7、もうひとりの私(2)
それからしばらくは、私にそっくりな女の子の話は聞かなかった。
忘れた頃に、公園での目撃情報をもらったりしたけど。相手も忙しいようで、なかなか会えなかった。
そんなに似てるんだもん、きっと相手も私に会いたいはずだ!
向こうだって、私をどこかで見ているという目撃情報を入手してるはずでしょ。
だから、会ったら、まずはケイバンとメアドとラインのIDを交換して、どんどん仲良しになって、同じ洋服をきて双子みたいになって……。
なんて、夢をどんどん膨らませていた。
膨らませた夢が大きくなりだした頃、クラスの女子の目撃情報が増えだした。
それも、始めは一週間に二回ほどの目撃情報だったのが、一日に一回は必ず目撃されるようになって、さらには一日に数回。それも同じ時間帯に、違う場所で目撃されてることが分かってきた。
こうなると、きっと相手は三つ子とか四つ子とかなんじゃないか。でも、そういうのって双子みたいに似てないって聞くけどなぁ。
やっぱり会いたい!
会って真相を確かめたい!
と、強く思うようになってきた。
そして、その願いは結構早期に叶った。
「幸菜! いたよ、いたいた!」
カンナが空っぽのコップを握り締めてブースに戻ってきた。その顔はすごいものを見たとばかりに、高揚して見えた。
私は、そろそろ読みつくしそうな勢いのマンガ本から顔を上げて、カンナの顔を見た。
「カンナ、ドリンクは?」
さっき、ドリンクのお替りに行ってくるとブースを出て行ったからだ。
「ドリンクどころじゃないよ! いたんだから!」
「何がいたのよ」
「聞いて驚け!」
最初に驚けとか言われても。じゃぁご期待に沿うべく、どんなリアクションをしてみようか……と、私の心はオオバーアクションの用意をした。
「あんたのそっくりさんに会ったんだよ! それも、三人!」
「へ?」
真面目に驚くと、なんとも間の抜けた驚き方になるもので、それしか言えなかった。
だって、三人も同時にって。やっぱり、三つ子とかだったのかな。
「とにかくおいでよ!」
「うん!」
読みかけの本をテーブルに伏せると、私はソファから立ち上がった。
導かれるままにドリンクコーナーへ行くと、そこには同じ洋服に身をまとった、私そっくりな三人がいた。
本当にそっくりで真面目にびっくりだ。
これって、ドッペルゲンガーとか?
違う違う。
だって、私は私でこの子たちはこの子たち。全く別の人間なんだから。
え? でも、なんかここまで似てると、怖いんですけど。
というこっちの驚きなんて全く関係ないって感じで、彼女たちは私をじっと見つめてる。それも、どちらかと言うと無感情。
「こ・こんにちは」
私は、何度も夢の中で交わした言葉を投げかけてみた。でも、なぜか彼女たちは無言。その目は確かに私を見てるのに、無表情だったりする。
「私たちよく似てるね」
それでも頑張って話しかけたけど、やっぱり無視。
なに?
お高くとまっちゃってるわけ?
似てるだけなんだから、話しかけないでよって感じ?
話しかければ掛けるほど、バカらしくなってきて、とうとう話そうとか、友達になろうなんて意欲が全くなくなっちゃった。
もういい!
そんな気持ちがふつふつと湧き出して、私は唇を強く結び、その場に背を向けた。
今まで、あれほど夢を膨らませてきたというのに、一体なんだったんだ。
どんなにあの子たちに会いたいと切望してきたか、それを思うとアホらしくなって来た。
私はブースに戻ると伏せてあったマンガを手にした。
私の後から入ってきたカンナが、『ね、似てたでしょ』と言ってきた。
似てたけど、私はあんなにブスじゃないし、あんなに協調性に欠けてもいない。どちらかといえば、誰とでも友達になれるほうだ。
そうか! きっと、姉妹が多いから、他人と友達にならなくても寂しくないから、それで他人と話をしようと思わないんだ。
でも、私は違う。一人っ子だからこそ、たくさんの友達に囲まれて、寂しさを吹き飛ばしたい。
ということで、全く似てない!
と言う結論に達した。
「そりゃぁ、全くの同じ人格の人なんていないよ。見た目が似てるってことじゃん。きっと、シャイなんじゃないのかなぁ」
シャイって、あんなに無表情なものか?
あれは、話しかけるほどに『うるシャイ!』って言われてるようで、嫌だったぞ。
「うるシャイって、あんたね~。オヤジかよ」
オヤジと一緒にされるのも不本意だ。この若さで。
「若さとかの問題じゃないけどね」
とにかく、もう彼女たちのことは忘れることにした。
どんなに目撃情報があったとしても、それが最近になって目撃されるようになったとしても、『きっと彼女たちは最近この土地に引越しでもしてきたのだろう』と自分なりに解決してしまった。
だって、それ以外に考えられないじゃない。