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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第1話【ある滋養治士のお話】
10/69

彼女を弄る1h①

 本日の迷宮:【オーカガ島】

 対象ランク:冒険者R3以下。ジョブレベル40以上。三人パーティー以上を推奨。

 討伐クエストクリア対象モンスター:スカベンジオーガ 3体

 達成報酬:30,000.G。

 討伐クエストオプション:強奪品回収(種類毎の価格の総計をプラス)


 【概要】

 オーカガ島迷宮内の一画にスカベンジオーガのテリトリーが確認されている。クエスト目的はスカベンジオーガの殲滅。およびモタルサから強奪された物品の回収となる。

 スカベンジオーガとは、特殊な性癖を有するオーガグレートの亜種で、オーカガ島に生息するオーガにすら敬遠された小勢力である。単体としての攻撃力はオーガグレートと同等であるが、それに加えて前方範囲に毒の息を吐く特殊攻撃を有する。




「要は、ゴミ屋敷の住人退治、な」


 マヤヤを含め、一発で納得できる説明であった。




 スカベンジオーガの棲む場所はオーガの迷宮と繋がっているが、スカベンジオーガの生息範囲の通路内には通常のオーガは登場しない。

 ルームと呼ばれる小広場が迷宮内に幾つかあり、そこに居るスカベンジオーガを倒す事でクエストをクリアするのである。

 ルームの数は十五部屋あり、スカベンジオーガは最低7体、最高ならば15体と、適当にルームを回っても気軽にノルマをこなせるデザインとなっている。ノルマを完了した時点で、そのルームに脱出用の通路が発生するので帰る手間もかからない。

 実に気軽に行動できるクエスト……の一つである。


「寄りによって、なんでこのクエストを選ぶかなーー! 馬鹿兄貴ぃぃーー!!」


 ウスネの絶叫が迷宮通路に響く。


「いやあ、俺なりの“現状確認”ってやつでなあ」


「聞けぇぇーー! 最重要案件だから聞けえぇーーー!!」


 “にゃー”言葉の余裕すらないウスネである。マヤヤは既に精神的離脱を果たし、“戦闘”の邪魔にならないよう、通路の端に転がされていた。


 スカベンジオーガの迷宮通路にオーガは登場しない。

 が、“代わり”に登場するモンスターは、存在する。

 ほとんどの通路の様相は通常の迷宮と変わらないのだが、ルームへ近づくと通路内に変わったオブジェクトが追加され始めるのだ。そのオブジェクトは意味不明の歪んだ箱であったり、悪臭を発する頭陀袋であったり、露骨にブリキ製のゴミ箱であったりと、要は『廃棄物』が点在しているのである。


 そしてその廃棄物は、ランダムで“モンスター化”するのである。


 体長およそ1.2メートル。床スレスレの扁平な、黒っぽい楕円形の形をし、トゲだらけの6本の節足で素早く移動する。狭い通路内を高速移動しても問題無いのは、頭部から伸びた体長より長い二本の触角のおかげだろう。発生器官は無いようだが、高速移動で駆け回る時の異音、『カサカサカサカサ……』が凄まじく怖気を誘発してくる。


 つまり……。


 とっても巨大な……。


 『G』のイニシャルの“アレ”が出るのだ。

 もう、ゴミのオブジェクトが全部という感じで。

 この迷宮限定、スカベンジオーガと共生関係にある、日本人には永遠の天敵となる“アレ”をモデルに巨大させたやつであった。


「新鮮でゴザルなあ! 臼ネコの“ツンギレ”モードは!!」


「HAっHAっHAっ、俺は泣く美少女を鑑賞して楽しむシュミは無イッ! 元凶は後腐れ無く“消してやる”ゼ!!」


 ゴミより変じてゴキと化すモンスター、その名も『ハングローチ』。一体が正体を表すと、周囲からもガサガサと、ほぼ同時に数体が湧いてくる。

 が、その数に合わせてカッツェの魔法『炎の牙』が飛来して命中、物理ダメージはろくに与えないものの、火があっという間に全身を包み、ハングローチ等がもがく松明となって絶命していく。

 ハングローチは炎系統の攻撃に致命的に弱いのである。


「ぎゃああーあっ! 弾けるっ、汁が飛ぶ! やだもうっ、生臭い青臭い栗臭いいいいーーー!!」


 しかし哀れ、カッツェの活躍は不評のようである。


「バカガエルー!、もうこのポンチョ着れないぃーーー!! あれかっ、状況を利用して幼気(いたいけ)な少女が自ら服を脱ぐよう剥いでいく、運命操作ラッキースケベ道、究極の奥義ってやつかーーー!?」


「どこの異世界の神業流派ダーーー!!」


 キレつつも突っ込みどころ満載のボケを放出するウスネは、実はまだ余裕があるのかしれない。

 ともあれ、ハングローチの弱点属性をつけるカッツェの独壇場により、パーティーメンバーが一人少ない状況でも戦闘は難なくあしらえ、最初のルームへと到着。

 一辺が十メートルほどの正方形でデザインされたルームの“中心”。ルームを半分埋め尽くすような、ガラクタとゴミで造られた山の頂にふんぞり返るスカベンジオーガを、遠距離からテンマルがボウガンのヘッドショットで難なく始末し、第一のキャンプにできる場所を確保できた。


 主を失った異様な“汚山”の端っこには、番号が『①』から『⑤』まで記されたウィンドウが立ち上がっており、ランダムで決められた順番を正しく選択して押す毎に『オプション報酬』が追加される。


「さて、どの順番にするか?」


「“ゴキ”だから最初は“⑤”というオカルトがあるゼ」


「“オーガ”だから“0”(ゼロ)、なので続く“①”からというオカルトもあるでゴザル」


「何でもいいにゃー、最低一個は出るんだしぃ」


 五連続正解どころか、一回目から外しても最低一つは報酬が現れる。もっとも、一つ目を当てるのが無駄でないよう、最低価格のゴミと大差ない物となるのだが。


「テンマルにスカウト専用スキルが充実してりゃヒントくらい表示するんだがな」


「拙者、シノビでゴザルから!」


 盗賊的なスキルが地味に多いスカウトなのだが、テンマルは敢えて一撃必殺を高めるスキルばかりを選択しているのである。


 結局、イワオが適当に『③→①→⑤→②→④』と選択していく。そしてまさかの全問正解だった。


「初っぱなから報酬の総計二億G……って、今日は一体何なんだ?」


 思わず呆れるイワオであった。他の面子は、ウスネも含めて絶句状態である。因みに、マヤヤはまだ復活していない。


 オプション報酬を確定させた事で汚山のオブジェクトは消滅。ガランとした殺風景な部屋へと変わるが、最初の惨状を知る者には天国のような空間に思えるから不思議である。

 そして、一度解放したルームは迷宮をクリアか放棄しない限りこのままである。ボス部屋改め、プレイヤーが安心できる拠点と化すのであった。


「さて、一段落だな。ついでに話しとく事を思い出した。まあ、マヤヤを無理に起こしてのもんでもないから、今のうちにちゃっちゃと言っとこう」


 適当に寛げるよう、“腰掛けイス”をストレージから展開したイワオが言う。他の面子も“クッション座布団”やら“バランスボール”やら“一畳タタミ”やらを取り出して座っていく。

 マヤヤはテンマルが出した登山用寝袋を敷きマット代わりにして寝かせてある。


 そしてイワオが、図らずもスタッフと直に話すことになった“過剰報酬”の現象を伝える。一回の迷宮だけならばラッキーと笑えるが、二回目の迷宮で、しかも最初から桁外れの金額がとなると、確証は無くとも不安が生まれる。

 その原因にサービス側も知らないものが含まれるとなると、プレイヤーとしては危険を連想するなという方が無理である。

 売却アイテムを担当したテンマルからも同じような話しが語られ、最近ログインが散発的になっていた社会人組が、現役である学生組へとゲームの風潮の変化を確認する流れとなっていた。


「ワタシの周りでお金でハシャぐ子は……、いないにゃねえ。むしろ万年貧乏を嘆く子ばっかり?」


「俺の周囲も似たような、だナア。好い装備って金額がテンモンガクテキってやつだシ。毎日ヒィヒィ言ってル」


 カッツェは現在、都心の某大学に通う二年生である。フォートは『唐揚げ定食』に所属したままだが、活動の主体は高性能武具の素材を収集して武装を充実させ、ただしそれでより難易度の高い迷宮攻略に燃えるでなし、レア装備に囲まれて“ウフフエヘヘ”するのが至高という変態集団フォートの外部メンバーとなっている。

 正に『類友』と言えよう。


 ウスネはログインを続けてはいるが、飢えるようにプレイしていたのは小学生時代まで、イワオが社会人になると同時に多少は冷めて、現在は仲のよい女子プレイヤー同士で“謎トーク”に盛る場所として使っているくらいであった。

 流れで迷宮に潜ることもあったが、そう収入に変化があったような印象も無い。


 社会人組のイワオとテンマルも、聞いた内容が自分達の時代と余り変わらないと納得できた。なので少ない情報ではあれ、この異常は今日に限ってのことと判断できた。


「ま、もしかしたら今この時、俺達はサービス側にモニターされてるかもしれん。下手な介入には現実で闘える“武器”を既にキープしてあるが、弱みとなるような行動は少しセーブしてくって事でな」


「ハイッ、せんせー!」


「はい、バカ猫」


「これからのマヤヤ調教(メインイベント)は?」


「その不穏な発言から先ず何とかしろ」


「……滋養治士関連は、今更でゴザルな。とうの昔に山ほど動画が配信済みであるし、未だに消される気配も無いでゴザル」


「やっぱり、仮想現実だかラ?」


「もっと深い、大人の事情も有るでゴザルな」


 社会人らしい一面を見せるシノビフェチである。


 そして、約五分後。マヤヤが気絶から回復し、ウスネ待望の時間がやってくる事となる。

 各自、自分のレベルやステータスを確認してみれば、マヤヤが既にレベル20に到達していたのである。ただ、気絶していただけなのであるが。


「な……なんか複雑な心境なんです」


「まあ、ゴキで成長ってのもナア」


 発言と共に高々と天を目指して跳ね上がるカッツェ。一瞬でカッツェの足下に移動し、全身のバネを効かせたアッパーカットをやたらヒットする範囲の大きいカエル顔のアゴに決めたウスネの所業である。『ニャッパーカット』、トリオン・オブ・ラビリンスの世界に轟く(パンチ)の種族、キャルニーが有する種族固有の必殺技である。

 ぶっちゃけ、どこがひ弱な魔法ジョブ? と突っ込みたくなる。


「フザケてないでマヤヤにちゃんと指導してやれよ、先達」


「む……、ま、しょうがにゃい。じゃ、マヤヤ。ウィンドウ立ち上げて、スキル一覧を確認」


「あ、はあい」


 まだ少々ぎこちないテンポで展開されるマヤヤのウィンドウ。誤動作の危険防止と、仲間内だけということで、プライバシー無視の『全プレイヤー可視モード』で展開させている。


「そ、ステータスのツリーから選択。でスキルからさらにツリー展開すると『アクティブ』『パッシブ』『オプション』が出たから、その『オプション』を展開してにゃ」


「うん」


 ウスネに誘導され、ウィンドウ内をフリック操作で切り替えていくマヤヤは、ようやく目的のスキルを表示する事ができた。


「『滋養契約』?」


「そ、滋養治士専用の魔法カスタマイズのオプションね。どのジョブでも似たようなカスタマイズはあるにゃ」


「要は元々使える魔法や必殺技やスキルに個人個人でアレンジを付けられるようになるってわけだ。守護騎士(オレ)の場合なら通常の防御に加えて、パーティーメンバーの魔法ジョブに対しては更に二倍のダメージカットが発動、とかな」


魔法剣士(オレ)なら、特定の属性魔法だけを更に強化、とかナ」


「なるほどぉ……。だから、“調教”?」


「マヤヤを“唐揚げ”風味に染めてあげる、にゃーよ」


「やけに美味そうでゴザル」


 そして『滋養契約』の内容を確認するマヤヤ。

 特定の対象や個人に対して、魔法効果を1.5倍高めると記されていた。効果とは別に、相手が妙に抽象的なのでウスネに聞くと、対象ならば『フォート』や『パーティー』、個人はプレイヤー自体を指すと教えられる。初期の上限人数は99人。レベルが10上がる毎に倍数されていく。もちろん、登録後に削除する事もできる。

 スキルの能力効果はレベルが1上がる毎に微増していき、それが、滋養治士を、正確に言えば“女子プレイヤーの”滋養治士が、野郎プレイヤーに喜ばれる所以となっている。


「さて、じゃワタシでお手本にゃー♪」


 ウスネはマヤヤ同様にウィンドウを展開し、プレイヤー登録を選択。イワオの前に自然体で立つ。後は登録者であるイワオの行動だ。巨人とも言える大型サイズのイワオは右手の装備を解除、素手の掌でウスネの胸部、両の乳房をまとめて鷲摑んだのである。

 同時に回復エフェクト特有のピンクの光が放たれ、アニメティックな効果音も発生する。その効果音によって「あひゃ♡」と小さな声が漏れたが、漏らした当人以外でそれを聞けたのはイワオのみである。


「要は、滋養治士から魔法を放つ時と逆の工程だな。登録者が滋養治士の“ここ”に触れる儀式がいるんだ」


「……そう、にゃ~。ワタシがしたのはイワオとの“更新”。レベルが変わると魔法効果は変わる。けど、その都度更新しないと、契約した時のままの低い効果で続くのにゃ」


「なぁ~るほどぉ」


 ウスネの頬が微妙に赤らんでいるのだが、そこに当然のように気づかないのがマヤヤである。


「では私も」


 更に平然と、ウィンドウを操作したマヤヤは隣に座っているテンマルを指定、後はテンマルに任せたと、ウスネに比べて“ドンっ”と自己主張する双丘を差し出す。

 ウスネやイワオほどマヤヤの情報を知らないテンマルは、その自然体に面食らいながらも“プレイヤー間で定番”の方法で儀式を受け継ぐ。


 要は両手で鷲摑み。真面目な表情を取り繕うとする社会人だが、残念ながら取り繕えていない。男の哀しい(サガ)である。


 滋養治士の魔法はスキンシップが基本。故に、マヤヤの妖しい新装備も着たままでなお素肌と素肌のお付き合いをさせやすいよう、ウスネが選んだ外道仕様であった。

 そして、テンマルの両手が前掛けと肌の隙間を目指そうか、というタイミングでである。


「あ、やりづらいですよね」


 無駄にテンマルの意図を組んだマヤヤは、パーカーやトップスをあっさり装備解除。見事なトップレス状態となってテンマルを迎えたのである。


 テンマルとカッツェは驚愕、イワオとウスネは反射的に頭を抱え、どうにも、ウスネが予想したものとは大分違う形での、マヤヤの調教(レッスン)はスタートしたのであった。


「あれ?」


 マヤヤを除く全員の、精神的石化が溶けた、約三分後に。



お昼時に失礼シマスw

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