11、クローンか幸菜か(2)
重い足取りで家に帰る。
希望としては、今までのことが全て夢で、私のそっくりさん達は全て消えている。
なんて、あるはずないよね。
あるいは、今までのは長い長い夢でした。玄関を開けた途端に、夢から覚めて、今までの生活が戻ってくる。
なんてね。
はいはい、希望です。希望、希望。
そんなことを思いながら、玄関を開ける。
開けたくない―――。
開けると、最近では当たり前の光景が飛び込んでくる。
狭い玄関に、できの良い私が二人ほど並んでいるのだ。
もう、出来がいいのもうっとおしくなるほどで、私を見ると眉を寄せて、口々に
「学校はとっくに終わってるはずでしょ」
「どこを道草食ってるのよ!」
なんて言われるんだ。
私は意を決して玄関のドアを開けた。
そこには、想像通り三人の……。
え? 三人?
三人?
昨日までは二人だったけど、また増えたのか……。
「学校はとっくに終わってるはずでしょ」
「どこを道草食ってるのよ!」
やっぱりね。言うことは同じだよね。
「そんなことばかりしてるなら、あんたの代わりに私が学校へ行くわよ!」
「いーえ! 私が行くわ!」
「何を言ってるのよ。あなた達よりも、今日来た私が一番できがいいんだから、私が学校へ行くのが正当だわ」
「大体、なんであんたみたいにできの悪い子が学校へいって、私達みたいに勉強したい人が家にいるのよ」
「そうよ、おかしいじゃない」
そんなこと言われても、私がオリジナルなんだから、しょうがないじゃない。
「あなたは、二階にいる不出来なあなたたちと同じじゃない。みっともないと思わないの?」
二階にいる不出来なあなたたち、とは、言わずと知れた、最初の頃に来た私のクローンだ。
そして、その不出来たちは、私の日常同様、ベッドで寝転び、寝てばかりか、起きていてもゲームをしているか、マンガを読んでいるか。あるいは、太りたくないと言いながら、お菓子を食べているかだろう。
それにしても、できの悪い私が学校に行って、申し訳ないですね!
私だって、学校へ行きたくて行ってる訳じゃなんだから。
これも人間だし、オリジナルだから、しょうがないのよ。
悔しかったら、オリジナルになればいいじゃない。できればだけどね。
「できる分けないことをそう言う。まさに、子供ね」
あー! 悔しい!
そうやって、上からものを言って、バカにするんだから。
最近では、毎日が苦痛で仕方がない。
「あらあら、お帰りなさい。さぁ、三人とも台所を手伝ってちょうだい。それに、洗濯物をたたむのと、お風呂掃除もね」
「はい、じゃぁ、私が洗濯物をやるわ」
「私はお風呂ね」
「私は台所ですね」
それぞれが、勝手に分担を決めてるけど。頭のいい連中は、どこが一番楽かとかって考えないらしい。
もし、手伝いを上の連中にやらせたら、どれが一番楽かを考えて、分担なんて決まらないだろう。
なぜそう思うかって?
もちろん、私がそうだからだ。
でも、おかげで私は何もしなくても、文句を言われなくなったから、その点は感謝してる。
もしも、私の分身がいてくれたら―――そう考えていた頃、私のやるべき仕事を全部やる人、勉強や宿題をする人がいてくれたらよいと思っていた。
まさに、今がその状態。
ただ、思っていたのと違うのは、分身は二人ぐらいじゃまかなえ切れないということ。
つまり、手伝うことも多いから、手伝い担当だけでも、三人は必要で、その他に勉強担当が欲しいところだから、計四人かな。
今はできの良いのが三人だから、勉強までは回らない。
でも、これで勉強まで分担したとして、できの良いそっくりさんはきっと『勉強はじぶんでやるか、もしくは、私が学校へ行くから、あなたは家でダラダラしてなさいよ』となるだろう。
その言葉を鵜呑みにして、私の学生ライフを分担させたら、どうなるだろう。
多分、もう私の居場所はなくなり、私のいる必要性は皆無になるだろう。
なんて、ちょっとかっこよく考えてみた。
あはは、私らしくない。これも、あの良品幸菜の影響かもね。
なんてことを考えながら、自分の部屋のドアを開けると、十八人の私が所狭しとダラダラしている。
見るだけで、うんざりする。
さすがに、これが日頃の自分だと分かっていても、いい加減許せない。
ダラダラするのは、一人だから許せるのだ。
しかも、十八人が六畳一間にいるのだから、その狭さはいまや恐ろしいくらいだ。
「ちょっと! 狭いんだから、あんたたちどこかに行きなさいよ!」
と言うと、一斉にムッとした顔の私がこっちへ視線を投げる。
これが毎日だ。
もう、嫌だ。
良品の幸菜の態度も頭にくるけど、できの悪いヤツラの態度も腹が立つ。
出て行け!
って、思うけど……むやみに放り出すわけにもいかない現状。だって、コイツラは私そっくりで、十八人もの私が外にいたら、それだけでクローンだって分かってしまうじゃない。
最近じゃぁ、買い物の手伝いまでしてるらしくて、近所じゃ評判の良い子になってる。
外を歩いていると、『偉いわね~』と言われるけど、何が偉いんだか分からないくて、とりあえず『そんなことないですよ~』と返事を返したけど、後日母親に聞いたらそういうことだった。
徐々に住みづらくなってきてるように感じるんだけど。
でも、やってくれるんだから、しょうがないよね。