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クローン  作者: 久乃☆
9/14

9、ふえ~る、ふえ~る

 どういうわけか、今私の部屋に私が四人いる。


 成り行きとは恐ろしいものだとつくづく思ってしまう。


 で、どうしてこうなったかと言うと、母親が三人のそっくりさんに話しかけた。



「帰って、また明日遊びましょうね」



 三人は一様に「帰る場所がない」という。高校生で帰る場所がないなんて、聞いただけで涙ものだ。


 だけど、はいそうですかと言うわけには行かない。


 そこで、いろいろと聞いてみた。


 聞いてみたけど、今ひとつ埒が明かない。


 そこで、母親の下した結論は『家出』の二文字だった。


 最近近所に越してきたのなら、環境になじめず、学校になじめずしてるうちに、親とも気持ちのすれ違いが起こって、家出してきたんじゃないか、というストーリー。


 で、まともに会話も成立しないところを見ると、この子達はちゃんとした教育をされてきていないのだ、という物語。


 きっと、そうに違いない、という決め付け。


 家の電話番号を聞いても、住所を聞いても、親の名前を聞いても、どれもこれも返答がない。どれもこれも、首をひねって私を見るのだ。


 まぁ、その目はさっきの無表情で冷たい目とは違って見えたけど。さすがに、顔が似てるというだけで、シェルターに我が家を選んだわけだから、そこは冷静に考えても友好関係を作っておいた方が得策だと思ったんだろうね。


 虐待、育児放棄、家出。


 この三つの調味料は、母親のドラマの大事なスパイスだったらしく。



「だったら、しばらくうちにいていいから。安心しなさい」



 って、わけの分からないことを言い出した。


 ちょっとまてー! 


 と叫びたかったけど、こうなったらだめなことは分かっているので、ため息混じりに諦めた。


 こうして、三人のそっくりさんは、今私の部屋にいる。


 狭いこの部屋に、私と私にそっくりな三人。合計、私が四人。


 狭い……。


 狭すぎる……。


 一人っ子という境遇のおかげで、一人で六畳一間を占領してるけど、そこに三人が増えたわけだから、狭いって。


 それでも



「起きて半畳、寝て一畳って言ってね。一畳あれば、大丈夫なんだよ」



 という母親。


 確かにね。布団は一畳あれば敷けますけどね。


 でも、急激な人口の増加をどう考える?


 さらに、彼女たちは少しずつ表情を柔らかくしてきたとはいえ、未だに硬い表情で、何を話すわけでもない。


 これが友達なら、ワイワイギャハギャハできて楽しいんだけど、そういうのりにはあわない人たちらしい。


 姉妹でありながら、お互い無言なのだから。


 とりあえず、今日のところは泊めることにして。問題は明日からだよ。どうするんだよ、学校とか、向こうの親とか!



「家出してきたんだから、学校も何もないんじゃない? 親もねぇ。連絡してあげたくても、電話番号もわからないんじゃねぇ。でも、そのうちわかるんじゃないかな。きっと言ったら連絡されちゃうと思って警戒してるんだと思うのよ。可哀相に」



 いーえ! 可哀相なのはわ・た・し!


 友達でもない三人とルーム・シェアってなんなわけよ!


 真面目に、参るわ~。


 

 

 あれから数日、いつの間にか母親と打ち解けてる三人は、一緒にご飯を食べたりしてる。


 ただ、お手伝いとかは何もせずに、一日中私の部屋でゲームしたり、マンガを読んだりしてるらしい。


 そんな彼女たちを、父親と母親は『まともな教育をしてもらってないから、他人の家に泊まっても手伝うことすら考えられないんだな。可哀相な子達だ』と……。


 うちの親は神か天使か!?


 人が良すぎでしょ!


 なんて考えてたある日、学校から帰ると、三人だったそっくりさんが増えてる。



「お母さん! 何で増えてるの!」


「そうなのよ~。お昼頃に、玄関のチャイムが鳴るから出てみたら、この子がいたの」

 


 さすがにおかしい。


 これって、変でしょ。


 三人だったそっくりさんが、四人になるって、一般的に考えてあり得ない。


 しかも四人目は、ちょっとは常識があるようで、最初からちゃんと挨拶ができてた。


 これって、もしかして恐怖の……。


 い・いや、考えたくない!


 だって、なんのため?


 何が目的で?


 一乃上家なら、あるだろうけど。私のような、極々平凡な一般人にあるはずないじゃない。


 だから、これは普通に考えて、きっと他人の空似。


 そう、四人目はさすがに他人の空似だと、私は私の頭に言い聞かせた。


 しかし、言い聞かせても、言い聞かせても、日がたつにつれて四人が五人になり、五人が六人になるという現実。


 しかも、増えれば増えるほど、常識を踏まえた良質な私が現れる。


 二十人に達した今、彼女はお手伝いをしまくり、私の教科書を読み漁り、どうしたことか、私よりも遥かに頭がいい。


 さらには、バイトまでしようかという勢いだ。


 そんな彼女を見て我が両親は



「いいわね~。これが俗に言う、クローンかしらね」


「これだけ増えてるんだから、クローンだろうなぁ」


「それにしても、増えれば増えるほど、良質なクローンができてくるって本当だったのね」


「そうだな。手伝いはするし、勉強もする、働くことも好きだときて、その上優しく言葉も丁寧だ。非の打ち所がないとはこのことだね」


「でも、クローンなのよね」



 そう言ってはため息をつきながら、彼女を見ているのだ。


 ちょっと止めてよ!


 それって、自分たちの育て方にも、問題があるとか思わないの?


 なんだか、徐々に私の身に危険が迫ってきているような気がしてきた。



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