13、クローンか幸菜か(4)
案の定、オジサン、さっきよりも大きく目を丸くした。
「多分って言われても困るんですが」
こんなおかしな家庭は始めてらしく、困ったなって顔に書いてある。
「もう、どれが本物か分からなくなってきちゃって」
「確かにそうだな。毎日、一緒にいるとどの子も私達の大事な娘のような気がしてくるものなんですよ」
だからってね、自分の娘が分からなくなるか?
それに、そこまで情がわいているのに、何で警察に連絡した?
多分、少しは常識があって、さすがに二十人も娘がいたんじゃ生活が苦しくて、これ以上はムリ! とか思ったんだろうけど。
あ、これじゃ常識は関係ないか。
「こういってはなんですが……オリジナルと言うのは、この中で一番できが悪いものなんです」
本当に、最低な一言を放ってくれるね!
確かに、最初の三人組を見てるだけでも、私って最低だと思うけど、他人のあんたにそんなことを言われるなんてね!
「それは、分かります。ですから、この三人でないことは確かですが……。でも、この三人は特にお手伝いもしてくれて、とてもいい子なんです」
なに?
なに、この展開!
じゃぁ、この良品の三人こそ、この家のオリジナルだとでもいうか?
母よ! そりゃぁ、ないよ!
このとき、カンナの言葉が蘇った。
『自分だったら、心を入れ替えるから、捨てないでってすがるわよ。それで、クローンを排除してくれたら、全てを水に流して、今の私を押し通す』
確かに得策かもしれない。
でも、そんなことをするような親だろうか?
「ところで、この子達はどうなるのでしょうか?」
母親が心配そうに長谷川のオジサンに聞いてる。
「それは……。ずっと一緒にいれば、それなりの情を抱くようにもなるでしょうが、彼女達は犯罪者の作り出したものです。しかるべき方法で、処分されるでしょう。そして、彼女達を作り出した犯人を捕まえて、二度と人間の尊厳を破るような行為をさせません」
尊厳?
人間の尊厳って、この面倒な二十一人を処分すること?
「処分……ですか……」
「彼女達は、人間であって、人間ではないのです。まして、完全なクローンならまだしも、犯罪者が作り出したクローンですから、完全なクローンであるとは思えません」
完全なクローンってなんだ?
「完全なクローンと言うのは、それなりに生存率が高く、年齢と共に年老いることができるのです。今の科学はそこまで発展し、進歩しているのです」
「はぁ……」
「しかし、所詮は中途半端な技術を持った輩が作り出したものです。このまま行けば、早けくて数ヶ月。遅くても数年で彼女達は腐りだすでしょう」
「腐る!?」
さすがに『腐る』と聞いていい気はしない。
そして、私の頭の中では、この二十一人が、どろどろと溶けていくさまが映像として浮かんできたのだ。
これは、もはやオカルト以外の何ものでもないだろう。
「さて、もう一度聞きます。どの子が、オリジナルですか? まぁ……将来的に腐ることを念頭に入れて、どの子がいいのかを考えてください」
ちょっと待ってよ!
その、将来的に腐るけど、どの子がいいって、もうオリジナルなんて関係なくて、親にとって都合のいい子とか、親がこの子がいい的な判断で、決めてくださいってこと?
その方が犯罪じゃないの?
「実際、こういった事例はまれではありますが、過去にもないとは言えないのです。中には、優秀な子供の姿を見てしまうと、オリジナルの不良度が許せなくなり、明らかにオリジナルではない子供をオリジナルだという親御さんもいらっしゃいます。そうなれば、我々はどうしようもないのです。明らかに違うが、ではどれがオリジナルだったかを言い当てることもできないのですから」
「それは、犯罪ではないと?」
父親がそう聞いてる。
なに? それって、犯罪じゃなかったら、オリジナルじゃなくてもいいか……みたいな感じ?
止めてー!
キャー!
もう、勉強するし、手伝いもするから。道草も食わないし、頑張るし、心を入れ替えるから!
多分。