4、そんなこと言ってもね~
さて、楽しい学校も終了の時間。
今日はどこで道草食って帰ろうか、なんて話をしながら校門を出た。
部活?
する分けないよね~。面倒だもん。
花の女子高生活なんて、三年間しかないんだから、エンジョイしないとね。
ということで、部活に時間を取られるなんて、ナイナイ。
私の意見に賛成なのがカンナだ。
彼女は兄弟がたくさんいるから、部活なんてやってる暇はないらしい。サッサと帰って兄弟の面倒を見なくてはならないのだとか……。
そう言いながら、なぜか毎日私と一緒にぶらぶらしてるんだけどね。
「駅前の『ぬくぬく』に行かない?」
『ぬくぬく』とは最近できたばかりのネットカフェだ。何で『ぬくぬく』なんて名前にしたのかは分からない。たぶん、私たちのような人間が、ぬくぬくダラダラとしていられるようにてことかな。
とりあえず今のところ私たちのご用達店なのだ。
「いいよ~。あそこなら安いし、ドリンク飲み放題だしね」
「この間行った時にチェックしたんだけど、新しいマンガが入ってたよ」
「へぇ~。また、新刊入れたんだ?」
「あそこでバイトしたら楽しそうだよね。マンガ読み放題じゃん」
「そうだね~。お金もらって、ただで読めるんだから、超ラッキー!」
そんなに世の中甘くないって言葉が聞こえてきそうだけど、そんな言葉は私の耳には聞こえない。だって、聞きたくないんだもん。
というより、働きたくない。
高校を卒業したら、否応なく働くしかないんだからさ、今はのんびり高校生しなくちゃね。
「そう言えば、幸菜は高校卒業したら大学?」
「冗談でしょ。勉強するくらいなら、社会を目指すよ」
「だよね~」
「カンナは?」
「私は兄弟たくさんだからね。大学なんて、始めから考えてないよ~」
「なるほどね~。お互い大変だね~」
ということで、駅前までギャハギャハ笑いながら、テクテクと歩を進めた。
そんな高校生は私たちばかりではないらしく、制服姿の男女が駅前にはウジャウジャいた。
そういう彼らを見ると、仲間意識が芽生えるから不思議だ。
ネットカフェ『ぬくぬく』は高校生らしき人種で、結構な人口密度だったけど、それでも待ち時間なしで入れた。
カンナの言うとおり、新刊が入っていたので、ドリンクとマンガ本をテーブルに置くと無言で読み出した。
カンナも同様で、まずは前回の続きを読破するのだと意気込んでいる。
私は活字だけの本と言うのは鳥肌がたつけど、マンガだと超スピードで読破するので、二時間で三冊は軽く読めちゃう。
一方カンナは、何をそんなに熟読しているのか、二時間で半分が限界だとか言う。
おかげで、『ぬくぬく』の常連さんらしい。
途中途中で、女子高生らしい会話をしたり、半分大人という会話を楽しんだりしてるうちに、外は暗くなってしまった。
「良い子の皆さん、帰りましょうってさ~」
別に放送が流れているわけじゃないけど、そんなことを言うカンナ。
これって、よく夕方になると、どこからか聞こえてくる地域内放送みたいなヤツだよね。
「しょうがない、帰るか~。きっと、お母さんが美味しい……何かを作って待っていてくれているはずだし」
「あんたね~。たまには手伝いなよ。親不孝者~」
カンナに言われても痛くも痒くもない。
だって、カンナだって同じようなものだ。私はよ~く知っている。
さて、マンガを棚に収めて帰り支度。
ここからは電車に乗って、二駅ほどの移動だ。この二駅なんだけど、結構ワクワクするものがある。
だって、電車の中でステキな彼が私を見つめているかも知れないじゃない。
なんて、マンガの読みすぎか?
いえいえ、ないとは言えない。だから、帰ろうかなって時は縛っていた髪をほどく。
これ、女の子のちょっとしたおしゃれ。
しっかり縛ってるなんて、格好悪いもん。
やっぱ、髪はサラサラと流れるままに揺らしたい。
でも、さっきまで縛ってたから、縛り癖がついてる。そこで、ご本の手櫛で髪を梳く。
梳く。
梳……く。
ブチッ!
「いった~い。抜けちゃったよ」
「あ~あ。でも、たくさんあるから禿げる心配ないし、いいんじゃない」
確かにその通り。
ツインテールに結んだままのカンナは笑ってる。
なぜか、カンナは髪をほどくことをしない。以前、その理由を聞いたら『面倒だから』と言っていた。
どうやら、おしゃれには縁遠いらしい。
「ゴミ箱、ゴミ箱」
抜けた髪を握り締め、私はゴミ箱を探した。探したけど、フロアーにゴミ箱が見当たらない。
「ポイポイってしちゃえばいいじゃん。どうせ、スタッフが掃除してくれるよ」
乱暴なコメントありがとう。
でも、確かにその通り。
私は、そ知らぬ顔で抜けた髪を手放した。ちょっとだけ、申し訳ないなって思ったけど、そこは『抜け落ちる髪の毛だってあるわけだから』『抜けた髪が落ちていてもいいじゃない』という、私たち流のいい訳だったりする。
「あ~ぁ、法律違反」
店のドアを開け、店員の『ありがとうございました~』と言う間延びした声を背中に聞きながら、カンナは私に言った。
「なんでぇ?」
「だって、遺伝子ばら撒いちゃったじゃん」
「へ? あ! 本当だ」
と言ってギャハギャハ笑った。
こんなことでばら撒いたことになってもね、困るわ~。
だったら、パラパラ落ちるフケや髪の毛、体毛なんてどうなるのよ。
生きてるもの全てが法律違反じゃない。
ということで、気にせず電車に乗った。
ステキな彼はどこにいる~?