2、親の気持ち?
「あぁ、うちの親も同じようなことを言ってたよ」
そう言ってきたのは、仲良しのカンナだ。
「うちなんて、お金があったら、良質な子供のクローンが欲しいとか言ってたよ。酷いよね~」
カンナの家は、兄弟が六人という多産系なのだ。
上は社会人から、下は幼稚園まで揃っている。そのせいか、多少のブラックジョークはスパイスとして流されるのが常らしい。
一人っ子の私には考えられない。そんなことを言われたら、真面目に再起不能だ。
「でもさ~、うちみたいな貧乏子だくさんな家じゃ、クローンなんてムリムリ~」
「それは一人っ子のうちだってムリだよ~」
そう言いながら大笑いしているのだ。
「大体さぁ、クローンなんてうちら庶民には全く関係ないっつうの」
「そうそう、全く関係ないよね~」
午後の授業が始まる前の、穏やかな休憩時間だ。あちこちのグループで、同じようにクローンについて話し合われている。
しかも、どのグループも自分たちには全く関係ないのだからと笑い話でしかない。
「でもさぁ、もしも自分のクローンができたらどうなるかな」
私は自分のクローン、つまりもうひとり自分がいたらどうなるだろう、と考えた。
「自分のクローン? そうだなぁ、まずひとりに弟の子守をさせて、もう一人に妹たちの子守をさせる。それと、親の手伝いだとかもしてもらいたいからなぁ。勉強は最後に出てきたクローンにさせて、私はゲームしてるかな」
誰でも同じようなことを考えるものだ。
私も同じことを考えてるんだから。
だから、もう一人の自分がいたら……それが、たくさんいたら、結構楽かもしれない。学校だって、私じゃない私に行ってもらって、勉強ももちろんだけど、親の手伝いも何もかも全部クローンにやってもらうんだ。
これって理想だよね~。
「君たちはいいね。そんなくだらない夢を見ていられてさ」
そう言って、私とカンナのくだらない(ムカッ!)夢に参加してきたのは、どういうわけか大金持ちの一乃上勝利だ。
一乃上なんて変な名前だけど、由緒正しいらしい。
しかも、一の上って言うことは、特上か?
さらに勝利って名前なんだけど。これ、【かつとし】って普通に読みたいところだけど、実際は【しょうり】。
もう、生まれた時から勝利宣言してるわけだ。
金持ちの考えることは分かんないよね~。
「木下は庶民だから、親が自分のクローンを作るなんて事はありえなくて安心だよな」
木下ってのは、私のこと。遅くなったけど、私の名前は木下幸菜。極々普通の名前なんだけど、一乃上勝利に出会ってから、自分の名前が普通でよかったとつくづく思ったよ。
「そら、庶民ですからね。言われなくても庶民ですよ」
かなりムカつく。
「そんなに力説するなよ。山田のところもありえないもんな。羨ましいよ」
山田と言うのはカンナのことだ。
名前はカンナとカタカナだけど、苗字はいたってシンプルだ。
「勝利に言われなくても知ってるよ」
これまたかなりムカついている。
それなのに、勝利のヤツはバカなのか鈍いのか、全く意に介さずこの場に居座っているのだ。
せっかくの休み時間なのに。
「俺のうちなんて、超がつくほどの資産家だから。俺の出来が悪かったら、知らぬ間にクローンとすり返られてたり……なんて、マジでありそうで怖いよ」
それはなにか?
金持ちだということをひけらかしにきたのか?
てかさ、何で金持ちの超資産家が、一般庶民の通う高校にいるんだよ。この学校にいる段階で、お前の親はクローン作成を考慮してると思うぞ。
「いや~。本当に怖いね~」
私もカンナも無言でヤツを睨むけど、結局始業チャイムが鳴るまで勝利の高笑いを聞き続けるしかなかった。