武蔵のつぶやき
気がついたら異世界に飛ばされた、という最近薫に借りた小説のシチュエーションそのままの状況に陥ってしまった俺こと天童武蔵。
自分一人ではなく気のおけない友人たち共々飛ばされたのは不幸中の幸いだったけど、よりにもよって・・・・・・俺の姿はオークになってしまったらしかった。
オークというと、細かいことを言えば作品ごとに姿かたちに違いがあるらしいけど、少なくとも俺たち四人が『オーク』と聞いて頭に浮かぶのは豚、ないし猪頭の魔物だ。
「なにぃ、俺、豚頭になっちまったのか!?」
「いや、猪だから。豚じゃない・・・・・・一応。」
豚頭になった自分を想像して驚きとか嘆きとかで悲鳴をあげる俺にエルフらしき姿になった霧雨啓がフォローをしてくれる。
とりあえず豚頭は回避できたらしい。
豚よりはマシ。豚よりはマシ。
必死に自分に言い聞かせる。
豚よりは迫力のある顔つきをしていて、豚よばわりは避けられそうなのだけはマシなのかもしれない。
とか思っていたのだが・・・・・・
「あえて言おう、イベリコであると。」
こともあろうに薫が俺をイベリコ(豚)呼ばわりしやがった。
そして俺は反射的に、直径一メートルほどの寒天のようなスライムになってしまったその体をおもいっきり蹴り飛ばしてしまった。
本来であればさほど気にするようなことではなかっただろう。
誰かが誰かをいじり、軽く小突き返す。
気心知れた俺たちの間ではよくある光景だから。
しかし、今回ばかりは状況が違った。
たしかに普段に比べればかなり強く蹴り込んだのは間違いない。だけど、目の前で起きている光景には思わず顔をひきつらせた。
体の半分を飛び散らせながら吹っ飛んでいく薫。
飛び散った体は地面にぶつかるとさらに細かく飛び散って周囲の草に水滴が散った程度のわずかな痕跡しか残さず、残りの半分は弾力のあるゼリー状の体であるにも関わらず、ドチャと嫌な音をたてて一度も弾まず地面に落ちた。
(やべえ、やり過ぎた!)
今のあいつは最弱モンスターの代名詞スライムだ。
下手したら子供でも倒せるレベルのモンスターだ。
それが曲がりなりにも武術の心得のある俺の蹴りをくらってはたして無事かどうか。
「か、薫?」
動きを見せない薫に一抹の不安を抱えながら呼び掛けた。
俺の声は震えていた。
「いった・・・・・・くはねぇけど、なんかごっそり持っていかれた気分だな。殺人・・・・・・いや、殺スライムツッコミとかマジ勘弁してくれよ。」
しばらくして起き上がるとそんな風に返してきた薫にようやく安心することができた。
正直、自分で思っていた以上の威力を発揮してしまったことに驚いていた。
相手が最弱モンスターの代名詞とも言えるスライムだったから強く感じたんだろうと考えたけど、体自体も元々の体よりも強いパワーが体を巡っているような気もする。
(これがオークの身体スペックなのか?)
もしもこんなモンスターがうようよいるような世界だとしたら、ヤバいんじゃないのか?
自らの攻撃で仲間の命を危険にさらしてしまったが故に、武蔵は右も左もわからないこの世界での先行きに大きな不安を感じた。
場景描写とか心理描写とかまだまだ甘いですね(。>д<)