6.世界の中心でアレを叫ぶ
狙った魚とは違ったが、生まれて初めてモリでとった魚である。
急いで海面に上がり、はしゃぎながら言った。
「ナギサちゃん!見て見てコレ! と、獲ったどおおお!!」
「どこ狙ってんのよ!ちょっとそのモリかしてみ」
豪快に俺の獲った赤い魚をもぎ取り、はいっと、その赤い魚を手渡され、モリを片手に慣れた素振りで潜って行った。
手渡された魚の感触が気持ち悪い。
ものの20秒程で、大きな青い魚が海面から上がってきた。
じゃっぱんっと、顔を出したナギサはとびっきりの笑顔で言った。
「まっ、私にかかればこんなもんよ、ふふん」
「すっ、すっげぇぇぇぇええええ!!」
それから2人はビーチに戻り、携帯用の折りたたみのバケツに赤と青の魚2匹を入れ、俺はリベンジを誓い、モリを持って狩りに出た。
ナギサちゃんは、必死でモリを放つ俺の周りで、優雅にシュノーケルを楽しんでいた。
どうやら最初の突きはまぐれだったようだ……
魚は無数にいて、突き放題なのだが、まったく当たらない。
まるで、モリが磁石のS極なら、魚がN極のように当たる直前でクインと動き、刺さらないのだ。
「ごめん!ぜんぜん獲れなかった」
「いいじゃない!初めてで1匹獲れるなんてすごいよ、タケル。ビーチで休憩しましょ」
日も暮れ出し、太陽は、真っ赤に輝く夕日に変わっていった。
ビーチに戻った2人は、しばらく無言で夕日を眺めていた。
ふとナギサが切ない顔で言った。
「こんな日が、永遠に続けばいいのにね……」
妙に意味深な発言だ。
「続かないの…かな?」
「う~ん、どうなんだろうね。前にもこんな風に遊んでた人達も結局はみんな帰って行っちゃったし。仕事とか、お金とか、恋とか、家族とか… なんかいろいろあるのよ、みんな!」
仕事・お金… 確かにその通りだ。
現実を考えると、俺は少しナーバスな気持ちになった。
そんな雰囲気を崩すかのように、明るい表情でナギサは言った。
「さっ、帰ってカズさんに今日の収穫を見せるわよ!宴会だぞ今日はー。ハッピーゲストハウスはいつでも泡盛飲み放題よ!」
泡盛飲み放題… ぐっさんに引きずられ船に乗る断片的な記憶がフラッシュバックする…