14、クローンか幸菜か(5)
「そうですね。犯罪としての決め手に欠けますね。例えば、不良品の中にオリジナルがいるわけですが、一番悪いできのものをオリジナルだとしても、本当にそれがオリジナルかといわれたら、私達には分かりません。万が一、それがクローンであったなら、数年後には腐りだすわけです。それならば、同じように責任が取れない判断であるならば、親御さんが納得するような判断であった方がいいでしょう」
それでいいのか?
本当にそれでいいのか?!
「そうですね……」
両親は何を考えているのか、言いよどんでる。
その間、クローンたちは、自分こそが本物だとか。今まで、お母さんには大変な思いをさせたけど、私を置いてくれるなら、今まで以上にお手伝いをします。的なことを言ってる。
あぁ……。
脳裏によぎる、一乃上勝利の姿。
お前はこんな気持ちだったのか?
こんなのって、金持ちの考えることだけじゃなかったのか?
「私達の子は……」
父親がぐっと母親の肩を抱き寄せた。
母親は、父親に促されるように、はっきりと言い切った。
「私達の子は、この子です」
思わず、目を硬くつぶってしまったけど、母親の手が私の手を掴んでた。
心の中で、勝利の雄たけびをあげてた。
当たり前すぎる展開なんだけど、それでもやっぱり不安だったんだもん。
「そうですか、分かりました。では、他のものは全てこちらで処分いたします」
そう言うと、わらわらと数人のクローンポリスと書いたシャツを着た警察官が玄関から入ってきて、あっという間に、彼女達を捕まえてしまった。
その状況は叫びと悲鳴と怒声と、無言。
頭が良くなるにつれ、無言になるらしく、最初に来た三人などは大騒ぎだった。
結局、どんなに騒いでも連れて行かれちゃったんだから、私としては万々歳なんだけどね。
さて、連れて行ってからどうするのか、多少私も心配になって、最後に聞いてみた。
すると、処分の仕方は何も教えてはくれなかったけど、一応犯人逮捕に向けて重要参考人対応するということ。
そして、犯人を必ず捕まえますからって、約束してた。
果たして捕まるのかどうかは微妙だけど。
それから、最後に言われたのが、
「これからは、髪の毛一本といえど、自分の大切な遺伝子だと考えて、むやみに捨てるようなことはしないでください。人口が膨れ上がっている日本に、クローンが人口の半分以上を占めるようなことになったら、大変ですから」
って、最後は笑い話みたいにしてたけど、そんなことが本当にあるとは思えないけどね。
だって、技術が未熟な人間が作ったクローンは腐るんでしょ。
だったら、人口の半分を占めるなんてこと、あるはずない……よね。
クローンポリスが帰って、我が家は久しぶりに静かになった。私の部屋も、やたら広く感じて、こんなに広かったっけ? って……。
もう、お風呂に入る順番で揉めることもないし、トイレに入ってるときに、『出ろ、出ろ』ってデロデロ・コールをされることもない。食事だって、あんなにうるさくて、順番じゃないとご飯も食べられないようなこともなくなって、いつでもうるさくて、迷惑で賑やかで……なんてこと、なくなったんだ。
私は、広すぎる家の中を見て歩いた。
どこに行っても、必ず私がいたのに、今はどこにも私がいない。
どうしてこんなに寂しいんだろう。
でも、きっと元に戻るよね。
今までが賑やか過ぎたから、ちょっと寂しく感じるだけで、本当はとっても平和な環境が戻ってきただけなんだ。
台所へ行くと、母親が料理中だった。
いつでも、夕飯の手伝いをするために三人の私が母のそばにいた。
『今日の夕飯は?』って聞くと、
『手伝ったら、教えてあげるわよ』と上から目線で、やたらとうざかったのに、今は母親一人だ。
「お母さん」
私はそっと母親に声を掛けた。
母親は、どこかぼんやりしているように見えた。
「なに?」
「さっき、どうして私が本物の私だって分かったの?」
「……」
「最近じゃ、どれが本物か分からないわねって、よく言ってたのに」
「……」
「ねぇ、なんで?」
父親が、居間から台所へと来ると、私の肩に手をかけた。
「分からないわけないだろ。自分の子供なんだら」
「でも、分からないって言ってたよ」
「お母さんは、愛情の深い人だから。どの子も可愛いって意味だよ。でも、一番はお前だ」
「そうなの?」
私は、母親の顔を見た。
母親はニッコリと笑って、当たり前じゃないって言ってくれた。ただ、賑やかだったのが、ひっそりしちゃって寂しいだけだと。
翌日、学校へ行くとカンナに事の次第を全て話して聞かせた。
すると、『良かったじゃない』と大きく肩を叩かれ、かなりの痛みを感じだけど、それも友情だと流してあげた。
「あんたは、本当にいい親をもったよね。それに比べてってわけじゃないけど」
「なに?」
カンナの視線が一乃上へと向けられた、そこにいるのは、日々変貌を遂げていく一乃上勝利がいた。
「あいつさ、変わったと思わない?」
確かに、どことなく凛々しくなってきているように見える。勉強面でも伸びてきているような気がする。
「私もそう思うんだよね」
二人の視線が、一乃上に注がれる。
そして、二人の口から出た言葉は
「まさか……ね」
だった。
それに気がついたのか、一乃上が今までよりも遥かに、涼しげなスマイルを私達に向けてきた。
今までの一乃上勝利であれば、こんな風に見ていたら、必ず難癖をつけて見下したような言い方をしてきたと言うのに。
「まぁ……格好良くなったし、よかったんじゃないの?」
「そう……だね」
私は、一乃上の部屋に一乃上勝利にそっくりな彼が、増殖しているようで恐怖を感じた。そして、増殖している彼らのなかに、オリジナルの彼がいるのだ。
「私……」
「ん?」
「庶民でよかったよ」
「確かにね」
これから、どんな風に変わっていくのか。
一乃上勝利から、目が話せない私だった。
fin
最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
自分的には、結構笑える作品になったと思うのですが、いかがでしたでしょうか?
次は、真面目な恋愛に挑戦してみようと思っています。
さて、どうなることでしょうか(^▽^;)