12、クローンか幸菜か(3)
階下でチャイムが鳴った。
また、新しい良品の私でも来たのか?
なんて、最近では当たり前になっている異常事態に驚きもせず、そんなことを考えていたら。
「○○です」
と言う声が聞こえてきた。
階下からの声だし、相手の声が鮮明に聞こえる音質でなかったせいか、『です』以外は聞き取れなかったのが事実だ。
母の困ったような声が、階下から聞こえてきたので、私は何があったのかと部屋から出てみた。階段を何段か下り、下の様子を伺う。
「木下尚吾さんは、こちらのご主人様ですか?」
そう言いながら、声の主はなにやら母に見せてる様子。
「はい、そうですが」
「ご主人から、こちらにクローンがいると通報がありまして」
「主人から?」
「はい。ご主人はご在宅でしょうか?」
「主人は、仕事へ……」
そんな会話が成立しそうな時に、父親が玄関に立つその人たちの後ろに現れた。この見事なタイミング! あるんだね~、こんな偶然。
とはいっても、父親は大体決まった時間に帰ってくる。そういう仕事らしい。
らしいとかって、知らないのかって言われそうだけど。はっきり言って、知らない。
「どちらさん?」
さすがに、興味が湧いてきて、階段を一段ずつ音がしないように下りることにした。
すると、父親がいつものユルキャラ的な父親ではなく、どこか威厳のある風で立っていた。
「あら、お帰りなさい」
そう言った母親の声に反応したのか、奥からできの良い私が三人、玄関先に出てきた。
それを見て、ちょっとは驚くかと思ったら、客人は驚く風でもなく、納得したように頷いていた。
「私、クローンポリスより参りました、長谷川と申します」
そう言うと、名詞を父親に出している。父親はそれを見て、合点がいったのか、静かに頷き自己紹介なんぞをしてる。
「ご主人からご連絡をいただきまして、遅くなりましたが、本日参りました」
そう言うと、丁寧に頭を下げた。
その頭は、見事に光り輝いている。どうやら、天辺だけが光っているらしい。
それにしても、クローンポリスってなに?
「警察……とは、違うんですか」
そう! そこそこ!
さすがだね。私もそこを思ったんだよね。
「警察ですが、今までの警察とは多少分類が異なります」
どう異なるんだろう?
悪い人を捕まえることが仕事なのが警察だと思うんだけど、それ以外にも警察の仕事ってあるわけ?
「クローン法に準じた事項だけを扱う、と考えていただけば、分かりやすいでしょう」
「はぁ……」
「それで、そちらに並んでいる三人がクローンですね」
「まぁ、クローンだと言い切るのもどうかと思いますが、他人のお子さんであることは間違いないです」
確かに、私にそっくりだけど、私じゃないわけだし。
私以外の私そっくりさんなんだから、この家の娘じゃないことは確かだ。
となると、他所の子となる。
でも、何でクローンだと断定しないんだろう。
「このオリジナルの娘さんは、ご在宅でしょうか?」
「あ、はい」
そう返事をして、階段に目を向ける母親と私の目が合った。
しょうがないから、階段を下りて、そっと会釈をしたけど、下りる私の後ろからぞろぞろとできの悪い私が次々と下りて来て、あっという間に玄関はいっぱいになり、居間の方まで溢れかえった。
「……」
さすがに長谷川さんもびっくりしたらしい。目を丸くしてる。
本当に驚くと、眼って丸くなるものなんだね。
「え……と。一番最初に下りてこられた方が、オリジナルでしょうか?」
オリジナル、オリジナルって失礼だね。
「はぁ……多分」
おい、こら!
多分ってなんだ! 多分って!
「オリジナルはあなたですか?」
長谷川のオジサンが私に向かって言ったけど、面白そうなので
「はぁ……多分……」
って、言ってみた。