覚えていくマヤヤは、その内容に些細な語弊がある事には気がつかなかった。
『滋養契約』の場合、契約対象者が滋養治士に触れる最低限の決まりは『胸を揉みしだく』ではなく『心臓の位置に触れる』である。
それを正確に実行するならば、胸骨の中心からやや左。つまり、乳房に触れるにしても滋養治士の左のみ、もしくは『胸の谷間』で充分ということになる。さらにウスネとイワオの時のように、充分に素肌が露出する装備ならば、別に除装する必要もない。
いくら過剰な露出やセクハラじみた仕様を謳っている滋養治士でも、公然とストリップを強要しているわけでは無いのである。
だが、ここにプレイヤー同士の願望がプラスされると、その問題は強く複雑な心情が絡むこととなる。漠然と、またはハッキリと、そう“望む感情”がギリギリ希望に届くか、それをさらに越えた形になるのか? といった願望である。
要は、日常での禁忌が仮想では、どこまで乗り越えられるのか? という問いである。
そもそも『剣と魔法』を舞台にして英雄的な行動をする。その一環で合法的に“敵を殺す”行為ができる。
この類のゲームの根幹からしてが、日本の現実ではタブーとなるのである。
滋養治士の場合、異性の他人同士の現実での漠然的な距離感の関係。それがどこまで“破壊”できるのか? より、本能的に異性を求める行為をどこまで解放できるのか? その興味の恰好の対象だったのである。
そしてトリオン・オブ・ラビリンスに滋養治士が登場して7年。男性と女性、双方のプレイヤーの試行錯誤により、個人差はあれど、“ここまではゲーム内で合法”、ともいえる決まりが勝手に罷り通る事となっていた。
その“常識”は、後発する滋養治士が遵守し、乗り越える精神的な壁としてのローカルルールとなり、実情的に、滋養治士を営むプレイヤーの貞操観念を、やや緩く調整する補正教育手段となっていたのである。
「まあ、とどのつまり、擬似的感覚の行為でゴザルからな。現実では問題が大ありな事も、好奇心の延長として手軽に試せるでゴザル。なんせ合意でも、現実だとちょっとした失敗から尾を引くトラブルになりやすいからでゴザルからのう」
「テンマル、さすが社会人だゼ……。それにしても……」
テンマル、カッツェ、イワオの順で、マヤヤは滋養契約を完了させた。同時にウスネも更新を済まし、その連続お楽しみ行為のお陰か、野郎共が違和感に気づいたのである。
結果、ウスネはイワオから拳骨を貰い、わずかな理性で人間に踏みとどまるテンマルとカッツェの制裁を貰い、現在、石の床に翻筋斗打って倒れていた。
「まさか勝手に他人のステータス調整をいじってたとはなあ」
「「予想外予想外」」
「…………」
マヤヤの開けっぴろげな行動に面食らいつつ、ゲーム内での常識に沿ってマヤヤの胸を堪能したテンマルは、“彼女いない歴=人生”の中、最高の幸福に酔った。故に気づかなかった。マヤヤが同時に意外な反応を示した事に。
続くカッツェも反応はテンマル同様である。マヤヤの反応は徐々に大きくなったのだが、派手に喜ぶカッツェには認識できなかった。
そしてラスト。イワオである。
直前にウスネと滋養契約を済ませたために、マヤヤから帰ってくる感触の違いが一目瞭然だったのである。そうして注意してみれば、マヤヤの恰好の違和感にも気づく。慌ててマヤヤ当人に問おうにも、最初の無頓着さがどこに消えたか、マヤヤの顔は真っ赤に染まって身体は震え、確実に硬直している始末である。
「……あ!」
そしてようやく、ウスネが気づく。マヤヤ当人が知らないうちに、『未成年フィルター』と『ハラスメント設定』を解除してた事に。
防具の装備には種類によって細々とした独自の調整がなされている。現実的なデザインを踏襲する物から如何にもファンタジーなデザインを優先したかの物。装備した外見と実際の性能が乖離する事もしばしばあるし、装備部位によっては、他の部位の装備を多少変化させることもある。
例えば、装備することで女子プレイヤー全員、魅惑のナイスバディーへと変貌させる『ビキニアーマー』などだ。個人で設定の違うスリーサイズを多少補正し、メリとハリが効いたバランスの良いスタイルへと変えるのである。それてその際、表示されると興醒めなインナーは、未成年フィルターの有無に関係無く非表示状態になったりする。
これは似たようなデザインの装備には洩らさず追加されている機能で、肌面積の多い滋養治士には日常的な機能とも言えた。だから咄嗟に気づかなかったのである。
装備解除したにも関わらず、マヤヤのインナーが表示されないまま、素の裸体へと変わった事に。
野郎共には嬉しい結果だったが。
同様に『ハラスメント設定』である。トリオン・オブ・ラビリンスにおいて、この設定はゲーム社会倫理に基づく基準に沿ったものでは無い。
あくまで、ゲームを利用する個人が、個人の基準で設定する倫理判定のガイドラインである。
サービスや警察機構への通達など、第三者の介入を前提にしていないのである。
この設定をオンにして設定値を最強にすると、そのプレイヤーはほぼ異性のプレイヤーからは“見えなくなる”。同様に、同性相手でも『ブラックリスト』など険悪な関係ならば見えなくなる。
つまり、基本はプレイヤー同士のゲーム内での不快な接点を減らす機能なのである。
だが設定をノーマル~最低へと変更すると、逆にプレイヤー同士の接点をより強調するようなものとなる。仮想とはいえ、接触する相手の存在感が、有り得ないほどに強くなるのである。
「数少ない、気の置けない女友達(ゲーム限定(哀))の話によると、全身の性感帯が洒落にならんことになるらしい」
「意味は分からんが想像はできるでゴザル。拙者、あんなの初体験であった」
「あれが……、生の感触なんだなナア。今までの滋養治士は全部偽物ダ。本物はマヤヤちゃんだけだゼ!」
この設定の凄いところは、最低設定の影響を接触対象にも与えることがある。つまり野郎共はマヤヤ本来、もしくは現実のマヤヤ以上の肉感情報を、掌を通して与えられたのである。
参考として書けば、野郎共が感じていた今までの滋養治士の素肌の感触や存在感は、分厚い布越しに触ったようなものにダウンしていた。
サービス側がどのような技術をもって構成したかは分からないが、野郎共が本気の讃辞を内心で贈っているのは確実である。
そしてその感触を与え、また自らも感じたマヤヤは、生まれて初めての体験に驚いていた。行為自体に新鮮味はない。小さい頃より祖父母代わりの村人は遊び半分ながらも、そのての知識は教えていた。
マヤヤ自身にしても良いスタイルに憧れるのは本能みたいなもので、ストレッチ関連、トレーニング関連と、知れる範囲で努力をするのも、既に生活のひとつなのだから。
しかし、それが“反応”として返ってきたのは、今この時が最初だったのである。そのせいか、自分の得たものの正体もわからず、ただパニックになっていたのである。
そして幸か不幸か、野郎共は野郎共で外道な感想発表会や最優先の“仕事”の遂行をしている内に、マヤヤの高鳴りは波が鎮まるように治まった。
そして再装備の余裕も無く、トップレス状態のまま身を縮こませて震えていたマヤヤが復帰してみれば、自分とは少し離れた位置でイワオら三人に囲まれたウスネが倒れて全身をピクピクと痙攣させていた。
「ええ!? ウスネちゃん!? わわっ、大変!!」
その状況に驚くマヤヤは、未知の感覚はとりあえず保留と、倒れるウスネの元へと、やや怪しい歩調でもって駆け出したのである。




