6、もうひとりの私(1)
一乃上勝利が落ち込んだように勉学に励んでから、早くも一ヶ月。
私的には何事もなく過ぎてきた。
今までと同じように、楽しくも輝かしい高校生ライフを楽しんでいる……はず。
「今日も元気に道草~」
いつも通り、学校が終わると『ぬくぬく』へと直行だ。それならいっそ、バイトしてしまえばよいものだけど、残念ながらそんな気は毛頭ない。
「この間の新刊、全部読破したよ~」
この間と言っても、一ヶ月以上も前に入った新刊マンガなのだから、もはや新刊ともいえないのだけど。
突っ込んだところで、カンナは『私が読み終わってないから新刊なんだよ』という回答がくるだけなので、放置!
だから
「そりゃぁ、良かったね~。じゃ、今月入った新刊にトライだね」
「そうそう、毎月楽しみが長く続いていいのよね~」
なるほど、私のようにさっさと読んでしまうと、あっという間に終わるので、『ぬくぬく』へ行くこともないわけだ。
「そう言えばさ~」
カンナが急に話を変えてきた。こんなことは日常なので、大して何も感じない。まぁ、これが女子高生の醍醐味だよね。
「なに?」
「この間、幸菜のそっくりさんに会ったよ」
「へぇ」
私はマンガ本を膝の上に置き、カンナへと顔を向けた。
カンナはマンガ本をめくりながら、『そうそう』と頷いている。
「そうそう、じゃなくてさぁ。なによそれ」
「え? 普通にそっくりさんだよ。でも、本当によく似てるの、マジびっくりしたよ。思わず声を掛けようかと思ったけど、他人の空似って言うの? 間違ってたら、なんかバツが悪いじゃん。だから、近くによってそ知らぬふりをした」
と言って、また黙る。
そこまで言われたら気になるじゃない!
「で?」
「うん?」
『うん?』じゃないよね。昨今クローンなるものがあるのだから、それが私のクローンでない保証がどこにある!
だから、気になるのに、どうして分からないんだよ!
「クローン? ……ぷっ」
クローンと聞いて吹き出すカンナ。なんだよ!
「だって、考えてもみてよ。どうして幸菜のクローンを作らないとならない? 幸菜のクローンを作って、何のメリットがある? ありえないでしょ」
そりゃそうだけど。
じゃぁ、カンナは近くによってそ知らぬふりをしてどうしたのよ。
「だ~か~ら~、『もしや幸菜さんですか?』なんて聞けないじゃない。それに、もしも本当に幸菜だったら、私がそばにいれば声を掛けてくるはずでしょ」
そりゃそうだ。
その状況下で声を掛けなかったら、マジシカトした罪によって、永遠に葬られてしまう。
でも、『だ~か~ら~』はやめろ!
「だから、そうしてみたの。で、結局彼女は私を全く分からなかったわけよ。ということでえ、そっくりさん決定」
なるほどね。
よかったよ、クローンじゃなくて。
「世界には三人はそっくりさんがいるっていうけど、こんなに近くにそっくりさんがいたなんてね。ある意味、幸菜ラッキーじゃん」
一体何がラッキーなのだろう。
でも、そんなにそっくりなら会って見たいものだ。きっと、私によく似た美人なのだろう。
「しょってるね~。美人だなんて。そんな事言ってると、世界を敵にまわすよ」
なぜだ!
「なぜだって、深く考えない方がいいかもね」
しばし沈黙し、あははと笑って流してやった。
ありがたく思え!
「でさ、その人どんな人だった?」
「どんな? どんなとは?」
さすがにカンナもマンガ本から顔を上げた。と言っても本に目を向けていただけで、一向にページは進んでなかったけど。
だったら、さっさとこっち向けよなー!
「……えっと。髪型とか、服装の趣味とか。身長とか……声とか」
「声は聞いてない。髪型は同じ、服装……まぁ、幸菜と同じような感じかな。普通にワンピだった。身長も同じくらいだったよ」
「へ? 本当に似てるんだね」
「だから、間違えたんじゃない」
なるほどね~。
やっぱり会ってみたい。
服装も私と似たような感じなんだぁ。もしかしたら、友達になれるかもしれないじゃな!
「どこで会ったの?」
「どこって……」
カンナは考えるように、空に目を向けた。
「この辺のどこか」
「潔すぎるほどにアバウトだね~」
「潔さが売りですから」
「誰も買わないと思うけどね」
「大丈夫、買ってくれる人が必ず現れるから」
しばしカンナの潔さで盛り上がったけど、結局それ以上の情報は入手できなかった。
でも近くに住んでるんなら、きっといつか会えるよね。