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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第1話【ある滋養治士のお話】
1/69

彼女の濃い~ぃ1h①

 本日の迷宮:【オーガガ島】

 対象ランク:冒険者R3以下。ジョブレベル30以上。五人パーティー以上を推奨。

 討伐クエストクリア対象モンスター:オーガ20体(レッサー・ノーマル・グレートの区別無し)

 達成報酬:40,000.G。

 討伐クエストオプション:薬効素材収集(鬼の角・鬼の()・鬼の涙)。種別は問わず。1個毎にプラス1,000.Gを追加。


 【オーガガ島解説】

 モンモ地方キビガ浜より南方の沖にある直径600メートル程の火山島。魔物堕ちしたオーガ族の基地となっている。潮の満ち引きの影響で、満月の晩にはキビガ浜と地続きになる事から、近郊の都市国家『モタルサ』では定期的なオーガの襲撃が起きている。

 オーガ族の戦力を削ぐために、モタルサの冒険者ギルドではオーガガ島でオーガを退治するための依頼が絶えず出されている。





 そして、オーガガ島は地下。

 火山火口内にあるという、オーガガ集落へと続く地下迷宮(ラビリンス)、地下二階にて。





 縦横約5メートルの薄暗い通路、奥行きは明かりが届かないので分からない。

 壁や天井そして床は、大小様々なサイズの灰色の石材がレンガのように積み重ねられた造りで、大雑把で粗雑な印象が強い。それでいて、明かりの魔法を付与されている石の表面全体がボンヤリと発光しているとゆう、高度なのか稚拙なのかチグハグな造りのものである。

 しかも、明らかに石材より頑丈そうに見える鋼鉄の鎧が、オーガから繰り出される巨腕の先の巨大な手、その太い指先の鉤爪で紙のように斬り裂かれるのだ。しかしその鉤爪は、空振りしての壁へと流れた衝突に対しては“ガキン!”と硬質な音だけで跳ね返されるのだ。

 これらの理不尽な現象は、石材には現実離れした印象を異様に強く感る理由となるのである。


「しかたねーべ。それが“破壊不可能構築物”イモータル・オブジェクトってやつだし」


「こういうトコロが“ゲーム”ってやつだよなぁ」


 そんなボヤきから数合目。死して倒れたオーガの身体が土と成って崩れ、さらに灰と化して散れば、後にはドロップアイテムのオブジェクトが残る。

 それらのオブジェクトも光となって消え、獲得素材(アイテムデータ)として倒した者たちのストレージに転送される。


 その後は、ほんのわずかながらも平和で静寂な休憩の時間となる。


「それよりマヤヤちゃんさ、オーガが再生(リポップ)する前に治癒(ヒール)よろしく。多分、休憩での俺の自己再生が終了する前に次が“湧く”から」


「あっ……、ええっと、ハイ」


「うわっ、なんかスゲー初々しイッ!」


「うむっ、とても“臼ネコ”と同級とは思えんでゴザル!」


「ニャにおう!!」


「ぎゃあっ、こら、せっかくマヤヤちゃんが癒してくれようってんのに、ダメージ入れんなでゴザル!!」


 ついさっきまでこの場所では、オーガを相手に数十分に渡るかなり激しい戦闘が行われていた。

 『重装鎧』と呼ばれる、全身をぶ厚い金属装甲で覆った『守護騎士』(ガードナイト)とよばれるジョブが二人。頭部に二本の角を生やし、身の丈3メートルの巨人型の魔物、『オーガ』を相手に壁役となり、オーガの攻撃を背後へと通さぬよう防御をしていた。

 壁役二人の隙間からは、動きやすい革鎧をまとったジョブ、『遊撃戦士』(スカウト)がハンド・ボウガンでオーガの急所を狙い撃ち、同じ外見の装備でも別のジョブである『魔剣士』(クラウン)は炎魔法『炎の牙』(ファイアダーツ)を投げ撃つ。

 最後尾では、お揃いの若葉色で染められた薄布のポンチョを着た二人が、オーガと直接戦う四人へと強化の魔法を放っていた。そのジョブ名は『滋養治士』(バライド)といい、回復、味方強化、敵弱体と、魔法系では多様な行動がとれるのが特色のジョブである。魔法系ジョブとしてモンスターを直接攻撃する術だけは持たないものの、行動次第では仲間のサポート全体を一人で賄える有能な役回りジョブなのである。


 そうして、なかなかに構成バランスのいい6人パーティは特にトラブルも無く、強敵に類されるオーガを倒し続け、今は短い休憩をとっているのであった。


「ええっと、ウスネちゃん。ホントに治癒って“こうしないと”ダメなの?」


「そうそう、このゲームってジョブによって個性を出そうって拘り強くて、結構イロイロ細かい“決まり”があるんにゃよねー♪。ほら、イワオ。治癒するからコッチ向けって」


「えー、俺マヤヤちゃんに治癒してもらいて-よ」


「まだこれから一週間もあんだから、ガッツかないの!」


 二人の滋養治士はどちらも女性、いや少女である。

 片方はウスネというアバターネームで、種族は『キャルニー』という。猫と人間が融合したような姿の獣人である。獣人とは言うが、いわゆるネコ耳と尻尾以外は人間と大差ないとゆう、ゲームでは定番と言っていいキャラクターである。


 守護騎士のイワオは『クロディール』という種族で、クロコダイル、ワニの特徴をもつ獣人となる。特徴といっても、全身の肌が硬質の鱗で被われている程度で外見はそのまま人間である。ただし、イワオの趣味で種族メイクの最大身長2.5メートルに設定したため、やや人外の雰囲気であるのはご愛顧であろう。


 一方、ウスネは容姿はともかく、キャラメイクで特に体型をいじっていない。現実の本人同様151センチという、実年齢のわりに低い姿のおかげで、イワオとは1メートルの身長差を生むこととなっていた。


「ぐぬぬおぉっ」


「んにゅふっ、目ぇつむれ~♪」


 全身鎧は柔軟な動きに対応していない。イワオ的にかなり無理な力を込めて、プルプル震えつつ“ヤンキー座り”を成し遂げる。それでもウスネは背伸びをしてイワオと向かい合い、“チロリ”と硬くぶ厚いイワオの唇を“舐めあげた”。

 同時に、イワオの全身を柔らかい桃色の発光エフェクトが包み、オーガから負わされた傷が身体と装備の区別無く、瞬間的に癒していった。


 これが滋養治士特有の治癒魔法、『博愛の口づけ』である。

 戦闘時には使用不可能だが、非戦闘時には死亡状態でなければ完全状態まで一瞬で回復できる。しかも使用MPはわずか10MP。使いようによってはゲームバランスが崩壊しかねない、しかしその発動行為のために修正要望がいっさいでない下心に支えられた特殊魔法である。


「じゃ、オレにもお願いできるかな?」


「はう、あわわぁ~」


 もう一人の守護騎士、トキヤがマヤヤへ言葉をかける。

 トキヤは『プレナ』という種族で、これは現実の人間と変わらない種族を指す。基本的な人間をモデルにしているからか、人種として白人と黒人、そしてアジア人の三種がさらに選択でき、トキヤはライトブラウンの体毛で白人を選択していた。身長は壁役ジョブのために2メートルの長身を選択していたが、イワオに比べれば問題無いサイズである。


 そしてマヤヤは、トキヤと同じプレナを選択し、その中からアジア人をモデルにしていた。より具体的に言えば、ほとんど現実の自分と変わらないデザインのモデルを使っていた。これはマヤヤが、このてのゲームの経験が皆無であり、あまり現実とは違うアバターを使うのは危ないという保護者の判断からとなる。

 それでも、体毛を青の透明色にしているせいか、あまり本人を連想させる雰囲気は無い。

 現実では同じクラブの仲間でもあるトキヤが、自然とそう思えるのだから確証は高い。


 イワオとウスネを真似するように、トキヤとマヤヤは触れ合うほどに近く向かい合う。トキヤにはマヤヤが真っ赤になって自分の唇を凝視しているのが丸分かりで、それに素直に反応しないよう、アバターの表情を引き締めるのに苦労していた。

 マヤヤはマヤヤで、仮想の姿とはいえ同世代の男性に自分からキスをしなければならない状況に混乱していた。年相応にその方面の知識はあるし興味もある。同時に未知の行為への不安があるし、仮想とはいえリアルな感触があるVRゲームては、簡単に嘘の行為と割り切った心情には繋がらない。


 既に戦闘も何度かこなしてはいたが、マヤヤにその踏ん切りがつかないために、ここまでの回復はウスネ一人で担当していたのである。


 しばらく、見つめ合う状態で二人は固まった。


「……そろそろオーガ湧いちゃうよ。次でトキヤ死んじゃうかも~♪」


「ややや!? ダメそれ!!」


 ウスネの言葉にマヤヤが慌て、他のメンバーがケラケラと笑う。トキヤも笑いつつ、体当たりのように顔を近づけてきたマヤヤを手で制した。


「この魔法の発動条件は、“術者の唇と対象者の素肌の接触”だよ。だから今は、最初は“ここ”でw」


「え?」


 マヤヤの目の前にかざされたトキヤの(てのひら)。ガントレット付の指出し手袋を装備しているその掌は、五指はもちろん平の部分も少しは素肌を晒していた。


 相手と唇どうしのキスしなければならないと錯覚させたウスネをマヤヤが涙混じりで睨みつける。


「うっ、ワタシ、ウソは言ってにゃいよ! て言うか、トキヤの裏切り者ぉ! ユートウセイ!!」


「うん、確かにウスネもウソを言ってない」


「そ、そうなの、ヤっくん? じゃなくて、トキヤくん」


「この魔法は対象者の“心臓”に近い方が発動する効果が早い。だから手足とかよりは顔の方が好まれるんだ。あと、ほとんどのジョブは装備の都合で素肌が出てるのが顔くらいってのもあるしね」


「あう……、そうなんだぁ。睨んでゴメンねウスネちゃん」


「え、イイノイイノ。て言うか、マヤヤ素直すぎ……」


「てことで、次はちゃんと“シテもらう”から。でも今は“こっち”で」


 再びトキヤの差し出した掌。マヤヤが背伸びしなくとも、むしろ逆に屈まなければという位置で出された掌。

 その掌に口づけようとお辞儀する……いや、まるで手に乗せたエサを啄む(ついばむ)従順なペットのようなマヤヤの仕草に、トキヤが内心、倒錯的なものを感じてしまったのは、誰にも言えない秘密である。


「「ぶー! ズリーでゴザル! ズリーズリー!!」」


 可愛らしい少女たちからのスキンシップからアブレた、無傷のアタッカージョブ組二人がボヤく。再びオーガがリポップしたのは、トキヤが回復の光に包まれてからわずか10秒後。フォーメーションの準備もできず、慌ただしい乱戦で、五分後、早くもマヤヤは二度目の回復の試練を迎える。


 この後、マヤヤは合計で42回、もれなく悦ぶ野郎メンバーへの回復をする事となるが、残念ながら野郎共の期待虚しく、オデコに“ペロチュウ”が精一杯、という結果で終わるのであった。



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