3.流れるままに
そのこじんまりとした海を眺めながらこれからのことを考えていた。
ビーチでは、子供達がサッカーをやってたり、ホームレス風のおじいちゃん達が海を眺めていたりしている。
(あのテレビでやってた海はどこなんだろうか…ゲストハウスの人に聞いてみよう)
夕日も沈みかけ、さらに渋滞のひどくなった車の脇を抜けながら、早々にタコ部屋に戻ることにした。
ゲストハウスに戻ると、もう仕事が終わりなのか受付のおっさんや、4~5人の客であろう若者たちが泡盛を飲んでいた。
雰囲気は、まさに強制労働施設のようだった。見た事無いけど。
受付のおっさんが、泡盛片手に言った。
「ああ、お帰り。泡盛飲む?」
「たたいまです…、泡盛ですか… いただいていいですか?」
おっさんは【残波】と書かれた一升瓶に入った泡盛をグラスに注いでくれた。
初めて飲む泡盛は、芋焼酎のような味がして意外と飲みやすく美味しい。
会費ということで、500円取られたが「飲めるだけ飲んでいいよ」とのことで遠慮なくおかわりした。
その場にいる若者や、おっさん達と簡単な自己紹介を終え、沖縄についての話をいろいろと聞いていた。
与那国島でサトウキビの収穫のバイトをした…とか、石垣島でマンタを見た…とか、波照間島でキャンプしてきた…とか、多良間島でヤギを食べた…とか。
話にはまったく付いていけなかったが、みんな沖縄に詳しく、話を聞いてると離島の話がほとんどだった。
その中でも一番詳しそうな、沖縄の離島は全部回ったという中年のおじさんに聞いてみた。
「あの…、めっちゃキレイな海とか広大なサトウキビ畑とに憧れて来たんですど、どこに行けば見れるんですか?さっき波の上ビーチってとこ行ったんですけど、ラブホ街の中にあって…」
「波の上ビーチ?はは、あんなん見たら幻滅したやろ?キレイな海見たいんやったら離島に行かな。旅行やったら石垣島がええで。西表島とか鳩間島巡りにちょうどええ」
「やっぱ離島なんですね…。あの俺沖縄に移住したいと思って来てて…」
「ははーん、なるほどなぁ。住むんやったら宮古島がええやろなぁ。うん、あそこはええ島やで~。ちょうど明日宮古島行きの船がでるんや。5000円で行けるで」
「宮古島!聞いたことあります!ああ、宮古島かぁ、いいな~。明日船でいけるのかぁ~」
「ワイも明日宮古島に行くんやけど、君も行くんやったら一緒に連れってやろか?」
「…はい!行きます!連れってください!」
40歳くらいだろうか、中年のおじさんはとても良い人で、すぐに仲良くなった。みんなに、ぐっさんと呼ばれていたので、俺もぐっさんと呼んでいた。
宮古島…、そうだ、美しい海、サトウキビ畑、やさしい人たちに、ビキニギャルは、きっと宮古島にあるんだ。さっきまでのどんよりした気持ちは晴れ晴れし、ここに来る前のようなウキウキした気分が蘇ってきた。
泡盛もおいしくすでに10杯は飲んだだろうか、酔いもだいぶ回ってきていた。
(強制労働施設のようなこのタコ部屋も悪くないな…)
いや、むしろこういうとこだから、人と人の繋がりができて楽しいのかもしれない。
いろんな話題で、場は盛り上がり、楽しい一時を過ごしていた。
もう何杯飲んだのかも分からないくらい飲みまくっていた……
………… タケル君! 時間やで起きぃ… はよ行くで……… 大丈夫かいな……
……… そや、5000円や …… もうしっかり歩きやぁ……
気づけば船の中の、広い部屋の片隅にいた。
あれ……、記憶が断片的に…。ぐっさんは隣でビールを飲んでいる。
「あぁ、おはようさん。やっと起きたかぁ、ここまで連れて来るの大変やったで。約束したのに、置いていけへんし。君フラフラで意識ももうろうとしてて、ほんま3回くらいその辺に捨てて行こうかと思ったわ。まぁ、ええ、あと1時間くらいで宮古島や」
宮古島……、あぁ、そうだ!宮古島だ。
話を聞くと、昨日夜中の2時くらいまで飲んで、その場で倒れるように寝て、早朝5時出港の船に乗ってきたそうだ。
ぐっさん、迷惑掛けてごめんよ、でも捨てずに連れてきてくれてありがとう!
船の甲板にでると、遠くにうっすら島が見えた。
太陽はサンサンと降り注ぎ、島の周りには美しいエメラルドグリーンの海が広がっている。
「あぁ、来たなぁ… コレだよコレ!…待ってろよ、ビキニギャル。今から行くからな!」
偶然の出会いから流され、宮古島にたどり着こうとしていた…